新日本プロレスの6・22大阪大会(DOMINION)では、

テレビ解説ローテーションの都合で、

私は放送席メンバーには入っていなかった。


ところが、大会が近づくにつれて、

異常に盛り上がっているムードが嫌でも伝わってくる。

特に、前売りチケットが凄まじい勢いで伸びているというのだ。


これは一丁、大阪まで足を延ばしてみよう。

自費で行く――こういう観念がいけない。

フリ―とはいえ一応、自分の会社を構えているのだから、

会社の経費で行くと考えれば、ごく普通のこと。

なにもケチる必要などないのだ(笑)。


テレビ解説があれば、午後3時前には会場入りするところだが、

今回は余裕たっぷりで(?)、午後4時20分にボディーメーカーコロシアムへ。


まず、バックステージの倉庫のほうへ行ってみると、

テレ朝動画中西ランド』のスタッフがウォーミングアップ中の

中西に張り付いてカメラを回していた。


本日、中西はタイトルマッチを控えている。

復帰から8ヵ月を経て、NWA世界王座へチャレンジ。

いくら米国インディー団体にまで落ち込んだ組織とはいえ、

”NWA”という響きには未だに特別なものを感じる。


中西のシングル王座への挑戦自体は約3年ぶり。

2010年2月、当時のIWGP王者・中邑真輔に挑戦して以来となる。


中西にしてみれば、アメリカンスタイル全開の

ロブ・コンウェイは苦手なタイプとなるだろう。

正直、ベルト奪取は難しいと私も思っていた。


だから、私が観たいのは試合内容。

苦手なタイプを相手に試合を成立させ、そのうえで

中西らしい、破天荒な野人ぶりを見せつけることができるか?


それができれば、もう大満足だし、

中西、完全復活への手応えも感じることができる。


盟友・永田によれば、中西の緊張度は半端なものではなく、

前日は一睡もできなかったらしい。

中西らしいなとも思うし、やはり彼の覚悟を感じる。


再びトップ戦線に返り咲くためにも、

ここで観客やマスコミ、他の選手、フロント陣に

「オッ!」と思わせなければいけない。

今の異常に層が分厚い新日本にあって、

チャンスはそうそう転がってはいないからだ。


その一方で、中西は幸せ者だと思う。

中西のベルト挑戦を密着取材している

「中西ランド」のスタッフ陣は

決してプロレスに詳しいわけではない。


むしろ、プロレス素人といっていいのかもしれない。

それなのに、これほどまで熱心に取り組んでいるのは、

中西学の人柄にすっかり魅せられてしまったから。


不器用だけど、実直で、何事にも一生懸命。

お世話になった人には十二分な気配りをする。

その反面、あの肉体だから常人とはかけ離れた面に驚かされることもたびたび。

ともかく番組スタッフが中西に注ぐ愛情(?)には、

ちょっとホロリとさせられるのだ。


そういう徹底取材ぶりを試合前から見ていたし、

私もコメントを求められたりしたものだから、

「今日は中西を応援しなきゃ!」という思いが一層強くなり、

こちらまで妙に緊張してドキドキしてきた(笑)。


さて、「中西ランド」にお付き合いしてから、

会場に戻ってみると、大変な状況になっていることにようやく気がついた。

第0試合を経て、第1試合がスタートしたころには場内がギッシリ。


1年前の6・16大阪大会(メイン=オカダvs棚橋)の入りは、

2002年6月以来、10年ぶりの大入り満員と言われた。

そのときを遥かに上回っている。


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これは体育館の北東側から南西方向を撮影したもの。

いつもなら、南側に入場ゲートと花道を作る。

だから当然のように南側の2階席はクローズされている。

ところが、見ての通りで南側の2階席にビジョンが設置されているものの、

その周囲の席も超満員で埋まっている。


さらに、この写真では分かりにくいかもしれないが、

リングから遠い北と南には久しぶりにセットバックが組まれた。

あとで、菅林直樹社長がコメントしたところによると、

これだけのセットバックを組んだのは、12年半ぶりとのこと。


2000年12月14日の大阪大会。

メインは、新日本vs全日本のタッグ頂上対決。

永田&飯塚(G1タッグリーグ優勝チーム)vs川田&渕(最強タッグ準優勝チーム)

