GK  ホラ、もたもたしているうちに、

    『ベスト・オブ・ザ・スーパーJr』が始まってしまったじゃないか!

金沢 もたもたはしていないよ。ちょっと忙しかっただけで(苦笑)。

GK  早速だけど、タイチの問題はどう思う?

金沢 パス。

GK  逃げるの?

金沢 パス。

GK  やっぱり、スル―なんだ?

金沢 あのね、この手の話にすぐに飛びついて、

    ああでもない、こうでもないとやると、

    あとになって事情が変わってきたりして、

    まったく的外れなことを言っていたりして

    恥をかいたりしがちなものなんだよ。

    だから識者ぶって言いたくない!

GK  ひとまず新日本側の判断を尊重すればいいと?

金沢 それしかないでしょう。

    ただ、恐ろしいね、このネット社会。

    それが、みんなの本音でしょう。

    あとひとつ、第3試合の公式戦に出たタイチは先入場だったでしょ?

    相手のデスぺラードは後楽園ホールの客席を通って入場してくるから、

    ふつうの選手の2倍ぐらい入場に時間がかかる。

    あれを待っている間のタイチの心境は、

    おそらく生涯で一番長い時間に感じたんじゃないかな?

    それぐらいにしておこうよ。

GK  じゃあ、遅ればせながら横浜アリーナの話をしようか?

金沢 うん、まず大会の煽りⅤが格好よかったね。

GK  ああ、いい出来だった。

    ラストシーンは、11年前のメインイベントでIWGPに挑戦した

    天山が入場していく後ろ姿で終わっていた。

金沢 あれも抜群に格好いいんだけど、ちょっと不吉でもあったなあ(笑)。

GK  なんで?

金沢 だって天山は、肝心のところで必ず何かやらかすから(笑)。

GK  あ、わかった。11年前に高山善廣から

    IWGP王座を初奪取したときのフィニッシュだね。

    高山の身体を飛び越えて顔面からプレスしている。

金沢 そう、ムーンサルトヘッドバットみたいになった。

    あの大顔面がヒットしたんだからダメージは大きいかもしれないけど、

    やっぱりフィニッシュはキレイに決めてほしいよね。

GK  天山はムーンサルトに関して、伝説(?)を残しているからね。

    G1トーナメントの公式戦で小島聡の顔面に入れてしまったこともあるし、

    IWGP王座決定トーナメントで永田の顔面に落下して…

    あのとき永田はイビキをかいて意識を失ったんだよね。

    幸いすぐに意識を取り戻したけど、みんな真っ青になったから。

金沢 で、結局なぜこんな話をしたかというと、NWA世界タッグ3WAYマッチの

    フィニッシュもヒヤリとさせられたから。

GK  天山のムーンサルトの膝がウェス・ブリスコの首のあたりにヒットしたよね。

金沢 そんな11年前のワンシーンにこだわっているのは

    俺ぐらいなんだろうなと思っていたんだけど、

    バックステージに引き揚げてきた天山とすれ違ったときに、

    天山が自分から言ってきたんだよ。

    「11年前のムーンサルトが飛び過ぎてしまったから、

    それを打ち消そうと完璧に決めたかったんですけど、

    またずれてしまって…ホンマ残念ですよ」って。

    やっぱりレスラーって、そういう痛恨の思いや悔しさを

    ちゃんと覚えているものなんだなあって。

GK  その前の第1試合のジュニア8人タッグだけど、

    オープニングマッチでBUSHIがエスぺラードにフォール勝ち。

    これは今の序列からいくと金星じゃないか?

金沢 そうだね、ようやくBUSHIにスポットが当たりそうな予感。

    それと同時にライガーかな?

    メチャクチャ元気だよ。

    ライガーがいるから試合が締まるんだよね。

GK  第1試合は控室のモニターTVで観ていたんだけど、

    門馬(忠雄)さんがしみじみ言っていたよ。

    「ライガーは、このコスチューム(全身コスチューム)で25年やってるんだよ。

    俺は、本当にスゴイ選手だと思うよ!」って。

金沢 その通りだよね。

    ライガーこそ、真のミスター・プロレスだと思うな。

    彼は今年○○歳になるはずだけど、

    あの身体だけを見てもビックリする。

    20年前とそんなに変わらないからねえ。

GK  次は超サプライズ…高橋裕二郎に続いて、

    飯塚高史の造反・裏切り、電撃”鈴木軍”入り!

    矢野通DVD第3弾でCHAOSの修学旅行に連れていって

    もらえなかったから、怒ったのかな(苦笑)。

金沢 だろうね…って違う!

