ここ10日間ほど、けっこうプロレス会場に足を運んでいる。

12日=ノアの後楽園ホール、16日=リアルジャパンプロレスの

代々木競技場第二体育館、17日=WRESTLE-1の後楽園ホール、

そして、19日=新日本の後楽園ホール。


本日(23日)は、全日本の後楽園ホール大会に行く予定。

やはり、ケンド―・カシンの傍若無人ぶりを

しっかり生で観ておかなければいけないだろう(笑)。


当然のように各団体には独自のカラーがあるし、

客層の違いを感じたり、知っていながら改めてイイ選手だな

と感心するレスラーを発見したりと、生観戦に勝るものなしを痛感している。


この2カ月ほど、天候不順のせいか、単に気力不足なのか、

当日になって「行くのや~めた」というケースも多々あった。

そういうときは、アントニオ猪木の小学生時代の逸話が

頭に浮かんできて…猪木に倣えば、それもよし!

そう勝手に理屈をつけてゴマカしてきたのだ。


猪木寛至少年の逸話、みなさん、ご存知ですか?

雨が降ったら休み、学校には行かない――。

いいでしょ? 単純明快で。

ただし、大家族の寛至少年の場合、

自分の傘を持っていないから行かなかった。

それが本当のところ。


私の場合、傘は何本も持っているのだから、

やっぱり理由、言い訳にはならないねえ(笑)。


それはともかく、いくつか発見したこと。

ノアは外国人選手が充実している。

前GHCタッグ王者チームのTMDK

(マイキ―・ニコルス&シェイン・ヘイスト)は、

素晴らしいチームだと再確認。


2人ともヘビー級なのにこれだけ動けて、

合体&連係はトリッキ―なうえに息ピッタリ。

彼らの試合にはハズレがない。


米国マットで実績のあるコルト・カバナと

クリス・ヒーローもいい味を出している。

彼らのようなレスラーを見ていると、

古きよき時代の全日本の当たりガイジンを思い出す。

やはり、馬場・全日本の伝統はノアに生きているようだ。


ジュニアのザック・セイバーJrも逞しくなった。

この日は、小川良成とのチームで因縁の相手である

石森&小峠からGHCジュニアタッグ王座を奪回。

だけど、いちばんの驚きは小川が元気いっぱいなこと。

この人、47歳で業界キャリアでいくと私の1年先輩。

それなのに相変わらずの上手さに加えてスタミナもあるし、

若い前王者組とまったく遜色なく動いて魅せるのだから、

これぞキャリアとコンディションの賜物だろう。


小川は不遇の若手時代を過ごしてきた。

ジョン・テンタ、高木功(嵐)、田上明と続々と入門してくる

後輩たちはすべて鳴り物入りの大物たち。

彼らがデビューした瞬間から、もう追い抜かれていたのだ。

これだけ辛抱を強いられた若手選手もそうそういなかったと思う。

よくぞ我慢して、ここまできたものだなと感心するばかり。


あとは、杉浦貴&田中将斗の弾丸ヤンキース

(※自称=黒いオジサンたち)は強すぎ。

反則と言っていいぐらいに強すぎる。

ここに石井智宏を加えたトリオをぜひ見てみたい。


さて、ひとつ飛ばして、ひさしぶりのW-1。

私の世代からいくと、タッグマッチながら船木誠勝vsAKIRAの

同期対決にはシビレる感覚があった。

船木vs野上、1980年代半ば~後半にかけて、

何度も実現していたヤングライオン同士の名物カード。


藤原教室の生徒であった船木は骨法にのめり込んだり、

打撃とサブミッションで強さを追求する道を進んでいったが、

野上はあくまで粘りと切り返しのプロレスを持ち味としていた。


だが本来、スタイル的にも考え方も違う2人がいざタッグを組んで、

UWF若手軍の中野龍雄&安生洋二と対戦すると、

毎回、会場は大爆発した。


これぞ対抗戦の原点、これぞ新日本vsUWF、それをもっとも顕著な形で示し、

若手名勝負数え唄と呼ばれていたのが、このカードだった。

なかでも、私が観ていてもっとも快哉を叫びたくなるシーンは、

蹴られまくる野上が粘りに粘った末に、一瞬の逆さ押さえ込みで

Uコンビから逆転勝利をあげたときだった。

その2人が25年の空白を経ても、

決してお互いのプロレス観を崩すことなくぶつかり合う。

これって浪漫だなあと思った。


一方、メインのTNA・Ⅹディビジョン選手権

(真田聖也vsクリストファー・ダニエルズ)は、

もうワンランク上の攻防を見たかった。

無論、悪い試合ではないし、平均点以上だろう。

ただ、メインを締めるからには、平均点以上ではなく、

たとえ1カ所でも2カ所でも観客の度肝を抜くような

インパクトも見せてほしかった。


昨年の11・16後楽園ホールで、

時のTNA世界王者、AJスタイルズを相手に

ギリギリの勝負を見せ猛追した真田なら、

やれると思うのだ。


19日、新日本の後楽園ホール大会の感想は…

「とくに、ありません」(笑)。

またまたチケット完売の札止め状態で、

