ついに『G1 CLIMAX23』(以下、G1)で2人の怪我人が出て、

途中リタイアを余儀なくされてしまった。


8・7仙台サンプラザホール大会。

まず、天山広吉vs内藤哲也(Bブロック)戦。

前年の同日、この同じ会場で

右膝前十字靭帯断裂(ルーシュ戦)の重傷を負った内藤。


その悪夢を振り払うためにも、

内藤にとっては特別な試合だった。

ところが、今年は天山が悪夢に見舞われた。

内藤が得意のフライング・エルボーを放ったあとのこと。

天山が脇腹を気にし始めた。


それでも、一気に畳みかける天山は、

ムーンサルトプレスで内藤をピンフォール。


VTRで確認してみるとよくわかる。

フライング・エルボーを放った内藤が

受身をとった天山の上に落下。


まるで強烈なセントーンのように、

内藤の全体重が天山の脇腹付近を直撃している。

これで肋骨骨折。

その状態のまま勝利をもぎ取ったのだから執念というしかない。


ただし、ふだんならあり得ないような攻防であり、事故だろう。

やはり疲れがたまってくると、こういう考えられないシーンで

怪我人が出てしまうようだ。


翌日、天山にメールを送ってみたところ、

すぐに返信があった。


「悔しいですけど、治療に専念します。

昨日は一晩中痛くて、ほとんど眠れずに

息をするのも辛くてのたうちまわっていました。

早く復帰できるように頑張りますので、

またよろしくお願いしますドキドキ


なぜか、いつものハートマークがまた付いていた。

この緊急時にそこもまた天山らしい。


もう一人が快調に突っ走っていたAブロックの後藤洋央紀。

後藤にとって大一番となる棚橋弘至戦。

仙台大会のメインに組まれた一戦は、

予想通り白熱した。


結果は棚橋の勝利。

そして、試合後、後藤の負傷が判明した。

右下顎骨骨折。

つまり、右側の下アゴを骨折したのだ。


周囲の話や、後藤本人から状況を聞いたという

関係者の話をまとめるとこうなる。


試合が白熱して両者がロープワークを使った攻防を展開。

そこで棚橋の張り手が決まったときに、

後藤の顎のあたりがバキッといった。


その後、裏昇天から勝負を懸けた昇天を狙って

後藤が全身に力を込めて歯を食いしばった瞬間、

顎がバキバキバキっと音をたてたと言う。


棚橋の張り手の威力といい、

歯を食いしばった結果、自分自身にかかった圧力といい、

やはりレスラーのパワーというのは半端なものではない。

アクシデントでありながらも驚きだ。


それと同時に、いい星勘定できていた後藤にすれば、

痛恨きわまりないだろう。

G1に向けて「打倒!勝頼」を旗印に掲げていた後藤が、

柴田戦を前にリタイアしてしまったわけである。


いろいろな意味で残念だが、

とても試合に出られる状態ではない大怪我。

天山、後藤のその後の公式戦はすべて不戦敗となった。


そういった緊急事態を受けての

8・8横浜文化体育館大会。

G1の横浜大会は例年7~8割の入りなのだが、

今年は超満員の観客で埋まった。


広い2階席が端から端まで満杯。

こういう光景は本当に見ていて気持ちがいい。


当日はサムライTVの生中継があり、

実況は村田晴郎アナで解説がワタクシ金沢。

そして、スペシャルゲスト解説として、

あの小橋建太さんが登場した。


引退した小橋さんだから、さん付けになるのだろうが、

やっぱり、私の中ではまだまだ小橋建太、

あるいは小橋選手と呼びたいところなので、

あえて敬称略、小橋と書いていきたい。


もちろん、放送中は小橋選手とか、小橋クンとか、

コバちゃん(小橋の昔からの愛称)と呼ぶわけにはいかないから、

私も「小橋さん」と呼んでいる。


それにしても画期的というか、

サムライTVのクリーンヒットというか、

視聴者にとってもプレミアものだし、

同席できる私にとっても最高の思い出となるプレゼント。


小橋が新日本中継の解説席に座るのは初めてのことだし、

ましてや真夏の祭典『G1』を語るのだから堪らない。

隣にいながら、終始、私もワクワクしていた。



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これは放送が終わったあとのツーショット。

やっぱり、青春の握り拳。

コバちゃん、本当にありがとう!