の顔合わせで、結果は30分ドロー。

セミには夢の師弟初対決(藤波vs金本)が組まれた。


新日本vs全日本の対抗戦で勢いづいていた、

そのときの大会以来だという。

ちなみに、当時のカード編成は永田が教えてくれた。

さすが、闘うデータマシンこと永田の記憶力は抜群なのだ(笑)。


もちろん、空前の客入りに比例するかのように、

館内は第1試合のIWGPジュニアタッグ選手権から大爆発。

かつてのAPOLLO55vsゴールデン☆ラヴァ―ズのごとく

名勝負数え唄の様相も呈してきたフォーエバーフーリガンズvs

タイムスプリッターズだが、KUSHIDAがフォールを奪われ、

またしてもKUSHIDA&アレックス・シェリーは涙を呑んだ。


2人にとっては試練だろう。

先のスーパージュニアでⅤ候補に挙げられながら、

決勝トーナメント(ベスト4)にも残れなかったKUSHIDA。

一方、優勝戦進出を果たしながら一歩及ばず、

デヴィットにシングル3連敗を喫したシェリー。


ただ、ここで落ち込むことなく進化を続けていけば、

必ず結果はついてくると思う。

私見でいくと、タイムスプリッターズのチーム力は、

すでにモーターシティ・マシンガンズ(シェリー&クリス・セイビン)

を超えている部分もあるのではないか。


もうひとつ、シェリーに関して、まだファンに伝わっていない部分がある。

シェリーはもともと空中戦ファイターではない。

相手と密着して切り返し切り返しのレスリングの攻防…

いわゆる”チェーンレスリング”をもっとも得意とする本格派ファイタ―。


だから、スーパージュニア公式戦でもその片鱗を垣間見せた。

率直なところ、シェリーのレスリングテクニックに対応できた選手は、

ライガーとデヴィットだけだったように思う。


また、新日本が大好きだというシェリーは、

試合前のリング上でヤングライオンたちに、

チェーンレスリングの手ほどきをしている。


KUSHIDAもレスリングにこだわりを持っているからこそ、

シェリーのことを心底リスペクトし、

最高のパートナーだと言いきることができるのだ。


今後、シェリーの試合を観戦するときは、

派手なパフォーマンスだけではなく、

レスリングの攻防にもぜひ注目してもらいたい。


では、先述したNWA世界ヘビー級選手権。

試合が成立し得るか、正直不安でいっぱいだった。

しかし、両者の持ち味が発揮される好勝負となった。


中西が復調してきたこともあるが、コンウェイは想像以上。

前回、4・7両国での小島戦を見たときは、

普通にレスリングのできる選手であり、

米マットによくいる平均的な選手という印象。


だが、中西戦では中西のパワーに見事な受身をとり、

また超ハードヒットな中西の逆水平チョップにも

しっかりと耐えてみせた。


かつてブロック・レスナーがあまりに中西のチョップが痛いので

思わず背中を向けてしまったこともあったが(苦笑)、

ロブウェイはしっかりと受け止めた。


これは拾いものというか、アメリカンスタイルの好レスラーだ。

試合を観ながら、あのリック・ル―ドがオーバーラップしてきた。

こういう選手が1人、G1クライマックスにエントリーしたら

おもしろいだろうなあ、と瞬間的に思った。


ロブウェイも株を上げたし、中西もいまでき得るものを見せたのではないか?