    CHAOSは反体制の個性派集団だけど、

    決してヒールユニットではないんだよね。

    それに、中邑真輔、オカダ・カズチカ、矢野通、石井智宏と

    実力者・人気選手がズラリと揃っている。

    いまや本隊を凌駕する人気ユニットだよね。

GK  対するバレットクラブはえげつない完全ヒール集団、

    鈴木軍もヒールユニット。

    かといって、矢野いわく、ふだん祠(ほこら)に住んでいるという(笑)、

    飯塚は意思の疎通がとれないと。

    意思の疎通ができないはずの飯塚が、

    思いがけず自己主張をした。

金沢 鈴木みのるは「俺に乗りこなせないやつはいない」と豪語していたけど、

    たしかに、鈴木と飯塚は特別な関係にあるんだよね。

    鈴木の新日本でのプロデビュー戦の相手が飯塚で、

    場所は横浜文化体育館。

    新生UWF移籍前の新日本所属として最後の対戦相手も飯塚で、

    同じ横浜文化体育館。

    飯塚が先輩だけど、2人はいいライバルだった。

GK  そうだったよね。鈴木といえば、健介戦ばかりがクローズアップされるけど、

    実際に対戦する機会が多かったのが飯塚だった。

金沢 鈴木はUWFに移籍してからも、原付バイクで新日本道場に

    ときどき顔を見せていた。飯塚に会いに来ていたんだよ。

    「強くなって、飯塚孝之(※当時)をコテンパンに叩きのめす」って

    よく口にしていたからね。

    一方の飯塚も、来る日も来る日も松田納(エル・サムライ)との第1試合で、

    選手が多かったせいで巡業の残り番も多かった。

    そこに生意気な新弟子の鈴木が入ってきたでしょ?

    試合をやると、火を点けてくれる。

    「あのころ、残り番も多くてちょっとくさっていたけど、

    鈴木が入ってきて変わった。生意気な鈴木と試合をやるのが

    イチバンの楽しみだった」とのちのち語っていたからね。

GK  まあ、その当時の友情があるかどうか分からないけど、

    また軍団、ユニットの図式が変わってくるだろうね。

金沢 ところで、この試合で矢野が滅多打ちに遭って伸びてしまったせいで、

    放送席もトラブルに見舞われたみたいなんだ。

    休憩前まで解説を担当する予定だった邪道・外道の2人が

    矢野を介抱しながら控室に戻ってしまったわけ。

    後半から永田裕志が解説に入ることが決まっていたから、

    第5試合の内藤vsファレが解説者不在の状況になってしまったんだよね。

GK  それで、どうなったの?

金沢 寺川(俊平)アナウンサーがひとりで黙々と実況していた。

    慌てて永田が試合の後半に駆けつけたんだけど、

    寺川アナはそれまでよくがんばったよ、本当に!

GK  それも事件というか試練だったよねえ。

    さて、次はNEVER無差別級選手権、

    石井智宏vs飯伏幸太にいってみようか?

金沢 かなり期待していたんだけど、その期待の上を行ったかもしれないね。

    昨年のG1クライマックス最終戦で、2人とも公式戦が流れたせいで、

    6人タッグで初めて対戦したよね? 

    バチバチにやり合ったからね。

GK  飯伏も気が強いし、石井は退かないし、

    エルボー合戦とかもの凄く盛り上がった。

金沢 この顔合わせを放っておく手はないなと思っていたら、

    こういうタイミングで実現した。

    もう石井は名勝負製造機と言っていいし、

    飯伏の魅力が全開となるのは、いま対ジュニアより対ヘビー級なんだよ。

    去年のG1の中邑戦、鈴木戦、今年の旗揚げ記念日のオカダ戦と、

    飯伏の破天荒でトンパチな部分、華麗な空中戦、意外性のパワーと

    大爆発してるからね。

GK  そうして、やっぱりやってくれた。

    飯伏の三角飛びケブラ―ダを石井が阻止したり、

    スワンダイブ式フランケンシュタイナーをラりアットで打ち落としたり、

    石井の場合、プロレス頭が冴えわたるんだよね。

金沢 後半、石井の左目じりがザックリ裂けて流血したよね?

    あまりにバチバチの攻防でよく分からなかったと思うけど

    あれは飯伏の頭突きじゃなくて、ラりアットが入ったときなんだよ。

GK  あの、ためにためて思い切り右腕を振りぬくやつだ?

金沢 そう、そのとき飯伏の右の拳が直撃したって石井が言ってたよ。

    だけど、石井にとっては日常茶飯事かな?

