6月2日、日曜日の午後、福島市へ向かった。

仕事ではないし、観光でもない。


プロレスが大好きで、

私のことを待ってくれている人がいるから行った。


新幹線を降りて、西口改札を出ると、

Sクンが出迎えに来てくれていた。

大学時代の運動部の1学年後輩。

昔から温厚そのものといった性格のSクン。

学生時代からトンパチ全開だった(笑)私とは、

180度性格が違う。


それでも比較的仲良く付き合ってきたのは、

やっぱり彼もプロレス・ファンだったからだ。


「凄い人出でビックリしましたよ。

昨日、今日と”東北六魂祭”を福島でやっているんです。

これはちょっと日にちを間違えたかなあ…とも思ったんですけど」


2年前の3月に起こった東日本大震災と福島第1原発事故。

そこから復興の思いを込めて、東北6県が結集した六魂祭も3年目。

3回目は、ここ福島で6月1日~2日に開催された。

青森ねぶた祭、盛岡さんさ踊り、仙台すずめ踊り、秋田竿燈まつり、

山形花笠まつり、福島わらじまつりが競演し、1000人の踊り手が

国道4号を踊り歩く。


福島市内は計25万人の人出で賑わった。


…と、あくまでこれは現地に到着して初めて知った話。

私自身にはあまりピンとこない。


今回、プロデューサーのように動いてくれたのが、

このSクンなのだが、彼もある意味で被災者なのかもしれない。

福島で水産会社を営んでいた父の跡を継いで会社を引っ張っていたが、

原発事故は当然のように地元の水産業に大ダメージを与えた。


彼は自分の父が設立した会社から身を引いて、

家族で埼玉県に引っ越してきた。

埼玉には成人した長男が住んでいるマンションがある。

今は、福島でまったく畑の違う仕事に就きながら、

埼玉⇔福島を往復する生活。


だが、その新生活を楽しんでいるようにさえ見える。

昔と変わらぬ笑顔と、人の悪口や愚痴を言わない性格。

ポジティブであると同時に、羨ましいぐらいお気楽な男でもある(笑)。


では、本題。

Sクンがプロデュースしてくれたのは、

私のトークイベントだった。


最初に話を聞いたのは、昨年の秋口だったと記憶している。


「最近、僕がよく行く福島市内のロック&プロレスバーがあるんですけど、

そこのマスターはプロレスが大好きなんです。

でも、マスターは被災者で、被災してからバーを始めた。

僕の先輩が金沢さんだと知ると、

『福島に来ることがあったらぜひ立ち寄ってください!』と。

店には金沢さんの本も2冊ちゃんと備えてありましたよ」


そういう内容のメールをもらったとき、

私はかなり安易に返答した。


「もし店の準備が可能ならトークイベントでもやろうか?

