3月10日、約5年ぶりにノアの会場をまたいだ。

GHC4大選手権が開催された3・10横浜文化体育館大会である。


こう書くと、いかにも大袈裟な感じもしてしまうが、

ノアの会場に取材として最後に出向いたのは、

小橋建太が546日ぶりに復帰戦(小橋&高山善廣vs三沢光晴&秋山準)

を行なった2007年の12・2日本武道館大会だったと記憶しているから、

正確には5年3ヵ月ぶりの現場取材となるわけだ。


なぜ、5年3ヵ月もの間、空白期間があったかを説明するとなると、

少々面倒なことなのだが(苦笑)……当ブログで

突然ノアの話題に触れているのも不自然となってしまう。


だから、できるだけ簡潔に説明しておきたい。

団体サイドは、マスコミの取材を受けるにあたってルールを設けている。

取材規制というより、ルールといった方が適切だろう。

もちろん、それは各団体によって違ってくる。


たとえばノアの場合、旗揚げ時からそのルールが一貫している。

基本的に、プロレスを扱う紙媒体(新聞、雑誌など)とテレビ媒体に

関わる記者にはプレス証を発行する。


また、その媒体に所属する社員ではなく、

フリ―で活動する人間でも、

そこでレギュラー的に活動しているなら、

プレス証を出してくれる。


だから、私が2005年11月末に『週刊ゴング』を辞めたとき、

ノアの広報スタッフにはプレス証(年間PASS)を返却している。


しかし、その後、『週刊ファイト』に連載コラムを持ったり、

同紙で試合リポートなどを書かせてもらっているときは、

プレス証を出してくれたので、週刊ファイトとして何度か取材に出向いた。


だが、06年9月にファイトが休刊となってしまったために、

またしばらくノアの現場から離れることとなった。


それから約1年…今度は『週刊ゴング』の後続誌の意味合いを込めた

プロレス雑誌『Gリング』にフリ―ながらレギュラーで参加。

腎臓がんから奇跡の復活を果たした小橋の復帰戦を取材するため、

取材申請をしてプレス証を出してもらった。


だが、翌2008年、Gリングも休刊となってしまったために、

また私はノアの現場から離れた。

そこで気が付くと、最後に会場を訪れてから、

もう5年以上が経過していたというわけである。


ああ、簡潔どころか長い!

長いけれど、「なぜ、GKはノアの取材に行かないの!?」

とファンの方から聞かれることも度々あるので、

やはりきちんと説明しておいたほうがいいと思う。


そこで今回、また現場取材をするに至った中で、

イチバン大きな要因となったのは、

選手会長である森嶋猛の言葉だった。


以前、当ブログでも書いた話かもしれないのだが、

昨年8月11日、中嶋勝彦(ダイヤモンドリング)の結婚披露宴に出席した際に、

いつの間にかマスコミ席にどっかりと座りこんでいた森嶋に話し掛けられた。


「GKさん、なぜノアの会場に来てくれないんですか?

そりゃあ、他団体にもノアの選手は出ているから、

試合は見てくれたり、取材もしてくれていると思います。

でもオレは、ノアの現場を見てもらいたいんです!

