GHCヘビー級王者の武藤敬司が初防衛戦を行なった

プロレスリング・ノアの3・14福岡国際センター大会。

ABEMA放送で全試合を観戦した。

 

まず、第5試合の6人タッグマッチ。

3・21ナショナル選手権(後楽園ホール)前哨戦となる

拳王&仁王&覇王vs藤田和之&ケンドー・カシン&NOSAWA論外。

 

一度は両者リングアウトの裁定が下ったものの、

拳王の「再戦直訴」に藤田も応じて再試合へ突入。

 

圧倒的な藤田の分厚さ、制御不能なパワーが大爆発した。

リング上は2対1の局面となり、覇王、仁王の順にフロッグスプラッシュを決めたものの、

カバーを軽々と弾き飛ばす藤田。

キックアウトではなく、腕力で跳ね返してみせた。

 

さらにダブルアームラリアットから、

仁王、覇王の順にパワーボムで叩きつけて快勝。

身体能力が抜群に高く、運動神経もいい藤田であるが、

本来のプロレス技に関してはあまり器用なほうとはいえない。

 

だから、3・7横浜武道館で征矢学に見舞ったパワーボムを一度ミスしている。

尋常ではないパワーで力任せにいくから自分までバランスを崩してしまうのだ。

そういえばIWGPヘビー級王者時代にも、

天山広吉を力任せに担ぎ上げバランスを崩したことがあった。

 

今回はしっかり教訓を積んできたのか、

高々と持ち上げるのではなく叩きつけるほうにポイントを置いた。

 

そのせいか、相手の頭がリバウンドするほどの強烈な2連発となった。

まるでスコット・ノートンの超竜ボムを彷彿させるようなパワーボム。

6人タッグとはいえ、拳王vs藤田の前哨戦は藤田の圧勝という感じ。

 

3・21決戦。

藤田はただ相手を叩きつぶすのみ。

果たして拳王はどんな策を練って野獣に挑んでいくのか?

王者は拳王ながら、この試合にかぎっては挑んでいくという表現が似合っている。

 

GHCジュニアヘビー級選手権の結末には驚いた。

2・12日本武道館で鉄壁の王者・原田大輔からベルトを奪取した吉岡世起。

その初防衛戦の相手が、原田の盟友である小峠篤司。

 

ふつうに考えれば吉岡に勢いがある。

実際後半は吉岡のスピードと打撃が勝っていた。

しかし、粘りに粘る小峠が一瞬のキルスイッチで3カウント奪取。

 

これが諦めない男の真骨頂。

小峠が意地でジュニア最前線にカムバックしてきた。

これでノアジュニアはますますヒートしていきそうだ。

 

メインイベントは年齢差34歳という注目の頂上対決。

武藤敬司vs清宮海斗の7カ月ぶり2度目の一騎打ち。

 

武藤いわく、「ウチの息子と同い年」というからおもしろい。

両者の間に中嶋勝彦(33歳)が入ってもまだ1歳分余ってしまうのがまた凄い(笑)。

 

柔道のバックボーンをもってプロレス界へ。

新日本プロレスで基礎を学び、米国マットでプロレスラーとして開花し

トップ戦線に踊り出た武藤は、昔から独特のプロレス観をもっていた。

 

「プロレスラーには年齢もキャリアも関係ない。

アメリカではそんなところをだれも見ていないよ。

一流のレスラーとは客を呼べるレスラーを言うんだ」

 

そういうアメリカンナイズされたポリシーを持っていたからこそ、

武藤はUWFスタイルというものがあまり好きではなかったし、

『PRIDE』ブームが巻き起こったころも総合格闘技には否定的なところがあった。

 

それらも踏まえ、米国マットを腕一本で渡り歩いてきた

マサ斎藤さん(故人)とは年齢差を超えて非常に仲がよかったのだ。

 

しかし、さすがに58歳という年齢での挑戦によって

口から出てくるコメントは変化してきた。

本来ファンタジーであるはずのプロレスラーの年齢……

それを潔く認め、肉体的な衰えを隠すこともなくなったし、

等身大の自分でリングに上がるようになったのだ。

 

「ジャンプ力の衰えなんかもまた、いま現在の武藤敬司なんだし、

それにファンも共感して反対にオレを応援してくれるわけだろ?」

 

15年ほど前に語っていた‟負け惜しみ”のセリフさえ出なくなった。

だからこそ、すべてをかなぐり捨てた等身大のスターであるからこそ、

いまの武藤には多くのファン、マスコミが本心から共感をおぼえる。

 

もはや、時計の針をストップさせるとか、時代を止めたら未来はないとか、

プロレス界における世代交代の常とう文句さえ凌駕してしまった存在になっているのだ。

 

年齢差34歳のGHCヘビー級選手権は予想以上に心地よかった。

しっかりとグラウンドをベースにしてスタートしたレスリングが心地よく映った。

 

もともと武藤がマットレスリングをベースに試合を組み立てる選手であることは周知の通り。

柔道出身だけに寝技に長けているし、関節技の引き出しも持っている。

 

