『BEST OF THE SUPER Jr.ⅩⅩⅡ』(以下、スーパージュニア)

優勝戦の2日前だというのに、5日の新日本プロレス

後楽園ホール大会は、またまた超満員の観客で埋まった。


すでに、公式戦の全試合を終えBブロックをトップ通過している

KUSHIDAはこの日、試合は組まれずにテレビ解説についた。


そのKUSHIDAの目の前で、Aブロック首位を狙う2選手が

セミとメインで激しい星取り合戦を展開した。


セミでは外道vsカイル・オライリー(レッドラゴン)の公式戦。

オライリーが勝てば、12得点でトップに立つ。

メイン出場の田口隆祐が勝てば同点となり、

公式戦で敗れているオライリーは脱落。


ただし、田口が敗れるか、引き分けで、

オライリーの初出場&初優勝戦進出が決定する。


試合巧者だの職人芸だの、そんな言葉をはるかに超えて、

全身プロレスラーで出来上がっている外道。

存在そのもの、パフォーマンスのすべてがプロレスラー。

外道という男を表現するなら、そう言うしかない。


徹底した左脚殺し、オーソドックスな攻撃から

トリッキ―な攻撃に至るまで左脚を攻めまくられたオライリー。


もちろん、オライリーも得意の腕攻め、

一点集中攻撃で返していく。


こういう試合を観ていると、ジュニアのリーグ戦だということを忘れてしまう。

プロレスを観ているなあという気分になる。


今年のスーパ―ジュニアは地味だと言われる。

実際にド派手な攻防は少ない。

ハイフライヤーと称される選手は、

マスカラ・ドラダだけかもしれない。


それでもファンはじっくりと観てくれる。

たとえ飛ばなくても、それが足4の字固めの攻防でも、

観てくれるし、盛り上がるし、沸いている。


そうだ、

今年のMVPはもう、”新日本のお客さん”で決定だろう(笑)。


苦闘の末、オライリーがアルマゲドン(足取り式腕ひしぎ十字固め)で勝利。

この時点でAブロックのトップに立って、そのままリングサイドに陣取った。

なんか、大相撲の勝ち残りみたいでいい光景だ。


オライリー、KUSHIDAがリングサイドで見守る中、

田口vsチェ―ズ・オーエンズの公式戦最終戦。


オーエンズは多少、腹まわりが気になる。

なんとなく、自分自身の姿が重なってくる…。

そう思っていると、私の隣で観ていた野上慎平アナ(テレ朝)が、

「なんか、少し前の俺のお腹まわりみたいだなあ」と呟いた(笑)。


一方、新日本の音響スタッフのEさんは、

「オーエンズって、ネルソン・ロイヤルに似てない?」

と、とんでもなくマニアックな名前を出してきた。


「ああ、似てる。牧童コンビだね。

パートナーはポール・ジョーンズ」


おそらく会場中で、5人ぐらいしか分からない会話だろう(笑)。


とはいえ、オーエンズをギャグで片づけるわけにはいかない。

元NWA世界ジュニア王者で、しっかりとレスリングができる。

なんといっても、フィニッシュのパッケージドライバーの威力は抜群。

近年でも、なかなか見られない説得力に溢れた痛烈フィニッシュホールドだ。


しかし、試合は歓客の盛大な後押しを受けて、

田口の独壇場と化した。

とにかくケツ、ケツ、ケツ…ヒップアタック大攻勢。

相手がどんなポジションにいようと、

突っ込んで行って尻を打ちつける。


ノータッチ・トぺコンヒ―ロも鮮やか。

オ―マイ&ガ―アンクル(ホールド)も絶妙のタイミングで決まる。


ところが、最後に落とし穴。

どどんを狙ったところを、パッケージドライバーに切り返された。

脳天から突き刺さった田口は万事休す。


まさかの敗退。

さすがネルソン・ロイヤル…じゃなかった!

元NWA世界ジュニア王者・オーエンズ。


そう言えば、ネルソンも元NWA世界ジュニア王者だったぞ!

