ずいぶんと日にちが経ってしまったから、

取材をしていながらブログではスル―しようと思っていた

ZERO1の6・1後楽園ホール大会。


正直、当日の客入りは芳しくなかった。

昨年からZERO1は以前のように、

月イチの後楽園ホール定期戦を復活させている。

それなのに、集客はどんどん厳しくなっていく。


「試合はおもしろいのになあ…」


取材に出向くと、いつもそう思うし、

総じてマスコミ関係者は同じセリフを口にする。


なぜなのかな?

リング外の部分は置いておくとして、

リング上だけに焦点を当ててみる。


基本的にずうっと変わらない。

それがよくも悪くもZERO1なのだろうと思う。

ひとことで表現するなら、泥臭い昔ながらのプロレス。

華やかな舞台演出などないし、

新規の女性ファンを釘付けにするようなルックスをもつ

若いスター選手もいない。


だから、裏を返せば、ZERO1の会場に足を運ぶ観客は、

年齢、男女の性別を問わず、観戦歴の長い人が多いような気がする。

大谷晋二郎社長が唱える”一所懸命のプロレス”を観たい人たち。

その証拠に、客席からいわゆる”黄色い声”というのは、

ほとんど聞いたことがない。


その一方で、感情表現の豊かな大谷がトップということもあってか、

試合を観ていて涙が出そうになったり、

大会終了後に泣いている女性ファンの姿が目に付くのも、

ZERO1の会場ではよくある光景。


だいたいからして、トップの大谷が節目節目で

目を真っ赤にしていたり、ポロリと涙をこぼすことも多々あるのだ。


「なんでだろうな…?

なんでこう涙が出てくるのかな!?」


新日ジュニア時代からお馴染みの、

こういった大谷のコメントを聞いて、

我々だって何度ホロりとしたことか?