もちろん、ノーギャラでいいから」


安易は安易なのだが、

なにかをしたい!と思ったことは確か。

人助けだのボランティアだの、

そんな偉そうな感覚は、ハナから持ち合わせてはいない。


自分を待ってくれている人、

しかもプロレスの大好きな人がそう言ってくれるなら、

行くべきだろう。


ところが、12月中旬に私の父が怪我を負って入院。

それ以降、さまざまな病気を併発し、2ヵ月の入院生活を経て、

千葉の自宅に戻り、介護を受けることになった。

それもあって仕事もセーブしてきたし、

私も泊りがけで介護を手伝い、一時心身ともに疲れきっていた。


その父も4月中旬から送迎リハビリに通うようになり、

徐々に回復してきた。


そのタイミングでSクンからまた連絡をもらったので、

6月2日でOKの返答をしたのだ。


正直いって、細かいことはなにも気にしていなかった。

交通費と宿泊代はプロデュースしたSクンが出してくれるという。

私はもちろん、ノーギャラでいいと伝えておいた。

お店とオーナー(マスター)に負担を掛けるわけにはいかない。


昨年4月5日にオープンしたロック&プロレスバー

『the DAY OF RAGE』(以下、デイ・オブ・レイジ)は、

福島市の繁華街のど真ん中、パセオ通りにあった。


店内はちょうど手ごろな広さであり、

壁にはロックミュージシャン(主にヘビメタ系)の

ポスター類がギッシリと貼られており、

相当数のCD、DVDが用意されている。


そして、ところどころにプロレス系のポスターも。

ひときわ目を引いたのが新日本プロレスの

旗揚げオープニングシリーズ(1972年3月)の

ポスターが貼られていたこと。


普段は店内でガンガンにロックが流れつつ、

ビジョンでは猪木vsマサ斎藤の巌流島決戦が流れていたりと、

そこがまた魅力的だとSクンは言っていた。


初めてお会いしたオーナー(マスター)は、

石井紀明さんという方で私とほぼ同年代。

二児の父親でもあるという。


この店をオープンさせる前は、社会福祉協議会の職員という

かなりかたい職業に従事していたという。


もともと福島県双葉町に住居を構えていたが、

原発の影響で立ち入り禁止区域とされ、

思い切って福島市に移り住んだ。


仕事に関しても、震災の影響により双葉町役場の各部署は

避難先のさいたま市に移転した。

その際に石井さんは本人の意思に反して

さまざまなトラブルに巻き込まれる格好となり、

不本意ながら退職せざるを得ない結果となった。


納得がいくわけもない。

それでも石井さんはめげることがなかった。

それなら自分の好きなことをやってみよう。

その結果が、このロック&プロレスバーの開店。


「福島というと、みなさん原発のことばかり思い浮かべると思うんですけど、

私の自宅があった双葉町は海岸から5㎞ほどの距離で、

海岸から2㎞ぐらいは津波が来て家屋を失ったり、

亡くなった人たちもいるんですよ。

私の自宅は完全に立ち入り禁止区域になっています。

やっぱりお年寄りの方なんかは自分の家を捨てきれないんですよね。

だけど、この2年以上、国はなんの手も打ってくれないわけだし、

放置されてしまうと、とても住める状態ではなくなるんです。

一時帰宅の許可が出たときとか、もう家の周りの木の枝が伸びて

とんでもない状況になっているから、自分で手入れしようと思っても

とても追いつかないんです」


以前、宮城県在住のプロレスファンである

本郷さん一家から手紙をいただき、

あの震災の日、自宅が倒壊した恐怖の1日の模様を教えていただき、

地震の恐ろしさを実感させられた。


それとはまた別に、自宅が無事であっても帰れない、

自分の家に戻ることのできない辛さ、悲しみというものを、

石井マスターから教えられた。


「でも金沢さん、家が流されなかったからこそ、

私はこの店をやることができたんです。

一時帰宅が許されるたびに、

家から昔のCD、レコード、プロレス関連本を

持ってくることができて。

だからこの店は、自分の部屋をそのまま持ってきた感じ。

ここはお店であって、自分の部屋でもあるんですよ」


そう語る石井マスターの笑顔は素敵だった。

辛い経験を乗り越えて、いま好きなもの、

趣味に囲まれた空間で仕事ができる。

そういう喜びさえ感じた。


それにしても、石井マスターは相当なプロレス者。

本棚にズラリと並んだ書籍類には私の著書も

2冊(『子殺し』、『元・新日本プロレス』あった。


過去に、日本でのビッグマッチどころか、

ロスで開催された『レッスルマニア7』を現地まで観戦に言ったり、

オランダのアムステルダムで開催されたリングス・オランダ大会も

ツアーではなくフリ―で観戦に行ったことがあるという。

こりゃあ、筋金入りだなあ(笑)。


ところで、今回、私のブログではトークイベントの告知を一切していない。

もともと、人を集めようとも思っていないし、

お店の常連客の方たちを相手にやれれば、

それでいいと思っていたからだ。


マスターにしても、そりゃあ私が宣伝して

お客さんが集まったほうが多少なりとも儲かるのだろうが、

マスターにもそんな気はハナからない。


自分を含め、常連客だけで楽しい空間を作りたい。

おそらく、その思いがすべてだったのだと思う。


お店に到着して初めて知ったこと。

いわゆる”投げ銭ライブ”形式だった。

入場料は500円のワンドリンク制。


で、実はこんな感じのチラシが出来上がっていた。

「Gスピリッツ」だと、ちょっとよろしくなかったが、

これならセーフだな(笑)。


オープン一周年特別企画第7弾!