    いつも傷だらけだからね。



GK  試合後、裕二郎の襲撃、挑戦アピールを受けた石井が

    珍しくセコンドの肩を借りて引き揚げていったね。

    だけど、ここ最近、彼自身が主張していることを実践してくれた。

金沢 つまり、「誰が巻いているかでベルトの価値が決まる」と。

    いいじゃん、NEVERメチャクチャ輝いているじゃない!

GK  飯伏もまた評価を上げたね。

    こういう試合を続けていれば、

    新日本のファンにちゃんと認められるよ。

    神経質になることはない。

金沢 そういえば、入場ゲートの前で待機していた石井に

    なんとも間抜けな質問をしてしまったんだ(苦笑)。

    入場ゲートのところはマスコミも通れるようになっていたから。

    「トモ、横浜アリーナは初めてだっけ?」

    「なに言ってるんすか!? WJ(旗揚げ戦)ですよ。

    ハッスルでも上がってますよ」

    いやあ、間抜けだった(笑)。この横浜アリーナでの

    WJ旗揚げ戦の第1試合(石井vs宇和野)で

    石井智宏の名前は世に出たんだからねえ。

GK  あれから、同じく11年かあ…感慨深いなあ。



GK  アクシデントといえば、次期IWGPタッグ挑戦者決定戦

    (棚橋弘至&真壁刀義vs後藤洋央紀&柴田勝頼)で、

    真壁が「下顎歯槽骨(かがくしそうこつ)骨折」で

    全治3週間の怪我を負っている。

金沢 後藤&柴田のダブル・ミドルキックを食ったときに、

    後藤の蹴りが顎から口のあたりに入ったんだよね。

    あのあと、真壁の動きがガクッと落ちたから、

    記憶が飛んだかな? 立てるかな?とか心配したけど、

    最後までやりぬいてキングコング・ニードロップも決めた。

GK  そのあと、口から血を流しながら、ほとんど何をしゃべっているか

    聞き取れなかったんだけど、インタビュースペースでコメントを出したよね。

    プロだよね、大したものだなあって。

金沢 そのあと、棚橋が「試合に関係ないけど…」と釘をさしてから

    おもしろいエピソードを話してくれたよね。

    「俺が新日本プロレスに入ったときに3人部屋で、(手前が)真壁、真ん中が棚橋、

    奥が柴田で。11年たっても同じリングに上がっているってことは、

    時間の流れは感じるけど、興味深いなと思ってます」。

GK  レスラーに歴史あり、大河ドラマだねえ。



GK  次は、問題のグレイシー一族のシングル2番勝負。

    そういえば、奇しくもヒクソンが来日していたらしいね。

    日本で総合デビューするという次男のクロン・グレイシーを伴って。

金沢 らしいね、東スポに載っていた。

    でも紫雷イオ(スターダム)の写真より小さな囲み記事だった。

    だから、それが今のグレイシーの知名度というか影響力というか、

    総合格闘技に対する関心度じゃないのかな?

    まあ、それを今さら指摘してどうこう言っても仕方がないけど。

    桜庭vsホ―レスはいい試合になったよね。

GK  あれは好勝負だった。ホ―レスはいいよね。

    大きいしパワフルだし、グラウンドでもUWF的な動きができる。

    じゃあ、ダニエルはどうだった?

金沢 さすがの中邑真輔もちょっと持て余していた感じ。

    それは、いい意味でも悪い意味でもだけど。

GK  途中でエキサイトして道着を脱いだでしょ?

    まさに猪木vsルスカ戦のごとく……。

金沢 だから、そこですよ!

    道着を脱いで迫力が増すかと思ったら、反対にちょっとトーンダウンした。

    逆にモタモタしているように映ってしまった。

    まあ、異種格闘技戦がキレイに噛み合うほうがおかしいんだけどね。

GK  あの試合、あなたはモニターTVの中継を観ていたんでしょう?

金沢 そう、試合によって、記者席で観たり、モニターTVで観たりと

    いろいろ変えて観ていた。

    グレイシー2番勝負は、技術的に細かい部分を観たいから、

    モニターTVのテレ朝チャンネルのほうで観戦したんだよ。

GK  中邑vsダニエル戦のほうで、ちょっと伝えきれていない

    残念なシーンがあったよね?