「ぶっちゃけ、ハイスパートのレスリングなんか誰でもやれるんだよ。

オレはそういうものより寝技で試合を組み立てていく、その過程がおもしろいし、

そういう部分をファンには見てもらいたいんだよな」

 

これもまた武藤の持論。

その部分だけはいまも変わらない。

 

                                        (※写真は前哨戦です)

 

ある意味、そこにしっかりと応えたのが清宮だった。

グラウンドでの執ようなヘッドロック、

あるいはフロントネックロックで互角に渡り合う。

対する武藤はキーロックまで繰り出した。

 

ここで興味深いのは、試合後に武藤が口にしたコメント。

 

「今日は前半なかなか苦戦しましたよ。

なんていうのかな、いいレスリングというか、

昔のアメリカのクラシックなスタイル、

清宮なんてホントは生まれていないはずなのにね、

いいレスリングをしていたというか、やってて懐かしくて楽しかった。

気持ちが、いい気持になれたというか」

 

武藤が認めたとおり、年齢、世代的にはまだまだ若手の部類に入る清宮が、

ここまでしっかりとレスリングで対抗してきたことに驚きと喜びを感じたのだろう。

 

そういえば、前半のヘッドロック攻撃のさなか、

清宮は武藤をロックしたままロープを駆け上がって、

ダイナミックなフライングメイヤー(首投げ)も決めてみせた。

 

以前にも見たことのある攻撃なのだが、

おそらくこれなどは小川良成から伝授された動きなのだろう。

いわゆる昭和プロレスの基本テクニックを知っているのが小川という男。

 

ちなみに、清宮が披露しているフライングメイヤーは、

あのザ・デストロイヤーが十八番にしていたテクである。

 

一方、武藤は2・12日本武道館大会より動きがよかった。

‟本家”雪崩式フランケンシュタイナー

(※元祖はライガーで、ヘビー級で初公開したのは武藤)も見事に決めたし、

フランケンシュタイナーから腕ひしぎ十字固めのパターンも久しぶりに公開した。

 

ちなみに、フランケンシュタイナー→腕十字の元祖は新日本・若手時代の藤田和之。

それを見た武藤が、これは使えると踏んで無断使用したというのが真相(笑)。

 

「武藤さん、ボクの技を使わないでくださいよ」

 

「馬鹿野郎、オレが使うから技もメジャーになるんだよ!」

 

2人の間で、当時こういったやりとりがあった。

大先輩の武藤に対しても平気でクレームをつける大物新人。

得意の屁理屈を駆使して(笑)、若手相手にムキになる大スター。

 

そんな両者が紆余曲折を経て、いま現在、

ノアのタイトル戦線に絡んでいるのもまたおもしろい。

 

前半のクラシカルで重厚なレスリング。

一転して、後半から両者がスパートする。

 

いつもの足狙いではなく、清宮の左腕に照準を絞った武藤は、

ドロップキック、シャイニングウィザードも左腕に打ちこんでいく。

 

正統的なスープレックスだけではなく、

清宮は飛び道具も出した。

 

武藤の後頭部、胸板あたりを目がけてジャンピング・ヘッドバッド。

清宮はサッカー歴があるから、これはもうヘディングという感じ。

 

そういえば、この大会後、清宮の欠場が発表されている。

武藤戦の際に脳震とうを起こしているので、大事をとっての欠場だという。

 

試合後に、なんらかの後遺症が出て欠場に踏み切ったのか、

それとも試合中に脳震とうを起こした状態のまま闘いぬいたのか?

そこの細かい部分まではわからないのだが、

もし脳震とうを起こして記憶が飛んだまま闘いぬいたのだとしたら凄いと思う。

 

正直、試合を見直してもそういう感じにはまったく映らなかったからだ。

 

敗れはしたものの、清宮はGHC王者時代より輝いてみえた。

プロレスラーとして、ひと回り大きくなったようにも思える。

 

温故知新。

 

24歳の若さながらクラシカルなレスリングで武藤と渡り合い、

そのなかで十八番の大技、飛び道具と現状で出し得る

最高のパフォ―マンスを見せてくれたからだ。

 

本当に気持ちが強いし、クレバーな若者だなとあらためて感じた。

 

一方の武藤は、リング上同様にコメントまで冴えてきた。

 

「前も言ったけど、清宮みてるとね、ちょうど息子と同い年で。

息子はプロレスの道きてないけどね、仮想息子じゃないけど、

なんかそういう部分で、親父は息子に負けてたまんないんだからさ。

負けたら威厳がなくなるわけであって。あらゆる部分が衰えたって、

意地でも負けられない部分があるんだから、親父ってのは」

 

58歳、武藤敬司。

言葉もすこしばかり演歌になってきた。

いまや、アラカンの星。

 

ミスタープロレスは天龍源一郎に譲っているから、

あまり格好よくはないけど、ミスターアラカンかな?

 

もしかしたら…ムーンサルトプレスが炸裂する日が来るかも。

そんな予感さえ漂ってきた。