私自身、初の書き下ろし作品となった

『子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争』が発売されたのは、

約3年前の2009年7月17日のこと。


初版の1万部は早々に完売して、以来4度の重版。

計2万部近くの売り上げを示した。


版元である宝島社の編集者によると、

「プロレス、格闘技関連の書籍で、こういうロングセラーは珍しい」

とのこと。


そう言われると、嬉しいというか、

苦労して書いた甲斐があったなあと素直に思う。


4刷目が店頭に並んだのは、昨年7月8日。

実は当初、文庫本化ということで話が進められていた。

ところが、妙にタイミングが合ってしまった。


そう、東日本大震災復興チャリティーイベントとして、

8・27興行戦争の機運が盛り上がってきたのだ。


新日本、全日本、ノアのメジャー3団体が一堂に会する

『ALL TOGETHER』(日本武道館)に対するは、

IGF主催の『INOKI GENOME ~Super Stars Festival~2011』(両国国技館)。


「まだまだ単行本は売れる!」


営業部がそう判断したことによって、

文庫化ではなく、第4刷の発行となったわけだ。


それから10カ月、業界もいい意味で落ち着いてきた。

特に、この本の主題となるアントニオ猪木と

新日本プロレスの間になにかトラブル的な事態が起こることもない。


というより、むしろ目には見えないものの、

猪木と新日本には歩み寄る空気さえ漂っているような気もする。


過去の猪木の名勝負が新日本、テレビ朝日、集英社のコラボにより

DVDマガジンとして発売され大ヒットを記録したり、

新たに新日本のオーナーとなったブシロードの木谷高明社長(新日本・会長)は、

猪木ファンを公言して、来年の1・4東京ドームに猪木を招きたいと口にしている。


本当に、いい傾向だと思う。

そう強く思うのは、かつて私は最前線で、

オーナー猪木と新日本プロレスの確執、

それに伴う暗黒の時代を否応なく目撃してきたから。


その史実からは、絶対に目を背けることはできない。

それをなかったことにはできないのである。

あの暗黒期、親と子の10年戦争があったからこそ、

現在の新日本の復活ぶりは奇跡的でもあり、

本物だと言えるような気がする。


その絶妙のタイミングで、本書が文庫本となった。

『子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争』完全版!

そう謳っている。


                      金沢克彦オフィシャルブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈!?」Powered by Ameba

なぜ、”完全版!”と謳っているかというと、

全体のページ数の都合により単行本ではカットせざるを得なかったエピソード、

さらに、この3年弱に関する、その後の物語をかなり加筆しているからだ。


単行本は288ページ。

文庫本は368ページ。


そうは言っても、字詰めや行数が違ってくるから、

文庫本の形式で正確なページ数を打ち出してみると、

単行本=340ページ、

文庫本=368ページとなる。


だから、約28ページ分、加筆したことになる。

いやあ、オイラは正直者だなあ(笑)。


加筆した部分は、1999年の1・4東京ドーム大会で勃発した

小川直也vs橋本真也戦でのセメント事件と大乱闘の部分。


それをキッカケに生まれる猪木vs橋本、猪木vs長州、

長州vs小川、長州vs橋本といった確執、感情のぶつかり合い。


それぞれの男たちの生の感情、激しい言葉、

また信頼関係を築いていたはずの橋本と私(当時・週刊ゴング編集長)の衝突。

今になって見えてくる小川直也の本音……

そういった事実関係、私の見解などを加筆している。


また、単行本は2001年の3・2両国大会において、

橋本がZERO-ONE旗揚げ戦を大成功に導く場面で終わっている。


今回は、そのあとも追う。

つまり、旗揚げ戦の会場で走り回っていた8歳の少年、

橋本大地が父の葬儀の場でプロレスラーを志した経緯。


デビューした破壊王子の1年の闘い。

天国の破壊王は息子の奮闘をどう見ているのか?

このへんは、私の想像が入ってくる。


また、藤田和之の章も加筆した。

単行本では、『戦極』のイワノフ戦を迎えるところで終わっている。

その後、大晦日にアリスター・オ―フレイムに惨敗を喫し、

しばらく格闘シーンから離れた藤田はなにをやっていたのか?


なぜ、突然に卒業したはずの猪木のもとへ、

IGFのリングへカムバックしてきたのか?

”猪木イズム最後の継承者”と呼ばれた藤田にとって、

アントニオ猪木とはなんであるのか?


そういった部分に迫っている。


あとがきに関しても、『文庫版 あとがき』として、

7ページ書かせてもらった。

この3年で、猪木と新日本の関係はどう変わったのか?


ブシロード体制となった新日本への期待。

親離れに成功し、独立した新日本の復興への道程。

子離れした猪木が再び我が子と交わることはあり得るのか?


