プロレスファンにとって、忘れられない日にち、
頭にインプットされている日付というのがいくつか存在するだろう。
たとえば8・26なら、1979年、日本武道館で開催された『夢のオールスター戦』。
1・4といえば、新日本プロレス恒例の東京ドーム大会。
それと並び称されるのが、10・9だろう。
今から16年前に開催された10・9東京ドーム大会といえば、
『激突!新日本プロレスvsUWFインターナショナル全面戦争』。
もの凄い観客の入りだった。
バックスクリーンを除いてスタンド席はギリギリの場所まで満杯。
発表は6万7000人(超満員札止め)。
立錐の余地もないとはこのことを言うのだろう、と思った。
スタンド席で波打つ何万という人間の頭をフィールドから眺めるだけで、
壮観という言葉を越えて、酔いそうになる。
当然のように、当時の東京ドームの観客動員レコードとなった。
その後、アントニオ猪木の引退興行、
K-1ワールドGPの大会などが記録を塗り替えてきたが、
実際に、その2大会もライブで観戦・取材している私の感覚でいうなら、
あの10・9ドームこそが一番の入りだったと確信している。
今回、スカパー!『サムライTV』の特番企画として、
10月9日に合わせ、あの10・9ドームの新日本vsUインター対抗戦を検証。
そのナビゲーターとインタビュアーを私が務めることになった。
企画を聞いた当初は、16年という区切りに特別な意味合いがあるわけでもないし、
多少強引な話かな?という印象を受けた。
ところが、その取材対象を、あえて当時の若手勢に絞り、
今年から来年にかけてデビュー20周年を迎える第3世代、
しかもいまだ現役バリバリの選手にこだわるというところに魅力を感じた。
選抜した選手は4人。
当時の新日ヤングライオンから大谷晋二郎と永田裕志。
Uインターの若手精鋭軍から高山善廣と金原弘光。
そう聞かされて俄然、取材意欲がわいてきた。
もちろん、10・9ドーム大会だけにこだわることなく、
約9ヵ月続いた両団体による対抗戦をすべて踏まえての話。
あれから16年の歳月を経て、
全面対抗戦は彼らのレスラー人生にどのような影響を及ぼしたのか?
そのあたりを、今だから話せる大人の切り口で存分に語ってもらった。
ちなみに、10・9東京ド―ムにおける4選手の試合は次の通り。
◆第1試合 永田裕志&石澤常光vs金原弘光&桜庭和志
○石澤(10分47秒、三角絞め)桜庭●
◆第2試合 大谷晋二郎vs山本健一
○大谷(7分18秒、チキンウイング・フェースロック)山本●
◆第3試合 飯塚高史vs高山善廣
○高山(7分39秒、腕ひしぎ十字固め)飯塚●
また、10・9東京ドームの前哨戦として、
9・23横浜アリーナでプレ対抗戦が1試合だけ組まれた。
長州現場監督が自ら出陣したタッグマッチだったが、
試合の入場時までパートナーのⅩは伏せられたまま。
そこで、長州を先導して入場してきたのが、この日、2試合目となる永田だった。
壮絶な闘いの末、安生の膝蹴り、永田のパンチで
両選手の顔が腫れ上がったのは、周知の通りである。
◆長州力&永田裕志vs安生洋二&中野龍雄
○中野(腕ひしぎ十字固め、10分6秒)永田
こういった試合も含めて、4選手にインタビューしたところ、
当時は語られることのなかった本音や秘話が次々と飛び出してきた。
同時に、この対抗戦の経験が彼らのレスラー人生において、
確実にターニングポイントとなっていることも分かった。
まず、大谷晋二郎。
当時の大谷は、対抗戦のメンバーに選出された喜びとともに、
第1試合に出場する永田、石澤へのライバル心でメラメラと燃えていたという。
「あの2人なら凄い試合をするのは当たり前だと思っていたから、
絶対にそれに負けない、それ以上の試合をしてやろうって。
もの凄いファンの歓声のなか、入場していくときにいろんなことを考えて…。
もしかしたら、あの東京ドームの花道を入場しているときに、
ボクはレスラーとしても人間としても成長したんじゃないかって。
今になると、そう思えるんです」
そんな大谷が強く印象に残っているのは、
1996年の6・17日本武道館大会(ザ・スカイダイビングJ)。
ジュニアのタイトルマッチが8試合開催された前代未聞の興行。
このとき、金本浩二の負傷欠場に伴い、
UWA世界ジュニアライト・ヘビー級選手権王座決定戦で、
大谷と相交みえたのが桜庭和志。
結果的に大谷が第29代王者となったが、両者の個性と意地がぶつかり合い、
交わらないはずの新日本とUが見事に融合する大会屈指の好勝負となった。
「ボクはあの試合をハッキリ覚えていますよ。
将来的に、桜庭選手は日本の格闘技を背負う選手になりましたけど、
『あ、この人はプロレスが好きなんだな』って感じましたからね」
では、永田裕志の場合はどうか?
