本当のクライマックス(最終戦)を翌日に控えた

『G1 CLIMAX23』(以下、G1)の8・10両国大会に、

8200人(満員)の観客が詰めかけた。


この観客数は、棚橋弘至vsオカダ・カズチカのIWGP選手権が

行なわれた4・7両国大会と同じ数字。

これこそ新日本の復活ぶりを

顕著に示すものと言っていいだろう。


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もちろん、試合内容も、演出も素晴らしかったと思う。

その演出というのは、休憩明けに試合コスチューム姿の

柴田勝頼がリングインして、決意表明の挨拶(アピール?)

を行ったこと。


周知のとおり、この日は後藤洋央紀との公式戦が組まれていた。

柴田にとっても、後藤にとっても特別な試合。

ところが、3日前の仙台大会(棚橋戦)で、

後藤が右下顎骨骨折の重傷を負ってリタイア。


「G1のテーマは”打倒!勝頼”…もちろん優勝を目指すけど、

柴田を倒さなければ優勝は見えてこない。

あと柴田には、この過酷なリーグ戦を乗り越えてみろ!と言いたい」


G1開幕前に、後藤はそう言った。

それを私から伝え聞いた柴田は、

8・3愛知大会の試合前のインタビューでこう返している。


「そういうことは言わないほうがいい。

そういうことを言うやつに限って怪我をしたりするものだから」


無論、柴田は確信を持って語ったわけではなく、

過酷なのは百も承知の上だ、という気持ちを伝えたかったのだと思う。

そうしたら、本当に後藤が大怪我を負ってリタイアしてしまった。


一方の柴田は元気いっぱい。

ツアー前半にはこんなことを言っていた。


「巡業が楽しいですね。

その土地が懐かしかったり、新しい刺激があったり、

毎日いろんな発見がある」


さらに、発言が前向きになる。


「プロレスが楽しくなってきた。

これは本当に素直な気持ちです」


天性のプロレスラー。

類い稀な格闘センスを持つ柴田。

柴田プロレスは、現代の新日ファンにも受け入れられ、

そのファイトは観客の心を捉えた。


柴田にとって、天王山ともいうべき両国2連戦。

相手は、後藤、棚橋とこれ以上は望めない好敵手。

その一角の後藤が崩れてしまった。


「ゴト―!

1年前、この両国で新日本プロレスに喧嘩を売りに来ました。

あれから1年、このG1に全戦出場して、いまプロレスが楽しいです。

だから1試合でも試合ができなくなることが非常に悲しい。

この気持ちは明日の棚橋戦に全部ぶつけたいと思います!!」


館内は”大シバタコール”に包まれた。

1年前、大ブーイングで迎えられた元・新日本プロレスの柴田は、

自分の新日本プロレスを貫きファンに認められたのだ。

いや、認めさせたのである。


最終戦の棚橋との一騎打ち。

7年7カ月ぶりの同期対決。

G1公式戦の最終試合。

柴田が勝てば、優勝戦進出が決まる。


8年間の旅の答えを見せつける

絶好の舞台が待ち受けている。


その柴田と並んで、今年のG1を盛り上げた立役者が、

初出場の石井智宏と飯伏幸太である。

奇しくも、2人は最終戦を待たずに公式戦を終えた。

石井vs後藤、飯伏vs天山が最終戦に組まれていたから。


だから、2人に限っては事実上、この日がG1最終戦。

まず、真壁vs石井戦。

昨年12月の一騎打ちでは真壁が辛勝している。

もう、予想通り、ゴツゴツの展開となった。


試合の中盤、真壁が仕掛けたパワーボムが崩れて、

石井は脳天からマットに突き刺さった。

あのぶっとい首を持つ石井でなければ、

事故につながっていたかもしれない危険なシーン。


石井だからこそ、起き上がってきた。

死闘の結末はキングコングニーで真壁が制した。

大の字の伸びた両者は起き上がると、

どちらからともなく膝立ちのまま近づく。


互いの健闘を称え合うのかと思いきや、

2人はまた殴り合いを始めた。


そう、石井の辞書に媚びるという文字はない。

ファンから支持を受けようとも思っていない。

お涙ちょうだいなどもってのほか、

リングに上がれば、やるかやられるか…

闘いの原点だけをつねに見詰めているのだ。


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この写真は試合後、引き揚げてきた石井の様子。

凄まじいダメージのせいで壁に手を付きながら、

ふらつく足取りでなんとか控室まで辿りついた。


あまりに、リアルな光景。

もちろん、人の手など借りようともしない。

この後、石井はトレーナー室で首をアイシングしていた。

やはり、あの危険なパワーボムで首が詰まってしまったのだ。


反対側の控室前では、真壁が饒舌に話していた。


「こんなこと言ったらあいつ傷つくかもしれないけど、

あえて言ってやる。アッパレだよ。

場内は真壁コール一色だったはずなのに、

あいつが(コールを)持っていったろ?

観客がやつのファイトを認めたんだよ。

これこそプロレスだよな。

俺、石井と初めて会ったのが大阪府立だったんだよ。

やつが天龍源一郎の付人で、俺が長州力の付人。

ペーペーだから試合すらねえんだ。

その2人がメイン級だぜ!

