私の友人に「マツ」と呼ばれる男がいる。

職業は、プロレスラー。

愛知県岡崎市在住。


趣味は競馬で、

大好物はタバコ(マイルドセブン・エクストラライト)。

あ、リングネームは、エル・サムライという。


1986年7月4日に、デビュー戦を行なっているから、

この業界で私とは、ほぼ同期にあたる。


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                                            Ⓒ大川 昇


これは昨年の7・17新木場1stRING『流星仮面FIESTA』で開催された

”エル・サムライ25周年記念試合”のセレモニーでの記念写真。


当日、サムライはNOSAWA論外を破って、

第2代Ⅹ-LAWインターナショナル王者となった。

だが、ベルトを奪ったにも関わらず、あまり嬉しそうではない。


あとで聞くと、

「だって岡崎まで(ベルトを)持って帰るのが大変なんだもん」と

ボソッと呟いていた。


その一方で、私が記念品としてタバコ3カートン(※しめて1万2300円)を贈呈すると、

飛び上がって喜んでいた。

どうだい!?

マスク越しに覗くサムライの得意げな顔は…(笑)。


ところで、サムライは昔から非常に無口な男でオトナシイ。

おまけに、お人好しだ。

結婚披露宴のときなど、

主賓として挨拶に立ったアントニオ猪木が

新郎の名前を覚えていなかったほど。


また、武藤敬司もスピーチでこう言っていた。


「マツとは10年の付き合いになるけど、

その間、二言三言しか会話した記憶がなくて…」


もちろん、披露宴会場は爆笑に包まれた。


新日ジュニア黄金時代と謳われた

1990年代半ばから2000年代初頭にかけて、

サムライは獣神サンダー・ライガーとタッグを組むことが多かった。


ライガーは、サムライのことが大好き。

なぜなら、ライガーの指示に100%従ってくれるから。

ライガー&サムライ組のタッグマッチでは、

サムライが八割方リングに入っている。


ライガーはちょっとだけ活躍すると、すぐにサムライへとタッチする。

まだダメ―ジが残っていてへロへロなのに、

首を傾げながらもタッチを受けたサムライはリングイン。


そこへ、舌舐めずりした金本浩二、大谷晋二郎が襲いかかっていく。

こんな光景が新日ジュニアの日常的シーンでもあった。


「サムライさんって、本当にいい人ですよね!

あの人に”ノ―”はないんですよねえ」


敵方なのに、大谷もよくそう言っていた。

実際、ヘビースモーカーなのに、

その底なしのスタミナには定評があった。


プラス怪我をしない柔軟な身体を持ち、

受身の上手さも絶品。


あまりに怪我をしないので、橋本真也はこう言っていた。


「ねえ、知ってる?

エル・サムライは生まれてこのかた病気も怪我もしたことないから、

保険証を持ってないんだってさあ!」


そんなわけはないだろう(笑)。

ただし、そんなサムライを称して、

当時の『週刊ゴング』では、彼に様々な異名をつけて楽しんでいた。


ジュニアの巨人。

スタミナ天国。

ジュニアの妖怪。


まあ、もっとも定着したのは”ジュニアの巨人”だったと思う。

ただし、この日のサムライのキャッチフレーズは

『ジュニアの達人』となっていた。


あ、この日がいつなのか、まったく説明ができていなかった。

1月8日、後楽園ホール。

正午から開催された『レジェンド・ザ・プロレスりング』の

2012年の初戦である。


サムライは、初代タイガーマスクと一騎打ち。

なんとシングルどころか、タッグでも過去に絡んだことがない両選手。

正真正銘の初遭遇なのである。


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ちょっと太目のタイガ―と、若干萎んでしまった感のあるサムライ。
それでも記念すべき初対決であり、好カードだ。


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この写真は、自分で撮影したのにサムライがなにをやろうとしているのか、

しばらく理解できなかった。

ダイビング・ヘッドバットに見えるのだけれど、

タイガ―は立っている。


どう見ても、スキーのジャンプ競技で滑走している姿にしか見えない…。

そこで、サムライの繰り出した技をもう一度確認してみた。

ダイビング・ヘッドバット、リバースDDT、アームロック、

トぺに行きかけてストップしブーイングを浴びる……

あとはミサイルキック。


ああ、ミサイルキックだ!

そうか、こんなに踏ん張ってから飛ぶものなんだなあ。


そこで、肝心の結果の方は、

初代タイガーマスクが見事なタイガ―スープレックスを決めて勝利。

初代タイガーのタイガ―スープレックスが

これほど鮮やかに決まるのを見たのも久しぶりだ。


ある意味、さすが受身の達人ことサムライである。

しかし、後頭部を強打したのかサムライのダメ―ジは結構深い。

試合後、サムライがサムライTVのカメラに向かって、

なにやらボソボソ…。

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「キャリアの差が……」ボソボソとなにか言っていたが、

よく聞き取れなった。

まあ、いいか。

それにしても、うなだれるサムライには素敵な哀愁が漂っている。


大会終了後、外階段の踊り場の喫煙所で、

やっぱりサムライはタバコを吸っていた。


「マッちゃん、今日は泊まりかい?」


「ううん、帰るよ」


「昨日から東京に来てるの?」


「ううん、今朝7時に家を出てきた。

寝不足だし、早く帰んなきゃ」


その後、控室前のベンチで、

私がヒロさん(斉藤)と話しこんでいると、

帰り支度のサムライが通り掛かった。


「あ、マツ! お前、帰ろうとしてるの?」


「帰りますよ」


「この野郎、人出が足りないんだから、リングの撤収手伝っていけよ!」


「えー、嫌ですよぉ」


「あ、先輩に逆らったな」


そう言って、ヒロさんが殴りかかるポーズを見せると、

サムライはたまたまそばに立て掛けてあったモップを持って対抗。

無論、2人とも笑っている。


2人ともプロレスの職人。

サムライは私と同期で、

ヒロさんは私と同い年。


2人とも、まだまだ元気だなあ。

ほのぼのとした光景を見ていたら、自然と笑いがこみあげてきた。


さて、本来なら、この1・8後楽園ホールで実現した

長州力vs橋本大地の一戦か、

その後、東京ドームシティホールで開催された

『ブル中野引退興行』に関して書くつもりだった。


まあ、そちらのほうは、追々ということで。

プロレス界はスター選手ばかりでは成立しない。

こういう職人レスラーがいてこそ、興行も厚みが増すわけだ。


そこで、私の好きなエル・サムライを趣味で取り上げてみた。

みなさんも、エル・サムライはお好きでしょう!?