何度、不覚にも涙しそうになったことか。


もっと言うなら、2001年3月の旧ZERO-ONE旗揚げ戦以来、

もう13年、スカパ―!PPV中継や、サムライTV中継の解説者を

務めてきた私だって、解説中に感極まることが何回も…いや、

何十回とあった。

ふと隣に目をやると実況アナウンサーの目が潤んでいる。

それを観て、自分はなんとか涙をこらえる。

そんなことも何度かあった。


とにかく私にとって、思い入れの深い団体だから、

最近の不入りを見ると悲しくなってくる。

6・1後楽園ホールでも南側のオレンジの空席が

やたらと目立っていた。

ただし、リング上はまたひと味違った。


後半2試合の内容が出色だったのだ。

正直いって、観ていてドキドキハラハラもの。

取材という立場で観戦していながら、

「ウワァー!」

「スゲェー!」

「なにコレ!?」

そんな言葉が何度も口をついて出た。


記者席の隣にいた三田佐代子さん(サムライTVキャスター)と

何度も顔を合わせては、声を押し殺して笑った。

笑うと言っても…勘違いしないでほしい。

あまりの迫力に声も出ないという状況を通り越すと、

「アッハハハハ…」と逆に笑ってしまうのだ。


人間というのは、想像の範囲を超える極限のものに出くわすと、

つい笑いがこみ上げてくるという生理現象を有しているのかもしれない。

だから、かつて高山善廣がドン・フライのパンチの破壊力を訊かれ、

「もう笑っちゃうぐらい痛い」と称したのも分かるような気がする。


さて、その2試合というのが、セミファイナルに組まれた

ZERO1(佐藤耕平&鈴木秀樹)vsW-1(KAI&征矢学)の団体対抗戦と、

メインに組まれたNWAインターコンチネンタルタッグ選手権の

弾丸ヤンキース(田中将斗&杉浦貴)vs大日本軍(関本大介&橋本和樹)。


どちらも、相当スゴイことになっていた。

じつは、この大会の実況音入れを行なったのは、

11日のことだったのだが、やっぱり凄まじい。

試合をライブで観ているのに、改めて映像を観ながら

解説を入れていると半端じゃない凄み、痛みが伝わってくる。


これは、できるだけ多くの人に見てもらいたいなあ。

そう痛感したからこそ、こんなに時間が経っていながら、

思い出したようにあえて書きたくなったのだ。


まず、セミの試合だが、耕平と鈴木は5・6後楽園ホールの

世界ヘビー級戦で一騎打ちを行ない、耕平が防衛に成功している。

この試合で鈴木の実力を認めた耕平はタッグ結成を呼び掛けた。

もちろん鈴木のほうも、すっかりエースの顔になってきた耕平の強さを認めている。


ZERO1軍といっても、鈴木は元IGFのフリ―戦士。

ただし、190㎝を超える長身コンビには、

古き良き時代のプロレスの匂いがプンプンしている。


一方のW-1軍は先だってまで抗争を繰り広げていた

自称エースことKAIと前マッチメーカー征矢のコンビ。

チームがちゃんと機能すれば強力なコンビとなる。


やはり見どころは、IGF出身でビル・ロビンソンさん(故人)の

最後の弟子でもある鈴木と、全日本→W-1とメジャーな舞台で

メジャーな選手たちに揉まれ成長してきたKAI&征矢のマッチアップ。

まったく環境の違う育ち方をした男たちの未知の遭遇である。


これが、とにかくおもしろい。

とくに、鈴木vsKAIの攻防は必見。

鈴木はロビンソン譲りのヨーロッパ式カチ上げエルボースマッシュも見せるが、

対抗戦を意識してか長身から降り下ろすようなエルボーも叩き込んでいく。

KAIと打ち合いになるが、鈴木のエルボーの威力はゾクリとするほど。

修羅場くぐりのKAIが一瞬時間が止まったかのように棒立ちとなるのだから、

その破壊力、痛みが分かろうというものだ。


無論、怯んだのは一瞬でKAIも応酬するが、

この微妙な緊迫感にはたまらないものがある。

こういう表現を使うと、語弊があるに決まっているのだが…

私個人の感覚からいくとプロレスvsグレイシーの攻防より、

こういうプロレスラー同士によって体現される

ベースの違いからくる緊迫感のほうがはるかにグッとくる。


デンジャラスなムードを醸し出しつつも、

突き上げるようなドロップキックや師匠直伝のワンハンド・バックブリ―カ―、

見事なブリッジのドラゴン・ス―プレックスを披露するなど、

鈴木秀樹という選手の持つポテンシャルを随所に垣間見る。


また師匠ロビンソンよりも頭は柔らかいようで(苦笑)、

しっかりと正面から相手の技を受け止めていくところも評価できる。

とにかく意外性に富んだ試合はハラハラしながら楽しめるし、

不慣れなタッグマッチにも順応していく鈴木は、予想以上のプロレスラーだ。


メインは、いま流行りのバチバチの肉弾戦の集大成といった趣き。

田中&杉浦の「黒いオジサンたち」(※杉浦自身が命名)は

あまりに強すぎる。

もともと田中をリーダーとする”弾丸ヤンキース”にノアの杉浦が

参入してきたのは、ZERO1の2・11後楽園ホール大会から。

それ以降、わずか4カ月弱でNWAインターコンチネンタルタッグ王座奪取、

ノアのグローバルタッグリーグ戦制覇、

その勢いを駆って森嶋猛&マイバッハ谷口組を破り

GHCタッグ王座もあっという間に手中にしてのけた。


まさに、向かうところ敵なしの黒いオジサンたち。

そこへ挑戦してきたのが、負傷した膝の治療のため、

昨年末から欠場していた関本大介。

もともとインターコンチネンタルタッグ王座を保持していたのは、

曙&関本の超肉体派コンビだったが、関本の負傷欠場により

ZERO1の元日興行でベルト返上という不本意な結果となっている。


そこにケジメをつけるため、今年初めて準ホームリングの

ZERO1に満を持して参戦した関本。

パートナーに抜擢したのは、若い橋本和樹。

2年前、キャリア2年半でZERO1vs大日本の対抗戦に出陣し、

同じ姓の橋本大地に牙を剥き、一躍注目を浴びた男。


当時はまだ小生意気な若造というか、度胸と気持ちだけで

対抗戦に挑んでいた和樹だったが、それをキッカケにプチブレイクし、

今ではストロングBJ路線に欠かせない超元気印に成長している。


このメインもまた凄まじい打撃戦となった。

強くて怖い田中&杉浦に真正面からエルボーを打ちこんでいく和樹。

それを受け止めてから、3倍4倍の破壊力のエルボーを叩き込むヤンキース。

ヤンキースと言っても、田中と杉浦は体育担当の教育指導の先生という感じ。

当然、金髪に染めて生意気な和樹のほうがヤンキ―の不良生徒に見える(笑)。


田中のマシンガンエルボーの回転数はいつも以上のペース。

杉浦のエルボーは速すぎて見えない!

このエルボーの速さ、ぜひスピードガンで計測してもらいたいところ。

黒いオジサンたち…いや先生たちは、大人げないほどに本気になった。

和樹への教育指導は一切の容赦なし。


そこへようやく登場した関本が唸り声をあげながら大反撃へ。

丸太のようなぶっとい腕がヤンキースの2人をふっ飛ばしていく。

今度はPTAがついにヤンキ―先生狩りに乗り出した格好か。

さらに、関本は場外へ一直線のトぺスイシ―ダ。

筋肉の塊、肉体のアマゾンが豪快に宙を舞う。

もう、ただただ、その迫力には口あんぐり。


「なんか、みんな人間じゃないね?

関本なんか恐竜だよ、アレ!」


「実写版のジュラシック・パークを観ているみたい!」


「しかも、3Dだよねえ」


また、三田さんとそんな会話になる。

最後の最後に和樹が意地を見せた。

2対1で田中&杉浦のエルボーに蹂躙される和樹が、

田中、杉浦の順に死に物狂いの頭突きをぶち込んでいった。


とくに2発目、杉浦に打ち込んだ頭突きは凄すぎた。

「パカ~ン!」とスイカ割りでスイカの割れるような音がした。

あるいはヤシの木からヤシの実が落下して割れる音に近いかもしれない。

さしもの杉浦も頭を押さえ、苦悶の表情。

一方、打ったほうの和樹の額が切れて血が流れ始めた。


しかし、和樹の大健闘はここまで。

怒りの杉浦がオリンピック予選スラムを爆発。

急角度で後頭部からグサリとマットに突き刺した。

この戦慄の一撃で、23分余のジュラシック・パークは閉園を迎えた。



ようやくダメージから回復した和樹が、

マイクを田中から奪い取った。


「無礼だってことは百も承知です。

これだけは言わせてください!

