衝撃の12・3ノア後楽園ホール大会から2日後、

リアルジャパンプロレスの12・5後楽園ホール大会に出向いた。

 

お目当ては、もちろんメインイベントのレジェンド選手権。

藤田和之vs船木誠勝の初一騎打ち。

 

王者・藤田は49歳。

挑戦者・船木は50歳。

 

もし、10年前であれば、大晦日にさいたまスーパーアリーナの

メインイベントに組まれてもおかしくはないビッグカードである。

 

とはいえ、それはMMAマッチとして実現した場合。

いま現在の両選手の戦場はプロレスのリング。

自分のルーツに戻ったプロレスラーだ。

 

新日本プロレスの野毛道場で育ち、

ともにアントニオ猪木の付人を務め、

理想の闘いを求め、新日本を巣立っていった。

 

全盛期にリングでの接点はないが、

スパーリングの経験はあるという。

 

前哨戦としてタッグでは二回当たっているものの、

船木に言わせれば、「肌に触れた程度」だという。

もう、初対決と言いきってもいいだろう。

 

 

そういえば、船木がYouTubeの自分の番組のなかで、

「日本人最強のファイターは藤田和之選手です」と言いきったことがある。

それほど藤田の力量、実績を高く評価しているのだ。

 

一方、藤田にとって、船木は憧れの人といっていい。

プロ転向前から船木の雄姿を見て、その生き方もふくめ目標としてきた。

 

同じルーツを持つ者、互いにリスペクトし合っている男同士の勝負。

長くプロレス、格闘技を見てきたものにとってはたまらない顔合わせなのだ。

 

ちなみに、私がこの業界の仕事に就いた若造のころ、

イチバン最初に仲良くなったレスラーはまだ17歳だった船木優治。

 

いま現在、もっとも頻繁に連絡を取り合っている人物が藤田和之。

そういう面でも、なにか縁があるのかなあと特別な思いが高じてくる。

 

2005年3月、初代タイガーマスクがリアルジャパンプロレス設立に際して、

「猪木さんから学んだストロングスタイルを追究したい」と語った。

当時、新日本プロレスでもストロングスタイルというフレーズは死語になっていた。

 

「佐山さんがあえて死語であるストロングスタイルという

フレーズを出したことに、意気込みを感じます」

 

「そうなんですか? いまストロングスタイルは言わないんですか?

僕にとってはもう、プロレス=ストロングスタイルで染み込んでいますから」

 

当時、サムライTVの生番組で共演したときに、

初代タイガーの佐山さんとこんな会話をした思い出がある。

 

それを思うと、14年越しのザ・ストロングスタイルの一戦。

それが今回の藤田vs船木戦だという気がしてくる。

 

まあ、理屈はもういいだろう。

とにかく、ゴングが鳴った瞬間から

半端ない緊張感に会場が包まれた。

 

手四つから探り合い藤田がタックルを仕掛けると、

船木がサッとそれを切る。

 

密着しての差し合い。

船木がガードポジションへ。

なんとかパスガードしようとする藤田だが、

それを許さない船木。

 

マウント狙いから横四方へ。

体重差があるから藤田有利となるが、

やはり船木が堪える。

 

いつの間にか、船木が流血。

右眼の上あたりをカットしたらしい。

グラウンドで揉み合っているときに、

藤田の頭か肘が偶然入ってしまったようだ。

 

藤田は容赦なく流血した顔面を狙って張り手を打ちこむ。

これで火が点いた船木も掌底、ハイキックへ。

さらに顔面を蹴り上げると、こんどは藤田の左耳が切れて出血。

 

藤田のセコンドに付いた鈴木秀樹が大声で藤田に檄を飛ばす。

そういえば、船木vs秀樹も壮絶な試合だった。

 

2015年3月1日、ZERO1の後楽園ホールで実現した最初で最後の一騎打ち。

ダブルアームスープレックスで船木に勝利した秀樹は、

この一戦を機にプロレス界で成り上がっていった。

まさに鈴木秀樹の出世試合だった。

 

打撃のラッシュから切札のハイブリッド・ブラスターを狙う船木。

腰を落としてなんとか耐えた藤田は胸板へ張り手。

船木も掌底、ローキックを打ちこんでいく。

 

ここで藤田がカウンターのヘッドバット。

さらにパワーボム、顔面蹴り、スリーパーホールドと畳みかけた。

グラウンドに持ち込みそのままバックから絞め上げると、

和田良覚レフェリーがストップを告げた。

 

あまりに密度の濃い9分26秒。

完全決着となったものの、

もう一度見てみたいと思わせる緊迫戦。

 

敗れた船木は、コーナーで深々と一礼するとリングを降りた。

認定宣言、ベルト贈呈式よりも、藤田の視線はずっと船木に注がれていた。

 

 

「船木さん、船木さん!」

 

藤田の肉声が記者席まで響いてきた。

気付いた船木がリングサイドまで戻ると、

リング上とリング下、ロープを挟んで握手。

 

今度は藤田が深々とお辞儀した。

 

 

傷口を止血しながら船木が口を開いた。

それにしても、50歳にしてこの肉体。

この男はいつまでもファイターなのだ。

 

「自分の闘いにちゃんと応えてくれるんで、

よけいに出所が一緒だと思いましたね。

やっぱり壁が厚いなあと思った。

1回2回じゃちょっと…3、4回やって1回勝てるかなあという感じで。

プロレスっていうのは生きてるかぎり次があるので、次を待ってます。

必ずまわってくると思ってます。

いま、みんないろんな団体の選手が彼に挑戦してみてもいいと思う。

『次、俺がいきます!』って出てきてほしい。

彼だって2、3年したら衰えていくんで、

その前にやっておいたほうがいいと思いますね」

 

やはり、船木の言葉はひと味違う。

現代プロレスとは一線を画す藤田の闘いを体感しておいたほうがいい。

それがきっとプラスになる、という意味合いもあるのだろう。

 

 

一方、リング上では師匠・猪木ばりのパフォーマンスで締めた藤田。

バックステージでも船木への感謝とともに、「いつ、何時だろ!?」と

猪木ばりのフレーズで誰の挑戦でも受ける意向を示した。

 

翌日、藤田に船木と交わった感想を改めて聞いてみた。

 

「この世界に入る前は客席から観ていた憧れの人ですから。

オーラ、たたずまい、直向きさ…とにかくカッコいいですよ。

それがいまも変わらない。

自分とは真逆の人ですね(笑)」

 

藤田、船木ともに、やり残していたことに

ひとつ決着をつけた。

 

同じルーツを持つ修羅場くぐりの2人には、

まだまだやるべきことがあると思う。

 

さあ、本日ワタクシ金沢がやるべきことは、

新日本プロレス『WORLD TAG LEAGUE2019』最終戦のTV解説。

広島グリーンアリーナに行ってくるゼア!