あいつ、G1でどんだけすげえ試合するんだ!」


負け試合では、石井は絶対にコメントをしない。

それを見透かしたように、真壁は石井を絶賛した。


この2人の歴史は古い。

デビューは、ほぼ同期。

2004年暮れ、長州力が新日本の現場監督に返り咲いてから、

石井はリキプロ所属として新日本マットに上がった。

そこから、あぶれ者たちの闘争がスタートした。


越中詩郎(フリ―)&真壁vs矢野通&石井(リキプロ)による

半年間抗争。

新日本本隊とは一線を画すあぶれ者たちによる抗争は、

いつしか新日本タッグ戦線の名物カードになった。

そこから、GBHが誕生したのだ。


怨敵→同志→怨敵と立場を変えながら相まみえてきた両雄。

じつは、石井のことをもっとも知る男は真壁なのである。


真壁は明日へ希望をつなぐ。

石井の夏は終わった。

だが、棚橋戦といい、柴田戦といい、

オカダ戦、真壁戦ともっともファンの心を揺さぶる

闘いを見せたのは石井智宏だろう。


トモ、おまえはスゴイよ!


もう一人、天山欠場の影響で、

この日が公式戦最終日となったのが飯伏幸太。

鈴木みのるvs飯伏の絡みは、

中邑真輔vs飯伏の熱狂度に劣らない熱さだった。


それにしても、鈴木は不思議な男。

まったくタイプの違う男となぜかウマが合う。

闘っても、組んでもウマが合うのだ。


たとえば、以前ノアのリングで暴れまわっていたころ、

鈴木の最高のパートナーは丸藤正道だった。

2人でGHCタッグのベルトも巻いたし、

ビジネスを超えた友人関係まで構築している。


鈴木が求めている相手とは…決して同じタイプではなく、

スタイルは違っても感性の合う対戦相手なのである。

そこで、飯伏がピタッとはまった。


レスリングのほうは鈴木に比べて今一つかもしれないが、

打撃の技術は本物であり業界随一、

さらにどんな相手に対しても意地の空中戦を仕掛けていく。


素直だけど頑固で、礼儀正しいけれど、トンパチ。

それが飯伏幸太の魅力でもある。


世界一性格が悪いと称されながらも、

じつは懐の深い鈴木と飯伏の初一騎打ちは見事にはまった。


最大の見せ場は、打撃合戦。

極端な話、新日本マットで実現した

パンクラスvsキックボクシングの様相。

ただし、そこまで飲み込んでしまうのがプロレスの世界である。


飯伏から手ごたえを感じ取った鈴木は大満足。

一方、G1への挑戦が終わった飯伏はこう振り返る。


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「鈴木さんが最後でよかった。

勝てなかったけど、まだまだ初対決。

(G1を経験して)限界ですね、ヘビーはやっぱり違いますね、ぜんぜん。

でも凄くいい夏の思い出になりました。

(得たものは?)得たものしかないです。

最高でした、ありがとうございます」


大会終了後、帰り支度の鈴木とバッタリ。

「個人的に、今日イチバンいい試合だと思ったのは、

鈴木vs飯伏戦だよ!」と話し掛けると、

「当たり前じゃん!」とニタリ。


「でも、他の試合なんか見てないくせに」と言うと、

「うん、見てないけど、俺がイチバンに決まってるだろ?」と笑う。

この笑顔を見ただけで、鈴木の充実した気持ちが伝わってくる。


正直、私見でいくと、この日のベストバウトは、

鈴木vs飯伏戦だと思った。


ここで、ひとつ提案というかリクエスト。

飯伏のG1参戦を一度きりの夏の思い出で終わらせてほしくない。

来年も再来年も、飯伏をレギュラー的に参加させてほしい。


まず、なんとしても優勝戦へ。

さらに、他団体初の優勝へ…。

ぜひとも、そういうシーンを見てみたいのだ。

プロレス界の財産は、超党派で育ててほしい。


さて、一足早く走破した男たちもいれば、

翌日の過酷なサバイバル戦争へ挑む男たちもいる。


まず、Bブロックをダントツで勝ち上がってきた中邑が

内藤に足を掬われた。

大会前から私がⅤ本命に推していたのは中邑。

それは、心技体の3要素がしっかりと揃っているからだ。


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ただし、中邑は追い込まれた。

たとえ、最終戦(ベンジャミン戦)を突破しても、

鈴木が矢野に勝てばそれで終わり。


一方、内藤は最終戦(アンダーソン戦)を取れば、

鈴木、中邑が揃って敗れた場合決勝へ行ける。

なんとなく、追うものの強みを感じる。


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もちろん、アンダーソン、永田にもチャンスは大アリ。

Bブロックは混とんとしている。

一方のAブロック。

とにかく柴田は棚橋に勝てば文句なし。

同点者がいても直接対決の結果があるから決勝へ行ける。


棚橋、オカダの2強は自力勝利プラス、

他力本願を必要としている。

そういう結果になると、2人の

30分ドローはお互いにとって痛い。


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ただし、そうは言っても、

ここまでの公式戦で唯一の30分フルタイム引分けの

内容は本当に濃いものだった。


さすが、王者vsエースといっていい素晴らしい攻防。

両国国技館のメインに相応しい内容だった。


さあ、もう時間は迫っている。

これから12時間後、

あのG1大トロフィーを手にしているのは誰なのか?


初志貫徹というか、あくまで私は

大本命=中邑真輔で押し通しておこう。