新日本の”今”と業界の”今”、

猪木の”今”とIGFの”今”を正直に書かせてもらった。


単行本の表紙は当ブログの左カラムにも掲載されている。

読んでいない方のために、文庫本の目次を紹介しておきたい。


まえがき  「週刊ゴング」への墓碑銘


第1章 「邪道」の流儀

「頼む。これが最後の大勝負なんだ」

「あいつらも腐ってる」――馬場と三沢に公然と反論

猪木が認めたくない「3人の男」

「共犯者」の逡巡

「新聞社が張っています」

新幹線ホームでの「乱闘劇」

大仁田が口に含んだ「赤い液体」

「俺には同じことができない」――長州の告白

1年8カ月の「伴走」とその終焉


第2章 惨劇 橋本vs小川の真実Ⅰ

坂口を怒らせた小川の人間性

「3代目を張らせてもらいたいよね」

「なぜオマエの試合には笑いが出るのか」

橋本に下された「無期限出場停止処分」

前代未聞の「相手入場中にマイクアピール」

「目を覚ましてください!」

「顔面蹴撃事件」以来の修羅

書かれなかった試合後の小川の「謝罪電話」

「週刊ファイト」が報じたドーピング疑惑

「今日という今日は猪木にブチ切れた」

目を剥いた「フライデー」爆弾記事


第3章 濁流 橋本vs小川の真実Ⅱ

「猪木はもう死んだほうがいい」

「はっきり言って、小川は馬鹿である」

編集部に殺到した「金沢襲撃予告」

三沢が言及した橋本vs小川

UFO内部の不協和音

浮上した「全日本」での復帰戦

元子夫人から橋本へのメッセージ

逆転した健介と橋本の序列関係

「お前があんな書き方するとは思わなかった」

新日本に渦巻く橋本への「疑念」

「負けたら即引退」でSTO6連発

新団体設立会見

「解雇」に涙を浮かべた橋本

「修復不能」な関係の2人

いまなお残る橋本の「携帯番号」

「父の跡を継がなきゃいけない」


第4章 プロレス喰い 永田裕志の戦い

「武藤越え」としての格闘技挑戦

「ミルコはチキン。永田さんならいける」

21秒間のドラマ

プロレスのリングで見た永田の涙

「ヒョ―ドル戦」への伏線

「3局大晦日興行」の格闘技バブル

「永田、頼む!」……猪木が頭を下げた日

通路で見た猪木の「老いた姿」

総合格闘技から消えた「アントニオ猪木」


第5章 「飛び級」志願 野獣・藤田の実像

「リングス入り」の噂

捨て切れなかった「アトランタの夢」

「新日本に戻れば、結局中西の下なんですよ!」

「追放されるような試合をしてやる」

石井館長も驚いたミルコ戦の「結末」

運命のアキレス腱断裂

安田が主役に躍り出る大番狂わせ

「未熟者に引退はない」


第6章 「強さ」を追う者 石澤常光の心象風景

新日本「道場最強男」の葛藤

ブラジル行きを決定付けた猪木の一言

「結局、評価されるのはヘビー級なんだ」

「どういうことなんだ、オヤジ!」

狂犬ハイアン・グレイシーに衝撃の惨敗

電撃移籍と「3人の恩人」


第7章 ヒクソンの亡霊
ライガーが打ち明けた「極秘計画」

安生「道場破り事件」の波紋

「僕にやらせてください」藤田の直訴

長州の持論「アマレス最強論」

幻の「長州vsヒクソン」

「正直、パンチが見えなかったんだ」


あとがき  2009年夏 闘うプロレスラーたちに敬意を表して。


文庫版 あとがき  2012年4月 50歳の春を迎えて。


格闘技バブルは弾けて…

一世を風靡した『PRIDE』は消滅し、

K-1を見る影もない。


かつて、長州力はこう言った。


「PRIDEは、その場その場の出来事だよ」


つまり、将来的に残っていくものじゃないという意味。

どんなに厳しい状況下でもプロレスは生き残ると力説した。

「なぜ、新日本の選手を総合に駆りだしたんですか?

あの敗戦が新日本のイメージを落としたと思います」


私がそう核心に迫ると、アントニオ猪木はこう答えた。


「時代の要請だからしょうがないじゃん。

プロレスっていう絶対的なものがあって、格闘技ブームが起こったんだから。

プロレスは強いんだから、もっと練習して変化しなきゃいけないだろ」


やはり猪木は猪木だった。


親子の骨肉闘争に答えはまだ出ていない。

もし、新日本のリングに猪木が里帰りするようなことでもあれば、

それが一つの答えとなるのかもしれない。


この本はドキュメントであり、ノンフィクションだ。

猪木、長州、大仁田、橋本、小川、永田、藤田、石澤…

登場する男たちはすべて主役。


プロレスを描いたわけでも、格闘技を描いたわけでもない。

プロレスラーの生きざま、人間の生き方、強さ、弱さを

そのまま描いたと思っている。


単行本を読んでくれた方も、また目を通してほしい。

どこに加筆されているか分からない部分も多いはず。

それほど自然に読めると思うし、

単行本で読んだときと、また印象が変わるかもしれない。


この本を読んで、どこの書物にも記載されていない

新日本の史実を知ったとき、暗黒時代を乗り切った

リング上の選手たちがよけいに輝いて見えることだろう。


『子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争』完全版!

宝島SUGOI文庫 368ページ

5月10日(木)発売!

価格=680円(税込)