春さんが亡くなった。


“燃える闘魂”アントニオ猪木のものまねで一世を風靡した

お笑い芸人の春一番さん(本名・春花直樹)が

3日午前7時ごろ、都内の病院で肝硬変のため死去した。

47歳だった。


そうかあ、47歳。

春さんは私より5つ年下だったんだな。


春さんを初めて観たのは、フジテレビ土曜深夜の人気番組

『オールナイトフジ』だったと思う。

片岡鶴太郎さんの弟子で、ヤンキ―風のコスチューム。


番組がCMに入る前に、ダチョウ倶楽部の面々らと

なにか一発芸をやっていたような記憶がある。


出番は少ないのに、なぜ覚えているかといえば、

”春一番”という芸名が斬新だなあと思ったから。


その後、春さんはアントニオ猪木の物真似で人気が出始め、

伝説のお笑い番組『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』のレギュラーとして、

ビッグバンプをとりまくり、ある意味、番組の裏メインイベンタ―になっていった。


私から見れば、テレビの向こう側の人だった春さん。

初対面はいつだったのか、よく覚えていない。

プロレス会場か、なにかのパーティーか、新日本プロレスの

レスラー、関係者の結婚披露宴だったか、

そのどれかだと思う。


とにかく、春さんのほうから私に挨拶にきてくれたのだ。


「あ、僕は春一番さんのこと、

オールナイトフジに出ていたころから知ってましたよ」


そう言うと、ビックリ顔。


「えー、あんなチョイ役で、短期間しか出ていなかったのに!

オールナイトフジで観てましたなんて言われたのは、

金沢さんが初めてですよ」


それ以降、プロレス会場、パーティー、披露宴などで一緒になると、

やっぱり春さんのほうから話し掛けてきてくれる。

そして、真面目にしばしの間プロレス談義をする。


私がイチバン好きだったのは、

やはり結婚披露宴での飛び入りゲスト出演だった。

もちろん、”本家”アントニオ猪木が不在のときに限られていた。


テーブル席に座っていた春さんが俄然ソワソワし始める。


「あ、そろそろ出番ですか?」


「はい、友人代表の挨拶のあとですね。

ちょっと着替えてきますから」


そして、お約束の「イノキ・ボンバイエ」が突然流れて、

会場入口にスポットライトが当たる。

私たち関係者はみんな分かっているのだが、

一般招待の人たちは本物が現れると思いこみ、大歓声。


そこに、ガウンに身を包んだ細身の春さんが姿を現すと、

一瞬の沈黙から、大爆笑へと変わる。


新郎新婦のいる高砂に上がった春さんは、

猪木さんの声そのもので祝辞を述べたあと、

新郎を呼びだして気合のビンタをかますのだ。


その前口上が最高におもしろい!


「えー、みなさん、ご存知のとおり、新郎新婦は今晩初夜を迎えます。

お前ら! どうせやるなら歴史に残るようなセ××スをしてみろー!!」


プロレス関係者は大爆笑。

一般の方は下ネタにドン引き。

もちろん、締めは「1、2、3、ダァーッ!」


春さんは、単なるアントニオ猪木の真似ではなく、

その声からパフォーマンスまでを完全模写した元祖猪木芸人。

それがイチバンさえ渡ったのは、猪木の引退試合での

引退スピーチを完全コピーしたモノマネ。


私もそうだが、あの1998年4・4東京ドームの猪木の引退挨拶

を再現させたら、それこそ「猪木本人より春一番のほうが似ている!?」

とまで言われるほどの完コピぶりだった。


お酒が好きな春さんはいつも酔っ払っていた。

酔ってしまうと、相手がレスラーでもからんでしまう。

だけど、決して悪意からではなく、プロレスが好きで、

プロレスラーが好きだから、日ごろ思っていることをズバズバと言ってしまうのだ。


アントニオ猪木の還暦記念船上パーティーのときなど、

泥酔して坂口征二さんにからんでしまい、温厚な坂口さんを怒らせた。

おもいきりビンタを食らった春さんは、3mぐらい吹っ飛んでいた(笑)。


一時から春さんの姿をまったく見かけなくなった。

と、思っていたら、内臓がボロボロの状態でICU(集中治療室)に

3ヵ月半も入り、生死の境をさまよっていたという。

そこに見舞いにやってきたのが、本物のアントニオ猪木だった。


そこから奇跡的に回復した春さんは、

2005年の暮れに退院した。


最後に春さんに会ったのは、

2007年の1月9日。

それだけはハッキリと覚えている。


当時、新宿ロフトプラスワンで隔月開催されていた

ターザン山本×吉田豪の『格闘二人祭』に、

私は毎回レギュラーのようにゲスト参加していた。


その第29回目のゲストの1人としてやってきたのが、

春さんだった。

一時、やせ細っていた春さんだが少しフックラしていた。

その当時、春さんは命の恩人でもある猪木と

飲み友達のような関係になっていた。


猪木さんの話をするとき、

春さんの目は生き生きしていた。


そして、イベントから数日後、

春さん本人から私の自宅に約束の本が届いた。



自分の半生を描いた自叙伝。

自分の不良芸人ぶり、酒に溺れたこと、

猪木に第二の生を授かったこと…

すべて隠しごとなく書かれている。


春さん、どんなに酔っ払っていても、

私に対してはつねに敬語を使い、

笑顔で接してくれてありがとう。


春さんに贈る詩――。


この道を行けば

どうなるものか

危ぶむなかれ

危ぶめば道はなし


踏み出せば

その一足が道となり

その一足が道となる


迷わず行けよ

行けば分かるさ


ありがとうーっ!

1、2、3、春一番ダァーッ!!