11月1日、両国国技館で開催されたWRESTLE-1(以下、W-1)の

武藤敬司デビュー30周年記念大会『HOLD OUT』は、

7200人(満員=主催者発表)の大観衆を集め盛況に終わった。


”主役”の武藤はメインで、W-1初代王者の河野真幸を破り、

第2代王者に輝き有終の美を飾っている。


それでは、今大会を例の2人組にビッシビシと

語ってもらおうではないかい!


                      


GK  なんか新日本プロレスのビッグマッチで恒例になっている対談(?)が

    W-1に出張するみたいで、まさに武藤とグレート・ムタの関係のようだね(笑)。

金沢 そう? ぜんぜん、そうは思わないけどねえ(笑)。

    武藤とムタに失礼ですよ……。

GK  あれっ? つまらん、じつに殊勝な言葉が出たぞ。

金沢 大会のゲスト解説(G+)に蝶野正洋と小橋建太さん(以下、敬称略)が来場していたよね。

    休憩時間に国技館の通路でコバちゃんと擦れ違ったの。

    そうしたら、コバちゃんがニコニコしながら寄ってきて、

    「金沢さん、今日のことちゃんとブログにアップさせてよ!

    新日本ばっかりじゃなくて、いろいろ書かなきゃダメですよ」って。

GK  なるほど、小橋建太のリクエストがあったわけか?

金沢 うん。でもコバちゃんにそう言われなくても、

    今回は書きたいなという思いに駆られたんだよね。

GK  それは裏を返すと、いままでそういう気が薄かったってことになる。

金沢 薄かったというよりも、これはもう正直に言うから。

    武藤敬司というレスラーに対する思い入れが弱くなってきたんだよ。

    レスラーというのは、やっぱり試合をしてナンボじゃない?

    だけど、たまに出てくるのはグレート・ムタで…

    ムタは興味を惹くけど感情移入しにくい存在だからなあ。

GK  アナタは『週刊ゴング』の編集長時代に

    武藤をもっとも表紙にしてきた人間でしょう?

    ええ~と、5年9カ月、編集長を務めて計295冊のゴングを

    世に送り出したわけだけどねえ。

金沢 すげぇー、どうやって計算したの!?

GK  単純に通算号数を見て、引き算すればわかるじゃん。

金沢 おお、あながちギャグばっかり考えている男じゃないんだね(笑)。

    だけど、それは本当の話。

    自分の感覚でも武藤表紙がイチバン多いと思っていたけど、

    某ムックが頼んでもいないのに(笑)、各編集長時代の表紙人物の

    ベスト10とかランキングを作って掲載していたんだよね。

    ゴングが休刊になった直後に…。

    オレの時代ではダントツで武藤敬司がトップだったよ。

    たしか少し離れて橋本真也が2位、僅差で蝶野が3位、三沢光晴が4位。

    5位はだれだったか忘れたけど、長州力じゃないことはたしかだね。

    あの時代だから大仁田厚だったかもしれないなあ。

    長州は7位とか8位ぐらいだったように思うなあ。

GK  周りはなんでもかんでも長州力だったと錯覚してしまうんだろうね。

    それだけ1発のインパクトが強かったから。

    実際には、アナタの時代(1999年1月~2004年10月)にゴングの

    表紙を支えていたのは闘魂三銃士で、そのなかでも武藤が飛びぬけていたと。

    もう困ったときの武藤頼みという感じで。

金沢 そういうことなんだよね。

    なぜかって、1999年~2003年ごろのプロレス界は

    武藤を中心に回っていたといってもいいほど頭ひとつ抜けて輝いていた。

    それが事実として数字に残っているわけ。

    ちょっと話が逸れ過ぎたね、またもや!

    つまり、この数年、武藤はスポット参戦で、

    ビッグマッチはムタが多いと。

    だから、昔のような思い入れを持って見られなくなってしまった。

GK  それは長州も同じなんでしょう?

    試合が極端に少なくなってきたから。

金沢 そうなんだよ。

    べつに、先だってのゴング復刊0号での批判の雨あられ、

    悪口三昧のことなんかは関係なくて、

    試合が少ないから会場で会う機会もなくなったということ。

    自然に離れていって疎遠になってしまったわけ。

    だって、もともと仕事だけのお付き合いなんだから。

GK  ところが今回は、堂々たる武藤敬司でメインに登場した。

    しかも、シングルのタイトルマッチだからゴマカシなんか効かない状況。

金沢 うん、だから予想したよりも、想像したよりも、

    自分のなかで武藤敬司という存在がひさびさに滾ったよね。

    ひさしぶりに心が躍ったような気もするなあ。

GK  なるほど。

    だけど、いきなりメインの話題では早すぎるから徐々に行こうよ。

    とにかく印象に残った試合、シーン、コメントなどをあげてくれる?

