『2013チャンピオン・カーニバル』はバーニングの

秋山準が初制覇した。


秋山は本当に強かったし、

抜群に上手かった。


結果が示すように、

明らかに頭ひとつ抜け出ていたように思う。


                   金沢克彦オフィシャルブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈!?」Powered by Ameba


それでいて秋山から外敵という空気を、

特別に感じることもなかった。


これが新日本マットであれば、

鈴木みのる率いる鈴木軍が鬱陶しいまでに、

ギラギラに侵略者としての匂いを振りまくところ。


ところが、なぜか秋山からはそれを感じない。

かといって、その感覚に物足りなさを覚えるわけでもないし、

むしろ自然に映ってしまう。


理由は明白。

キャリア21年のうち8年間を全日本で過ごした秋山。

武藤体制に変わろうとも、全日本は故郷である。

まして、つい最近まで三冠ヘビー級ベルトを巻いていたという

印象と余韻がまだ残っている。


ただし、もっと突き詰めてみると、

現・全日本マットにおいて、

秋山がもっともキャリアを積んだリーダー的存在となるからだろう。


武藤敬司は限定出場という立場をとっているし、

プロ入りしてからのキャリアなら船木のほうが上となるが、

船木はパンクラスで総合格闘技に打ち込んでいた時期が長い。


プロレスの経験値でいくと、

秋山がダントツの存在といっていい。


おそらく、武藤にしたって、

それを認めているから、

秋山中心に回ったチャンカーに関しても、

秋山優勝という結末に関しても、

むしろ当然という思いでいるのではないだろうか?


そこで思い出すのは、2年前のチャンカ―である。

この年、外敵の大物2名がエントリー。

新日本の永田裕志と

ノアの秋山準。


団体の枠を超えて認め合うライバルであり盟友の2人が、

それぞれのホームではなく、互いにアウェーとなるリングに

同時に上がったのは画期的なことだった。


結果は、永田の初出場初優勝。

優勝戦の相手は、伏兵の真田聖也だった。

秋山は公式戦の最終戦で鈴木みのるの

スリーパーに完敗を喫してⅤ戦線から脱落している。


ただ、このときのチャンカ―でも、

武藤は秋山を絶賛していた。


一方、かつての後輩であり、

気心も実力も十分に知り尽くしているはずの永田に対しては、

なぜかテレビ解説でボロカスに批評する(苦笑)。


挙げ句の果てには、

「永田にはオリジナルがないじゃない?

あの敬礼ポーズだって、元はといえば俺のパフォーマンスだし、

あいつのオリジナルって白目だけじゃねーの!?」

と言い出す始末。


まあ、厳密に言うと、額に手をかざす武藤のパフォーマンスも

遡ればハルク・ホーガンからぱくったものなのだが…(笑)。


武藤の永田への口撃は多分に意図的なものもあったろうし、

永田にしても「俺の一番の強敵は放送席の武藤さん!」と

言っていたぐらいだから、それほど互いに遠慮のない関係ともいえる。


ただ、武藤の秋山讃歌は本音だったし、

その証拠に私との雑談中も何度か秋山のことを絶賛していた。


振り返ってみて、2年前の公式戦。

太陽ケアとの30分ドローに始まって、

真田戦、ジョー・ドーリング戦、鈴木戦と

すべてが素晴らしい内容だった。


あれから2年、秋山が相変わらず素晴らしい試合を

披露していたことに変わりはない。

もしそこに何かプラスアルファの変化があったとすれば、

責任感だと思う。


2年前はノア代表として、ノアの看板を背負った

プライドと意地で、チャンカーを闘い抜いた。

今回はバーニングとして、

全日本のリングをホームとする闘い。


しかも、誰よりもキャリア・実績を積んでいて、

もっとも修羅場をくぐってきた男としての責任がある。

だから、2年前以上に秋山の闘い模様は厳しさを増したのではないか?


もっとも、私は今年のチャンカ―は最終戦しか取材していない。

だから、それまでの公式戦に関しては気心の知れた記者仲間に聞いた。

5試合とも充実した内容だったが、なかでも出色なのは、

KENSO戦、船木戦の2試合であり、やはり出場メンバーの中でも

秋山の試合がダントツでよかったと言う。


最終戦の4・29後楽園ホール大会。

会場は超満員札止めの人気に沸いた。

まず、準決勝2試合。

奇しくも、バーニングの両エースvs全日プロ新世代。


潮崎豪vsKAIは潮崎の破壊力ばかりが浮き彫りとなる。

8ヵ月の欠場(肉体改造)を経てジュニアからヘビーに転身したKAIと、

ヘビー級の体をとことん絞り込みバキバキボディを作り上げた潮崎。


潮崎の減量は大成功だろう。

パワーは落ちることなく、スピードが増して、

十八番のチョップもさらにキレと回転が増している。

あっという間に、KAIの胸板は真っ赤に腫れあがり、

内出血を通り越して皮膚が裂け血が滲んできた。


この潮崎の自信に溢れた変貌ぶりを目の当たりにして、

まったく関係のないことが一瞬頭に浮かんだ。


潮崎豪vs田中将斗が見たい!


