3・4後楽園ホール。

新日本プロレス40周年の『旗揚げ記念日』。

前売り券は完売、当日券は立見席のみ。

それでも相当数のファンが後楽園ホールの当日券売り場に並んだという。


最近、新日本の興行に関して、

第1試合から会場が出来上がっている、という表現を使うことが多い。

ただし、この日はもう試合前から出来上がっていた。


しかも、ちょっと異様な空気を感じる。

後楽園ホールでは極めて珍しいPPV生中継が

行なわれることも一つの要因だろう。


だが、なんと言ってもメインの顔合わせに尽きる。

ほんの1カ月前の状況を考えてみてほしい。

40周年『旗揚げ記念日』メインのIWGP選手権で

このカードを予想した人間が、

果たしているだろうか?


チャンピオン=オカダ・カズチカ。

チャレンジャー=内藤哲也。


オカダは、24歳と3カ月でキャリア7年半。

内藤は、29歳と8カ月でキャリア5年9ヵ月。


20代同士によるIWGP選手権は、実に17年ぶり。

橋本真也vs天山広吉(1995年2月4日/札幌中島体育センター)以来となる。


棚橋も中邑も真壁も後藤もいない、大舞台でのメインのリング。

突然にして変貌した新日本の番付。

期待感か、不安か、興味本位か?

それが異様な空気となって会場を包んでいたような気もする。


1・4ドームの凱旋マッチ(対YOSHI‐HASHI)では、

呆気ない幕切れにファンの反応は鈍かったし、

メイン終了後、棚橋に挑戦を迫ったオカダにはブーイングが飛んだ。


それは、あの空気からいけば当然だろう。

難敵・鈴木みのるを下して、Ⅴ11の防衛レコードを達成した棚橋。

未知数なうえに、試合でインパクトを残せなかったオカダ。


ファンからすれば、「ちゃんちゃらおかしい」となるし、

ひと昔前ならもっと罵声が飛んでいてもおかしくはないシチュエーション。

それでも、タイトル戦は決定した。


ただ、2・12大阪の本番を迎えるまでのタッグ前哨戦で、

こちらも考え方を改める必要が出てきた。

凱旋から1カ月も経たないリングで、

オカダが徐々に片鱗を見せ始めたからだ。


特に、1・29後楽園ホールのタッグマッチは最高の試金石となった。

棚橋&内藤vs中邑&オカダという大阪へのダブル前哨戦。

このハイクラスのメンバーに入って、オカダはなんの遜色もなく動ける。

これを見た時から「ひょっとしたら…」の思いが、

私の中でも沸いてきた。


だから、2・12大阪の本番で棚橋からベルト奪取と聞いたときも、

それほど”事件”とは思わなかった。

あとから、PPV生中継の録画映像を観た時には想像以上だった。


堂々としたたたずまい。

的確な攻撃に、的確な受身。

ミスがない。スタミナが切れることもない。

フィニッシュ(レインメーカー)につなげるための徹底した首攻めもいい。


そこで生きてくるのは、

メキシコ修行時代を彷彿させるジャベ(グラウンド・ネックロック)と、

長身を利したツ―ムストン・パイルドライバー。


無論、棚橋の抜群の上手さもあっての好勝負なのだが、

終わってみれば、オカダの完勝。

正直いって、そう映った。


この完勝というイメージが大切だし、むしろ斬新なのだ。

棚橋の場合、つねにギリギリの勝負を制して、

試合後は両者大の字というイメージがある。


ここが、ピープルズ・チャンピオンたる所以でもあったし、

ファンの大きな共感と感動を呼んだ。

私たちマスコミも、そのチャンピオン像に慣れてしまった感がある。


だから、新日本のビッグマッチのメインの入場、エンディングといえば、

条件反射的に棚橋の入場テーマ曲が勝手に私の頭の中で鳴り響く。

それぐらい、絶対王者・棚橋弘至に慣れてしまっていたのである。

いやいや、今でもまだ私の頭の中には

『HIGH ENRGY』が鳴っているかもしれないのだ(笑)。


オカダは一夜にして、そのイメージを消去してしまった。

突然変異的に、完勝する王者が現れた感である。


ただし、振り返ってみれば、オカダは紛れもなく大器であったし、

彼が頭角を現してきた2008年暮れ頃には、

仕事仲間の大川昇カメラマンとよくこんな会話をしていた。


「カズチカは、あと3年もすればIWGPを獲るんじゃないか?」


大川カメラマンなどは、メキシコ修行時代から彼を知っているから、

本人に向かって、「次期チャンピオン!」などと声を掛けていた(笑)。


もちろん、雑用で走り回っていた当時のオカダは、

はにかんだ笑顔を見せ照れるだけだった。


またも、話が横道にそれて長くなりかけてきた(苦笑)。

とにかく、大阪のインパクトが大きかったからこそ生まれた

後楽園ホールの異様な空気。


全7試合。

メイン以外は突出したカードは組まれていない。

これがまた観る側にとっては理想的。

すべてタッグマッチながらハイクォリティな6試合を満喫したうえで、

なおかつメインへ注ぐエネルギーが充分に残されているからだ。


旗揚げ記念日としての唯一のサプライズは、

田中秀和(現・田中ケロ氏)リングアナウンサーの登場。

これは粋な演出だった。


当日の会場の空気を考えるなら、

途中で恒例のレジェンドの表彰式などを組み込むと、

却って興行が間延びしてしまったかもしれない。


もう一つ、粋だったのが、オカダの入場時と退場時に、

ホールのバルコニーからお金(札)の雨が降ったこと。

新日本バンクによるオカダの肖像画付き100ドル紙幣。

誰のアイディアなのか、本当によく考えつくものだ。


さらに、もう一つ。

これは、結果的に今後への興味を膨らますうえで、

最高の演出となっていた。


メインを迎え、ホールの北西側通路の奥に棚橋、北東側の通路に中邑が立ち、

さらに、南西側の入場口の真ん中あたりには真壁がイスを置いてどっかりと座った。


「新チャンピオンの力量、20代同士によるIWGP選手戦を

とくと見届けてやろうじゃないか!?」


そんな感覚だろうか?

