12月22日、後楽園ホールで開催されたスターダムの

2016年度・最終興行を取材してきた。

ワタクシ的にも、年内最後の現場取材となる。

 

目玉はもちろんメインイベントに組まれた紫雷イオvs岩谷麻優の

ワールド・オブ・スダーダム選手権(※イオの9度目の防衛戦)で、

私もそれを取材するために会場に足を運んでいる。

 

いつものスターダム後楽園ホール大会であれば、

テンポよく進んでだいたい2時間余で試合は終わる。

ところが、今回は異変アリ!?

異例ともいえる3時間20分興行となった。

 

大会5日前になって、とんでもない(?)トッピングが追加発表されたからだ。

タレント2人のプロレスデビュー戦と銘打って、

全8戦の第5試合と第6試合にテレビ朝日の収録マッチが組まれたのである。

 

第5試合=宝城カイリvs鈴木奈々

第6試合=紫雷イオ&脊山麻理子vs松本浩代&ジャングル叫女。

 

この2戦は、テレ朝が1月4日に放送するお正月特番『スカウちょ!』の収録。

その出演者である鈴木奈々と脊山麻理子がスターダムのリングで

プロレスデビュー戦を行なうというチャレンジ企画である。

 

以前にも何度か書いたことがあると思うのだが、私はテレビをあまり観ない。

観るにしても、ニュース番組かスポーツ中継ぐらいなので、

芸能情報などには著しく疎く、誰もが知っているというタレントの

名前や顔さえほとんど知らない。

 

今回も、会場で「鈴木奈々って誰? アイドル? モデル?」と聞いて、

まわりのマスコミ関係者にずいぶんと驚かれたし笑われた。

なんでも、”おバカタレント”としてテレビ番組で引っ張りだこの人気者らしい。

 

た・だ・し・・・こっちはよく知っているぞ!

そう、脊山麻理子。

あ、知り合いなので以下、脊山さんと”さん”付けにしておく(笑)。

 

ご存知の通り、元・日本テレビアナウンサー。

ここ数年、雑誌のグラビアで水着姿を披露したことから注目され、

それ以降、タレントとしてブレークした感がある。

 

2010年に日テレを退職しフリーランスとなった彼女は、

2011年10月~2012年3月までサムライTV『速報!バトル☆メン』の

日曜キャスターを担当していた。

 

その関係から面識ができて、グループで何度か食事に行ったり

飲みに行ったりするようになった。

まあ、お酒は強いし、付き合いもいい。

炭酸水をチェイサーにどれだけ飲んでも変わらない脊山さん。

そんな感じで飲み仲間のような間柄となった。

 

そこで知ったのは、もともと彼女が筋金入りのプロレスファンだったということ。

日テレ時代からノアの会場によく出向いていたし、

フリーになってからはメジャーからインディーまで網羅。

 

彼女がサムライTVの仕事を離れてからも、

いろいろな会場でバッタリ会うこともたびたびあった。

 

その脊山さんがプロレスデビューするという噂を最初に耳にしたのは、

たしか12月のアタマぐらいだったと思う。

それを聞いたときには、正直たじろいだ。

もっと言うなら、「トチ狂ったか!?」と思った(※脊山さん、スマン!)

 

好奇心旺盛で、何事にも入れ込んでしまうタイプだから、

本気でプロレスラーへの転身を目指していると思ったのだ。

 

その後、テレビ番組のチャレンジ企画だと知ってひと安心した次第。

とはいえ、場所が聖地・後楽園ホール。

観客は番組用のギャラリーではなく、本当のプロレスファン。

そのなかで試合をするわけだから

中途半端なことは許されないだろう。

 

当日、第1試合の途中で控室につづく階段を下りていくと、

すでに試合用コスチュームに着替えた脊山さんが通路にいた。

 

「あっ、金沢さん、お久しぶりです」

「どう? 大丈夫? なんか魂が抜けてない?」

「えー? 入ってますよ」

 

冗談が通じない。

会話がつづかない。

さすがに緊張しているようだ。

 

 

写真を撮らせてもらったのだが、

いつもより表情がすこしカタい。

もう話しかけるのはやめておいた。

 

試合が始まると、観ている私のほうもハラハラドキドキ。

男性ファンの視線は、彼女の”はみケツ”コスチュームばかりに釘付け。

嫌でもそういう空気が伝わってくる。

 

この空気感、なんとかならないのか?

そう思っていたところで、最後の最後に決まった。

イオのアシストを受けながら、見事なダイビング・ボディアタック。

 

 

度胸満点の試合を披露した鈴木奈々と並んで

試合後の共同インタビュー。

 

脊山さんは、改めてプロレスとプロレスラーへの

リスペクトの気持ちを何度も口にした。

 

インタビュー終了後、なかなか実感が湧いてこないというか、

まだどこか別次元に頭が行っているような様子の脊山さんと話した。

 

「いやぁ、最初はどうなることかと思ったけど、

ダイビング・ボディアタックは見事だったよね!」

 

「そうですかぁ? あんまり憶えてなくて……。

リングに上がったら、もう頭が飛んじゃったんです」

 

そりゃあ、そうだろうなあ。

四方八方から見られているリングは特別な聖域だ。

プロレスは、痛いし、厳しいし、難しい。

 

とにもかくにも、無事に生還できてよかった。

この経験は脊山麻理子さんにとって、必ずや今後の糧になるだろう。

 

 

では、本戦・本番のメインイベント。

最高峰の赤いベルトを懸けた紫雷イオvs岩谷麻優。

ちょうど7ヵ月前、5・15後楽園ホールで対戦している両選手。

あのとき岩谷は最悪のコンディションでイオに挑んでいるが、

気持ちの強さで大健闘している。

 

あれから、サンダーロックは解散。 

もう互いにタッグパートナーではないし、

とくに岩谷は前回以上のもの、つまり大健闘以上のものを示す必要がある。

 

結果的に、今もっとも旬な必然の対決を制したのはイオだった。

敗れた岩谷にも甘えはなかったろうし、確実に進化を見せたと思う。

 

ただし、イオが強すぎた。

攻守ともに完全無欠。

その牙城が崩れることはなかった。

 

試合後、イオは岩谷に向かってこう言い放っている。

 

「あとホントにひと息なんだよ。

あとひと息で麻優はこの赤いベルトを獲れたかもしれない。

でも、そのひと息の差はデカイぞ!」

 

そのとおりで、実はそのひと息の差がとてつもなく大きい。

どれぐらいの差があるかといえば、

まる2年前のオカダ・カズチカと内藤哲也ほどの差がある。

 

つまり、いま現在その評価を覆しオカダと同等かそれ以上の評価を得ている

内藤ほどのプラスアルファを身に付けなければイオを超えられないということ。

それほど、紫雷イオは別次元を突っ走っているのだ。

 

もともと女子プロレスの伝統的な型というものをルーツに持たずに

育ったイオのプロレスは、男女差を超えたところにある。

言ってみれば、初めて女子プロの枠を超えた女子レスラーがイオなのかもしれない。

 

それがあるから、今年4月のロス遠征でルチャアンダーグラウンドに出場し、

ペンタゴン・ジュニアと闘った試合にも違和感を覚えなかった。

 

 

いま現在の日本マット界。

 

これはあくまで私見なのだが、シングルマッチでもっとも身体を張って

現代プロレスを表現している選手は、内藤哲也、ケニー・オメガ、

そして紫雷イオの3選手なのではないだろうか?