新日本プロレスの10・10両国大会。

2011年、新日本の首都圏における最後のビッグマッチ。


気合満々のテレビ朝日『ワールドプロレスリング』(スカパー!生中継もあり)実況班、

新日本スタッフ、選手たちの思惑とは多少のズレがあったのか、

両国国技館は6割の入り(観衆=6500人)だった。


やや寂しい入りとなったことには、さまざまな要因があるだろう。

8・27『ALL TOGETHER』(日本武道館)の大成功のインパクトの強さ。

10・3後楽園ホール大会(天山デビュー20周年興行)が超満員になったこと。


また、客層が被ったということでは、10・7後楽園ホール『仮面貴族FIESTA』

の大盛況も若干影響したのかもしれない。


また、10日当日には、全日本が後楽園ホール、

ノアがディファ有明で勝負を賭けている。

ここ最近の首都圏での興行ラッシュ、

加えて”オールスター戦”的な興行がポンポンと実現すること。

それらも原因の一つではないかと思う。


当日、大会スタート(17時)に先駆け第0試合が組まれていることもあって、

私は14時半に会場入りした。

早速、新日本の関係者と雑談してみたところ、こんな話も聞いた。


「いいカードを自信を持って提供したつもりなんですけど、

前売りがイマイチ伸びなかったんですよねえ」


その言葉通り、全10戦、好カードがラインナップされている。

ただし、今大会には他団体からの参加選手はいない。

もちろん、外国人選手、フリーの鈴木みのる、準レギュラーの田中将斗を除いての話。

言ってみれば、現新日本の純血カードを並べた格好だ。


個人的に、この新日本の姿勢は大いに買っている。

先の9・19神戸大会でも出し惜しみなく、

IWGP王者(棚橋弘至)vsG1覇者(中邑真輔)のゴールデンカードを組んだ。


もう、ここ数年で地方のビッグマッチと首都圏との差別化はなくなっている。

ひと昔前なら、神戸で棚橋vs内藤哲也を組んで、

両国に切札カード(棚橋vs中邑)をもってきたかもしれない。


内藤は、G1準優勝の実績があるし、しかも公式戦で棚橋を破っているのだから、

先に内藤の挑戦が決まってもおかしくはないのだ。

それでも、現新日本は出し惜しみをしない。


話が思いっきり飛んでしまうが、大会終了後、永田裕志が棚橋に挑戦を迫った。

これも必然である。

当日、矢野通を破っているし、今年の戦績でいくと棚橋と1勝1敗。

挑戦の資格は充分にある。

                 