そういえば、前日たまたま中邑真輔が冗談めかしてこう言っていた。


「明日、いわゆる四天王と呼ばれる人間たちが、

コーナーの四方に座ってメインを観戦したら、

オカダはビビって内股になっちゃうんじゃない?」


ビビるビビらないはともかく、

おそらく中邑は最初から自分のナマの目でメインを観るつもりだったろうし、

棚橋、真壁も同じ思いだったのだろう。

ここで控室にこもってモニターTVを観ているようではダメだ。


ここ2~3年、自分たちで紡いできたIWGPの歴史から

目を背けることはできない。

自分たちの背中を追ってきた者たちがナンボのものなのか、

しっかりと見届ける義務と責任もある。


そこに、後藤がいなかったのは、それはそれで正解だろう。

なぜなら、後藤はIWGPインターコンチネンタル王者として、

今はそちらに集中すべき立場にいるからだ。


棚橋vsオカダ戦の内容がよかったことを考えると、

棚橋タイプの内藤とオカダのマッチアップも好勝負は必至と思われた。


ただし、試合は期待以上に素晴らしい攻防となった。

当初、ホールは爆発的な内藤コールに包まれていたが、

途中からはオカダコールも発生した。


CHAOSのメンバーといっても、

オカダが反則攻撃をするわけでもないし、

棚橋戦の衝撃からオカダファンになった観客もいるはず。


それにしても、両選手ともハートが強い。

この舞台設定にビビるどころか、

逆にパワーが倍増しているようにも感じる。


前半のオーソドックスなレスリングから、

両者の攻め方が絞られてきた。

内藤は足狙い、オカダは首狙い。

定石通りである。


あえて言うなら、内藤のスピードが一段と冴えわたっているように見えた。

攻撃の速さ、手数は本当にジュニア戦士以上かもしれない。

内藤のベルト獲りに賭ける気持ちは、そこに出ていたように思う。


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ところが、内藤が速ければ速いほど、手数が多ければ多いほど、

オカダの方も光るのだ。

内藤が5の技を連射しても、オカダは1つの技で形勢を逆転する。

これによって体格差というものを際立たせるのだ。


オカダはそれを分かったうえで、試合を組み立てているように見える。

やはり、7年半というキャリアはダテではない。


15歳でメキシコに渡り、4年間のメキシコ修行。

新日本に入団してからは、若手からトップ勢とまで対戦し揉まれていたし、

ノアのリングにも乗り込んだ。


この2年弱は、米国TNAで修行した。

派手な活躍の声は聞こえてこなかったが、

オカダにとっては今日を睨んでの修行そのものだった。


しっかりと体格差を見せつけたかと思えば、

コーナーの内藤をドロップキックで打ち落とすなど、

類まれな跳躍力、身体能力の高さも見せるオカダ。


中学生時代、陸上部に所属していたオカダは

100メートル走を11秒台で走ったという。

県大会記録を持っていたというから、

やはり並の運動神経ではない。


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一時も目の離せないスリリングな攻防が続く中、

28分50秒、レインメーカーが内藤の首を刈った。

どちらか勝ってもおかしくはないし、

どちらが勝っても納得のできる内容。


しかし、終わってみれば、オカダの完勝というイメージが残る。

棚橋戦と同じだった。

ここが不思議なところであって、オカダの魅力。


長身と無尽蔵のスタミナが、

オカダにプラスアルファの要素を与えているのだろうか。

試合後、ホールに沸き起こったのはブーイングではなく、

盛大な”オカダコール”だった。


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ヒール的立場にいながら、爽やかで初々しいチャンピオン。

そこをマネージャー役の外道がカバーする。

十八番のレインメーカー・ポーズもハマってきたし、

今後、流行しそうな気配もある。


さて、この後がおもしろかった。

外道とともに、オカダが3人の元王者たちを挑発した。

まず、真壁の方を指さして、棚橋、中邑の順に視線を向ける。


人垣のせいで真壁の反応は見えなかったものの、

棚橋は厳しい表情で腕組みをしたまま仁王立ち。


中邑は身体をくねらせてから、ニタリと笑って引き揚げた。


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初防衛に成功した第57代IWGP王者。

どう見てもヒール面ではないし、どう見ても好青年。

その男がこう口にするから、またおもしろい。


「大先輩方がオレの試合を観てたらしいから、

勉強してちょっとは強くなって。

勉強した子は伸びるんだ。

勉強してオレに挑んで来い!」


来たる4月1日~8日開催の『NEW JAPAN CUP 2012』の優勝者には、

5・3福岡大会でのIWGP挑戦権が与えられる。


オカダ・カズチカに挑むために……

棚橋、中邑、真壁、後藤、永田、天山、小島、鈴木、内藤らが潰し合いを展開することになる。


新日本プロレスの図式、序列が、あっという間に塗り替えられた。

新日本の歴史上、飛び級男は必ず叩かれてきた。

出る杭は思い切り打たれ、ファンの厳しい視線に晒されてきた。


ただし、今度の飛び級男は、ただ者ではない。

棚橋戦、内藤戦の2試合で早くもファンの信頼を獲得してしまった。 


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レインメーカー。

よくぞ名付けたものだ。