27日の午後、都内のスカパー!メディアセンターで、

サムライTV『ニュージャパンライン』の収録を行なった。


間近に迫った新日本プロレス、10・10両国国技館大会の見どころを

「これでもか!」と語り尽くす1時間番組。


MCは清野茂樹アナウンサー、解説は私、ゲストには内藤哲也。

もちろん主役は、同大会のメインイベントでIWGP王座に初挑戦する内藤だ。


王者は棚橋弘至。

今年の1・4東京ドーム大会で小島聡からベルトを奪還して以来、

今回がじつに8度目の防衛戦となる。


気が付くと、IWGP王座の防衛レコードである永田裕志のⅤ10、

第2位となる橋本真也のⅤ9が見えてきた。

今の棚橋は絶対王者となりつつあるのだ。


棚橋vs内藤といえば、すぐにピンとくるだろう。

そう、今年の『G1クライマックスⅩⅩⅠ』の最終戦、

8・14両国国技館のAブロック公式戦ラストマッチで激突。


いきなりハイスパートの攻防となったが、

棚橋のスリングブレイドを内藤が切り返し、鮮やかに丸めこんだ。

これで3カウント。


その技がポルボ・デ・エストレージャ。

英語にすると、スターダスト。

王者を破った内藤は、初めて優勝決定戦へと勝ち上がっている。


棚橋と内藤。

やはり、特別な関係にある。

過去の対戦成績は、シングルマッチで6戦して

内藤の2勝3敗1分け。


そこで、収録前の打ち合わせのときに思いだした。

昨年の今ごろ、本当にまる1年前にあたる9月29日…

内藤をゲストに招いて、同じメンバーで『ニュージャパンライン』の収録を行なっていた。


しかも、同じく棚橋戦へ向けてのゲスト出演。

昨年の10・11両国大会では、3大シングルマッチが組まれた。

メインが、真壁刀義vs小島聡のIWGP戦(※小島がベルト奪取)、

セミフィナルが棚橋vs内藤、セミ前が中邑真輔vs後藤洋央紀。


棚橋vs内藤、中邑vs後藤の2試合には、

次期IWGP挑戦者の査定試合というテーマもあった。


そのときの収録で、内藤が言い放った言葉もハッキリと覚えている。

昨年3月、ニュージャパンカップの2回戦(名古屋)で棚橋から初勝利を奪い、

8月のG1公式戦(名古屋)では、30分ドロー。


「棚橋弘至とは1勝1分け。その前に若手時代に一回やって負けたのを入れてもいい。

それなら1勝1敗1分けですよ。次に勝って、自分が上だというのを皆さんに知ってもらう」


たしかに若手時代、いわゆる『夢☆勝ち』的なマッチメイクで、

内藤は棚橋に挑んで敗れている。

その1敗も含めていい――自信にあふれたセリフだった。


その一方で、内藤は自分自身の存在感、必要なテーマも冷静に把握していた。


「自分はまだお客さんに認知されていない。

名古屋ではお客さんに自分の存在が届いたと思う。

それを全国的に広げていかないと。

どこへ行ってもお客さんに認知されることが、オレのテーマだと思っています」


それまでの口下手な若者というイメージから一転。

内藤のしゃべりは天然だが、しっかりと的を射ているのだ。


だが、それ以降、棚橋に2連敗を喫した。

10・11両国で敗れ、12・12名古屋大会でも完敗。

絶大な”内藤コール”に沸きかえる名古屋で、棚橋はキッチリと借りを返して、

1・4東京ドームでのIWGP挑戦をアピールした。


この名古屋の試合で忘れられないシーンがある。

ハイフライフローで内藤を破った棚橋は、勝利の余韻に浸る間もなくリングを降りた。

そのまま振りかえることもなく、入場ゲートの花道を真っ直ぐに歩いて、

カーテンの奥へ消えた。


リングに1人ポツンと残された内藤は、仁王立ちのまま棚橋の背中を睨み続けていた。

棚橋がカーテンの向こうに消えるまで、身じろぎもせず視線で追った。

そして、棚橋が消えると、大観衆に向かって深々と頭を下げてからリングを降りている。


このシーンの話を本番収録で、内藤に振ってみた。

なぜか、内藤の表情がパッと明るくなった。


「よく見てますねえー!! そういうところを見てくれていると嬉しいんですよ」


そう、あれも試合と同じなのだ。

棚橋vs内藤という闘いの延長戦。


勝者でありながら、なぜ棚橋は勝ち誇ることもなく真っ直ぐに退場したのか?

