遅ればせながら、新日本プロレス『G1 CLIMAX24』開幕戦、

7・21北海きたえーる大会の総括をしてみたい。


札幌の北海きたえーるで新日本が興行を開催するのは、

10年ぶりとのことだが、私の記憶に残っているのは、

2002年2月、神(アントニオ猪木)が降臨してきたあの大会が最後。


「お前はなにに怒っている!?」


「出て行った武藤たちにです」


「お前はそれでいいや」


「ボクには明るい未来が見えません」


「テメ―で見つけろ!」


「オレはこのリングでプロレスをやりたい!」


数々の名言が生まれたあの会場、あの混乱のリング。

バックステージでは新日本に正式入団したばかりの

邪道・外道が猪木の控室に緊張の面持ちで挨拶に出向いた

シーンが今でも強く印象に残っている。


10年ひと昔とはまさにこのことだろう。

札幌屈指の大会場、北海きたえーるは超満員の観客で埋まり、

ファンの熱狂ぶりは首都圏の大会場のムードと

ほとんど変わらなかった。


そのリングで、中邑真輔と柴田勝頼が

10年ぶりに10年前と同じくG1の舞台で相まみえる――。



                    


GK  やって来ました。好きです、さっぽろ!

金沢 それって、20年ぐらい前のキャッチコピーじゃないの(笑)。

GK  じゃあ、好きです!すすきの。

金沢 あ、オレも大好き。あと、ジンギスカンだよねえ…って、

    そうじゃなく本題へ入りたまえ。

GK  今回はローテションの関係でテレビ解説が入ってないのに、

    よく現地まで行ったね?

金沢 友人からPPV中継を一緒に観ませんか?と誘ってもらったんだけど、

    今回ばかりは現地で生で見届けたかった。

    もちろん、あの一戦があるんだから。

    オレが10年待った、あの一戦…真輔vs柴田の4度目の一騎打ち。

GK  居ても立ってもいられなかったわけだね。

金沢 そうだね。この2人による10年の空白には

    もしかしたら新日本プロレスの歴史そのものがつまっているのかもしれない。

    この10年、そして新日本の大躍進…その答えが

    この一戦にあるのかもしれない。

GK  新日本を死守した棚橋、真輔と、新日本を出ることが新日本なんだ

    自分の感性を信じて飛びだした柴田と…。

金沢 だいたい、ノアの7・5有明コロシアム大会終了後、

    帰り支度の柴田に会ったとき言われたからね。

    「オレ、札幌のテレビ解説が入ってないけど観にいくからね」と言ったら、

    「金沢さん、そんなの当然じゃないですか!」って。

    それで、「試合前まで中邑戦に関してコメントを出さないでほしい」って言うと、

    柴田はやっぱり分かっているみたいで、

    「その意味、分かりますよ。言いたいこと分かってます」と。

GK  言葉に出してしまうと、試合が安っぽくなってしまうってことでしょ?

    実際、真輔も柴田もお互いのこと、試合のことをほとんど語っていないよね。

金沢 反対に言うなら、語りようがないんだよ。

    オカダじゃないけど「とくにありません」がイチバン的確な表現だと思う。

    10年前の遺恨を持ち出せば、子どもじみた感じになるし、

    空白の10年、お互いを観てきたわけでもない。

    実際に肌を合わせないかぎり、言葉は出てこないはずだから。

GK  それにしても絶妙のマッチメークだよね。

    2人の遺恨・因縁は知る人ぞ知るところ。

    その顔合わせをビッグマッチで組んだら、そりゃあ集客するだろうけど、

    周囲は煽りに煽るだろうし、そうすると2人もそこに乗っからなきゃいけなくなる。

    それをG1という舞台で同ブロックにエントリーさせることによって、

    サラリと実現させた。

金沢 しかも、コンディション的に間違いのない開幕戦に組んだ。

    このフロントサイドの手法は素晴らしいよね。

    闘いづらい試合を闘いやすい方向へ持っていったんだから。

GK  アナタ、試合前に少し真輔と会話したんだって。

金沢 雑談レベルだけどね。

    北海きたえーるのバックステージは広くてキレイで、

    休憩室みたいなところもあるんで、

    そこで一緒になったとき少し話した。

    「早くG1が終わらないかなあって(笑)。日程が長いですもん」

    と真輔が言うから、「去年みたいに休みなしでも

    短期間につまっているほうがいいの?」と聞くと、

    「自分の場合はそうですね、そのほうが集中できるんで」って

    リラックスした表情で言っていたね。

GK  柴田戦の話はしなかったの?

