3月の月末(週末)、後楽園ホールでの3連戦を取材してきた。


まず、全日本プロレスの3・27後楽園ホール大会。

セミファイナルに世界ジュニアヘビー級選手権、

青木篤志vs鈴木鼓太郎。


メインイベントが三冠ヘビー級選手権、

潮崎豪vs宮原健斗。


私用があって、20分ほど遅れて会場入り。

平日興行なので午後7時試合開始だった。

会場を覗いてみると、どうも客入りが芳しくない。


主催者発表=874人。

秋山社長の方針通り、これが実数で間違いないだろう。


全体で6割ぐらいの入りか?

”鉄板カード”と言っていい青木vs鼓太郎と

全日本・新時代のプロローグともいうべき潮崎vs健斗。

正直、会場の風景には淋しさを感じた。


もちろん、この2試合は存分に熱かった。

同時に感じたのは”全日本らしさ”が増していること。

しかも、リーダーの秋山準が目指す四天王時代の全日本らしさ。


緻密にして、激しい攻防。

秋山が理想とする全日本スタイル。

ここ数年、何度も嵐に見舞われた全日本は、

秋山社長のもと、いま全日本の原点に立ち返ろうとしている。


あのころを知る、渕さん、大森隆男、和田京平レフェリーがいる。

秋山にとってはなんとも心強い存在だろう。



1年ぶり、2度目の三冠ヘビー挑戦。

24分を超える激闘の末、豪腕ラりアットに沈んだ健斗。

明らかに、前回よりもベルトに近づいた。



プロレス界№1とも言われるイケメンぶりに加え、

肉体、精神面ともに充実している潮崎。

いま、もっとも三冠王者に相応しい男だ。


試合後、リング上でマイクを持った王者はこう訴えた。


「ただ、ひとことだけ言わせてください!

これからの全日本プロレスを見届けてください」


このフレーズに潮崎の思いがすべて込められている。

決して饒舌ではないからこそ、響くものがあった。


翌28日、ノアの後楽園ホール大会。

こちらは、8割強ぐらの入りか(発表=1140人)。

よく埋まっていた。


いつものノアらしい空気に包まれていた会場が、

メインでガラリと変わった。

ベルト総取りに成功した鈴木軍が登場。


鈴木軍(鈴木みのる、飯塚高史、タイチ、TAKAみちのく、エル・デスぺラード)vs

”超党派”ノア連合軍(丸藤正道、マイバッハ谷口、モハメドヨネ、石森太二、小峠篤司)

による5対5イリミネ―ションマッチ。


これがもう理屈抜き、

最高におもしろかった。


とにかく序盤から鈴木軍の上手さ、ズルさが全開となる。

レフェリーを引きつけておいて、複数での攻撃、反則のオンパレード。

ただし、レフェリーが見ていないわけだから、OKという感じ。


石森、ヨネ、小峠の順でノア勢が退場となり、

あっという間に5対2の局面。

このままいくと、鈴木軍のパーフェクト勝利も見えてくる。


ところが、ここから超危暴軍から参戦したマイバッハが大暴れ。

デスぺラード、TAKAと連破し、ボスの鈴木を捕えて場外心中へと持ち込んだ。


最後に大将の丸藤が奮起。

飯塚、タイチを連破して大逆転勝利をモノにしている。


いやあ、おもしろすぎる。

ここ何年かで観たイリミネ―ションマッチのなかでも

出色の内容の濃さと大逆転の結末。


だが、試合後も収まらない鈴木軍は総勢で丸藤をリンチ。

そこへ、杉浦貴が救出に入る。

それでも、止められない。

今度は、杉浦がメッタ打ちに遭う。


そこへユラリと大男が姿を現した。

帝王・高山善廣。

ゆっくりと鈴木に近づいていく。




盟友の登場に、「してやったり!」と笑みを浮かべる鈴木。

ところが、高山の矛先は鈴木へ向けられた。

鈴木、飯塚をリングから排除して、

杉浦と抱き合い、丸藤とガッチリ握手。




 「三沢さんが作ったこの舟を海賊には渡せない。

ノアのみんな、オレも行くぞ! ノーフィアー!!」


雄叫びをあげる高山に会場は大爆発。

高山は友(鈴木)ではなく、恩人(三沢)を選んだ。


帝王、カッケー! 