それは自分の覚悟を示すと同時に、もの言わぬ内藤への問い掛けでもある。


「もうオレは今日の試合を振り返らない。

オレの視線の中には、1・4東京ドームでのIWGP挑戦しか入っていない。

じゃあ、内藤、オレが去ったリングをオマエはどう締めるんだ!?」


これが棚橋からの問い掛け。

内藤はそれを瞬時に理解したのだろう。


「絶対にオマエの背中に追いついて、追い越してやる。

この敗戦は忘れないし、この負けを来年の最大の課題にする。

名古屋のみなさん、今年1年、応援ありがとうございました」


残された内藤も、その思いを無言で表現していた。

わざわざ言葉に代えるとクサくなってしまうが、それがプロレスラーの表現力。

なんでもかんでもマイクを持って、がなればいいというものではない。


ファンの方には、こういったシーンも見逃してほしくない。

言葉を必要としないプロレス、勝負というものは至るところに存在しているからだ。

少なくともこのシーンは、私の心に深く刻み込まれていた。


さて、G1公式戦で8ヵ月分の思いをぶつけ、棚橋を破った内藤。

今回の本番(IWGP戦)に向けて、棚橋戦をこう分析した。


「たぶん棚橋弘至はオレみたいなタイプを苦手にしてますよ。

後藤、中邑なんかとやるときより、やりにくそうだから。

あっ、一つ秘策はあります。

それはスリングブレイドを食わないこと。

G1でもスリングブレイドを切り返して勝った。

スリングブレイドっていう技は凄く利くんです。

みんな棚橋の華麗な攻撃に目を奪われがちだけどね。

スリングブレイドを出させなきゃ、ハイフライフローは食わないんですから」


秘策を言ってしまっていいの?

そういう感じもしたが、これはお互いに分かっていることだろう。


また、内藤の分析通り、確かにスリングブレイドの破壊力は半端ではないという。

たとえば、初めて棚橋と対戦したあと、TAKAみちのくがこう証言していた。


「ハイフライフローを食ったときは内臓が口から飛び出るかと思ったけど、

その前のスリングブレイドで、オレはもうヤバかったからね。

初めて食うから受身が分からない。

そういうときは相手に身を任せていたほうがいいんだけど、

身を任せていたら、後頭部からズバンっと叩きつけられて…

完全に一瞬、頭が飛んだもん(苦笑)。

お世辞じゃなくて、さすが新日本のチャンピオンだと思ったよ」


受身の上手さには定評のある職人TAKAでも、

初めて食ったときは受け切れなかった。

華麗な部分ばかりがクローズアップされがちの棚橋だが、

じつは1発1発の破壊力という点でも秀でているのだ。


そういえば何年か前、棚橋と初対戦した大森隆男も言っていた。


「ハイフライフローは見た目よりも凄く利きますよ。

彼は一点に体重を集中させて落下してくるから、ズバッと決まる。

ああいう的確さで体重がない分をカバーしてるんでしょうね」


日本人では、スーパーヘビーの部類に入る大森の言葉だけに説得力も増す。

どうも、話が棚橋讃歌の方へ向かってしまったが、

もちろん、内藤の中には棚橋へのリスペクトがある。


「ファン時代から、あの人が大好きでしたよ。

だから、若手時代に対戦したとき、

逆に『この試合はもっと大切に取っておきたかった』って

試合後に自分は言った記憶があるんですよ。

あの人があの体でIWGPチャンピオンになったから、

オレもヘビー級でやれるっていう自信を持てたし。

そういう人と対戦して勝って、今度はオレが時代を引っ張っていきます」


対戦相手のことを、「大好きだった」と言ってしまう天然ぶりも内藤らしい。

こと内藤に関しては、それが許されるキャラだと思う。

このあたりの感性も、なんとなく武藤敬司に似ている気がする。

武藤→棚橋→内藤と、やはりなにか1本のラインを感じることができるのだ。


リング上の試合同様にアドリブもできるし、

内藤と会話するのは楽しい。

私は、彼にいいオチを求めて振ってみた。


「G1公式戦で、ポルボ・デ・エストレージャ=星屑を出して、

優勝戦ではエボルシオン=進化を見せた。

この間の裕二郎戦(9・19神戸)ではグロリア=栄光を公開した。

次の棚橋戦では、なにを見せてくれますか? それをスペイン語で言うと?」


「進化を見せて、栄光を掴んだら、次はなんだろう……あ、引退ですか!?」


こんな言葉を真面目な顔で言う内藤に爆笑。

まるで若いころの武藤と会話しているような錯覚にとらわれた。

この男、まぎれもなく大物である。


エボルシオン、グロリアとくれば、次はもちろん、カンぺオンだ!


金沢克彦オフィシャルブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈!?」Powered by Ameba



              ◎サムライTV『ニュージャパンライン』(ゲスト=内藤哲也)

                 10月1日(土)、24:00~25:00放送、他。