最高に楽しかったよ。


さて、では当日の公式戦の模様と

小橋の解説をリンクさせながら、

書いてみたいと思う。


まず、オフレコで小橋が話し掛けてきた。

事前にかなりG1事情を把握してきたことがわかる。


「後藤選手は好調だったのに残念ですよ。

彼みたいなタイプは好きだから見たかったねえ。

あと天山選手…今日は半分、天山の応援に来たようなものだから」


小橋の言う通り、小橋と天山はいい関係。

対戦したのはノアの日本武道館で一度だけ。

カードは、小橋&伊藤vs天山&岡田カズチカ。

試合は若手時代の岡田を小橋が剛腕で仕留めている。


ただ、小橋と天山の関係はもっと昔まで遡る。

1995年の1・4東京ドームに凱旋して以来、

大ブレークし旋風を巻き起こした天山。


その当時、たまたま天山は某有名デパートの

食料品売り場で小橋の姿を見かけた。

天山にとって、小橋は憧れの存在でもあった。

すぐに駆け寄った天山は、業界の先輩に

礼儀正しく挨拶をした。


テレビでは、天山の荒くれファイトを見ていた小橋だけに、

あまりに礼儀正しく腰の低いプライベートの天山に少し驚いた。

そのギャップに驚くと同時に、大いに好感をもった。


互いに電話番号の交換もしたが、

そのとき小橋が口にした一言は天山の宝物になった。


「お互い団体は違っても、がんばろう!

そして、いつか試合ができる日がくるといいよね」


それ以降、小橋も天山を特別な目で見るようになったのだ。


また、後藤の欠場によって、

後藤vsデイビーボーイ・スミスJrが消滅したのも残念で仕方のない様子。

小橋はオヤジさんのスミスを体感している。

それだけに興味津々だったらしく、

私にスミスJrのことをいろいろと聞いてきた。


とにかく、試合と試合の合間のオフレコタイムで

小橋が私に質問をぶつけてくるのが、

私には楽しかった。


一方、小橋からすれば、

興味があることは何でも知りたい、

という彼本来の性格からくる言動。

やはり今でもプロレスが大好きだし、

とくに最前列で見る初めての新日本に

大いに刺激を受けたのだろう。


そういえば、試合実況に入る前に、

「チャンピオン・カーニバルで闘っていた小橋さんは、

当時、G1クライマックスを意識していましたか?」

と村田アナが振ると、小橋はストレートに答えている。


「それは意識しましたよね。

どちらも過酷な日程で過酷なリーグ戦を闘っていくわけですから」


そこで、私が突っ込むと意外な答えが返ってきた。


「やっぱり、四天王と三銃士ということで、

G1でも闘魂三銃士を意識していましたか?」


「三銃士というのは、自分より先輩なんですよ。

だからむしろ同い年の佐々木健介選手とか、

飯塚選手を意識していましたね」


健介はわかるとして、飯塚が出たー!