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ところが、そこに矢野が現れて、ベルトを強奪。

強引に11・12大阪大会でのIWGP挑戦を横取りしている。

ただし、これだってよく考えてみれば、必然の挑戦なのである。


矢野は今年のG1公式戦で王者・棚橋に快勝しているし、

昨年のG1公式戦でも時の王者・真壁刀義を破っている。

その実績をタテに何度かIWGP挑戦をアピールしているが、

これまで、まったく聞き入れられなかった。


実力は折り紙つきで、ヒールなのになぜかファンの絶大な支持を誇る矢野。

特に、聖地・後楽園ホールでの矢野人気にはただただ驚かされるばかり。

矢野こそ旬の男だし、今こそ最高のタイミングなのである。


だから、純血勝負へのこだわりは大切なことだし、

種を蒔いておく意味でも、ある程度の冒険は絶対に必要だと思う。


それらすべてを踏まえて考えた場合、

ちょっと厳しい書き方もしなければならない。

挑戦者の内藤が、まだ完全にファンには認知されていなかったということ。


これは内藤自身が昨年の今ごろ、自分の一番の課題としてあげたテーマでもある。


「オレはまだファンに認知されていない。

全国どこへ行っても内藤哲也が認められた存在にならないといけない」


内藤自身もよく分かっているのだ。

もちろん、G1準優勝は大きな実績。

ファイナルの中邑戦の内容も素晴らしく、

新スター誕生の予感もヒシヒシと伝わってきた。

それでも、完全に認知されたかといえば、まだまだなのだろう。


「おそらく善戦健闘はしても、棚橋には勝てないだろう」


いくら内藤本人が「歴史が変わる瞬間を見届けてください!」と宣言しても、

ファンにはそんなふうに見切られてしまっていたような気もする。


もし、そうだとしたら、逆に私は歯がゆい。

なぜなら、内藤はその程度の”タマ”ではないからだ。

そこで感じる歯がゆさとは、内藤哲也という選手、

棚橋と内藤の関係、2人のストーリーを伝えきれていなかったのではないかということ。


今のプロレス業界を支えているのは、おおまかに言うなら4つの媒体。

東京スポーツ、週刊プロレス、テレビ朝日『ワールドプロレスリング』、

サムライTVの4つが代表的な媒体である。

このどれか一つが欠けても、業界にとっては大きなマイナスとなる。


その他、こと新日本に関していえば、新日本の『オフシャル・ウェブサイト』が

広い守備範囲と速報性で異常ながんばりを見せている。


そこで、大会前にウェブサイトでアップされていた動画の内容には驚かされた。

内藤哲也が入門テストを受けている動画と、

デビュー戦の映像、さらに試合後の囲み取材の模様までアップされていたのだ。


入門テストは、2005年11月3日、後楽園ホールにおいて、

『~2006年度公開入門テスト~』という名目のもと、公開で開催されている。

試験管として目を光らせているのが、山崎一夫コーチ(当時)、山本小鉄氏、木村健悟氏。


テスト生を指導するのが、新人の平澤光秀と高橋裕二郎。

テスト生はゼッケン番号を着用しているが、内藤は1番。

結果的に、内藤だけが合格しているが、

その他にも、初々しい豪華メンバー(!?)が顔を揃えていた。


4番=吉橋伸雄(現・新日本)、6番=真田聖也(現・全日本)。

2番=斉藤譲(おそらく!? 本人なら現ZERO1)。


のちに3選手ともしっかりとプロ入りの夢を果たしている。

とくに、この場に、将来の全日本を背負って立つであろう”逸材”の

真田が同時にいたというのは驚き。


スパーリングの際には、内藤vs真田の対戦も見られる。

ここで、やはりダントツに目立っていたのが内藤。

ブリッジワークでは身体能力の高さを見せつけ、

フリーの自己アピールタイムでも素晴らしいマット運動を披露している。


最後の挨拶も現在の内藤となんら変わらない。


「自分の新日本プロレスへの思い、新日本プロレスへのこだわりは、

誰にも負けません!

内藤哲也です、ありがとうございました!」


続いて、プロデビュー戦となった06年の5・27草加大会。

気合い満々の内藤だったが、宇和野貴史の逆エビ固めに完敗。

その後の、囲み取材での受け答えも注目だ。


「目標とするレスラーは誰かいますか?」


そう質問を受けた内藤は、少し笑みを浮かべてこう答えた。


「一応いるんですけど、今は伏せておきたいと思います。

ちゃんと自分で実力をつけて、その人と当たって、

その人を超えたいと思います」


その人……意中の人は間違いなく棚橋弘至である。

デビュー戦を終えたばかりのグリーンボーイのセリフとは思えない。

まさに、内藤そのものだった。


本当に、この動画を見たら、最高の煽りであり、

そこに余計な講釈はいらないと思った。

6年前の入門テスト、5年半前のデビュー戦。

そこから内藤はまったくブレていないのだ。


こういったドラマチックな部分を事前にもっとパブリシティできていたなら、

この日の両国はもっと埋まったかもしれない。

そんなことを漠然と思った。


基本的に私は、当ブログでも、他の媒体でも

新日本のビッグマッチの煽りのような文面はあまり書かない。

新日本なら充分に宣伝も行き届いていると思っているから。


むしろ、ややパブリシティ不足のZERO1や、

他に苦戦しそうな興行、宣伝も限られてしまうような大会に関して、

見どころを書いたりしてきた。


だから、今になって思えば、新日本といえども苦戦はあるのだから、

もう少し自分のできる範囲でなにか書いておけばよかったと思っている。

そこが歯がゆくもあり、反省点なのである。


さて、試合当日、リング周辺で進行リハーサルが行なわれている中、

選手たちが思い思いのトレーニング、ウォーミングアップをしていた。

たまたま内藤がいたので、その動画の話題を振ってみた。


「はい、ああいう画像が残っているなんて、本当にありがたいですよね。

それから今日の煽りⅤにも出てくるらしいんですけど、

99年の10月10日が棚橋さんのデビュー記念日じゃないですか?

オレ、あの試合、後楽園ホールの前から3列目で観戦してたんですよ」


「そうなんだ!? 真壁とのデビュー戦だよね。

あの試合はよかったから、ゴングでカラ―2ページ取ったんだよ。

オレが試合リポートを書いたから、よく覚えてる(笑)」


「ああ、金沢さんが書いたんですか?

