ビッグマッチラッシュとなった3月初旬の日本マット界。

そのラストという感じで開催されたノアの3・7横浜武道館大会は、

いま現在のノアマットの混沌とした魅力が爆発するおもしろい大会となった。

 

 

 

まず、ワタシ自身が初めて訪問した横浜武道館がなんとも素晴らしい会場。

昨年7月オープンでキャパ3000人の体育館はキレイでプロレス観戦にはもってこい。

日本武道館同様に会場中央に備え付けの大型ビジョンも効果的。

後ろのほうから観戦していても、グラウンドの攻防や場外乱闘を

しっかりとビジョンがカバーしてくれるから、見やすい事このうえないのだ。

 

当日、ワタシの最注目試合は、第6試合のGHCナショナル選手権。

拳王vsケンドー・カシンのいつの間にか盛り上がってしまった初対決。

 

2・12日本武道館で船木誠勝を破り、5度目の防衛に成功した拳王。

その前にちょこちょこっとやってきて挑戦をぶち上げたのがカシンだった。

 

以降の流れはご存知の通り。

カシン…もとい、謎の男は拳王を何度も襲撃した。

ときにはライオン丸海賊男としてステッキで襲い、

また時には、白覆面の柔術衣を着用して乱入した。

 

それぞれ、カシンそっくりの声で、杉浦貴、桜庭和志と、

正体を自分の口から明かしている。

…って、んなわけねぇーだろ!

 

また、4日の会見の席では拳王にプレゼントを用意して、

大きな箱の中からカシンが登場と思いきや、

その人物はノアのベテランリングスタッフのかたで後方から海賊男が登場。

 

もはや、ありとあらゆる方法を駆使して揺さぶりをかけてくるカシン…

いや謎の男のせいで(笑)、真面目な拳王が、「日々メチャクチャ怖いぞ」と言いだす始末。

これで終わりかと思いきや、対決前日の6日にリーヴマスク4号としてトドメの乱入。

 

まあ、自分の試合が組まれていないにも関わらず、

よくぞこう小まめに何度も会場に現れるものだ。

ある意味、その熱心さには脱帽してしまう。

 

いざ迎えた本番7日の第6試合。

拳王の6度目の防衛戦となるGHCナショナル選手権。

 

そういえば、2・12日本武道館で拳王に対し挑戦を迫ったカシンは、こう言い放った。

 

「正々堂々とセコンドはなし、反則なし。

わかったか? 汚いマネすんなよ」

 

うーむ、あれはなんだったのだろうか?

あの言葉からカシンの本気を信じた私が馬鹿だったのか?

いやいや、ある意味カシンは本気だった。

あのひとことからすでに仕掛けはスタートしていたのだ。

 

 

まさに、やりたい放題。

場外戦になると放送席のアクリルボードを持ち出して、

拳王の顔を圧し潰す窒息&恥辱攻め。

 

セコンドのNOSAWA論外がレフェリーの注意を引き付けている間に、

あまりに堂々たる真正面からの金的蹴り。

 

 

かと思うえば、腕ひしぎ十字固め、チキンウイングアームロックと

正統派サブミッションの引き出しも披露し、

背後から肩口に飛びつき前方回転しての腕十字へ。

 

これは、1996年の『第7回ヤングライオン杯』優勝決定戦で

永田裕志を破って優勝を決めたときのテクなのだ。

 

それにしても試合中、なぜかカシンは左足のリングシューズを再三気にしている。

もしかして、アレも出すつもりなのか?

と思っていたら、出たー!

 

 

ようやくカシンを捕獲した拳王がアンクルホールドへ。

次の瞬間、スポッとシューズが脱げてしまった。

 

これは過去に『チャンピオンカーニバル』公式戦で諏訪魔を罠にハメた戦法。

諏訪魔が唖然としている隙に、あっという間に丸め込んだカシンが白星をゲットしている。

 

すかさず首固めを連発して3カウントを迫るカシン。

なんとかキックアウトした拳王がハイキックをズバリ。

 

さらに、背中へ、腹部へとRFSを連発して3カウント奪取。

8割方ペースを握られながらも、なんとかカシンを突破した。

 

 

試合後、大の字となったカシンを踏みつけながら、

次のチャレンジャーを探してリングサイドに視線を走らせる。

 

そこで見つけた最強の男が‟野獣”藤田和之だった。

拳王に指名された藤田は怒りの表情でリングイン。

なぜか、拳王が場外に投げ捨てたカシンのシューズを持っている藤田。

 

拳王と藤田が睨み合いからド突き合いへ。

制止に入るNOSAW論外、仁王&覇王。

このシーンが最高におもしろかった。

 

 

なぜか、リング上の5人が全員カシンを踏みつけている。

5人に踏みつけられたカシンは瀕死の状態で(?)両足をバタバタ……。

 

なんとなく、弱ってベランダで仰向け状態になった秋口の蝉という感じ。

いや、仰向けになってもがいているカナブン、テントウムシかな?