超ベビーフェイスだぜ!!


メイン中盤まで、ノアファンは目を覆いたくなったことだろう。

それが大逆転のハッピーエンドに加え、帝王参入による大団円。


団体の存亡を賭けた闘いでありながら、

プロレスの楽しさ満載のノア後楽園ホールだった。 


最後に、スターダムの3・29後楽園ホール大会。

アレ(2・22後楽園ホール)からちょうど6週間。

アレとは、業界ばかりか世間まで騒がせた

世Ⅳ虎vs安川惡斗の喧嘩試合のこと。


無期限出場停止処分となった世Ⅳ虎のベルト返上に伴い、

ワールド・オブ・スターダム王座決定トーナメントが開催される。

会場は7割ほど埋まっていた。

発表は965人。


スターダムにとっては、禊の大会であるとともに、

その真価を問われる興行だった。

ただ、本当のところは真価というより進化だろう。


前回大会の反省を踏まえ、わずか6週間ながらも

選手・フロントがどれだけ進化したのか? 

進化…いやいや、成長といったほうが適切かもしれない。


風香GMの挨拶を受けて、いきなり当時者の一方である

安川惡斗がリングインした。


顔に包帯やテーピングはない。

素顔をさらしての登場。

腫れは引いており、見た目には回復してきたなという印象。


御礼・お詫びのあとに、安川結花から安川惡斗へと変貌する。


「私が見えないところで弱い、弱い、うるさいよ!

