大仁田厚、7度目の引退試合となる10・31後楽園ホール大会を見とどけてきた。
『大仁田厚ファイナル』(大仁田興行)の最終戦。
チケットは完売、超満員札止め(2000人)の観客で埋まった。
取材に訪れたマスコミの数も半端なものではなかった。
テレビ媒体も、生中継を行なったサムライTVだけではなく、
日本テレビのカメラも入っている。
主役の大仁田はというと、この日もいつもと変わらない様子。
控室にこもるわけでもなく、大会開始前からマスコミの前に顔を出して雑談。
ただ、かなり早い時間帯から引退セレモニー用のコスチュームに着替えていた。
還暦を象徴する赤の革ジャンを羽織って外階段のバルコニーにやってきた大仁田。
ちょうど試合は2試合目のバトルロイヤルに入ったところ。
私もたまたまそこで一服していた。
後楽園ホール控室周辺で唯一、喫煙OKのスペースなのである。
「あ、金沢さん、タバコ忘れちゃったよ。
1本もらえるかな?」
「どうぞ、軽いやつなんですけどね」
そういって、私が愛煙するラーク・ウルトラワンのショートを渡すと、
「なんだ、オレと同じの吸ってるんだね」と笑う。
たしかに、あとからまたバルコニーで顔を合わせたとき、
大仁田も私と同じ銘柄、同じ種類のタバコを手にしていた。
こんなことでも、なにかの運命なのかな?
すこしだけ、ほっこりした気分になった。
「大将(※大仁田の昔の愛称)、ボクが2月に入院しているとき、
お見舞いに来てくれると言ってくれたのに断ってすいませんでしたね」
「そうそう、オレ心配でさあ。すぐ行こうって。
だけど、人を通して断られちゃったから」
「あのときホントに体調が悪くて、身内以外のお見舞いは全部断ったんで。
だけどね、イチバンにお見舞いに来たいと言ってくれたのが大将だったから。
いや、嬉しかったし、ホントに感謝してますよ!」
「ところでさあ、その後は体調どうなの?」
「元気ですよ。この通りタバコも吸ってるし、お酒も飲んでるし。
医者に、ストレス溜めるぐらいなら酒もタバコもOKと言わせましたからね(笑)」
「アッハハハハ! さすが、邪道だねえ。
そうこなくっちゃ、ゴング金沢じゃないもんな!」
まさに、いつもの会話。
話していて感傷的な言葉なんて、これっぽっちも出てこない。
それにカメラを向けると、しっかりとタバコをふかす邪道の表情で応えてくれた。
「この赤の皮ジャンには”邪道”って入れてないんですね?」
「ああ、そうなんですよ。
最初は描こうと思ったの。
だけど、セレモニーのためだから、なんか違うのかなって。
そこは、邪道もいらないんじゃないかなって……」
そう言ってから、大仁田は引退セレモニーの準備のため控室へ戻っていった。
休憩前に開催された引退セレモニー。
試合後にはできないかもしれないから――
そういう理由でひと足お先に10カウントゴングが鳴らされた。
最大のサプライズは、母の松原巾江さんが花束を持ってリングに上がったこと。
親子ともに涙、また涙……。
このシーンは別格として、ゲストによる花束贈呈のとき、
もっとも大歓声で迎えられたのは青柳政司さん。
プロレスラーは引退したものの、誠心会館館長であり、
現在はヒール軍団・魔世軍の総裁としても活動している。
1989年に行なわれた3度の大仁田vs青柳戦は、これまでの
タブーを破った日本人同士による異種格闘技戦として大反響を呼んだ。
とくに、3度目の一騎打ちとなった10・10後楽園ホールの試合は凄まじかった。
私個人の取材歴をさかのぼってみてもベスト5に入れていい名勝負。
また、この青柳戦こそ涙のカリスマ誕生の瞬間でもあった。
出番待ちの青柳館長と記念撮影。
いやあ、懐かしい。
何年ぶりの再会だろうか?
しばしの雑談。
FMW時代、
新日本プロレス時代、
反選手会同盟→平成維震軍時代と、
館長とは本当に仲良くさせてもらった。
セレモニー、休憩を挟んでメインイベントへ。
ストリートファイト・有刺鉄線ボード・トルネードバンクハウス6人タッグデスマッチ。
まあ、気の遠くなるような長いネーミングのストリートファイトマッチ。
大仁田厚&鷹木信悟&KAIvs藤田和之&ケンドー・カシン&NOSAWA論外。
とにかく、すったもんだの末に、藤田がリングに上がった。
炎のファイター~オーケストラバージョンのテーマ曲がデスマッチの会場に鳴り響いた。
邪道vs野獣。
邪道vs闘魂。
おいおい、藤田が有刺鉄線バットを持っているよ。
この違和感はそうとうにシビれるねえ。
正直、顔合わせだけで充分。
それほど内容に期待していたわけではなかった。
ところが、予想はいい意味で裏切られた。
メチャクチャおもしろい。
試合巧者たちが周囲を固めているせいもあって、
藤田の怪物ぶり、尋常ではない底力が遺憾なく発揮される。
試合タイムは16分48秒。
最後は、大仁田vsNOSAWAの一騎打ちの様相へ。
イスで脳天を痛打されて、パワーボム。
ボードで殴られて、パワーボム。
そのたびに、必死にキックアウトするNOSAWA。
おいおい、これはNOSAWA・ボンバイエかよ(笑)。
結局、7発目のサンダーファイヤー・パワーボムで決着。
文句なし。
盛り上がった。
大仁田、完全燃焼。
これ以上は望めないラストマッチであったろう。
いつもの、いやいつも以上の大仁田劇場が大爆発。
涙というより、お祭り騒ぎ。
ゲスト解説の田中将斗も異常な光景に思わず苦笑い。
左は、FMW大好き、大仁田信者だった豊本さん(東京03)。
バックステージに引き揚げてきた大仁田。
涙はなかった。
やり遂げた。
そういう顔をしていた。
「最後にひとこと言うとしたら、オレは死ぬまでプロレスラーです」
「また誤解されるかな? こんなこと言うと。
3日後(の川崎大会出場)は絶対ありませんので」
最後には、笑顔ものぞいた。
静かに控室へ去っていた大仁田。
背中に”邪道”の二文字。
デジャブだ。
あれっ、どこかで見た感覚と同じ。
ああ、17年前の長州戦の試合前だった。
「いままでありがとうな」
私にそう言って、大仁田は控室へ消えた。
その背中に邪道の二文字。
さて、試合後の展示場グッズ売り場。
つい先ほどまで暴れまわっていたのが嘘のように、
カシンと藤田が並んでグッズ購入者へサイン、さらにスリーショット撮影に応えていた。
試合には、『週刊ゴング№33』表紙プリントTシャツ着用で臨んだカシンであるが、
ここではカシン本の表紙プリント付きTシャツ。
私がカメラを向けると、2人とも笑顔。
紆余曲折の末、実現した大仁田戦。
藤田もカシンも、手応えあり!と充実感を得たのではないだろうか?
それにしても、藤田のストリートファイト・スタイルは
じつにハマっていた。
年内、すでにMMAマッチ2試合への出場が決まっているようだが、
ぜひ、プロレスのリングにも参戦してほしい。
最後に……おそらく、これが最初で最後の記念撮影。
ブレてるし、私なんか目を瞑ってしまっているけど、それでいいじゃん。
「金沢さんがいなかったら、長州戦はできなかったんだよ!」
このとき、またいつもと同じ感謝の言葉をかけてもらった。
いやいや、私も大将のおかげで強い記者になれました。
ファイヤー