第1、第2試合から観客席は完全に出来上がっていた。

これだから、レスラーも乗れる。

その相乗効果で試合は盛り上がる一方。


全8戦=2時間半興行。

まったく退屈なんかしない。

たとえて言うなら、いい映画を観て満足感に浸ったような気分。


新日本プロレスの後楽園ホール大会そのものが、

もう”ブランンド化”しているような気もする。


さて、ここであえて飛ばしていた興行の話。

リアルジャパンの代々木第二体育館大会である。

試合、客席の空気、出場した選手たち…

すべてを含めて感じたことがある。


遡ること10年ほど前のこと。

サムライTVのニュース番組に丸井乙生さん(当時・スポニチ)と

ダブル解説で出演したことがある。

MCは、三田佐代子さん。


おりしも、あのWJプロレスが完全に活動機能を失い、

事実上解散が決まったころだった。


「なぜ、WJはこうなってしまったのでしょうか?」


その三田さんの問いかけに丸井さんはこう答えた。


「時代遅れは格好いいんですよね。

でも時代錯誤は通用しなかったということなんじゃないでしょうか」


いやはや、けだし名言だった。

このあと、同じ質問を振られた私がどう言葉に装飾を付けようとも、

この丸井さんの的確すぎる表現の前では、

無意味な言葉の羅列にすぎなかった。


のちに長州自身もWJ失敗の要因を私が尋ねたとき、

「あれは時代を見誤ったよな」と正直に回答している。


そう、時代錯誤にお客さんはついてこない。

でも、時代遅れにはお客さんの思い入れが間違いなくあるし、

思い出と現実を重ね合わせてみたときに、

喜びもあれば失望もあり、新たな発見まであったりする。


とっくに全盛期を過ぎていようとも、

藤波、長州、天龍、藤原、初代タイガーらに対し、

ファン同様に私たちも特別な思い入れを抱いてしまうのだ。


これも一つ時代遅れの格好よさと言えるのだろう。

4・16代々木大会はまさにそれを地でいく興行だった。

ファン層は明らかに他のプロレス団体とは違っている。

一見さん、ひさしぶりにプロレス観戦に来たと思われる人たち、

初代タイガーとの関係からリアルジャパンだけを観戦する人、

貴闘力(元・関脇)の応援団、さらにどこの会場にも

出没するマニアのファンが客席を占めている。


観客の平均年齢も少し高め。

新日本などに比べると、

平均年齢は10歳ぐらい違うのではないか?

また、当日駆けつけた報道陣の数が半端ではなかった。

やはり、元関脇・貴闘力の知名度は今でも高い。

無論、興味本位で取材(観戦?)に来たマスコミを多数いるだろう。


私もその1人なのだが、

大相撲時代の貴闘力はお気に入りの力士だったし、

その全盛期の強さをよく知っている。

貴闘力の十八番であるノド輪、突っ張り、張り手は、

相撲ファン以外にまで知れ渡っていたのではないか?

また、中学校時代の柔道部で佐々木健介の1年後輩ということもあり、

勝手に親近感も抱いたりしていた。


あ、話を戻さなきゃ!(笑)。

いわゆる時代遅れの格好よさ、

まったく今風ではないプロレスらしさ、

おもしろさが見えてきたのは、第6試合のタッグマッチから。


カードは、藤波辰爾&金原弘光vs維新力&小笠原和彦という、

なんの脈略もないハチャメチャなマッチメイク。

だけど、この予測不能さに惹きつけられる。

果たして、試合は成立するのかどうか?

そういう次元でのドキドキもの。


だいたいからして、あの小笠原先生が橋本真也の

『爆勝宣言』のテーマで堂々と入場してきたところからハチャメチャ。

まさに臆面もなく…という感じなのだが、

リアルジャパンだからこそアリなのだろう。


小笠原先生と破壊王による決闘から共闘のドラマは、

旧ZEROーONEの歴史にしっかり刻まれている出来事だから、

よしとしようではないか。


結論として、これが試合として成立どころか、盛り上がった。

4選手が4選手とも、きちんとコンディションを作ってきていたから、

むしろビックリ。金原は当然なのだが、他の3選手の動きもよかった。

維新力などまったく衰えが見られないし、

遠目からだと、全盛期と変わらない様子なのだ。


セミファイナルはダブルメインの第1試合となる

初代タイガーマスクvs齋藤彰俊の初一騎打ち。

煽りⅤで彰俊が「虎ハンターの血を引く男」

と紹介された。


つまり、齋藤彰俊の名前がこの業界に轟いたのは、

新日本マットに殴りこんだ小林邦昭戦から。

その後、小林との死闘を経て、共闘に至り、

平成維震軍の同志となった過去を持つ。


だから、「虎ハンターの血が流れている」という

解釈になるらしい。

強引だが、それでいいのかも(笑)。


いずれにしろ、興味津々のカード。

ここ最近、試合数の減っている彰俊をひさしぶりに観ることができるし、

スーパーヘビーの彰俊を相手にいつもコンディション調整に苦しんでいる

初代タイガーがどう対峙していくか?

