17日、ノアの後楽園ホール大会に足を運んだ。

もちろん、注目はダブル・メインイベント。


4月30日をもってノアを退団したKENTAの壮行試合

(丸藤正道&KENTAvs杉浦貴&中嶋勝彦)と、

GHCヘビー級選手権(永田裕志vsモハメドヨネ)である。


試合開始(午後6時)直前にホールに到着。

予想はしていたものの、その予想を上回る会場の熱気に驚いた。

もう、第1試合から、超満員の観客が出来上がっているのだ。

ここは、新日本の会場かい!?

正直にいうなら、そういう感覚。


観客の心情はどんなものなのだろう?

これでノアのKENTAは見納めとなる可能性が高い。

絶対に観ておかなければいけないが、

それを観てしまったらそこで終わり。

だから、怖いもの見たさの一種なのかもしれない。


だけど、KENTAを気持ちよく送り出してやるためにも、

最高の空間をみんなで作ってやろう。

そんな思いやりさえ感じる。

プロレスファンは本当に優しい。

こういうときに、それが身に染みてわかるのだ。


そういえば、2002年早々に、新日本退団を表明し、

全日本移籍が決定していながら、

発表済みの試合に堂々と出てきた小島聡に対してもそうだった。

あのときも後楽園ホール。

タッグパ―トナーは天山広吉だった。


試合後、引き揚げていく小島に対して、

天山はマイクを手にこう叫んだ。


「コジ、どこへ行ってもがんばれよ!

おい、とっとと出て行きやがれー!!」


観客は大きな拍手で小島を見送ったし、

なかには泣いている女性ファンの姿も多く目についた。

万感の思いを胸に秘めながら、

小島は静かに控室へ消えた。


一方、出ていく側ではなく送る側の天山が、

控室へ戻る途中、堪え切れずに号泣した。

ファンの優しさ、天山の優しさ…その両方を

思い知らされたシーンである。


いかん、こうやって横道にそれるから長くなる…(笑)。

第6試合、いよいよKENTAの壮行試合。

KENTAの希望で実現した3年半ぶりの

”丸KENタッグ”での出陣だ。


入場前に、丸KENタッグの歴史と

丸藤vsKENTAの歴史を詰め込んだ

煽りⅤが流された。

当時の呼称そのままに丸KENタッグは、

「イケメンタッグ」と紹介されていた。


なんというか、時代を象徴する呼び名だし、

いま聞くと少し気恥かしいのだ(笑)。


だけど、もっと気恥かしいタッグ名というか、

チームのキャッチフレーズがあったことを御存知だろうか?

あれは、1977年~1978年にかけてだったと思う。

全日本マットで、ジャイアント馬場、ジャンボ鶴田に続く

第3の男として期待されていたのが、

ロッキー羽田(故人)と天龍源一郎の2人だった。


その2人がタッグを組んだとき、

全日本プロレス中継のテレビ画面に

映しだされた両選手の名前の上に付いていた

テロップが「ハンサムペア」だった。


当時、ビューティー・ペア全盛期であったのだが、

まさか男のリングで”ペア”が使用されるとは!?

当時、高校生だった私はあまりに気恥かしくて、

ブッ飛ぶと同時に、我が目を疑ったものだ(笑)。


あ、また話が飛んだ、思いっきりそれた。

よし、もう絶対にそれないぞ、もとに戻ろう!


試合タイムは、28分31秒。

「25分経過!」のアナウンスがあったとき、

私は「時間切れ引き分けになりそうだなあ」と思い、

当日のカード表を確認してみた。


ところが、

「スペシャルタッグマッチ/60分1本勝負」

と記されていることに初めて気がついた。


いやあ、私は甘い。

甘ちゃんだ。

壮行試合と銘打たれていても、これは闘い。

きっちり決着をつけるべく組まれた闘いなのだ。

それはここまで試合を観ていたら、

とっくに分かっていて当たり前のことである。



当のKENTAも試合後、コメントブースで

少し笑みを浮かべながら言っていたではないか?