金沢 ほんの少しね。でも、それで充分だと思った。

    「今日は10年ぶりの一騎打ちを観にきたんだよ!」と振ると、

    「10年ですか…あのころはオレも若かったし、棚橋さんだって

    尖がってましたからねえ」ってちょっと懐かしむような表情に見えた。

    そこで、「柴田クンが新日本を辞めてから、試合を観ながら、

    ああ、ここに柴田がいればもっと盛り上がるのに…と思ったことが

    何度かあったんですよ。だけど、その穴を埋めてくれたのが洋央紀

    だったんだよねえ」と言うと、真輔は黙って頷いていたね。

    そのあと最後に真輔が「まあ、オレも10年、プロレスラーとして

    やってきましたからね」と一言。

    もう充分だよね、この一言に真輔のプライドというか自負心が窺えた。

GK  なるほどねえ。

    それにしても、全10戦がG1公式戦で第1試合の石井vsファレから

    大変な盛り上がりだったね。

    こういうと大変失礼極まりないんだけど、G1公式戦の全110試合のなかで

    もっとも注目度が低いと感じられたベンジャミンvsギャローズまで沸いていた。

金沢 ホント、失礼だな(笑)…でも、オレもそう思った。

    かつて東北や北海道のファンはオトナシイなんて言われていたけど、

    そんな話は今は昔だよ。

    反応がいいし、マナーもいいし、やっぱり道産子はいい人ばかりだ。

GK  さすが帯広出身者(笑)。

    ところで、アナタはテレビ解説もなかったのに、

    インカムみたいなのを装着していたね。

金沢 あれは野上(慎平)アナウンサーがわざわざオレのために

    一個用意してくれたの。

    あれを装着していると、実況・解説が聞けるわけ。

    野上アナが自分の実況を聞いていてほしい。

    あとで反省点なんかも聞きたいんですって。

    とくに、真輔vs柴田戦には全力を注いでいたから、

    それを聞いてほしかったんだと思う。

    今までいろいろなアナウンサーの人たちと仕事をさせてもらったけど、

    あそこまで熱心な男は野上アナが初めてだよ。

GK  それも感心するね。

    で、彼の実況を聞いてどう思ったの?

金沢 真輔vs柴田の実況で入場時の実況、前口上は絶品だった。

    素晴らしいと思ったよ。

    彼はあの実況の文面を作るために、おそらく10時間ぐらいかけていると思う。

    大会の数日前にオレにも電話をかけてきて、

    柴田、真輔に関していろいろなことを質問してくるわけ。

    「知識として知っているだけじゃ、薄っぺらいんです。

    10年前、放送席であの試合を解説していた金沢さんの言葉を聞きたいんです」って。

    2日で2時間ぐらい話したのかな?

GK  見上げた情熱だな!

金沢 ホントに、あの入場実況は聞き惚れたね。

    先に入場した柴田に関しては、「新日本を出てもなにも変わらない自分を

    貫くことが柴田の新日本プロレスだった」というニュアンスで、真輔のときは、

    「同じ姿であり続けることを拒んできた中邑。生きたいように生きる、

    なりたい自分になる。変化こそが進化の証。変わっていくことが

    中邑にとってのストロングスタイルだったのかもしれない」と。

GK  いいねえ、いいフレーズだ。

金沢 そして、オチがまた素晴らしかった。

    「相容れない感情、異なる思想、違う道を選んだ。

    でも、運命はここにある。

    この闘いは紛れもなく、新日本新日本!

    このフレーズは予想もしていなかった。

    「新日本vs新日本」と見事に言い切った。

    オレ個人からすると、このフレーズとオチは、

    この数年でイチバン響いてきた言葉かもしれないね。



GK  このアナタのしょっぱいデジカメの写真もいいねえ。

    仁王立ちする柴田の前で、思いっきりくねってコールを受ける真輔。

金沢 しょっぱいは余計だって(笑)。

    なにか夢のような空間でしょう?

    ゴングが鳴って、2人ともしばらく動かなかった。

    この静寂の”間”も最高に響いてきた。


 


GK  そして、いきなりPK合戦というか、

    顔面狙いキックを打ち合い、交わし合って火が点いたよね?

金沢 あれが10年前と変わらないムーブだった。

    要はね、よけなけりゃ当たるよ。

    顔面を打ちぬくよ!っていう蹴りなんだよね。

GK  このアクションは藤田和之が新日本マットに持ち込んだものなんだけど、

    柴田の十八番になって、とくに中邑戦、棚橋戦では冴えわたるんだよね。

金沢 だって、あの伝説の秋山準との旧W-1での一騎打ちで、

    柴田は秋山の額を蹴りあげて、額に裂傷を負って流血した秋山が、

    文字通りブチ切れたもんなあ。

GK  あれは凄まじかったね。

    プロレス史に残る喧嘩マッチだった。

    試合中、何度か一線を越えかけたもんなあ。

    で、話を戻そう。

    その後、エルボーの応酬から額をくっつけて睨み合ったり、

    すべてのシーンがグッときたよね。




金沢 なんといっても、お互いの得意のムーブをスカすんじゃなくて、

    やらせない、または真っ向から反撃していくと。

    真輔のジャンピング空手キック、柴田のこだわりのカウンター・ドロップキックと

    攻防がガッチリと噛み合っているわけ。

    まあ、柴田が新日本に上がってからタッグで軽く触れ合ったのはべつとして、

    これが10年間、まったくシングルでからんでいない男同士の攻防なのか!?