また、彰俊にとって、やはり初代タイガーは憧れの存在そのものだろう。


これは、初代タイガーが大奮闘した。

彰俊の痛烈なバックドロップ、スイクルデス(延髄斬り)

の必殺フルコースをキックアウトし、

タイガースープレックスで決着をつけたのだ。


彰俊は正座して、礼をした。

帰り際、両手を高々と突き上げた。

おそらく、本人の胸中は満足感でいっぱいだったのではないか?


その光景を観ていて突然あるシーンを思いだした。

1998年1月、新日本の代々木大会、この会場だった。

試合前、私のもとに駆け寄ってきた彰俊は、

この1月を持って新日本を退団することを教えてくれた。


「自分自身が煮詰まってしまっていて、

このままじゃいけないと思って決心したんです。

なにかべつの仕事にトライしてみたいと思いまして。

金沢さんにはお世話になりっぱなしで本当に感謝しています。

ただ、引退ではないですから。

自分を見つめ直して、もう一度その気になれば、

リングに帰ってくるかもしれません。

そのときには、真っ先に金沢さんに報告させていただきますので」


本当に、最後の最後まで彰俊は好青年だった。

しかも、彰俊はそのときの約束を守ってくれた。

2000年9月のことだった。

突然、彰俊から電話が入ったのだ。


「ノアのリングでプロレス復帰することに決まりました。

あのときの約束通り、金沢さんにはお知らせしようと思いまして。

ただ、ノアさんの事情もありますんで、

公になるまでは胸にしまっておいていただけますか?」


3年の空白期間があっても、

好漢・齋藤彰俊はなにも変わっていなかった。

もう…こういう感じで思い出に浸っていたらキリがないではないか(笑)。



そして、トリとして登場したのが、貴闘力。

そのパートナーは、鈴木みのる。

対戦相手は、因縁の大仁田厚と腹心の矢口壹琅。


ルールは、ストリートファイト・トルネードマッチ。

場外カウントなし、反則決着なし、凶器の使用はOK、

セコンドの介入もOK(※一応、ランバージャック形式なのだが…)と、

つまり大仁田がもっとも得意とする喧嘩ルール。


これが功を奏した。

というより、ルールも対戦相手も、

パートナーも、貴闘力にとっては、

すべてが吉と出た。


鈴木はハナからオイシイところを持っていこうなどという気はない。

その証拠に、戦前多くを語らなかったし、

ただ大仁田の存在に関して、

「あいつは認めない、気持ち悪い」と嫌悪感を示したのみ。

なぜ初代タイガーが貴闘力のパートナーに自分を指名したのか、

言われなくても分かっている。


鈴木の使命は、喧嘩ルールの闘いを試合として成立させること、

貴闘力に動きやすいシチュエーションを作ってやることだった。

試合後、鈴木はバックステージに出てこなかった。

コメントを出す気がなかったからだろう。


今後があるかどうか分からない対戦相手(大仁田)、

パートナー(貴闘力)については触れたくなかったのだと思う。

くさす必要もない、褒める必要もない。

お客とマスコミが見たままで判断してくれればいい。

鈴木のクレーバーなプロレス頭がそう働いたのだと思う。


それにしても、46歳という年齢と、10年以上も

格闘競技から離れていたことが心配された貴闘力だったが、

このルールだから最高の魅力が出た。


毒霧を噴き掛けられようが、有刺鉄線バットで殴られようが、

有刺鉄線ボードに叩きつけられようが、気持ちが折れない。

130㎏を超える矢口の渾身のラりアットを食らっても仁王立ち。


血まみれになりながら、鈴木のフォローを得て、

カウンターのノド輪(張り手?)をぶち込んでいく。

これは強烈そのもの。

タフな矢口をふっ飛ばし完全フォールしてのけた。


100点満点だ。

このルールだから、

細かいプロレスのテクニックは必要ないし、

ロ―プワークもいらないし受身をとる必要もない。


だから、もともと持ち合せているパワーと体力を駆使して、

あとは腹を決めて痛みに耐えればいい。


貴闘力が腹を決めて闘う姿は格好よかったし、

勧善懲悪を地で行く結末も最高。

時代遅れの格好よさ、ここに極めりといった趣である。


もちろん、今後、貴闘力がプロレスラーとして

本格的に活動していくなら、いつもいつも

これが通用するわけではない。


つねに対角線に大仁田がいるとは限らないし、

コーナーに鈴木がいてくれるわけではない。

本気で目指すなら、血を吐く努力が必要なのは

言うまでもないことである。


だ・け・ど……やっぱり、おもしろかったなぁービックリマーク