田中さん、杉浦さん、楽しいですねえ。

お二人のエルボーはプロレス界で1、2位を争うと聞いていて、

ゾクゾクして楽しみだったんですけど、本当にヤバイですね」


まったくもって、ノーフィアーであり、正直で生意気で、

気持ちのいい不良生徒である。

和樹の饒舌な言葉にはまだ先があった。


「このチャンスをいただいたZERO1さんと

チャンピオンの2人に感謝します。

なんか僕の心のなかにある悔しい気持ちと違った気持ちが

僕のなかでフツフツと、メラメラと、ゴウゴウと

燃え盛ってきました。たしか、その季節ですよね?

ZERO1にはこのプロレス界でもっとも熱い男を決める祭りがありますよね。

田中さん、ぜひこの僕を火祭りに出してください!」


キャリア5年弱、24歳にしてこのマイクアピールの上手さ。

まるで、若手時代、ジュニア時代の大谷晋二郎の様相である。


この和樹の一言を契機として、リングに大谷、耕平、鈴木、

関本、KAIといった面々が集まりはじめ、乱闘に発展。

今年の『火祭り2014』は彼らに加え、崔領ニ、デーモン植田、

タマ・ウイリアムスなど計12名がエントリーされることになった。



写真は試合後、2本のベルトを巻き余裕の

黒いオジサンたちこと弾丸ヤンキース。

瞬く間にZERO1とノアのリングを制圧してしまった超強力コンビ。


もし政治的事情が許すなら、このチームと新日本マットを代表する

ゴツゴツ、バチバチ戦士たち…後藤洋央紀&柴田勝頼との対戦や、

石井智宏との絡みをぜひ見てみたい。

そう、後藤にとって杉浦は因縁の相手であり宿敵であったし、

柴田との遭遇には予測不能な期待感が大いに高まる。


石井に関しては言うことなしだろう。

もともと、いま流行の(?)ゴツゴツ・プロレスをこれでもかと披露して、

業界に問題提起として投げかけたのは田中vs石井戦だったのだから。

なにか、勝手にまた私の妄想が膨らみはじめた…。


それにしても、なぜにこんな半月前の大会を紹介したかといえば、

べつにサムライTVを宣伝するためではない。

いま現在、集客面でピンチに陥っているZERO1マットであるが、

こんな凄い試合をやっているのだよ!という事実を知ってもらいたいのだ。


スマートな攻防ではないし、格好よくはないかもしれないが、

そこには間違いなく”闘い”がある。

どこのリングにも負けない”闘い”がある。

笑ってしまうぐらい唖然とする”闘い”が見られる。


…と、書いていながらふと気がつくと、

初回の放送が昨日深夜に終わっていた。

でも、安心してくれたまへ。

これから数時間後、朝8時から2時間、

2度目の放送がオンエアされる。


それが終わってから、フツフツと燃えながら、午前10時から

サッカー『ワールドカップ』日本代表の初戦の観戦に雪崩れこめば

最高のテンションでザックJAPANを応援できるだろう。


では、ZERO1の6・1後楽園ホール大会の

リピート放送の日程を紹介。

サムライTV加入者の方は、絶対に見逃さないでね。


また、この放送を観て、フツフツ、メラメラ、ゴウゴウときたなら(笑)、

灼熱の祭典『火祭り2014』のライブ観戦にも足を運んでほしい。

『G1クライマックス』とは、またひと味違う『火祭り』ならではの

魅力を味わえること請け合いなのである。


◎6・1ZERO1後楽園ホール放送カード

<NWAインターコンチネンタルタッグ選手権>
●(王者)田中将斗&杉浦貴×関本大介&橋本和樹(挑戦者)
●佐藤耕平&鈴木秀樹×KAI&征矢学
●大谷晋二郎&横山佳和×KAMIKAZE&TARU
<NWA UNヘビー級選手権>
●(王者)タマ・ウィリアムス×浜亮太(挑戦者)
●デーモン植田&拳剛×崔領二&河野真幸
<インターナショナル&NWA世界Jr.2冠選手権>
●(王者)ジェイソン・リー×アンディ・ウー(挑戦者)
●日高郁人&小幡優作×カズ・ハヤシ&稲葉大樹

放送スケジュール

[FIGHTING TV サムライ]
6月14日(土)後10:00  6月15日(日)前8:00  6月15日(日)後8:00  6月17日(火)深0:00

6月20日(金)後0:00  6月26日(木)後6:00

[サムライ2]
6月14日(土)後10:00  6月15日(日)前8:00  6月17日(火)深0:00