 

5人が殺気立って大立ち回りをしているのに、

カシンの姿を見ているとついつい大爆笑!

 

今回のGHCナショナル王座挑戦表明からスタートし、

この両足バタバタまで、なんとなくカシンがすべてを持っていった感じ。

ある意味、これぞプロ、これがカシン劇場といった趣きだった。

 

というわけで、カシンから藤田へとバトンは渡された。

あの船木誠勝が「日本人最強ファイター」と認める藤田。

最強を追い求める拳王にとって、これ以上の相手はいないだろう。

 

 

かくして、3・21後楽園ホールにて、

拳王vs藤田のGHCナショナル選手権が決定。

 

桜庭和志、村上和成、船木誠勝、ケンドー・カシンと

日本を代表する格闘レジェンドたちを連破してきた拳王。

 

 

58歳の武藤敬司がGHCヘビー級王者に君臨していることもふくめ、

拳王はこんな問題提起もしている。

 

「いまのノアでイチバン危惧していることがある。

ノアが‟老人ホーム”化していることだ。

オレがいままでナショナル選手権で闘ってきたやつら、ほぼ50代だよな。

ノアの未来が見えるのか? 見えねえだろ。

だから、ナショナル選手権を使って、

50代の生き生きしてるやつらを倒していく」

 

さて、最強の野獣狩り、オヤジ狩りは成るか否か!?

 

 

セミの第7試合は、3・14福岡国際センターで行なわわれる

GHCヘビー級選手権、武藤vs清宮海斗の前哨戦。

 

清宮が素晴らしいバネを利したドロップキックを放てば、

武藤はなんと側転エルボー(スペースローリングエルボー)にチャレンジ。

これには稲村愛輝も観客もマスコミもビックリ仰天。

 

ただし、着地までが精いっぱいでエルボーは未遂に終わった。

 

 

 

「思ったよりできなかったわ。

脳みそのなかでは描けてたんだけど、

体が動かねえな。

一瞬だけ盛り上がって、ガクッとなって(笑)。

よかった、今日で。

本番でやって失敗したら、命取りなる可能性もあるからな」

 

武藤は屈託のない笑顔を見せ、そう語った。

58歳のチャレンジ精神は大いに買いたいところだ。

 

試合の結果は、稲村の左足を3人が徹底的に狙い、

最後は武藤が足4の字固めで仕留めている。

 

 

 

いや、それにしても武藤にとっては頼もしいパートナーたち。

丸藤正道、田中将斗がそれこそ武藤の手足となって動きまわるのだから、そりゃあ強い。

武藤は勝負どころで出てくればいいのだから。

 

その一方で、やはり稲村の大健闘、パワーが光った。

腰の思い武藤を軽々と担ぎ上げてしまうのだから恐れ入る。

 

 

メインイベントのGHCタッグ選手権では、

挑戦者の‟金剛版”ジ・アグレションがついにベルト奪取。

ひとあし早く‟50代最強コンビ”の杉浦貴&桜庭和志に土をつけた。

 

決着はマサ斎藤譲りの監獄固め。

粘る杉浦に向かって、マサ北宮がこの体勢のままガツンと頭突き一閃。

これで仕掛けた北宮の額が割れ流血したものの、

強烈な1発に杉浦が力尽きた感じ。

 

 

2年半ぶりにGHCタッグベルトを巻いた中嶋勝彦&北宮のジ・アグレッション。

今後、どのような防衛ロードを突き進んでいくのか?

 

「オッサンには見せられない闘いをやっていきたい」

 

暗に若い世代の挑戦を促した北宮。

 

バリバリのトップ勢、脅威のオッサンパワー、ジュニア戦線、若手勢と

混然一体となったカオス状態のノアマットは見ごたえがあるのだ。