もちろん、正統派時代の飯塚の話。

そんな話をしたそばから、第1試合に出場した飯塚が

アイアンフィンガーをはめて荒れ狂っていた(笑)。


カール・アンダーソンvs永田裕志戦では、

アンダーソンを「いい選手ですね」と誉め、

かつてGHC王者として永田の挑戦を受けた思い出も語った。


「ミスターIWGPなのに堂々と(ノアに)乗り込んできた。

それに永田選手は頭がいい」


愛弟子であるKENTAの親友でもある柴田勝頼が

KENTA直伝のgo 2 sleepでデヴィットを仕留めると、

さすがに驚きの声。


それにしても、小橋の眼前でgo 2 sleepとは、

あまりに劇的シチュエーションだった。


そして、この日のハイライトともいうべき

オカダ・カズチカvs石井智宏のCHAOS対決。


「自分が対戦したのはレインメーカーになる前ですからね。

もう、あのときとは目が違う。

目を見ればわかりますから。

今のオカダ選手は自信にあふれています」


そんな小橋の声を重く聞きながら観た試合。

またまた石井がやってのけた。

まるでIWGPヘビー級選手権でもおかしくはないような試合内容。


オカダの狙いをことごとく封じていく石井。

レインメーカーを頭突きで迎撃し、

さらにレインメーカーに合わせた掟破りのカウンターラりアット。

トドメとばかり走りこんで渾身のラりアット。


石井が獲ったか!?

館内が大爆発。


その後も、オカダのドロップキックを二度自爆させるなど、

石井の動きは冴えまくる。

結局、レインメーカーを食って3カウントを聞いたものの、

引き揚げる石井に向かって、オカダも外道も拍手を送る。


大阪での柴田戦に続き、

またも石井が最大級のインパクトを残してみせた。


両者の身長差は20㎝以上ある。

だが、剛腕・小橋が石井のラりアットを絶賛した。


「ラりアットは体の大きさとか身長じゃないんですよ。

その1発にいかに気持ちがこもっているか。

石井選手のラりアットはいいですね」


棚橋弘至vsランス・アーチャーでは、

棚橋の”愛の握り拳”が出るかがポイント。

しっかりと、小橋に向かって握り拳を作った棚橋が

ハイフライフローを決めた。


ただし、試合は大苦戦。

ランスのパワーに押されっぱなしのシーンもあった。

そこでも、小橋は何度も主張した。


「相手が大きいからといって、逃げたりすかしたりはだめです。

真っ向からいかないと…真っ向勝負ですよ!」


小橋のプロレス感がストレートに響いてくる言葉だった。


セミの鈴木みのるvsシェルトン・Ⅹ・ベンジャミンの鈴木軍対決。

小橋と同期であり、かつてGHC王座をかけて闘ったライバルの登場。

小橋が改めて鈴木みのるを語る。


「世界一性格が悪いとか言われてますけど、

リングで闘った彼は、そういうものを超えた存在ですよ。

何度かやりましたけど、素晴らしい選手です」


メインは真壁刀義vs小島聡の真っ向肉体対決。

かつてノアマットで小橋と闘い名前をあげた真壁、

そして小橋引退により唯一無二の剛腕継承者となった小島。


2人とも肉体的コンディションは決してよくない。

小島は右肩にテーピング、真壁は腰と両ふくらはぎにテーピング。

しかし、怪我を微塵も感じさせない全力ファイト。


まさに小橋好みの真っ向勝負で、

真壁のキングコングニードロップで決着がついたあと、

「いい試合でしたね」と小橋もしみじみ。


最後に総評として、

「新日本プロレスのG1を初めて間近に見て、

こう話を振られても、試合に見入ってしまっているから、

すぐに言葉が出てこなくてすいません(笑)。

自分の知らない新しい世代の選手も見られて、

本当におもしろかったし、力が入りましたね」

と語っていた。


小橋の解説を隣席でオンだけではなく、

オフレコでも聞けるという最高のシチュエーション、

特等席を用意してもらい、私も本当に楽しかった。


また、同時に改めて感じたこと。

小橋建太という男は、

私が初めて彼と出会った26年前となにも変わっていない。

プロレスに対するピュアな気持ちに変わりもなければ、

飾ることのない人間性にも、まったく変わりがない。


小橋建太とは、レジェンドだとかそういう言葉でも簡単にくくれない、

プロレス界における人間国宝級の存在である。