その中で、私が「オッ!?」と思ったのは、最後のシーン。

中西が「上からドン」を狙ったところで、NWA会長が介入の構えを見せた。

結局、そこで気をとられた中西が、ロブウェイのエゴ・トリップに敗れたのだが、

そのとき中西はサッとトップロープをまたいでエプロンに降り立った。


中西はこういうときのバランスが抜群にいい。

トップロープに立って微動だにしないシーンもよく見るが、

こういう動きをスーパーヘビーの中西が

さりげなくやってしまうところが凄いのだ。

結果的にエプロンに降りて墓穴を掘った格好だが、

中西の意外な一面をまた発見した。


第5試合のスペシャルタッグマッチ

(中邑&石井vs鈴木&ベンジャミン)では、

またまた館内が爆発した。


鈴木と石井の負けず嫌いの感情のぶつかり合いは

もう止められないところまできた。


鈴木軍とCHAOSの抗争がスタートしたとき、

いつか必ず衝突すると予想していたものの、

ついに「時は来た!」という感覚。


7・20秋田での一騎打ちは

ある意味、裏メインといっていいかもしれない。


一方、メキシコCMLLでインターコンチのベルトを失った中邑だが、

そのショックを微塵も感じさせないパフォーマンスを披露。

こちらは、ベンジャミンとガッチリと噛み合う。

タイトル戦のときより攻防が洗練され、

さらに噛み合ってきた。


ベンジャミンがもっと新日本マットの闘いに慣れてきたら、

本当の意味で中邑のライバルになり得るのではないか?


結果的にベンジャミンのペイダ―トに敗れても、

試合後の中邑の表情は心なしか生き生きしていた。

むしろ、大好きなメキシコでリフレッシュしてきた感もある。


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7・20秋田ではラ・ソンブラと一騎打ち。

もし、ソンブラがベルトを防衛して来日すれば、

リターンマッチになる可能性が高い。


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休憩明けには突然、桜庭和志が登場。

復帰の挨拶とともに名指しで永田を呼びこんだ。

握手はしないが、指切りげんまん。

その後、桜庭は敬礼ポーズも披露。


これにて、桜庭の地元・秋田での一騎打ちが決定。

なお、桜庭は秋田で試合をするのは初めてだという。

プロレスラー(格闘家)生活20年にして初の地元凱旋試合となる。


この一戦も裏メイン…というより

メインイベントを食ってしまう可能性もあるだろう。


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休憩明けの第6試合は、内藤哲也の復帰戦。

すでに休憩前の第5試合(中邑&石井vs鈴木&ベンジャミン)

の途中から入場口前の通路で待機していた内藤。


8ヵ月ぶりのリング。

右膝前十字靭帯断裂の大怪我を克服しての復帰戦である。


ふだん、人懐っこい笑みを浮かべて話し掛けてくる内藤だが、

緊張の様子を目の当たりにして声は掛けずに、

カーテンの隙間からシャッターを押した。


それに気がついた内藤が笑顔で近づいてきた。


「緊張してます。それに足のことを考えると怖いです、正直いって。

また怪我をするんじゃないかって…」


「でも、リングに上がってしまえば、それも吹っ飛ぶでしょ?」


「ええ、そう思いますけど…イチバン怖いのはリングインの瞬間ですね。

自分は大きくジャンプしてリングに立つじゃないですか?

その着地がイチバン怖いですね、いまは……」


そうか、たしかに内藤が右膝を壊した瞬間というのは、

G1公式戦のルーシュ戦の試合中、

ルーシュの仕掛けたジャーマンス―プレックスを着地したとき。


あそこで、右膝の靭帯が切れたのだ。


ハーフマスクを着用してリングに向かった内藤。

いきなりロープを掴みそこねた。

だが落ち着いてコーナーへ上る。

そして大きくジャンプしてリングイン。


大丈夫。

第一歩はしっかりと踏みしめた。

相手はもちろん、因縁深き高橋裕二郎。


15分余の試合。

どうも、リズムが合わない。

天才児・内藤をして、8ヵ月のブランクは大きいのか?