オレ、ゴング党だったから買いましたよ、ちゃんと。

もちろん、毎週買って読んでましたけど(笑)」


「それは嬉しいなあ。で、内藤選手、練習しないの?」


「だって、試合前に練習したら疲れちゃうじゃないですか(笑)」


こんな何気ない会話をしていても、内藤からはどこか他の選手と違う空気を感じる。

飄々としていて、ストレート。

変な緊張感というか、ピリピリした空気を感じさせないのだ。

彼はスイッチのオンとオフの入れ方が上手いのだろうなあと思う。


スカパー!PPVのオンエアは17時ちょうどから。

ただし、第0試合があるため、放送席の仕事は16時40分からスタート。


最初のサプライズ、興奮は第5試合で訪れた。

そうは言っても、私からすれば充分予測可能な結果だった。


IWGPジュニアタッグ選手権で、王者チームのAPOLLO55が王座陥落。

新王者は元ROHタッグ王者の実績をもつデイビー・りチャ―ズ&ロッキー・ロメロ。


デイビー&ロッキーのコントラクトキラー(デイビーがアルゼンチンバックブリーカーで担いだ相手に、

ロッキーがスワンダイブ式ニ―ドロップを落とす)が決まり、田口がフォール負けした瞬間、

国技館はシーンと静まり返った。


観客も唖然、呆然といった恰好。

ちょうど1年前の同大会(10・11両国)で、ゴールデン☆ラヴァ―ズが、

APOLLO55を破り王座奪取を果たしたときには、

ベルト流出にも関わらず館内は大歓声と拍手に包まれた。

結果的に、このタッグ戦は昨年度『プロレス大賞』のベストバウトも受賞した。


あのときは、試合内容はもちろんのこと、飯伏幸太の存在が大きかったし、

ゴールデン☆ラヴァ―ズがすでに認知されていたからこその現象だった。


今回の試合内容は、あの試合にも引けをとらない。

それに今年の5・3福岡大会でも同一カードが組まれ、

両チームは凄まじい白熱の攻防を展開している。


残念ながら、そこも事前に観客には伝わっていなかった感じ。

私は実際にあの試合を見ているから、好勝負は必至だし、

ベルト移動の可能性は十二分にあると思っていた。

だから、この結果にもさして驚かなかったのだ。


まあ、これも種を撒いたと思えばいい。

国技館でこの試合を観戦したファン、

またPPV中継を観た視聴者は納得だろう。


私と並んで解説についていた山崎一夫さんも、バックステージでこう言っていた。


「あの内容だから、この結果にも説得力があるんですよ!」


デイビー&ロッキーは今後、ゴールデン☆ラヴァ―ズと並び、

APOLLO55のライバルとして確実に認知されると思う。


続いて私がインパクトを感じたのは、

田中将斗のIWGPインターコンチネンタル王座奪取だった。

いくら新日本の準レギュラーとはいえ、

ZERO1所属の田中がIWGPと名のつくシングルベルトを巻くのは快挙である。


こちらは、私にしてもサプライズ。

同時に、田中の実力を改めて再確認させられた。

もともと私が期待していたのは、結果よりも試合内容だった。


周知の通り、田中は名勝負製造マシンと呼ばれている。

試合内容の充実度にかけては、棚橋、中邑真輔にも引けをとらない。


新日本とZERO1の対抗戦が勃発した当初、まず中西学との2連戦から好勝負がスタートした。

その後、永田との抗争が始まり、後藤洋央紀、真壁刀義との連戦へ。


田中が絡んだ試合はどれもが素晴らしい内容となった。

だから、個人的にMVP戦にも期待していたのだ。


話題先行型だったMVPがようやく覚醒したのは今年のG1クライマックスから。

まず、初戦で中邑がMVPのポテンシャルを存分に引き出してみせ、

カール・アンダーソンがそれに続いた。


そして、田中はまた見事にやってのけた。

内容と結果の両方で見せつけたのだ。


11・12大阪での初防衛戦の相手は後藤に決まった。

またも鉄板カードの再現である。


ここで、ごく私的に思うのが、今の流れを無視していうなら、

もう一度、棚橋vs田中を見てみたいということ。

両者は2009年のG1公式戦で一度だけ対戦。

当時、IWGP王者だった棚橋が勝っているが、素晴らしい試合となった。


「たった1人だけ、オレの肉体美に匹敵する男がいた」


棚橋も独特の言い回しで、田中の地力を絶賛していたことを思い出す。


もっと言うなら、同じCHAOS同士で一度も対戦経験のない中邑との試合も見たい。

名勝負製造マシン同士が絡んだら、一体どうなるのか?

棚橋戦ならある程度の予想はつくが、

こちらはまったく予想がつかないから余計に興味が沸く。


もう一つ欲を言うなら、田中vs鈴木みのるもぜひ見てみたい。

新日本の源流を強く意識する男と、

FMW育ちにして、米国第3のメジャー団体であったECWの頂点に君臨した男。

このミスマッチ感がたまらないではないか!