まあ、そこらへんは各自、『Wikipedia』で調べてちょーだい。


とにかく、大波乱。

田口が脱落。

6・7代々木第二体育館での優勝決定戦カードは、

KUSHIDAvsカイル・オライリーと決定!



『スーパージュニア』初出場で

ファイナル進出を決めたオライリー。


選手間の評価もメチャクチャ高い選手だが、

ROHではシングルプレイヤーとしても活躍している。


キャリア10年目、まだ28歳。

顔はややコワモテに映るが、

よくよく見ると肌が若々しいし、

少しばかり少年の面影が残っているのだ。


動きの緩急と技のキレが抜群。

得意技はサブミッションと絞め技。

日本のプロレススタイルが大好きな男。


初出場&初優勝のアメリカン・ドリームなるか!?



現在進行形で新日本ジュニアを背負う男、KUSHIDA。

空中戦もこなせる本格派。

高田道場出身で、桜庭和志のスパーリングパートナーでもあった。


それなのに、プロレスラ―を夢見て単身メキシコ修行に出た。

あの『ハッスル』から始まった男なのに、

気がつくと新日本ジュニアを背負っている。


「カイル・オライリー、最高の相手じゃないですかね。

新日本プロレスは、棚橋、中邑、オカダだけじゃない。

新日本プロレスジュニアの新しい価値観をひとつ打ち出すためには、

最高の相手だと思います」


つまり、ジュニアは空中戦だけじゃない。

レスリングの技術でも、強さでも、メンタル面でもタクティクスでも、

すべての面でヘビー級には負けない。

いや、ヘビーのトップである棚橋、中邑、オカダにだって負けない。


KUSHIDAは本気でそう言っているのだ。

背伸びしているわけでもなんでもなくて、

そうじゃなきゃいけないし、それを証明しようと思っているのだ。


不本意な試合内容でKUSHIDAに敗れたまま

ヘビー級転向を果たした飯伏幸太に対する意地もあるだろう。


「この1年、IWGPジュニアタッグで、ヤングバックス、レッドラゴン、

色んな選手たちとしのぎを削って、ひとつ分かったことは

“どんぐりの背比べ”じゃ、時代は創れないんだ。

だれか1人がとび抜けないと。

俺が1人ジュニアでとび抜けて、新しい時代を創ります。

その第一歩が代々木。明後日、必ず優勝して、

去年を上回る最高の試合をしてみせます」


そう言えば、昨年の優勝戦で20分を超える激闘の末、

リコシェのベナドリラ―に敗れ去ったKUSHIDAは、こう言った。


「ああ、またダメだった。届かなかった。何が足りないんだ?

リコシェよりも、このリーグ戦に参加する誰よりも俺は『SUPER Jr.』に身も心も全部つぎ込んだ。

新日本で育ったジュニアの選手たちよりも、俺は(その思いが)強いと思ってる。

時間は長さじゃないんだ。濃さなんだ。チクショウ! 上等だ。もう一回ここから駆け上がる。

『スーパージュニア』、来年待ってろ!!」


この言葉を受けて、私はたしかこう書いたと記憶している。

足りないものなんてなにもない。

足りないのは結果だけじゃないか!?


そう、昨年のリコシェ戦に関していうなら、

もしKUSHIDAが優勝していれば、

昨年度の『ベストバウト』候補にノミネートされるべき試合だったと思う。


前半に見せた素晴らしいレスリングの攻防。

後半の大技の切り返し合戦。

KUSHIDAのホバーボードロックか、

リコシェの打撃技ベナドリラ―か?


ヘビー、ジュニアは関係なく、

ビッグマッチのメインに相応しい闘いだったと思う。


KUSHIDAは、あの試合を超えてみせる、

そのうえで優勝する、と宣言した。


ハードルは、とてつもなく高い。

しかも、KUSHIDA自身がそのハードルを何10㎝も上げてみせた。


スーパージュニア初出場から数えて6年目の春。

6度目の正直はなるか?


ジュニアにKUSHIDA時代の足音が聞こえてきた…。