1・8後楽園ホール大会。

『レジェンド・ザ・プロレスリング』の2012年、第1弾興行。

長州力vs橋本大地の一騎打ちを、この目で確認するために会場へと出向いた。

戦前、長州は例のごとく素っ気ないコメントを残している。


「橋本チンタ(真也)はインパクトあったよね。

だけど、橋本真也は橋本真也であって、大地は大地。

そこに特別な感情はない。

将来有望な若い選手とやるということですよ」


長州が橋本を語る時に、

必ず出てくるのがこのインパクトというフレーズ。

時には良好な師弟関係を保っていたこともあったが、

90年代後半からは、まったく手が合わなくなった。


橋本には野望があった。

それは長州の後を継いで、

新日本プロレスという大国の現場責任者になること。


だが、長州と衝突を繰り返す中で、

その野望が満たされることはないと悟った。

だからこそ、ZERO―ONE(現ZERO1)は誕生したと言ってもいい。


両者のシングル対戦成績は、長州の4勝6敗1無効試合。

これは私の知る限りの戦績なので、

もしかしたら誤りがあるかもしれない。

そこはご了承願いたい。


ただし、お互い、どんなに相手に嫌悪感を抱こうとも、

リングに上がれば、これほど噛み合う闘いも滅多になかった。


それはもう、橋本が亡くなったあとでも、

何度なく長州本人の口から聞いている。


「あれだけのインパクトを出せる人間はなかなかいない。

あいつが一番、新日本の匂いを持っていたよね。

そこに本人が気付いていたかどうかは分からないけど、

あいつは感情をそのまま出せるんですよ。

何かが起きそうな、ヤバイなっていう予感がする雰囲気を持っていた。

敬司と蝶野には、そういう匂いはあんまり出ないよね。

だから、あいつはちょっとオレに似たところがあるんだよ。

リングに上がるまでの集中力は凄いし、完全に変わるよな」


じつはこのセリフ、2007年春に聞いた言葉。

長州と私の対談本(『力説 長州力という男』)を出すために、

何度も旧リキプロ道場に通って、話し込んだときのフレーズである。


長州はハッキリと、橋本が自分に似ていることを認めていた。

これはもう、過去に武藤や蝶野の口からも何度か聞いている。


「長州さんとブッチャー(橋本)は本当に似ていると思う。

似ているからこそ、2人はぶつかり合うんだろうね」


昔から私もそう感じていた。

他人の意見には、あまり聞く耳を持たない。

自らの強い自己主張に絶対的な自信を持っている。

試合もストレートなら、リングを降りてもストレートなのだ。


だからこそ、今になって感じることがある。

これは携帯サイト『KAMINOGE Move』の火曜コラムでも触れたのだが、

橋本真也の本当のライバルは、武藤、蝶野の闘魂三銃士ではなく、

長州力と佐々木健介だったのではないだろうか?


そういえば、3年ほど前、サムライTVの『Versus』で

私が進行役となり武藤vs蝶野の対談を行なったことがある。

そのとき、武藤はこう言っていた。


「ブッチャーは、オレらに対するライバル意識よりも、

長州さんや健介に対する感情のほうが強かったよね。

同期よりも、上と下の人間をもの凄く意識していた」


その通りだと思う。

その象徴的シーンを思い出す。

1996年の『G1クライマックス』は、

長州力が史上初の全勝で初優勝を飾った。


この年の公式戦の第1戦(8・2両国)で両者は激突。

長州がラリアットの乱れ打ち(7連発)で橋本をマットに沈めている。


当時の橋本はIWGP王者。

しかも、同王座9回防衛のレコードをすでに樹立しており、

同年4月に高田延彦を破り、2度目の戴冠を果たしたばかりだった。


時代の主役は、紛れもなく破壊王だった。

ところが、第1戦で長州に敗れた橋本の目は吊り上がっていた。

とても、コメントを聞けるような状況ではない。


真っ直ぐに花道を引き揚げながら橋本が叫んだ。


「まだかー!?」

「まだかー!!」


そう叫ぶと、支度部屋の入口に立て掛けてある

黒幕で覆われた”ついたて”を、

キックとパンチで木っ端微塵に粉砕してしてしまった。


この「まだかー!!」には、二つの意味があるように感じられた。

これまで長州とは4勝3敗。

このG1で、完全にトドメをさしてやろうと意気込んでいたのだ。


また、結果的に、橋本のG1初制覇は

2年後の1998年となる。

まだ、自分はG1に手が届かないのだろうか?

そういう意味も含まれていたのかもしれない。


だが、一番はやはり打倒・長州を果たせなかった悔しさだろう。

すでに、「ミスターIWGP」の称号を与えられていながら、

視界の中に仁王立ちしている目の上のタンコブが気になって仕方がない。


もう極端にいうなら、IWGPの連続防衛記録より、G1初優勝よりも、

長州を完膚なきまでに叩きのめして勝つことだけに、

自分のすべてを賭け臨んでいた節がある。


これは、長州にしても同じだったのではないか?

長州のライバルといえば、藤波辰爾と天龍源一郎の名前がすぐに浮かんでくる。


ただし、長州がリングの内外を問わず

本気で感情をぶつけていった相手は2人。

アントニオ猪木と橋本真也ではないのか?


