3月3日、スターダムが日本武道館に初進出した

『スターダム10周年記念~ひな祭り ALLSTAR DREAM CINDERELLA~』は、

現スターダムのリング上が世界屈指の女子プロレスの

試合を提供する場所であることを証明する大会となった。

 

 

3時間半、プロローグファイトを入れると全8試合、

明るく楽しく、ムチャクチャ激しく感情が交錯し、

終わってみれば「楽しかった!」と素直に言える空間を満喫させてもらった。

 

そういえば、翌4日には新日本プロレスが日本武道館大会を開催。

この武道館2連戦における観客動員数(主催者発表)は、

スターダム=3318人、新日本=3026人と発表されている。

 

 

新日本を上まわった云々ということより、

連戦という不利な条件のもと互角に渡り合えたのは、

この決戦にいたるまでスターダムがいかに本気で

初の日本武道館開催と10周年記念大会に取り組んできたか、

そしてそれがファンに伝わっていたかを物語っていると思う。

 

プロローグファイト2試合のあとオープニングセレモニーとして、

館内の大型ビジョンに紫雷イオ、棚橋弘至、カイリ・セインが登場。

お祝いのビデオメッセージが流された。

 

 

イオのメッセージがやたらと長かったのが印象的。

肩にはNXT女子王者のベルト、場所はおそらくオーランドのどこか……

湖なのか川なのか沼なのかわからないけど、肩のあたりの筋肉が逞しい。

 

「スターダムは自分にとってイチバン安心できる故郷のような場所」

 

簡潔にまとめると、そんなようなことを語っていた。

なんとなくわかる。

米国WWEは全世界からスーパースターを目指して

一旗揚げようという野望に満ちた選手が集ってくる場所。

 

いわゆる生き馬の目を抜くような世界であり組織である。

そこでは、日本女子プロ界最高峰の選手であったイオといえども、

簡単に成り上がることはできなかった。

 

それでも、文化の違う世界観に適応し、人一倍の努力を重ね、

ついにWWE女子プロのひとつの頂点を極めた。

 

そんなイオにとって、スターダムのリングは

自分のベースを作ってくれた原点の場所でもあるからだ。

 

あ、いかん!

イオはゲストだった。

 

第1試合は、24選手参加によるスターダム・オールスター・ランブル。

今大会の目玉のひとつとして、ゆずポンこと愛川ゆず季の一夜限りの復活があった。

当初、ゆずポンがバトルロイヤル出場と知ったとき正直ガクッと腰を折られた気分になった。

 

 

ところが、このバトルロイヤルがまた面白かった。

現役バリバリのメンバーに加えて、ゆずポン、美闘陽子のBY砲。

OGのコグマ、美邑弘海らも出場。

 

さらに、超大物の”レジェンド”長与千種や井上京子らも参戦してきたからだ。

なんと言ってもハイライトシーンは、ゆずポンvs千種の時代を超えた一騎打ち。

 

ゆずポンキック(カカト落とし)をキャッチした千種が

正拳突きで返すなんて、ホントに夢のようなシーンも見られた。

 

それにしても感心したのは、この日のためだけに

ゆずポンがしっかりトレーニングを積んでコンディションを作ってきたこと。

 

 

また、あの長与千種だって本気だった。

たまたま試合前に千種とすれ違ったのだが、ガチガチに緊張していたのだ。

 

「あー、ダメだよ。心臓バクバクしてるよー!」

 

そう言って千種は、顔見知りの私に笑いかけてきた。

無理に笑ってはいたけど、本当に緊張しているのがわかった。

 

プロとはこうあるべし。

千種、ゆずポンから感じるものは多かった。

 

スターダムvsSEADLINNNG対抗戦2試合もよかった。

 

渡辺桃vs高橋奈七永は、奈七永の貫禄勝利。

桃も必死に食らいついていったものの、

修羅場くぐりの奈七永には余裕が垣間見えたし、

経験値の差がクッキリと出たように思う。

 

もうひとつの対抗戦、スターダム一期生対決である

岩谷麻優vs世志琥は同期にしか分かり合えない感情がほとばしった。

 

そのなかでも、2人の持ち味は存分に発揮されたと思う。

麻優がトぺスイシーダを放ったときには、ハッとなった。

世志琥にもダメージを与えが、自らフロアーに頭を打ちつけたのだ。

 

ある意味、これもまた岩谷麻優らしさかな?