ホームであるノアの会場で、ノアの選手たちが試合している姿を

GKに取材してもらいたいんですよ!」


森嶋は多少…いや、相当に酔っていた。

だけど、酔っていたからこそ、

わざわざ私の隣に座って本音をぶつけてきたのだろう。


それに対して、取材するにはルールがあるからそれをクリアすること、

選手とマスコミ間で決める問題ではないことなどを説明したのだが、

「もう、『森嶋が来てくれ!って言うから来ましたよ』でいいじゃないですか!?」

と強引に結論を出してから、「飲みましょう!」と、私に酒を注ぎまくるモリシ―。

あとはグダグダな酔っ払い同士の会話へ…(笑)。


ただし、森嶋のその言葉は私の中に深く刻まれた。

ノアはれっきとしたメジャー団体であり、

私にとってメインの守備(取材)範囲にある

新日本プロレス、全日本プロレス、ZERO1などにも、

ここ数年、多くの選手が参戦してきた。


三沢光晴(故人)を筆頭に、丸藤正道、杉浦貴、森嶋猛、モハメドヨネ、

さらに退団してしまったが、秋山準、潮崎豪、青木篤志など、

多くの一流選手、イキのいい中堅、若手を間近で見てきた。


この5年、ノアの現場取材をしていなくても、

「まあ、いいか…」で済ませられたのは、

他団体でもノアの中核をなすレスラーを見ることができたから。

それも大いにあった。


ただし、森嶋の指摘通り、選手のクォリティーの高さは分かったにしても、

団体(ホーム)の会場の空気、匂いまで感じ取ることはできない。


そこで、機会は突然訪れた。

先月、たまたま某パーティーで一緒になったノアの西永渉外部長に

その話題を振って相談してみた。


意外なほど話がトントンと進み、『スカパー!』のサムライTV担当プロデューサー

である伊藤さんが協力してくれることになった。


つまり、私は特定の媒体で仕事をしているわけではないし、

どこの組織にも所属していない。

ただし、サムライTVに関しては、『NEW JAPAN ROAD』と

『ZERO1中継』のレギュラー解説を担当している。


現在、新日本もZERO1も、ノアとは頻繁に交流している。

そこで、私は『サムライTV』の取材記者として、

ノアからプレス証を出してもらうことになったのだ。


ノアの西永さん、スカパー!の伊藤さん、

アイデアを出してくれたうえ、快く引き受けてくれたお二人に感謝。


これで心の片隅に引っ掛かっていたツカエが取れて、

さらに森嶋選手会長の心意気に応えられるなら言うことなしだろう。


いやあ、またも長い。

説明が長い!