そう思うと、驚きだし、この2人はプロレスラーだし、

    肌感覚で相手を捉えていくという面でいうなら、この10年、

    お互いに素晴らしく進化しているよね。

GK  途中で柴田がアントニオ猪木になった一瞬がなかった?

    やや前傾姿勢で猪木ソックリになって…。

金沢 あったね!

    あっと思ったよ。

    野上アナも思わず、「闘魂が見える!」とか絶叫していたように記憶している。

    最後はボマイェ連打に耐えた柴田が変形のgo2sleepからPKで決めた。

GK  真夏の夜の夢は、15分27秒で決着をみたけど、

    1秒たりとも無駄な時間がなかった。



金沢 観客も沸きっぱなしだったし、この試合だけに感じられた

    緊張感、緊迫感をみんな感じ取っていたよね。

    10年前の両者の闘い、因縁を知っている人も、

    それを知らない人も、この特別な空気を感じていた気がする。

GK  試合後のコメントも最高だった。

    柴田は「(10年ぶりだが?)それがどうした?

    ビッシビシいくからな!以上」とこれまた柴田らしい言葉。

    柴田は新日本の思い出となると、亡くなった星野総裁と

    魔界倶楽部で暴れまわっていたころがイチバン楽しかったって言うんだよね。

    その大好きだった勘太郎さんの決め台詞を出してきた。

金沢 一方の真輔もいつもながらの真輔節だったよ。

    「史上空前? 空前絶後? そこで闘うために仕上げてきたさ。

    でも勝負は時の運ってか、神様そりゃないぜ。

    中邑真輔にこんなにも物語が降り注ぐ…わかってるだろうが、

    ここは新日本のリング、プロレスのリングだ。

    ここで闘うがいい。エンドレスなんだよ」

    これもいいねえ。

    対柴田勝頼…始まったばかりだよっていう意味にもとれる。




GK  とにかく、アナタがわざわざ札幌まで行った甲斐があったわけだ。

    10年越しの因縁対決は、新たな柴田vs真輔ストーリーの始まりだったと。

金沢 なにかね、この10年寝かせたワインが熟成して最高に

    いい香りと芳醇な味で酔わせてくれたような感覚だね。

GK  でも、一部では、10年前を思い出すような

    喧嘩マッチを期待した声もあったけど。

金沢 それは無理というか、あり得ない。

    子どもじゃないんだから(苦笑)。

    当然気持ちのぶつかり合いなんだけど、

    プロレスラーとしての腕比べでもあるんだから。

GK  そうそう、翌日、柴田からメールが来たんでしょ?

金沢 うん、夜中に一度電話で話したんだけど、

    柴田が忙しいみたいで大して話せなかったんだよ。

    そうしたら翌朝メールが来てね、

    「いい試合だったのかどうかもわかりません。

    なにか不思議な感じがしました」って。

    だから、「その不思議な感じにみんなが酔った試合だったんだと思うよ。

    オレも最初から最後まで不思議な感じで完全に酔わされたから」って返信したら、

    「早く試合のビデオを観てみたいですね」って。

GK  そうかもね。

    夢なのか現実なのか…だけど、間違いなく中邑真輔と柴田勝頼が

    新日本のリングで闘っていた。

    しかもガッチリと闘っていた。

    10年前とは比べ物にならないほどの技量と器量をもってね。

金沢 そして、紛れもなく新日本vs新日本だった。




GK  メインはオカダ・カズチカvsAJスタイルズで、

    オカダが3度目の正直でAJをレインメーカーで沈めた。

金沢 いい試合だったけど、オレの場合、柴田vs真輔でちょっと燃えつきちゃって(笑)。

    だけど、この勝利でオカダの中のAJに対する苦手意識は消えたと思う。

    あとは、たとえ敗れてもAJはカッコいいねえ!

GK  そう、オレもそう思った。

    なにをやっても絵になる男だよね。

    新日本は絶妙のタイミングで最高の外国人選手を手に入れたよね。

金沢 と、思っていたら、秋田では内藤がAJを破った。

    いやあ、観たかったなあ。

    これね、G1にAJがエントリーしてきた意味は大きいよ。

    最終的な結果は神のみぞ知るところだけど、

    公式戦でIWGPヘビー級王者のAJを破った選手は、

    IWGP挑戦に名乗りをあげる資格をとりあえず掴んだことにもなる。



GK  おお、それに秋田では柴田が棚橋をPKで下したよ。

    レインメーカーはカール・アンダーソンに敗れている。

金沢 うわぁー、秋田に行きてぇー!!

GK  もう遅いっちゅうの(笑)。