金沢 まず第5試合のKAIと田中将斗の初シングルマッチ。

    これはKAIが直訴して決まった試合だけど、

    KAIは今年のZERO1『火祭り』に参戦して準優勝しているんだけど、

    別ブロックだった田中とは当たっていないんだよね。

    で、なにがイチバン印象に残ったかというと、

    田中のファイトでそれまで会場を包んでいた空気がガラっと変わったこと。

GK  あ、それはオレも感じたよ。

    田中のハイスピード&ハードヒットのスタイルが否応なしに

    観客を釘付けにしていた。

    こういう感じで、アウェーのどこのリングに上がっても、

    観客の度肝を抜いて沸かせるのは田中と関本大介だよなあって。

金沢 しかも、コンディションがつねにいい。

    田中はね、10月31日だけがオフで、10・30新木場(ZERO1)、

    この両国、2日=高円寺(ZERO1)、3日=大花火!熊本、

    4日=後楽園ホール(ノア)、5、6、7日=新宿FACE(w-1vsZERO1)と

    8連戦に突入したところなんだよ。

    タフでグッドシェ―プでもうなにも言うことなし。

GK  KAIも完敗を認めていたよね?

    反対に田中は、KAIがエースを目指しているなら壁になってやると。

    他にも、「武藤さんのお祝いだけど、お祝いで来たつもりはないし、

    他の試合もぜんぶ食うつもりできた。(武藤とは)格が違うと思われるかもしれないけど、

    レスラーとして負けているものはない!」というようなコメントをしている。

金沢 その通りでしょう。

    田中は素晴らしいよ。

    棚橋弘至をして、田中のIWGP挑戦を退けたのちに、

    「勝ってなお尊敬する気持ちが強くなった」と言ったぐらいだから。

    KAIは真面目で努力家の好青年だし、真田聖也とともに

    W-1を支えていく男だと思うし、ヘビーとして場数も踏んできたよね。

    だけど、すべてにおいて田中に比べて足りないものがある。

    それを思い知ったんじゃないかな?

    田中将斗を体感した経験を無駄にしてほしくないよね。

    KAIには本当に報われてほしいと思うから。

GK  共同インタビューのあと、田中と会話していたでしょう?

    なにをしゃべっていたの?

金沢 いやあ、いま言ったように「空気が変わったよ」とか、

    「田中選手と関本は日本のインディー界が生んだ財産だね」とか、

    正直に絶賛したわけよ。

    彼が、「試合どうでしたか?」と聞いてきたので。

    で、まあついでだから、ひとつリクエストしてみたんだよね。

    「そろそろ石井智宏戦をまた観てみたいなあ」って(笑)。

GK  ま~た、唐突に(笑)。

金沢 いやいや、だけど田中は真面目に答えてくれたよね。

    「自分も石井ちゃんとは、そろそろまたやりたいなって思っているんですよ。

    去年の2月、後楽園ホールでNEVER(無差別級選手権)をやったあと、

    石井ちゃんが『2年後ぐらいにまた(田中と)やりたい!』って言ってましたよね。

    あれから、そろそろ2年じゃないですか」って。

GK  なんといっても、あの試合こそ石井の出世試合だし、

    いま流行の(?)ガッチガチのエルボー合戦、頭突き合戦、

    意地の張り合いを全面に押し出すプロレスの元祖は田中vs石井戦だからね。

金沢 とにかく、田中将斗もまた”ザ・レスラー”だってことだよ。

    ああ、こんどは田中vsAJスタイルズが見たい!

GK  それ飛躍し過ぎでしょ(笑)…でも、見たい。

    柴田勝頼vs田中の”ザ・レスラー”対決も見たい!

    それに武藤vs田中も見たいなあ。

    いっさい容赦のない田中を武藤がさばき切れるのかどうか……。

金沢 考えただけでワクワクするね。

    どれもこれも脳内プロレスをしてみてもエキサイティングだ。



     

                   


GK 
 じゃあ、次期エース候補№1である真田が挑んだTAJIRI、

    マット・ハーディーとの3WAYマッチはどうだった? 