本当に、私のブログは書き始めたら止まらないし、

横道にそれまくる(笑)。


では、本題に戻って、セミファイナルの因縁対決。

鈴木みのるvs真壁刀義には決闘ムードが充満していた。


正直いって、昨年、IWGP王座を失ってから…

いや、もっと遡りIWGP王者になった頃から、

真壁の試合内容が落ちてきたように思うのは私だけだろうか?


肉体的なコンディションと精神的な部分のバランスを崩していたように感じるのだ。

ベルトを巻いているときは、責任感の強さから

自分にプレッシャーをかけ過ぎているように見えた。


反対に、小島聡に敗れベルトを失ってからは、

リターンマッチのチャンスがめぐって来ないために、

焦っているように見えた。


その真壁が本来の姿を取り戻しつつあるように見えたのが鈴木戦だった。

小細工なしに正面からぶつかり合う。


本来なら、相手をすかしたり、おちょくったりもしながら、

自分のペースに引きずり込んで試合を展開する鈴木が、

まるで真壁の魅力を引き出すかのごとく、真正面からやり合った。


あえて真壁の土俵に立って、なおかつ完勝してみせた鈴木。

これが鈴木のプロ魂だろう。

今の鈴木は決して過去を引きずってはいない。


かつて新日本マットを席巻したことも自分の中で消去して、

全日本マットで三冠ヘビーを巻き、チャンピオン・カーニバル2連覇を達成したことも消去している。

鈴木みのるは今だけを見つめて生き抜いている。

最近の彼のファイトを見るにつけ、私はその思いを強くするのだ。


これはうがった見方かもしれないが、

鈴木は試合を通して真壁にメッセージを送ったようにも感じる。

それを試合後に乱入した高山善廣が、代弁してみせたように思うのだ。


そして、メインイベント。

29分19秒の闘い。

その間、まったくだれることがなかった。

15分経過のアナウンスを聞いたとき、

「えっ!?」と思った。


それほど試合に集中していたのだ。

一言で表現するなら、放送席で見とれてしまった。

プロレスを見ているなあ、という気持ちでいっぱいになったからだ。


打撃のないプロレス、

ラリアットのないプロレス、

だから余計に新鮮に映ったのかもしれない。


棚橋の動きにピタッピタッとついていく内藤。

棚橋は定石通りに内藤の膝を攻める。

これまでの試合では内藤も膝狙いだったが、

この日は試合の流れから首に照準を絞る。


内藤戦では有効な棚橋のテキサスクローバー・ホールド。

一方、エボルシオン、グロリアへの布石となる首狙い。

両者の攻撃は共に理にかなっている。


スープレックス合戦では、まるでどちらのスープレックスが華麗で、

ブリッジが綺麗なのかを競い合っているようにも見えた。


そして、戦前に言った通り、徹底してスリングブレイドを阻止する内藤。

だが、棚橋は勝負どころで、変則的な形からスリングブレイドを決めてみせた。


デビューから5年半、棚橋を追い続けてきた内藤。

5年半で同じ土俵に立ち、その背中に手を掛けた。

ベルトがすぐ目の前に見えた。


しかし、土俵際に追いつめられても、

逆にそのハードルを一段高く上げてみせた棚橋。

この日、棚橋vs内藤という、また新たな名勝負数え唄がスタートした。


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内藤の課題はハッキリしている。

中邑戦を経験し、棚橋をここまで追い詰めた。


今後、永田と対戦しても、後藤、真壁、鈴木みのると当たっても、

自分を見せつけることができるかどうか?

それらもまた、棚橋との間接的な勝負になるのだ。


一方の棚橋は、底知れない王者となってきた。

以前、このブログで、

「棚橋の試合に全盛期の全日・四天王プロレスが重なって見える」

と書いた。


ただ、今回の試合を観て、また違う感覚を抱いた。

四天王プロレスが重なって見えたのは、

小島戦、永田戦、バーナード戦と、

いったいどこまで受けて、耐えるのか?という

棚橋の受けっぷりばかりが際立っていたから。


しかし、内藤戦では、がっちりと受け止めたうえで強さを見せた。

棚橋のプロレスは棚橋のオリジナル。

棚橋オリジナルでプロレス界のトップに立ち、業界を牽引しているのだ。


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日本のプロレスの歴史は60年、

それなのに「100年に1人の逸材」と自らを称する棚橋。

そのキャッチフレーズさえ、今なら違和感なく受け止められる気がする。


もしかしたら、20年後に新日本プロレスの歴史を振り返ったとき、

猪木時代、長州・藤波時代、闘魂三銃士時代に次いで、

棚橋時代という項目が存在するかもしれない。


そんなことも自然と頭の中で想像してしまう。

観客数=6500人。

少し淋しい入りだった。

それでも10・10両国大会では、素晴らしいプロレスに出会うことができた。