この一戦がまた実現したら、もの凄い試合となるだろう。


それはともかく、潮崎の首に攻撃の的を絞ったKAIは、

三沢光晴を彷彿させる腕をロックしてのフェースロックで、

元GHC王者の潮崎をタップさせる大金星をあげている。


続いて、秋山vs真田の準決勝。

秋山の攻めは鬼のように厳しかった。

2年前、若さと闘志を剥き出しにして突進してくる真田聖也を

すべて受け止めたうえで倒した秋山。


あのときとは別人だった。

甘ちょろい、魂が入っていないとばかり、

真田の攻撃に怯むことなく頭部狙いの蹴り、膝蹴りを何発も見舞う。


最後はリストクラッチ式エクスプロイダーで終わらせた。


「あれじゃ、2年前のほうがよかった。

プロレスの楽な部分で育ってきてる。

自分のこだわりとかはいいと思うけど、

もっとしんどいことをやらないと」


痛烈なダメだしだった。

無論、真田が2年間を無駄に過ごしてきたわけはない。

それでも、秋山はあえて高いステージからものを言った。


すべては、気持ちが伝わってきたかどうか?

そこの問題なのだろう。

技術云々ではなく、気持ちである。

パフォーマンスよりも弾ける気持ちである。


真田は類い稀な運動神経、身体能力を秘めた男。

ただ、性格的には欲が見えないというか、

どこか茫洋としているところがある。

たとえて言うなら、若いころの武藤のイメージが若干被る。


それから一転し、ファイナルのKAI戦になると、

秋山は同じ土俵で勝負に出た。

一にも二にもKAIから伝わってくるものがあったからだろう。


KAIも真田同様に、素材は抜群の男。

デビュー1年半でジュニアリーグ戦を制覇したときなど、

もうジュニアの次期エースは決まりと思われていた。


ところが、KAIには不運がつきまとったというか、

なぜか廻りあわせが悪かった。

世界ジュニア王座戴冠も時間の問題と思われたころ、

全日本マットのジュニアのトップに君臨したのは、

ノアの天才児こと丸藤正道だった。


チャンスは遠のいた。

デビューから4年以上が過ぎて、

KAIの周囲にはヘビー級転向のプランが持ち上がった。

同時にようやく世界ジュニアを初奪取。

ところが、今度はDDTのケニー・オメガにベルトを奪われた。


ベルトを奪回しなくては、責任を果たさなくてはヘビーには行けない。

またも想像以上の時間が掛かってしまった。

真田が茫洋として掴みどころのない性格なら、

KAIはとにかく真面目でストイックなタイプ。


当時、そういうKAIの生真面目さを買っていたのが鈴木みのるだった。


「特に自分にテーマがないときとか、

地方でKAIなんかと試合やると楽しいんだよね!

あいつ、俺との試合から何かを学ぼうとして向かって来るから。

そうすると、俺も原点に返るというか、昔を思い出したりしてね。

試合だけじゃなくて、練習なんかのときもそうだよ」


胸板から血を滴らせながら向かってくるKAIに

珍しく逆水平チョップを見舞った秋山。

バーニング=引退を控えた小橋建太のことが頭を過ぎったのか?


KAIの攻撃を全身で真っ向から受けとめる。

その代わり、反撃は的確でエグイ。


攻撃に緩急があって、攻防に絶妙の間があって…

しばし秋山準の動きに見とれていた。

その瞬間また関係のない人物の顔が頭に浮かんできた。


川田利明だ!


この緩急、この間、無駄のない攻防、突然のラッシュ。

秋山に川田がオーバーラップした。

正直これは初めてのこと。


だけど、以前なにかのインタビュー記事で読んだか、

旧全日本プロレスの選手と親しい記者に聞いたのか、

こういう話を耳にした(目にした?)ことがある。


「秋山準は、人間的に三沢光晴と小橋建太を

尊敬しているし全面的に信頼している。

ただ、ことリング上になると、

川田のレスリングから大いに学ぶものがあり、

その試合スタイルは勉強になると言っている」

確か、こんな感じの話だったと思う。


川田の上手さは周知の通り。

かつて、全日本マットで川田と初の一騎打ちを行なったあと、

武藤がしみじみとこう言ったことがある。


「プロレスというものが、なにをもって上手いとするのかは分からないよ。

だけど、川田は俺が今までやってきた選手の中でイチバン上手い!」


また、2005年、第15回『G1クライマックス』に川田が初出場。

結果は、準決勝で藤田和之に敗れベスト4に終わったものの、

大会後の打ち上げパーティー会場で、坂口征二相談役が

私にこう話しかけてきた。


「ずっと試合を見てきたけどな、

川田がイチバンいい試合してたよな!?

隙がないし、無駄がないし、説得力があるんだよ。

相手をカバー(フォール)するときも、初めは片エビで行くんだけど、

もう一方の足が目の前にあったら両足を掴んで3カウントを狙うだろ?

そういう細かいところにも必死さが見えるんだよね。

ああいうところを、ウチの選手も見習うべきだよ」


確かに、その通りだと思ったし、

私も当時、川田利明こそイチバン上手いレスラーだと確信していた。


大きく話がそれてしまったが、

これを読んで秋山がどう思うか分からない。

川田もどう思うか分からない。

もしかしたら、互いに不快に思うかもしれない(笑!)。


ただし、今まで秋山から感じたことのないものが

チャンカ―の優勝戦を通して初めて頭に浮かんだのは事実なのだ。

しかも、今の川田はセミリタイア状態だから、

彼の存在など頭の片隅にもなかったはずなのに浮かんできた。


これが、私の観た『2013チャンピオン・カーニバル』のすべてだった。


秋山準は当代随一の名レスラー、

最高のプロレスラーであり、

いま全日本マットのリーダーである。


「これを乗り切ったことで、

もっともっとあいつ(KAI)は伸びてくると思う」


やはり、バーニングのリーダーというより、

全日本マットのトップとしての発言に聞こえる。


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その秋山に試合で認められたKAIは、

今大会で大いに株を上げた。


どれほど不運に見舞われようと、

真面目でストイックに努力してきた男に、

ようやく光が差し始めた…。