金沢 TAJIRIが試合を動かしていた感じだったけど、

    マットがいまいちW-1マットに慣れていないような動きだった。

GK  ダジャレが出たか(笑)。

金沢 いや、ホントに。

    3WAYでハイスピードの攻防になると真田、TAJIRIはお手のものだろうけど、

    マットがあのスピードにちょっとついていけなかったよね。

    だから、今回はマットの魅力があまり伝わらなかったかな。

    むしろ、前の6人タッグに出場したTNA3選手(ロビー&ジェシー&DJジ―マ)

    のほうが生き生きしていたし観客に受けていた。

    ここらあたりが難しいよ、大物はマッチメイクも含めて。

GK  大物なのに、存在感を見せるには至らなかったと。

    そういえば、弟のジェフ・ハーディーも新日本の1・4東京ドームではきつかった。

    コンデションが悪くて、対戦した内藤哲也が気の毒だったもんなあ。

金沢 むしろマットはシングルで見たかったね。

    期待の真田は日米で場数を踏んできたから、動じなかった。

    しっかり試合が見えていたし、フィニッシュのジャパニーズレッグロール・

    クラッチホールドも正統な入りかたから完璧に決めている。

    確実に成長しているのが見えたよ。





GK  さて、今回の超目玉でもあるドスカラスJr.のアルベルトだけど、

    試合そのものは結構おもしろかったと思うんだ。

金沢 オレもおもしろかった。

    船木とはミスマッチという感じなんだけど、その対照の妙が際立った試合。

    ハイブリッドバスターをかわしてクルリと丸め込んでの勝利は

    いかにもWWEスーパースターらしくていいね。

GK  ところが、試合後に船木が突然顔色を変えて怒りを顕わにした。

    いつも冷静にコメントする船木が目を剥いてこの表情だからね。

    「二度とやりたくない、あんなやつとは!

    試合直前、突然会場からいなくなったんですよ。

    それがあいつの作戦だったのかもしれないけど、

    こっちは失踪したと思ってアナウンスする準備までしていたんですから。

    試合終わった選手みんなで探したんですよ。

    もう終わり、あいつとは関係ない!」

    いやはや、「第二のカネック事件勃発か!?」と大騒ぎだったみたい。

    なにがあったのかな?

金沢 たしかにね、休憩前ぐらいかな、関係者が「アルベルトがいないんですよ」

    と言って走り回っていたんだよね?

    こっちはまったく意味がわからないし、そんなに心配していなかったけど、

    バックステージでは大変だったみたいだね。

    だけど、あとでテレビ関係者に聞くと、なんともトホホな話だったよ(苦笑)。

    アルベルトはやたら早く会場入りしたんだけど、

    出番待ちで眠くなって、選手や関係者が出入りしないような部屋で、

    寝ていたらしいの。

    確信犯ではないのだろうけど、寝るならもっと分かりやすい場所で寝なさい!

GK  そう、血統がいい一族なんだからね。

金沢 両国国技館のバックステージは広くて、

    いろんな部屋がいっぱいあるから探すのも大変だよ。

    方向音痴だと迷子になりかねないし……

    まあ、トンパチなエピソードでした(苦笑)。



GK  ではお待ちかね、武藤の30周年記念大会のトリである

    W-1チャンピオンシップだけど、初代王者の河野真幸に

    武藤がチャレンジするというマッチアップ。

    河野といえば、新弟子時代は武藤の付人を務めていたんだよね?

金沢 そう、武藤はとにかくタッパのある河野に期待していて、

    すぐに自分の付人にした。

    この2人が並んで歩いている後ろ姿を見るとね、

    どっちがスターなのかわからないぐらい2人とも大きくて

    見栄えがしたんだよ、しかも河野は物怖じしなくて態度もでかいから(笑)。

GK  そこから紆余曲折があって、河野は総合格闘技の世界へ行って、

    途中から新日本プロレス所属の総合分野の選手になった。

    だけど、もう一度プロレスをという気持ちが強くなって、

    全日本プロレスに戻ってきたわけだよね。

金沢 河野はね、もともとプロレスが大好きだし、人懐っこいし、頭の回転も速いし、

    物怖じもしないし、まさにプロレスラー向きの性格なんだけど、

    どこか達観しているというか、自分をセーブしているようなところがあったんだよね。

GK  なんか欲がないというか、自分はこの位置でいいんじゃないか、

    そんな感じも見え隠れしたね。性格もいいんだよ、彼は!

金沢 それがデスぺラードのリーダーとしてヒールの大将格となって、

    ようやく目覚めてきた気がする。

    自分がトップに立たなきゃダメだろうっていう自覚が出てきた。

GK  試合は相手の膝を狙う足殺し合戦になったけど、

    河野が大きいから武藤が攻めていても、やられていても見栄えするんだよね。

金沢 大きな2人がダイナミックに動くからわかりやすい。

    武藤は”間”をとる選手でしょう?

    2人とも1発1発が大きく豪快だから、

    間延びしないんだよね。

    河野も堂々と真正面から闘った。

    デビューから11年半、初めて武藤と同じ土俵で渡り合ったね。

GK  うん、河野がよかったから武藤がより光ったところもあるよ。

    最後のムーンサルトは膝を打ってカバーが遅れたから決まらない。

    だけど、足4の字で決めたのにも説得力があった。

金沢 途中、武藤のほうがさんざん足4の字で追い込まれていたからね。

    そのシーンでは観客が一体になって”武藤コール”を送った。

    なんかね、最初に言ったけど、ここ最近まったく武藤に思い入れを持てなかったのに、

    ひさしぶりに武藤敬司らしい試合の流れを見せられたなあって。

    そりゃあ、昔のようなキレ、スピードはないけど、

    やっぱり千両役者だなって。



GK  試合後の光景、マイクアピールもよかった。

    「しんどいぞ、たまらなくしんどいぞ!