「正直もうちょっと花を持たせてくれるかと思ったんですけど、

甘かったです」


KENTA自身がそう口にするほど、

試合は激しく、苛烈な内容だった。


中嶋の鋭く重い蹴りがKENTAの肉体に

これでもかとぶち込まれていく。


杉浦は杉浦らしく、気持ちを受けで表現している。

KENTAと顔面へのフロントキックの応酬を行なった際、

杉浦は自分の顔を突き出していった。


ふつう顔を蹴られるときは、

横か後ろに引いてダメージを逃がそうとする。

それなのに、杉浦は自分から顔を前へ突き出していったのだ。

こんな受け方は初めて見たし、「大丈夫かよ!?」と

正直、心配にもなった。


だけど、それが杉浦流のメッセージなのだろう。

「お前の攻撃、全身ですべて受け止めてやろうじゃないか!」

そんな感じに見えた。


試合中、70%はKENTAが攻め込まれていた。

KENTAの体に送別の一撃が次々と叩き込まれていく。

それを観ながら、改めて感じたことがある。


KENTAは特別な選手でもなんでもない。

むしろ、ふつうの選手…いや、肉体的に小柄というハンディを抱えながら、

そこからオンリーワンを目指し、努力だけで這い上がってきた男だということ。


パートナーの丸藤はレスリング出身で、

天才的な運動神経を持つ男。


杉浦はレスリング時代に抜群の実績を持ち、

瞬発力とパワーにかけては、

マット界でも屈指の男である。


中嶋は、小学生のころから空手を始め、

中学時代には高校生の大会に出ても優勝し、

天才空手少年と呼ばれていた。

また、中学生にしてすでに総合格闘技の練習にも取り組んでいた。


それに比べたら、KENTAは格闘技の下地がないまま

全日本プロレスの一般オーディションを受験し、

そこからレスラー人生をスタートさせた男。


打撃の練習もレスラーになってから始めた。

派手な飛び技をこなせるわけでもないし、

誰もが納得するような強さを持ち合せているわけでもない。


だけど、オンリーワンの魅力がファンを惹きつけ、

気がつけば名勝負製造機と化していた。

純真で真っ直ぐで…だからこそ頑固だし、

群れることを嫌い、時には我がままにも見える。

そういった生き方が試合にそのまま現れる。

だから、柴田勝頼と親友になれたのも理解できる。


ノアファンはKENTAというレスラーの技術云々ではなく、

彼の生き方が見える試合に感銘を受けたのだと思う。

そういえば、高山善廣も以前こんなことを言っていた。


「KENTAの魅力がいちばん出るのは流血戦になったときなんだよ。

流血したときのKENTAって、あの”燃える闘魂”にソックリだからね」


この日も食らいまくったKENTA。

その一方で、丸藤との合体攻撃もひさしぶりに公開。

最後は、中嶋にgo2 sleepを決め苦闘のなか、

有終の美を飾った。





いやあ、激しかった。

おもしろかった。

ここまでやるか!


いつまでもいつまでもKENTAコールが鳴りやまない。

いや、その声援、別れを惜しむ声は

どんどん高まるばかり。


KENTAはリング上から四方に向かって、

何度も何度も手を振り、頭を下げた。

その光景は、ファイナルのGHCヘビー級戦のあとにも、

再現されている。


KENTAはG+のテレビ解説についた。

メイン終了後も、いつまでもKENTAを観ていたい観客は帰ろうとしない。

バックステージで、永田のコメントが終盤に差しかかったころ、

ホールの大歓声が下の階まで響いてきた。


モニターTVを確認すると、

すでに撤収作業に入り、ロープの外されたリングに

KENTAの姿があった。


残って声援を送ってくれる観客に対して、

彼はまた感謝の思いを伝えるためにリングに上がり、

手を振り、頭を下げていた。


いいなあ、いいものを見た。

これが本来のノアファンだし、

プロレスファンの温かさだなあ。

そして、KENTAという存在は

ファンがノア復興を託したカリスマだったのだな。

それを再確認した思いである。


さて、この一大イベントに食われるだろうと思っていた
GHC選手権であるが、これもまた白熱の好勝負となり、

観客を大ヒ―トさせている。


永田裕志、46歳。

恐るべし!である。


永田もまたヨネのすべてを受けきった。

強烈だったのは、場外で食らった筋肉バスター。

硬い場外マットでアレを食ってはたまらない。


本人はあまり他言していないのだが、

この2ヵ月ほど、永田は腰を痛めており、

試合で大きな受身をとると苦しかったという。

そこをモロにやられた格好だから、

永田も途中から必死になった。


そのうえで、負傷を感じさせることもなく、

最後は十八番のバックドロップホールドをズバリ。

これぞ、王者の闘い模様。


なんというか、永田の場合、

本人は「この緑のリングをブルーに染めた」と主張するが、

私には、永田が見事なまでにグリーンに適合しているように映るのだ。

つまり、全日本→ノアへと続く理想の王者像、

王者らしい試合を体現しているということ。


秋山準のいなくなったノアで、

永田がその役目をお釣りがくるほどしっかり

こなしているようにみえる。



おまけに、秋山には絶対できない(やらない!?),

最終兵器”ナガダンス”も披露する。


それを間近で見守りながら、

決して笑わない丸藤の精神力もスゴイって(笑)。


かくして、7・5有明コロシアムでは

永田vs丸藤戦が決定した。

タイプはまったく違うものの、

プロレス頭には定評のある両雄。

名勝負は必至だろう。



あ、そうそう、やはりホールの空気は、

永田へのブーイングが多かったものの、

永田が腕固めに入ったときに起こった、

盛大な「白目コール」に関しては会場が一体となった。


そして、神が降臨した永田の白目は、

ここ最近になくパーフェクトな”白目”だったのであーる!