1発1発の技のタイミングが微妙にずれて、的確性に欠いている。


いつもの内藤のキレ味ではないから、

裕二郎も少しやりにくそうだ。

相手の右膝をいたぶるヒールの裕二郎と、

正統派のテクニックを持つ裕二郎の顔が半分半分。


この際、裕二郎にはどちらかの顔で押し通してほしかった。

結局、内藤がスターダストプレスを決めて復帰戦を勝利で飾った。


「まあ、こんな試合ですよ。凡戦ですよ。

でも今日現在の俺の精いっぱいなんで。

こんな試合でも、ちゃんと声を出して(応援して)くれた

大阪のお客さんに、すげぇ―感謝してます!」


内藤本人が一番よく分かっていた。

「凡戦」だと言い切った。

その通りだろう。

他の試合と比較すれば、一目瞭然。


怖さもあったし、葛藤もあったろうし、

思い通りに動けない自分も感じた。

それを凡戦と言えるだけの冷静さも持ち合わせていた。


だからこそ、内藤への期待度は膨らむ。

まずは、NEVER無差別級王座、

その先にG1クライマックス、

さらに最高峰のIWGPヘビー級ベルトへ。


これからまたひとつひとつ段階を踏んで、

頂点を目指す男だからこそ、

私も辛口になる。

一言で評すなら、しょっぱかった。


そう書いた以上、今年下半期から始まるであろう

内藤の成り上がりぶりを

私はしっかりと見届けていきたい。


哲ちゃん、期待しているぞ!


そして有無を言わせぬ試合を迎える。

後藤洋央紀vs柴田勝頼。

5・3福岡では両者KOに終わった。

完全燃焼ながら、不完全燃焼の結末。


その決着戦。

やはり有無を言わせぬゴツゴツの試合。

2人の表情には闘志と気迫が漂いながら、喜びも感じる。


「お前と会えてよかった!」


これだけプライベートで強い絆を持ちつつ、

ストーリーを紡いできた闘いは過去になかった。


そういえば、試合後、テレ朝の野上アナウンサーに

「柴田選手にとって、後藤洋央紀という存在は?」と

問われた柴田はこう答えた。


「同級生ですよ」


以前、後藤も柴田との初遭遇を前にこう言った。


「あいつのすべてを受け止められるのは俺しかいない。

危険かもしれないけど、すべて受け止めてやる!」


古巣・新日本に喧嘩を売りに来ながら、

なぜか試合を重ねるたびに溜まっていく

フラストレーションとストレス。


柴田の表情を見れば、後藤には理解できた。

今回は、どちらの土俵に引っ張りこんだわけでも、

どちらの土俵に踏み込んでいったわけでもない。


同級生同士が、自然に反応した。

起こるべくして化学反応が起こった。

昭和の新日本も平成の新日本もない。

闘いだけがあった。


柴田が真正面から頭突きを打ち込んだ。

ゴ~ン!

鈍い鐘の音のように頭蓋骨同士の衝突音が響いた。


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魅せつけられたという他はない。

共同インタビューを終えて、引き揚げる柴田を呼びとめた。

どちらからともなく、ガッチリと力強い握手。


「グッドマッチ! 最高ですよ」


「ありがとうございます。

ようやくできました。

新日本に上がって、ようやく自分のプロレスができました!」


「まだまだ、何度でも後藤戦が観たいよ!」


「ハイ、何度でも!

毎回、後藤でもいいです。

毎回やって名勝負数え唄を作ってやりたい」


「他の選手たちも刺激を受けるでしょう?」


「そうだといいですよね!」


新日本マットにカムバックして以来、

喜色満面の柴田を初めて見た。

その横をこれまた笑顔の桜庭が、

ぴょこんとお辞儀して通り過ぎていった。


桜庭はすでに、1・4東京ドーム(中邑戦)で、

ひとつの答えを示している。

今回、ついに柴田が答えを出した。


彼ら2人の新日マット参戦は正解だった。

当事者、関係者、ファンと、みんなが胸を張ってそう言えるだろう。

私も、胸を張ってそう断言したい。


第7試合の余韻が残っていたせいか、

セミファイナル(棚橋弘至vsプリンス・デヴィット)は

観客がなかなか乗ってこない。

皮肉なことに、場内がヒ―トし始めたのは、

バレット・クラブのメンバーが棚橋に手を出してから。


バレット・クラブの戦法は、賛否両論というより、

明らかに否の意見が多い。

先のスーパーJrでも、IWGPジュニア王者であるデヴィットは

誰の目から見てもⅤ本命なのに、そこにヘビー級の3選手が加担する。


なんとも理不尽すぎる光景、

目に余るセコンドの介入ぶりだった。

特に、ジュニアの世界は正々堂々とピュアな闘い

という認識が出来上がってしまっているだけに

その思いも強くなる。


ただし、見方を変えれば、それだけバレット・クラブの悪党ぶりが

1シリーズを消化しただけで浸透したとも言える。

これは狙い通りなのかもしれない。


ともかく、相手がジュニア戦士ではなく、

新日本のエース、元・絶対王者の棚橋だからこそ、

なんとなく介入もアリなのかな、と感じてしまうところもあった。

こちらの感覚が慣れによって麻痺してしまったのだろうか?