金沢 うん、ダニエルがマウントポジションをとって、

    中邑をコントロールした場面だよね。

    しかも、ただのマウントではなく、中邑の両腕まで両膝で押さえこんでいた。

    まったく防御のできないところへ、肘打ちを入れたりしていったからね。

GK  そこを放送席で伝えきれていなかったのが残念。

    あそこは最大の危機だったのに…しかも解説に永田裕志がいるのにさあ。

金沢 どうしてそうなったのか分からないんだけど、

    ふだん我々は放送席で…これはアナウンサーも解説者も同じだと思うんだけど、

    だいたい6:4の割合で現場のライブ、モニターTVを観ていると思うんだ。

    たとえば、タッグマッチでゴチャゴチャしたときや、グラウンドの攻防になったとき、

    リングの反対側で場外乱闘になったときとかは、必ずモニターを観る。

    当然、視聴者が観ているシーンがモニターに映し出されていることは、

    分かっているけどね。

GK  ということは、あそこのシーンではモニターTVを観ないで、

    ライブのリング上を観ていたから、細かい部分が分からなかったのかもね。

金沢 真輔にとっては、自分の歴史を作ってきた中で、

    実に意義のある試合になったと思うよ。

    それはもう、かつてIWGPヘビーを引っ提げて

    大晦日にK-1のリングに立った男なわけだからね。

    それから歳月を経て、総合格闘技ブームの火付け役であるグレイシーが

    プロレスのリングに上がり、プロレスの王者である真輔に挑戦してきた。

    しかも、その相手が自分の総合デビュー戦の相手であるダニエル。

    こんなドラマチックな展開は誰ひとり夢にも見ることはなかったと思う。

GK  そこで真輔自身が言ったように、インターコンチは

    ますますヤバいベルトになってきたと。

金沢 あとは、グレイシーはもう終わりでいいよね。

    今のファンにはあまり伝わらないというか、

    見たがっているとは思えないんだよね。

    だって、彼らの試合でイチバンおもしろかったのは、

    グレイシーvsクレイジー(矢野&飯塚)だったもん。

GK  ひとつの夢、ロマンは終わった。

    真輔にはまだやることがいっぱいあるよね。

    やるべき相手もいっぱいいる。

金沢 そうだよ、イヤォトラセブンなんだから!

   


GK  さて、ようやく辿り着いたメインイベント。

    オカダのリターンマッチとなったIWGPヘビー級選手権だ。

    AJスタイルズは文句なく格好いいんだけど、チャンピオンとしてどう?

金沢 過去、外国人レスラーでIWGPヘビーを巻いたのが、ビッグバン・ベイダ―、

    サルマン・ハシミコフ、スコット・ノートン、ボブ・サップ、ブロック・レスナーと、

    いわゆる怪物的に強いレスラーたちだよね?

    それに比べると、AJはジュニアクラスの体格だし、ひときわ小さい。

    でも、リングに上がると大きく見えるよね。

    怪物ではなく、初めてスピード&テクニック&インサイドワークで

    勝負するチャンピオンが誕生した。

    現代プロレスを象徴する新政権、新王者じゃないかな?

GK  決してAJに洗脳されたわけじゃないんだけど、

    確かにAJとオカダの攻防を観ていると、AJが一枚上手というか、

    オカダがまだ若いというか、青く見えるような気もする。

金沢 そこはオカダの上手さがAJにマッチしているからでもあるよね。

    オカダのほうがはるかにデカイのに、同じスピードで動けてしまうから。

    さらに、複雑な読み合い、攻防を互いにぱぱっとこなしてしまう。

GK  そこで、AJの動きや技のほうが新鮮だから、

    「おおっ!」となるんだろうね。

金沢 前回は、裕二郎の裏切りによる乱入があって、

    バッドエンドの印象のほうが強く残ったみたいだけど、

    今回は裕二郎を石井がケチらしたこともあり、

    バレットクラブの乱入が勝負の明暗を分けたという印象が薄い。

    むしろ、最後の二転三転した攻防にアリーナは沸き返ったよね。

GK  福岡では不完全だったAJのフェノメノンDDTも完璧に決まったし、

    ブラディサンデーはデヴィットより上手いんじゃないかな?

金沢 とにかく今のAJは全盛期と言っていいんじゃない?

    現代プロレスの申し子は格好いいよ。



                 




GK  次の6・21大阪ではタイトルマッチはないけど、

    あえてAJスタイルズになにか注文をつけるとしたら?

金沢 簡単にいえば、オカダはもちろん、棚橋、内藤とやれば必ず好勝負になる。  

    じゃあ、後藤とやったらどうなるのか? 真壁なら? 柴田なら?

    それこそ永田裕志とやったらどうなるの?っていうところかな。

GK  その意味でいくと、大阪のタッグマッチ(オカダ&石井vsAJ&裕二郎)は、

    オカダよりも石井vsAJの絡みが注目かもしれないね。

金沢 そういうこと!

    あ、忘れてた。

    イヤァトラセブンとやったら、

    なんか予測不能な凄いものが見られそうだよ。

    フェノメノン対イヤォトラセブンが見たいねえ~!!