    オレがみんなを元気にしないといけないのに、

    今日はみなさんからパワーをもらいました、ありがとう」    

    これは本音そのものだよね。

    このあと、放送席の蝶野、小橋をリングに招き入れ、

    同期の船木、AKIRAも交えて記念撮影したシーンもよかった。

    すでに引退した小橋はべつとして、「俺たちの世代、まだまだ居座ってやる」

    というアピールにも見えた。

    「知名度ではまだ若いやつに負けない、

    1人で受けて立つのはシンドイからみんな来てくれ」という

    無理やりの連帯感にも見えたし(笑)。

金沢 最後の締めのセリフに2つのキーワードが出てきたよね?

    「もう少し、絞りカスが出そうだ。

    W-1、オレの骨の髄までとことんしゃぶってくれ!」 

    絞りカスはここ最近でてきた言葉で、骨の髄までしゃぶるは、

    今回のタイトル戦で河野とやり取りしてきたキーワード。

    と言っても、このセリフは10年以上も前に飛びだした武藤用語だけどね。



GK  2002年2月26日、キャピトル東急ホテルで小島聡、ケンド―・カシン、

    カズ・ハヤシとともに正式に全日本プロレス入団発表会見をやったときだ。

    「もう二度とこういうスキャンダラスというか、もう移籍するつもりはありません。

    全日本プロレスに骨の…髄まで…しゃぶっていただきたいと思います」 

    これって、ふつうは「骨を埋めたいと思います」という言葉が出てくると思ったから、

    この瞬間、会見場は爆笑に包まれたし、武藤も少し照れていて、

    会見後の囲み取材では「ちょっと言いかたを間違えたけど…」と笑っていたよね。

金沢 だけど、いま思えば確信犯だよねえ(笑)。

    「骨を埋める」なんて単純な言葉では武藤らしくないもんな。

    骨を埋める以上にインパクトがあって覚悟を示す言葉が

    「骨の髄までしゃぶっていただく」で、これぞ武藤用語だったと思う。

GK  実際はゴタゴタがあって、W-1移籍(旗揚げ)となったわけだけど、

    あのときの全日本入団の気持ちに立ち帰って、またこの武藤用語を

    掘り起こしてきたのかもしれないね。

金沢 10年前までは、たぶん公私ともにイチバン武藤敬司と

    会話してきたマスコミがオレだと思うんだけど、

    この数年は挨拶したり、トイレで出くわしたときに軽く雑談するぐらいだった。

    囲み取材でも共同インタビューでもほとんど質問もしなかった。

    だけど、今回は感じるものがあったから、つい聞いてしまったよ(笑)。

GK  ああ、滑舌よく一際大きな声でね(笑)。

    「今日ほどお客さんの声援が身に染みたのも珍しいんじゃないですか?」

    「なに? いつも沸いてないみたいじゃん(笑)」
    「いやいや、最後、自分が力を与えなきゃいけないのに

    お客さんからパワーをもらったと言っていましたが?」
    「ただ、プロレスっていうものはキャッチボールだと思うからさ、お客とも。

    気持ちのキャッチボールで、やっぱり俺が投げたからいい球が返ってきたと思うし。                                                            

    それも俺のコレ(※腕を叩いて)だと思ってるから」
    「苦しかったと思うんですけど、快感でした?」
    「そうですね~。まああの、みなさんにはわからないと思うけど、

    あのエクスタシーはやっぱりレスラー冥利に尽きるときですね、一番。

    ああいうエクスタシーっていうのはここしばらく本当に

    チャンピオンになったっていうのは久しくなかったからね。

    久しぶりで心地よくて、ホント正直うれしかったですよ」

    文字で起こすと、こういうやりとりだったけど…

    武藤らしいし、アンタらしいねえ(笑)。

金沢 ハッハハハ、そうだね。

    不用意なことをズバッと言うと、まず必ず突っかかってくると(笑)。

    ちょっと持ちあげると、コメントも勢いづくと。

    武藤との会話のやりとりって心地いいんだよね。

    ひさしぶりにそれを感じたよ。



〔◎追伸〕

次なる闘いは、12・22後楽園ホール。

挑戦者は真田聖也に決定。

今後のビジョンとして、

若手全員の挑戦を受けるという武藤。


グレート・ムタに頼ることはできないから、

武藤敬司は武藤自身の引き出しを全開にしながら

苦闘と快感が同居する世界へまた身を投じることになる――。