ただ、外国人選手特有の身体能力の高さと体力で、

デヴィットがパワー面で棚橋に一歩も引いていないことは事実だった。


さて、棚橋戦の勝利によって、7・20秋田ではオカダに挑むデヴィット。

プロレスの感性やアドリブでは遜色のない両者であるが、

体格差だけは歴然としている。


そうなると、またもバレット・クラブの介入がひとつのポイント。

いや、むしろバレット・クラブの介入があったほうが

勝負はスリリングな内容になるかもしれない。

かといって、介入が決定打になって王座移動などという事態が起これば、

ここ数年の新日本マットでは稀に見るバッドエンドとなる。


いかんいかん、どうもいつの間にやら

バレット・クラブの介入に慣れてそれをを容認している自分がいる。

1対1ならどんな卑劣な戦法もありだと思うが、

やはり試合権利のないセコンドの介入は絶対NGだろう。


4時間におよぶロングラン興行。

後半はシングルマッチ4連戦。

さすがにファンも疲れてきたろうと思いきや、

メインでも会場は大爆発した。


私が最初に興味津々に感じたのは、

真壁刀義の入場シーンだった。


まず、特別立会人のスタン・ハンセンがリングに上がった。

次に挑戦者・真壁の入場。

テーマ曲はもちろん、レッド・ツェッペリンの『移民の歌』だ。


ハンセンにとって親友であり唯一無二のパートナーであった

故ブルーザー・ブロディのテーマ曲。

その曲で、ブロディのトレードマークであるチェーンを

同じように携えて入場してきた真壁。


いったい、ハンセンはどんな気持ちで

真壁の入場を待ちうけていたのか?

とっくにリングを去ったいま、特別な感傷など沸き起こらないのか?

それとも、これから超獣コンビで大暴れするような錯覚にでも陥ったのか?


瞬時に、そんなことを考えていた。

同時に、真壁には舐められてはほしくないと思った。

ブロディと真壁では、ふた回りは体格が違う。

真壁のフィニッシュはこれまたブロディを意識した

キングコング・ニードロップ。

さらに、ラりアットも多用する。


ハンセンには、ラりアットは一撃で仕留めるものという持論がある。

「自分の技はラりアットだが、他の選手が使うのものはクローズラインだ」

という意味のことも以前言っていた。


私は英語が得意ではないし、

大会終了後、ハンセンと会話する機会もなかったが、

想像するに、真壁が舐められることはなかったと思う。


むしろ、ハンセンの目には

真壁刀義は素晴らしいレスラーと映ったのではないだろうか?