この危なっかしさも彼女の魅力かもしれないと再確認してしまう。

 

勝負を制したのは麻優。

なのに、頭部へのダメージなのか、

インタビュールームに表れることなく引き揚げてしまった。

 

 

これもまた岩谷麻優らしさだと記しておこう(笑)。

一方の世志琥はしっかりと共同インタビューに答えた。

彼女にとっての里帰りは、さらに向上心に火を点けたようだ。

 

メインイベントは圧巻だった。

1年前であれば、まさかこの顔合わせが日本武道館のメインを締めるなどと

予想したものは誰ひとりいないだろう。

 

ワンダー・オブ・スターダム選手権&敗者髪切りマッチ。

ジュリアvs中野たむ。

 

キャリア3年4ヵ月。

スターダムに移籍してまだ1年3カ月のジュリア。

 

キャリア4年8カ月。

スターダムに参戦して3年7カ月の中野たむ。

 

ジュリアは最初から注目を集めていたし、

木村花さん(故人)との抗争でいきなりスター候補として認知された。

 

一方のたむは、なんだか頼りなかった。

アイドルを目指し活動していたというが、

スターダムに参戦してからは、大江戸隊のセコンドとして

パンダのヌイグルミを持ってチョロチョロしている女の子……

私にはそんな認識しかなかったのだ(※すまん!)。

 

ジュリアがみるみる実力を磨いてスターになっていったのは当たり前。

一方で、たむの大化けぶりには本当に驚いた。

小柄ながら柔軟な身体、普段のおっとりぶりが嘘のような気性の激しさ。

 

かくして、出来上がったライバル関係。

しかも白いベルト争奪だけではなく、

波紋を呼んだ髪切りマッチルール。

 

メインのリングは完全に出来上がっていた。

とはいえ、やはりジュリアの放つオーラが会場を支配していたように思う。

 

武道館という大会場でも完璧な立ち居振る舞い。

さすがに、新日本プロレスの東京ドーム大会を二度経験していることはあるなという感じ。

 

試合時間は18分57秒とメインにしては長期戦とはならなかった。

ただし、その中身は濃かった。

一個一個の技に気持ちがこもっている。

 

感情を溜めて溜めて、ぶち込んでいく張り手。

いや、ビンタの応酬に場内が静まり返る。

 

張り手の鈍い音が響き、選手がよろめくと、

拍手が起こる。

 

こういう光景は男子マットでもなかなか見られない。

 

闘いを制したのは、たむだった。

その瞬間、あっと息をのんだ。

 

SSD(スタイナー・スクリュー・ドライバー)で

ジュリアを真っ逆さまに脳天から打ちつける。

これは、Ⅴ・S・Dという究極技らしい。

 

さらに、切札のトワイライト・ドリーム。

見事なブリッジでジュリアから3カウントを奪取した。

 

試合後の髪切り風景。

なぜか、勝者のたむが泣いている。

 

「なんでオマエが泣いてんだよ!」

 

ツッコミを入れるジュリアのほうが苦笑い。

ジュリアのアタマ左半分がバリカンで刈られ坊主になる。

 

「ズルいよ、オシャレじゃん」

 

「オマエがやったら、宇宙一ブサイクになっちゃうもんな」

 

過去、女子プロの髪切りマッチでは、

つねに阿鼻叫喚のシーンが見られた。

 

ところが、なぜか爽やか。

勝者が泣いて、敗者が笑みを見せる。

 

こんなシーンも、この対照的な2人だからこそだろう。

爽やかすぎた髪切りマッチ。

 

 

試合後、バックヤードインタビューで潔くコメントを残したジュリア。

このあと、通路でしばらく大の字に倒れていたから、

受けたダメージは半端ないものだったろう。

 

 

中野たむの場合、あえてこちらの写真を載せる。

勝者インタビューの前に、ジュリアのインタビューが終わるのを待っているシーン。

 

なんか、雨のなかでまるまっている捨て猫みたい(※ふたたびスマン!)。

だけど、イスに座って勝利者インタビューを受けている絵柄より、

泥臭く闘いぬいてジュリアを倒し、放心状態にあるこちらのほうが中野たむらしい。

 

そう思ったのだ。

 

感情、生き様、感謝とリスペクト。

いろいろなものが見えたメインイベント。

そして、スターダム10周年大会のすべて。

 

素晴らしい興行だった。