弱い? 悪かったな! 10月にムキムキにして帰ってくるから、

よーく目に焼き付けておけ! マイナスはプラスに。以上!」



そう叫んだ際に、テンションが上昇したのか、

ジャケットを脱ぎ、ブラウスを破り捨てタンクトップとなった。

その後、惡斗コールのなか、ロープを飛び越えてリングを降りた。


まあ、細かいことは抜きで、プロレスラーだ。

だいたい、まだ視覚は完全に戻っていない。

ぼんやりとした感じに見えて、

やっと人の識別ができるぐらいまでの回復具合だという。





バックステージに戻り、囲み取材に応える惡斗。

完全なアドリブで、ブラウス(Yシャツ)を自ら引きちぎってしまったため、

「Tシャツで帰ります」と笑顔も見せた。


この通り、顔の腫れは引いている。


全大会終了後、喫煙場所でなんとなく知っているような、

知らないような感じの方から話し掛けられた。


この日、惡斗に寄り添っていたメンバーのなかの1人。

会話しているうちに、だれなのか分かった。

惡斗主演のドキュメンタリ―映画『がむしゃら』を撮った高原秀和監督だった。


昔から、大のプロレスファンで、ゴング、週プロ、ファイトと

三大専門誌(紙)を欠かさず愛読していたという。


「どういう因果か、ああいう試合が起こってしまって、

そのせいで今まるで惡斗のマネージャーみたいになっていますよ」と笑う。


「今日もロープから飛び降りるし、ヒヤヒヤものです。

目の方は、平仮名なんかは読めるみたいなんですね。

ぼんやりとしながらも、近くにいる人がだれかは分かるぐらいに回復しています。

それなのに、この間は『ブログに書き込んでくれた人のメッセージをぜんぶ読みましたよ』って。

惡斗は本当に不思議な子なんですよ」


いま惡斗のいちばん近くにいる人、

遠慮なくぶっちゃけで話す人、

しかもプロレスが大好きな人、

そんな高原監督の話を聞けたのは幸運だった。


では、肝心の試合に関して。

第5代ワールド・オブ・スターダム王座争奪トーナメントに出場した

宝城カイリ、木村響子、紫雷イオ、彩羽匠の4選手は争奪戦に相応しいメンバー。


1回戦の2試合。

とにかく必死の宝城が木村を丸めこんだ。


イオは貫禄勝ち。

ただし、終盤に逆エビ固めを食ったとき、

イオの身体が柔軟すぎるせいか、

彩羽の体勢が横に崩れ、そのさい腰を痛めた感じ。


試合には勝ったものの、歩くのもしんどそうで、

バックステージでは床に突っ伏して痛みをこらえていた。


大川昇カメラマンいわく

「これぐらいハンディがあって、ちょうどいいんじゃない?」。


たしかに、決勝戦はそんな感じに見えた。

腰にテーピングを施してきたイオに、

いつもの切れ味がない。


互いの弱点である腰、右腕を容赦なく攻める攻防。

イオは宝城の右腕をドラゴンスクリューのようなかたちで巻きこんでいく。


あらま、ホントに棚橋みたいな攻撃!


いつものキレはないが、

勝負所では飛び技もきっちり決めていく。

やはり、イオのほうが一枚上なのは明らかだ。


また、試合中、宝城は足を引きずる場面もあった。

膝か、足首を負傷したのかもしれない。

それによく見ると、右目も内出血しているのか真っ赤。


これは、1週間前の大阪での試合中、

右の目尻を切ってしまったせいだという。

それで、目尻にテープを貼っていたのだ。


とにかく、負傷があってもイオは安心して見ていられるが、

宝城は危なっかしくてヒヤヒヤする。


しかし、最終的にベルトを巻いたのは宝城。

これだけは”世界一説得力がある”と思われる

ダイビング・エルボードロップ2連発でイオを破った。


結果的に、大金星のベルト戴冠。

だけど、この試合を見てようやく理解できたことがある。


なぜ、宝城がこれほど男性ファンの支持を集めているのか?

人気ではダントツなのか?

たんにルックスがいいからなのか?


これって、危なっかしさにあるのだと分かった。

キャリア2年3カ月…そりゃあ未熟だ。

相手を怪我させてしまうこともあるし、

自分が怪我をしてしまうことある。


それが未熟である証し。

だけど、一生懸命。

未熟だけど、一生懸命。


6週間前、同じ後楽園ホールで、未熟さゆえの事件が起こった。

この日は、未熟だけど真摯にがんばる人間が宝物を手に入れた。


だから、スターダムはあれから団体も選手も成長したのだ。

たった6週間で、みんな心が強くなったのだ。



コグマに負けて、宝城に敗れ、

後楽園ホール2連敗のイオ。


だけど、なぜか漂う貫禄はなんなのか?

そりゃあ、24歳にしてキャリア7年だもんなあ。


いま、プロレスラーとして必要なものを

すべて兼ね備えているからだろうなあ。



試合後のバックステージ・インタビュー。

何度か涙ぐんでいた宝城だが、ポーズ写真では

とびきりの笑顔。


「私はいちばんプロレス界のなかで弱いチャンピオンかもしれません。

だけど私はスターダムをだれよりも好き、プロレスがいちばん好き。

この気持ちは絶対負けないので、その気持ちで今日は勝てたと思います。

この決意をこれから先、ベルトを防衛していくうえで存分に発揮していきたいと思うので、

誰でも挑戦は受けます。そして、スターダムを守ります。

惡斗のためにも世Ⅳ虎さんのためにも守ります」


もう、このコメントで充分だろう。

スターダムの3・29後楽園ホール大会は、

そういう日だった。



そういうことで、

ロッシ―小川社長も苦労が絶えないだろうけど、

プロレスに関する苦労は厭わない人だから大丈夫だろう(笑)。


ロッシ―もがんばれ!