まず、入場してくる際の殺気だった表情がよかった。

入場のパフォーマンスなんて考えたこともない、という真壁。

入場の花道、特設ステージなどがない分だけ、

むしろ何もしないシンプルな真壁の入場は輝いて見えた。


その顔だけで、覚悟が伝わってくるのだ。


真壁はいわゆる昭和気質のレスラーだと言われる。

それは試合に関してもいえること。

かつて、闘魂三銃士以降のレスラーたちは、

みんなラりアットプロレスであり、

気迫とラりアットで勝負する長州力の物真似と揶揄された時代があった。


健介、天山、小島らがそう称されていたのだ。

しかし、やがてみんながそれぞれに個性を作りだした。

いま、彼らのことをラりアットプロレスと称する者はどこにもいない。


そんな中、真壁はまた一味違うタイプ。

彼もまたラりアットプロレスの継承者だと思う。

ただし、そこにマサ斎藤の要素も入ってくる。


それだけなら、昭和の大御所たちのコピーとなってしまうが、

彼にはオリジナルの武器が2つある。

誰にも真似のできない口達者ぶりと、

あのファイト内容と体型からは信じられないような

美しいブリッジで披露するス―プレックス。


「生きざまを見せてやる」


「本物のプロレスを見せてやる」


その宣言通りに、真壁プロレスを押し通したうえで、

最後の最後に決めた見事なドラゴン・ス―プレックス。

3カウントが入ってもおかしくはないタイミングだった。

もしレフェリーがカウント3を入れていたら、

場内の声援は7対3で真壁を支持していたわけだから、

大ハッピーエンドに終わっていたことだろう。


正直、この2~3年、人気の上昇に反比例して、

真壁の試合内容は今一つだったと思う。

古傷の両ふくらはぎ、首の状態がどうしても試合に影響していた。


だが、終わってみれば、真壁刀義のベストバウトと言っていい内容。

敗れても、真壁株が上昇し、価値観が落ちない試合だったと思うのだ。


一方の王者オカダ・カズチカ。

やはり、オカダは素晴らしいレスラーだった。

真壁の場合、他の選手とは若干間が違う。


じっくり間をとって、1発1発をしっかりと決めていく。

この長い間に焦れてしまうと、試合がギクシャクしてくる。

しかし、オカダは真壁の間を掴んで、

その間に合わせるように試合を展開した。


どんな相手のどんな間にも対応できる。

驚異的な王者である。

おそらく、それによって真壁も自分の最高のパフォーマンスを

試合の中で演出することができたのではないか?


つまり、真壁にとって、ものすごく闘いやすい相手だったということ。

口にこそ出さないものの、オカダがただものではないことを

イチバン肌で感じ取っていたのも真壁だろう。


挑戦者の最高の持ち味を引き出す闘い方を見せたうえで、

最後はレインメーカーで仕留める。

オカダは、本物の王者。


かくして、戦前、両雄が言っていたセリフは、

どちらも現実のものとなった。


本物が見せるプロレス(オカダ)vs本物のプロレス(真壁)。

空前の観客動員を記録した大阪大会の

メインイベントを飾るに相応しい名勝負であった。


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■新日本プロレス「KIZUNA ROAD」最終戦
7月20日(土)秋田・秋田市立体育館 開始17:00

<第9試合 IWGPヘビー級選手権60分1本勝負>
 [王者]オカダ・カズチカvsプリンス・デヴィット[挑戦者]

 ※王者は3度目の防衛戦

<第8試合 桜庭和志復帰戦30分1本勝負>
 桜庭和志vs永田裕志

<第7試合 30分1本勝負>
 後藤洋央紀vs柴田勝頼

<第6試合 スペシャル8人タッグマッチ30分1本勝負>
 棚橋弘至、真壁刀義、獣神サンダー・ライガー、キャプテン・ニュージャパンvs
 “ザ・マシンガン”カール・アンダーソン、テリブレ、タマ・トンガ、バッドラック・ファレ

<第5試合 スペシャルシングルマッチ30分1本勝負>
 中邑 真輔vsラ・ソンブラ(CMLL)

<第4試合 NEVER無差別級選手権60分1本勝負>
 [王者]田中将斗vs内藤哲也[挑戦者]

 ※王者は4度目の防衛戦

<第3試合 IWGPタッグ選手権60分1本勝負>
 [王者]天山広吉、小島 聡vs矢野 通、飯塚高史[挑戦者]
 ※王者組は2度目の防衛戦

<第2試合 スペシャルシングルマッチ30分1本勝負>
 鈴木 みのるvs石井智宏

<第1試合 IWGPジュニアタッグ選手権60分1本勝負>
[王者]ロッキー・ロメロ、アレックス・コズロフvsTAKAみちのく、タイチ[挑戦者]
※王者組は2度目の防衛戦

<第0試合 20分1本勝負>
中西 学、本間朋晃、タイガーマスク、KUSHIDAvs
高橋裕二郎、YOSHI-HASHI、邪道、外道


以上のように、7・20秋田大会でも、両国国技館クラスのカードが組まれた。

ひとつ気合を入れて、次はテレビ放送席で見届けてきたい!