だけど、ファンのかたへ向け

きちんと説明する義務があるだろうから、

これは書いておかなければいけない事実関係なのだ。


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さて、約5年ぶりにまたいだノアの会場。

秋山、潮崎ら主力5選手が退団したとはいえ、

私からすれば、懐かしいノアの変わらぬ空気を感じた。

当たり前かもしれないが、ノアの会場の空気はノアらしいまま。


選手それぞれのクオリティーは高いし、試合内容はいいし、

観客・客席の空気もいい。

第1試合からセミ、メインへ向け、

徐々に会場が熱を帯びていくノアらしい雰囲気を満喫できた。


じつは、横浜文化体育館という会場は微妙な場所でもある。

首都圏といえば首都圏だし、

地方都市といえば地方都市。

その両方の要素を兼ね備えているから、

会場の空気もそのときによって微妙に変わる。


客席からは、マニアックな声と、地方都市っぽい声援の両方が飛ぶ。

かと思えば、たまに汚い野次が飛んだりすることもある。

無論、これは過去の新日本、全日本などの横浜文体で感じたことなのだが…。


ところが、ノアの横浜文体はまた違った雰囲気。

一見さん的な観客は少ないようで、

しっかりとノアを応援するファンが集まっているという感じがした。


それがあるから、GHCタッグ王座を強奪した矢野通&飯塚高史への

罵声、野次も気が効いているというかノアファンらしかった。


スピード&機動力と瞬発力で勝負する王者チーム(丸藤&杉浦)に対し、

体格差を利したパワー&ラフ攻撃、反則のオンパレードと、

悪のインサイドワークを駆使するCHAOSの暴走コンビ。


この対照の妙がはまり、じつにおもしろい試合となった。

杉浦の額を割って鮮血に染め上げ、傷口に集中打を浴びせる

CHAOSコンビにはブーイングと罵声が浴びせられる。


飯塚がアイアンフィンガー・フロムヘルを取り出すと、

「やめろ!また鍋つかみかよ!!」と野次。

これには思わず爆笑してしまう。


ノアの場合、コーナーのターンバックルは

新日本と違って三点仕様になっている。

さすがの矢野もそれを外すのに時間が掛かる。


「ヤノ―!いつもより時間かかってるんじゃねえーよ!」


不謹慎ながら、また爆笑してしまった。

いちいち野次がおもしろくて気が利いている。


ベルト泥棒の矢野&飯塚を勧善懲悪で

丸藤&杉浦が倒すものと予想していたのだが、

結果は矢野が豪快な鏡割で杉浦にフォール勝ち。


これにて、4月13日開幕の『グローバル・タッグリーグ戦2013』に、

矢野&飯塚は王者としての出場が決定した。

前代未聞というか、こうなると反対に俄然興味深い。


おまけに、マイバッハ谷口のパートナーはなんと高橋裕二郎。

第4試合終了後、場内ビジョンで出場10チームが発表されたが、

トリで紹介されたのが同チームで、なんと裕二郎だけがコメント付き。


R指定男は、しっかりと放送禁止用語を連呼していた。

こういった煽りⅤなどの意外性は、

以前の正統派ノアでは見られなかった部分だろう。


メインはGHCヘビー級選手権。

KENTAvsマイバッハ谷口の因縁対決。

日テレG+の解説席には、小橋と佐々木健介が座った。



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試合後、リング上からKENTAが

「解説2人、重鎮の視線もかなり気になって、気合入りました!」

と言っていたが、そりゃあ気になるだろう。


さて、メインで闘った2人は、私にとって未知の男たちとなる。

映像ではもちろん知っていても、現在の立場を築いた両選手を

ライブで観戦するのは初めてのこと。


5年前、KENTAはヘビー級に参入したばかりだった。

谷口周平に至っては若手勢の№1決定戦『モーリシャス杯』に優勝して、

ちょうど”驀進十番勝負”に臨んだところだった。


その2人が頂点を賭けて闘うわけだ。

だから、私にとっては未知なる闘いとなる。


まず、マイバッハに変身した谷口の体に釘付け。

鍛え上げた体はヘビー級として理想的な体型だろう。


また、西永レフェリーの脳天をイスで打ち抜いた暴走ぶりにはビックリ。

おそらく日本のレフェリー史上、イスの底が抜けて吹っ飛ぶほど

頭部を痛打されたのは西永レフェリーが初めてだろう。


私の大先輩であるデイリースポーツの宮本久夫さんも、

「いくらなんでもやり過ぎだろ!?」

と怒っていたほどだから、まさに度を超えている。


では、KENTAを見ていて思ったこと。

身体能力の高さは当然ながら、

攻守ともに上手いなあというのが第一印象。

マイバッハの強さを存分に引き出していた。


それでいて、フィニッシュへとつなげる打撃のラッシュでは

有無を言わせぬ強さを見せつけた。

速射砲のような張り手の乱れ打ちから、

側頭部への鋭い蹴りを連打。


トドメは、完全にグロッギー状態のマイバッハを無理やり担ぎ上げ、

顎から喉元のあたりへ膝を突き上げるエグイgo2sleep一閃。

完勝だった。


最後の猛ラッシュを見たときに、

合点がいった。

なぜ、彼と柴田勝頼は心が通じ合っているのか?

戦場は違っても絶対的な信頼関係で今も結ばれているのか…。


朱に交わらない生き方。

上手いとか下手ではなくて、

すべてをリング上で吐きだす闘い――。

そういうものを求めている点で、互いに一致しているからではないのか?


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リング上でマイクを持ったKENTAはこう言った。


「確かに体は小さいし、ジュニアだとか言われちゃうかもしれないけど、

覚悟だとか使命感だったら、そのへんのデカイやつに負けない!」


KENTAのサイズはパンフレットを見ると、

174㎝、81kg。

確かにジュニアの体格。


ただし、先駆者としてジュニアの枠を完全に超えてみせた丸藤だって、

元々それほどサイズは変わらない。

現在、新日本マットを席巻しているZERO1の田中将斗にしても、

サイズはほとんど変わらないはず。


プロレスラーにとってイチバン大切なものは、

公式発表のサイズではなくて、

リングに上がったとき大きく見えるかどうか。


KENTAは大きく見えた。

頼もしかった。

彼の存在があってこそ、

緑のマットに光が差していた。

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この日、第4試合に出場した前GHC王者で、選手会長の森嶋は、

第5試合のGHCジュニアタッグ選手権を会場の後方から食い入るように見ていた。


熱心に観戦しているところを邪魔するのは申し訳ないが、

一応、森嶋に挨拶だけはしておこうと思った。


なぜなら、こうして5年ぶりにノアの会場を訪れることになったのは、

森嶋の言葉が胸に響いて、ずっと残っていたからなのだ。


「約束通り、ノアの取材に今日から復活です!

これから首都圏の試合はできるだけお邪魔するので」


「ハイ、よろしくお願いします!

ボクらは本当に地道に一歩一歩、

前を向いて進んで行きますから、

ぜひ観てやってくださいね!」


森嶋の笑顔の内には、

確固たる覚悟が秘められているように感じた。