同世代の藤波、天龍とは心を許して、分かりあえる部分がある。

一方、猪木の存在は永遠に目の上のタンコブであったし、

自分に牙を剥いてきた橋本ほどイラつく存在はいなかったように思うのだ。


ところが、当時の橋本戦を振り返ったとき、長州はこう語る。


「チンタとは一番やりやすいんだけど、一番しんどい。

メチャクチャ苦しくて、しんどいんだけど、楽しいんだよ。

痛いし、終わった後のしんどさは半端じゃないよな!

だけど、そのしんどさの中に快感があったよな。

闘っているときに快感があった。

多分あいつも快感を覚えたと思うよ」


改めて、長州が語る橋本への思い。

それは最高の賛辞にも聞こえる。


2人の闘争の歴史をすべて見届けてきた私にすれば、

納得のいく言葉でもある。

もし、橋本真也が生きていたなら、この長州語録に

どう返答したのだろうか…?


それはもう頭の中で想像することしかできない話。

だから否応なく、そういった歴史を踏まえて見ることになる長州vs大地。


戦前の素っ気ないセリフの通り、

長州は淡々と試合をこなしてしまうのか?

対する大地は、ほんの少しでも爪痕を残すことができるのだろうか?

やはり、私が勝手に入れ込み過ぎているだけなのだろうか……。

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出番を待つ大地の背中に、破壊王の面影。

1・1後楽園ホール大会で、デビューから89戦目にしてシングル初勝利。

奇しくも、長州戦が90試合目となる。


デビュー戦の3・6蝶野戦からスタートして、武藤、天山、高山といった

父にゆかりのビッグネームたちとシングルで相まみえてきた。

タッグでは、ベイダ―、藤波とも闘った。


果たして、長州戦は……?

私の予想は、完全に外れた。

いい意味で、予想を裏切られたのだ。


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これぞ、長州vs橋本。

何の駆け引きも躊躇もなく、

真っ直ぐにリングのど真ん中へ歩を進めてロックアップ!


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二度目のロックアップで、体勢を入れ替えた大地が、

長州にエルボーを見舞った。

ここからが本当の勝負だった。


しっかりと、リングの真ん中のポジションをキープする長州。

大地が仕掛けたタックルを軽く切ってしまうと、

手四つの力比べから、小外刈りで大地をねじ伏せた。


上のポジションから体重移動して、横四方固めで押さえ込む。

長州がレスリングを披露する。

こういったレスリングの技術を見せたのは、

小川直也と絡んで以来のような気がする。


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会場の後方で見守っていた大谷晋二郎が檄を飛ばす。


「大地、立て!」

「攻めろ!」


レスリング勝負で、長州に敵うわけがないからだ。

今度は、ト―キック、ストンピング、胸元への強烈なエルボーと打撃技へ。

長州には一切の容赦がない。

というより、自然と全盛期の長州力がオーバーラップしてきた。


場外に放り出された大地が、エプロンに這い上がってくるたびに、

思いっきり蹴り落としてみせる長州。


「たわけー!!」という怒声まで轟いた。


三度、四度と蹴り落としてから、

大地の髪を鷲掴みにしてトップロープ越しにリングへ投げ入れる。

その後、ブレーンバスターも出た。

何年ぶりかのバックドロップまで繰り出した。


左足ふくらはぎに爆弾を抱える長州にとって、

バックドロップは諸刃の剣。

だから、ここ数年封印してきたはずなのだ。


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大地が反撃に出る。

ラリアットをダッキングしてかわすと、ミドルキック、水面蹴り、

さらに、三角蹴り(下写真)からシャイニング・ウイザード。

続いてSTFの体勢に持ち込んだものの、

長州は決して頭を上げることなく、これを完封した。


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大地の気迫がほとばしる。

ミドルキックの連打、連打。

制止するレフェリーまで突き飛ばして、蹴りまくる。


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だが、串刺し式で狙った二―ルキックを

長州が両手で叩き落とした。

これも、長州vs橋本戦で見られた名シーン……。


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最後は、リキラリアットの2連発。

1発で勝負は決していたはずなのに、

長州はカバーにいかなかった。

わざわざ大地が起き上がって来るのを待ってから、

トドメの腕鉄砲水!


完膚なきまでに、大地を叩きのめした。

3カウントが入った瞬間、起き上がった長州は、

大の字に伸びた大地の胸をポンと軽く叩いてから引き揚げていった。


なにか、凄いもの、素晴らしいものを、

たっぷりと見せてもらった感覚。


マイクアピールなどいらない、

握手も必要ない、

余計なものは一切いらない試合。


ただただ、その余韻に浸っていたい。

そんな試合だった。


「リングに上がったら笑われないようにしとけばいいんじゃないですか。

笑われないような試合を毎日毎日繰り返していけば、プロレスラーになれますよ」


長州はそう言った。

試合タイム=10分59秒。

長州力は、いま自分が表現できる長州力をすべて大地にぶつけた。


素っ気ないまでのコメントとは裏腹に、

10分59秒の中で、大地にプロレスを伝えた。

プロレスラーを伝えようとした。


間違いなく、闘いを伝えようとしたのだろうが、

私には、まるで我が子に向けた苛烈な愛情表現のように見えてしまった。


大地は、長州力vs橋本真也の闘いを知らない。

長州と父との命を削るような闘いを知らない。

リング外での確執、葛藤、和解……何ひとつ知る由もない。


だが、デビュー90戦目にして、

父が生涯追い続けてきた男の強さと、

その生きざまの一端には触れることができたと思う。


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