元週刊ゴング編集長、
ワールドプロレスリング並びにサムライTV解説者
金沢克彦氏来福\(^o^)/

「GKのGスピリット・トーク
 闘うプロレスラーたちに敬意を表して」

日時:2013年6月2日㈰ 17時スタート
場所:デイ・オブ・レイジ
料金:投げ銭ライヴ
※限定25名


まあ、そういうわけで、

あえてビルの中の他店が休日にあたる日曜日に行ったイベント。

常連さんたちが、六魂祭という最大のイベントで多忙の最中、

途中入場、途中退場の人も含めて約10名の方に来店いただいた。


石井マスターが「常連の方、それもプロレスを

真っ直ぐに観てくれる人にしか声を掛けなかった」

というとおり、集まったメンバーの平均年齢は

40代半ばぐらいか?

もちろん、男ばっかり(※これはいつもの現象だけど…)。


10人だろうと、50人だろうと、

私のスタンスは変わらない。

とにかくファンに楽しんでもらうだけ。


トークに先立って、いつもの通り、写真撮影は自由、

ただし、録音の禁止、トークの内容をブログ、ツイッター等に

アップするのはNGであることを告げる。

だけど、そういう注意事項がまったく必要のない

客層であることはその場の空気で分かるのものだ。


                   金沢克彦オフィシャルブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈!?」Powered by Ameba


出だしはもはや私の恒例となる(※5・3福岡大会の夜、ご本人にダメ出しを食ったが…)、

バンダナを巻いた外道さんでの登場。

打ち合わせなしなので、戸惑うマスター(※ゴメンナサイ!)。


その後、休憩を10分間を挟んで、

計2時間ノンストップでのトーク。

後半のファンからの質問コーナーでは、

やはり昨年末の藤田vs小川戦騒動の舞台裏、

現在の全日本プロレス(フロント)の混乱ぶりに

関するものが多かった。


休憩中には、サプライズというか私からのプレゼントで、

お客さん全員に私からワンドリンクをおごらせてもらった。

イベント終了後は、自宅からかき集めてきた

なるべくレアな非売品グッズをジャンケン大会でプレゼント。


終了後は、私の著書を持参してくれた人にサインを入れたり、

全員と個別に記念写真を撮ったり、最後まで残ってくれたファン

の方たちと集合写真を撮った。


                金沢克彦オフィシャルブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈!?」Powered by Ameba


なんちゅう男臭い空間じゃあ!

でも、それもまた楽しい(笑)。


その後は有志たちで二次会、三次会へと繰り出す。

ほぼ同年代だし、男だらけなので、もう遠慮なし。

なんとなく、みんな10年来の友人といった感覚になってしまう。


あまりにも、いつものペースで遠慮なく楽しんでいる私に、

ファンの方の1人がこう言った。


「目の前に金沢さんがいること自体が不思議なんですけど、

金沢さんがこういう飾らない面白い人で、

ちよっと意外だなと驚いてる部分と、嬉しい部分もあるんですよ」


「まあ、こんなもんでしょ!

どうってこともない人間なんで」


まったく答えになっていない言葉で返すワタクシ。

店の片づけを済ませ、少し遅れてきたマスターが、

私に封筒を2枚渡してくれた。


1枚は私が皆さんにワンドリンクおごった分のお釣り。

もう1枚の封筒には、投げ銭で集まった分のお金。

つまり、これが私のギャラになる。


そのときは、まったく中身を見ることなくバッグにしまった。

ホテルに戻ってから中身を確認すると、これが驚き。

投げ銭が多いよ。

これだと1人あたま3000円ぐらい出してくれている。


いやはや、申し訳ない。

これは二次会、三次会の飲み会で

きれいサッパリ使うべきだった。


飲み会がお開きになったのは午前1時過ぎ。

郡山市から着てくれたファンはどうやって帰路に就いたのかな?


とにかく、こういう機会を作ってくれたSクンには感謝。

また、石井紀明というカッコいい同年代の大人の男に会えたことにも感謝。

石井マスターは大らかな優しさで他人を包みこんでしまう人物。


被災者でありながらも、限られた条件で自分にはなにができるのか?

それを考えたとき、自分の部屋の空間をそのまま店として、

同じ趣味を持つ人たちに開放するという素晴らしい発想に行きついた人。


マスターの人柄、お客さんの温かさ、お店の明るさに

ぜひ触れてもらいたいと思う。


ロック&プロレスバー

『the DAY OF RAGE』(デイ・オブ・レイジ)


〒960-8034

福島市置賜町7-5 アドニ―ド121ビル 3F

℡.090-4048-0430


追伸:石井マスター、またイベントやりましょう!

   もちろん、ノーギャラで遊びに行きますよ。