「横浜で一度やってたからドームはやりやすかったんですよ。
もう、とにかく摑まえたらぶん投げてやろうって。
3年半ぐらい前まで、アマレスをバリバリでやっていたわけだから、
そこは自信ありましたよ。
驚いたのは、お客さんからの反響ですね。
自分たちは第1試合なんで、終わったら付人とかセコンドの仕事をしなきゃいけない。
それでバックネット前を歩いているだけで、スタンドのお客さんが『ウァー!』って沸く。
試合じゃなくて、雑用しているオレに大歓声なんです。
初めて、自分が認められたというかね。
ただ、Uインターとの闘いが終わったら、また元のポジションに戻って。
だから、プロレスってもっと幅広いものなんだってことを知りましたね。
あの対抗戦があって、海外遠征があって、ようやくプロレスラーになってきたっていうかね」
かつて付人を務めたことがある猪木の訓戒と、長州からの教え。
一見相反する2つの教示を永田なりに消化して、いまの永田裕志ができあがった。
それでは、一方のUインターサイド。
高山の話は抜群におもしろかった。
トップロープをひとまたぎして入場する帝王スタイルを初めて披露したのが、
この10・9ドーム大会の飯塚戦。
高山は試合前のウォーミングアップの際に、
それをやってやろうと決めたのだと言う。
「当時、Uインターも行き詰まっていたから、
新日本との対抗戦と聞いて『これはオイシイな、テレビ朝日にも出られるな』って。
だから、あの試合で初めて自分の素の部分、荒々しい部分が出たんだと思う。
入場のとき、もの凄い罵声が飛んできたから、そっちに向いてツバを吐いてやった。
それから新日本をまたいでやったと。
自分の試合まで2連敗で来てたから、コメントでも『オレが新日本に勝った!』って。
Uインターの試合ではまだ若造だから、偉そうなコメントなんかできないでしょ?
あのドームから『オレが、オレが』という自分が出てきたんだろうね」
あのトップロープをひとまたぎの瞬間が、帝王へと成り上がる第一歩であったのだ。
その後、物怖じしないハートの強さと、巨体、キャラクターを買われ、
安生とゴールデンカップスを結成した高山。
4カ月後には、橋本真也&平田淳嗣の保持する
IWGPタッグ王座に挑戦するなど飛び級で出世している。
最後に、11・16後楽園ホール大会で、
デビュー20周年興行『UーSPIRITS』を開催する金原弘光。
現在、同大会では5試合まで発表されているが、
主役である金原のカードは未発表。
本人によると、シングルマッチになる公算が高いという。
そこで、このタイミングで取材をして、本当に驚いたことがある。
金原の頭の中には、あのタッグマッチの再現も候補としてあったというのだ。
金原&桜庭vs永田&石澤。
16年目の再戦である。
実際に、永田と桜庭には軽く話を振ってみたという。
「ボクはいいですけど、カシンを引っ張り出すのは無理でしょう」(永田)
「いまのコンディションではちょっと無理だと思います」(桜庭)
残念ながら、これは諦めざるを得なかった。
だが、金原にはまだその気持ちが残っている。
「来年の永田選手の20周年で是非やってもらいたい。
もう自分は喜んで出ますんで」
そう言って笑う金原。
それにしても、今のまるくなった金原を見るにつけ、
16年前の血気盛んを通り越した”生意気さ”を思い出さずにはいられない。
なんといっても、あの10・9でレガースを外して裸足、
さらにムエタイトランクスを着用して新日本マットに立ったのだ。
「当時のボクはUインターこそ最強だと思っていたし、
新日本にないものは打撃だから、もう蹴りで勝負してやると。
まあ、あの試合に限らず本当にヒドイというか自分だけの試合をしてましたよね。
もう、トンガリまくってた。勝てばそれでいい、強さを見せたらそれでいいって。
いま、昔のビデオとか見ると、自分で嫌になっちゃうぐらい生意気で(苦笑)。
だけど対抗戦ですから。
あのときはあれでよかったと思ってます」
確かに、金原の生意気キャラが対抗戦をよりヒ―トさせたことは間違いない。
ただし、やはり金原もそこで大きな財産を手に入れた。
「新日本の選手はでかくて丈夫なんです。
普通の蹴りじゃ倒せない。
ボクは高田さんと組ませてもらって、長州さんとも対戦しましたけど、
ゴツイだけじゃなくて、長州さんの集中力は半端じゃないんです。
あのとき頑丈な新日本の選手とやっていたから、
リングスに行って大きなガイジン選手とやっても負けない自信があったんですよ」
自分のプロとしてのキャリアの中で、
あの対抗戦は大きなウエートを占めている。
「ただ勝てばいい、強さを見せればいいの自分から、
お客さんを喜ばせてこそプロだという自覚が芽生えたんですよね」
どうだろう?
いま、つらつらと印象に残った言葉を思い出しながら書いてみた。
正直いって、私の思惑、想像以上のものが4選手から返ってきた。
これは、嬉しいばかりの誤算なのである。
19年~20年のキャリアを積んできた今だから
再発見した自分自身と10・9東京ドーム。
殺伐とした空気の中、プロレスファン、
格闘技ファンを一喜一憂させた新日本とUの全面戦争。
あれから16年目の証言。
ぜひ、オンエアをお楽しみに。
でも、こんなに中身を明かしちゃって大丈夫なのかって?
いやいや、これはほんの一端に過ぎないので、ご心配なく!
◎サムライTV特番『証言!第3世代の新日本vsUインター』
10月9日(日)、23:00~24:00、他