『G1 CLIMAX25』(以下、『G1』)が長い地方遠征を経て、

ようやく首都圏に戻ってきた。


この8・8横浜文化体育館大会から、

いよいよラストスパートに入る。


8・8の公式戦〈Aブロック〉メインカードは、

棚橋弘至vs柴田勝頼。


一昨年の『G1』公式戦(8・11両国)では最終戦での一騎打ちが実現。

勝者が優勝決定戦進出となる大切な試合で、

棚橋が意表を衝く丸めこみを決め柴田から1本勝ち。


昨年の公式戦(7・26秋田)では柴田がPKで快勝。

1年越しのリベンジを果たした。


本当のドラマが待ち受けていたのは、

その後の9・21神戸ワールド記念ホール大会だった。

棚橋のハイフライフローに敗れた柴田が、

自ら棚橋に歩み寄って何事か話し掛け両雄は抱擁。


「この10年、新日本プロレスを守ってくれてありがとう」


柴田の一言に、タナの涙腺が崩壊した。

タナの目からみるみる涙があふれ出た。


「あれはないですよね、あれは反則ですよ」


試合後、棚橋は心底嬉しげに、そう語った。



この日、なかなか超満員とはいかない横浜文化体育館が、

2階席、3階席までギッシリと埋まった。



                                      Ⓒ井上崇宏


私はサムライTV生中継の解説についた。

村田晴郎アナウンサーとのコンビ。

後半のG1公式戦から、田口隆祐もゲスト解説に加わる。


試合前に、村田アナがメインの2人にインタビュー。

柴田も棚橋もいたって冷静であり、

ときおり笑顔を見せる。





「勝たなきゃ点数をもらえないんで」


いつも通りで口数の少ない柴田。

一方の棚橋はこう言った。


(柴田とは)変な遺恨とかはもうないので。

ヤングライオンのときのような気持ちで臨めるかなと」





この一戦に関して、数日前に東京スポーツ(以下、東スポ)が、

27年前の8・8横浜(1988年、藤波vs猪木のIWGPヘビー級戦)の再現か!?


そんな感じで煽っていた。

8・8『スーパー・マンデーナイト・イン・ヨコハマ』のこと。

王者・藤波に、引退説が流れる猪木が挑んだ。

予想を覆す大激闘の末に、60分フルタイムドロー。


限界説を一蹴。

アントニオ猪木、おそるべし!

歴史に残る名勝負だった。


もちろん、私も会場で取材にあたっていた。

当時は、『週刊ファイト』記者である。


会場でバッタリ会った岡本記者(東スポ)に話しかけてみた。


「猪木vs藤波戦の再現かあ…

結果的に30分フルタイムもありかな?」


「いやあ、30分はなかなか厳しいでしょうね。

あの記事は苦し紛れではないけど、

やっぱり8・8横浜っていうことで、

柴田さん、棚橋さんには猪木vs藤波が被ってくるから書いてみたんですけどね」


そんなことも踏まえて、

午後6時スタートの生中継(試合は6時半開始)の前ふりのなかで、

村田アナも「8・8横浜といえば…」という程度に軽く触れてきた。





メインイベント。

素晴らしいレスリング、

素晴らしいプロレスが披露された。


足4の字固めから、

コブラツイストを狙って両者がクルクルとバックを狙う。

こんな攻防も、この2人にしか似合わない。


柴田がリバースのインディアン・デスロックへ。

「オッ!」と思ったところで、

そのままボーアンドアロー・バックブリ―カ―(弓矢固め)へ移行する。


ここまでくると、もう我慢できない感じ。

そのタイミングで下島ディレクターから

「猪木vs藤波」というカンぺがついに出た。


放送席の思いも一致していた。

すかさず、村田アナが27年前の8・8横浜の話を振ってくる。

そうくると、もう私の話も止まらなくなる。


打撃でも意地の張り合いは凄まじかった。

ヨーロピアンアッパー(欧州式エルボースマッシュ)の

打ち合いがノンストップで続く。


柴田の一撃一撃は的確にアゴのあたりへヒットする。

棚橋のほうがダメージを受けているようなのに、

絶対に退かずに打ち返していく。


コーナーマット上でも同様の攻防。

結局、ラチがあかずに、柴田がデッドリードライブで

棚橋をリングに放り投げたシンプルさもまたグッとくる。


棚橋は一切のパフォーマンスを封印していた。

コーナーからの見栄を切ったサマ―ソルトドロップも出さなかったし、

スリングブレイドにしてもカウンターで咄嗟に繰り出していった。


ハイフライフローで決まらない。

ならばと、ジャパニーズレッグロール・クラッチホールド狙い。

待ってました!とスリ―パ―に切り返す柴田。


ところが次の瞬間、スリ―パ―を決められながら、

棚橋が後方に半回転して強引なエビ固め。

あっという間の3カウントが入った。


ハイフライフローでもない、

PKでもない決着。

だからこそ余韻が残ったし、

ネクストさえ期待させる結末となったのだ。


棚橋の言った「ヤングライオンのような気持ちで」の意味もわかった。

それは、純粋に爽やかに闘うという意味なんかじゃない。


ヤングライオンは、昨日の負け、今日の勝敗、

明日の試合と、目の前のことにとことんこだわる。

将来のために…そんなことを大らかに考えている暇はないし、

そこまで器はできていない。


今日負ければ悔しい、今日勝てば嬉しい。

いまの自分のことだけで精いっぱい。

一喜一憂の毎日。

泥臭く生きていく毎日なのだ。


今日、目の前の試合にどんな手を使っても、

泥臭くてもなんでも必ず勝つ。

それがタナの言うヤングライオンの気持ちなのだ。


柴田勝頼は柴田勝頼を貫いた。

棚橋は格好のいい棚橋をかなぐり捨てた。

勝つための棚橋は貪欲で泥臭く格好なんてよくなかった。

だけど、終わってみれば、そんな棚橋がいつもの何倍も輝いて格好よく見えた。





「新日本プロレスがヨコハマに帰ってきたぞー!!」


恒例の雄叫び。

ちょっとべつのことを考えてしまった。


新日本プロレスの原点ともいうべきプロレス、

これぞ新日本、これぞストロングスタイル、

そんなプロレスが27年ぶりに横浜に帰ってきた。


そんなふうに私には聞こえてしまった。


柴田の卍固めなどには震える思いだった。

棚橋の左足をフックした右足のからみ具合など、

まるで猪木vsジョニ―・パワーズ戦の卍固めを彷彿させた。


大会終了後、サムライTVスタッフによる喫煙所での反省会(?)は止まらない。


「これはベストバウトとかじゃくて、名勝負と呼ぶべきものでしたね」


誰かが言った、このフレーズがもっともしっくりとくるような気がした。


8・8スーパー・サタデーナイト・イン・ヨコハマ。

最高のプロレスを見た。

本物の新日本プロレスを見た!


みなさん、大変失礼しました。

そう、8・8横浜は土曜日です。

遅ればせながら、修正させていただきました。

それにしても、これから1週間は私個人にとってもおそらくこの1年で、

公私ともにもっとも多忙な1週間になりそうです。

執筆、取材、テレビ解説、プライベートと予定がギッシリ。

とにかく、8・16『G1』両国最終戦、さらに『ゴング』締切に向けて突っ走るのみ。

イッちゃうぞ、こんにゃろう~!!