今年で9回目を迎えたZERO1『天下一ジュニア』トーナメントを

制した男は、澤宗紀(バトラーツ)だった。


周知のとおり、澤はバトラーツの解散興行である11・5新宿FACE大会で

一区切りをつけて、その後の引退をすでに発表している。


キャリア8年、32歳。

これから全盛期を迎えようというときに「なぜ!?」という声が

業界、ファンの間を駆けめぐった。


それでも自らをバトラーツの闘う広告塔、闘う営業と称している澤は、

「ノ―・バトラーツ、ノ―・レスリング」と言い切った。


もちろん、澤宗紀をメジャーな存在へと浮上させてくれた

ZERO1マットへの恩義は忘れていない。

とくに、相棒タッグとして、自分を支えてくれたバトラーツ出身の先輩、

兄貴分の日高郁人に対しては感謝の気持ちでいっぱい。


だからこそ、相反するようなコメントもつい口を衝いて出てくる。


「ボクの生みの親がバトラーツなら、育ての親はZERO1です!」


私的な観点でいうと、6年前、ZERO1(※当時は、ZERO1-MAX)のリングに

突如現れたランジェリー武藤には度肝を抜かれた(笑)。

こんな色モノをZERO1に上げていいの?


じつに、複雑な空気が後楽園ホールを支配したものだ。

しかし、おもしろいものはおもしろい。

似ているものは、似ている。


最初は抵抗感をもっていた私も、第0試合にランジェリー武藤が出てこないときは、

なにか物足りない気分になったものだ。


ところが、いつの間にか、ZERO1マットからランジェリー武藤が消えた。

と思ったら、澤宗紀というレスラーが出現した。


いわゆるUWFスタイルを継承するバチバチファイト。

今でこそ消えかけているUスタイルという言葉を体現するのが、

バトラーツのリング、バトラーツの選手たちだった。


そこに変態的な奇行が相まって、澤宗紀は人気者となった。

ZERO1のレギュラーとして、なくてはならない存在となった。


3年前の4月、一度だけZERO1勢とトリオを結成して、

新日本との対抗戦に出陣したことがある。


対戦相手は、今をときめく内藤哲也、裕次郎(現・高橋裕二郎)、

そして平澤光秀(現・ヒデオ・サイト―)の若手精鋭軍。


このとき、私、大谷晋二郎とともに、

サムライTVのゲスト解説に付いていた永田裕志が言った。


「この澤選手が一番威勢がいい。引かないし、気持ちも強いし、

対抗戦はこうでなくっちゃいけないでしょ!」


当時から、私も澤を買っていたし、彼には『天下一ジュニア』だけではなく、

新日本の『スーパー・ジュニア』や『スーパーJカップ』に出場してもらいたいと思っていた。


もし彼が『スーパー・ジュニア』に参戦していれば、フジタ”Jr”ハヤトにも劣らない、

あるいはそれ以上の活躍で、新日ファンの喝采を浴びていたかもしれない。


だが、澤には澤の考えがあるし、

準ホームであるZERO1へのこだわりも人一倍強かったのだろう。

もちろん、引退の理由はバトラーツの解散だけではない。


2年前に患った頸椎ヘルニアが慢性化していたのも大きな要因。

澤の口から「引退」を聞かされたとき、当然のように日高はこう言った。


「オマエは、本当にそれでいいのか? 悔いはないのか!?]


しかし、首の状態、このままでは「やり過ぎぐらいがちょうどいい!」という

自分の身上とするスタイルを貫けないこと、

怪我を恐れてリングに上がる自分であれば、それはもう自分ではないこと、

そういった正直な気持ちを聞かされて、日高も納得せざるを得なかった。


5回目の出場にして、澤が初優勝。

誰もが有終の美を飾ることを願っていた。

ただし、現実がそう甘くないことも、誰もが知っていた。


しかし、澤は勝ち抜いてきた。

2回戦(9・14新宿FACE)で、現インタージュニア王者の菅原拓也をお卍固めで下す。

ちなみに、卍固めに「お」が付いているのは本家であるアントニオ猪木への敬意の表れである。


迎えた最終戦の9・17後楽園ホール大会。

ドラゴンゲ―トの実力派、横須賀享を熱戦の末、腕十字で破る。


一方のブロックでは、藤田峰雄(ZERO1)との大激闘をKIDで制した

ハヤト(みちのくプロレス)が勝ちあがってきた。


ともに望んでいた決勝での顔合わせ。

過去、シングルでの対戦成績=1勝1敗。

これ以上ない決戦の舞台。


もうひとつ肝心なのが、このファイナルにZERO1所属選手が立っていないこと。

他団体ではありえない図式である。

言ってみれば、外敵同士による優勝決定戦なのだから。


しかし、不思議とそういう違和感を感じない。

外敵同士という感覚にとらわれることがないのだ。

ここがZERO1というリングの不思議なところ。

澤はZERO1で育った男だし、

リング上とはべつに、ハヤトは「このリングが大好き」と公言している。


外敵でありながらファミリー。

そんな感覚か?


かといって、そこに「なあなあ」の空気が漂うことは微塵もない。

これはヘビーの関本大介にしてもそうなのだが、

ZERO1のリングは、自然に選手を育ててしまう特異な場所なのだろう。


ファンもその過程を見てきているから、単純に外敵という目で見ることなく、

選手個人の力量、情熱、人間性を正当に評価する。

そういった温かさ、熱さが同居しているオリジナルの空間をZERO1は有しているのだ。


澤vsハヤト。

両選手とも消耗が激しい。

だが、ハヤトのゴツンと音が響く頭突きを合図に、バチバチが始まった。

打撃とサブミッションの攻防。


最後はハヤトのKIDを耐え抜いた澤が、

完璧なお卍固めで勝負を決めた。


澤が泣いて、日高が泣いて、

ようやく立ち上がったハヤトは笑顔を見せたが、

澤と抱き合った途端、あっという間に号泣。 

                  

                      金沢克彦オフィシャルブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈!?」Powered by Ameba
この『天下一ジュニア』の3大会。

なぜか、いくつもの涙を見た。


9・14新宿FACEでは、スペル・クレイジーを破った藤田峰雄が号泣。

昨年の同大会にエントリーしていながら、前日に怪我をして欠場。

1年越しの思いをこめて、元WWE戦士のクレイジーから金星。

感極まった藤田の涙は止まらなかった。


前日、宿敵の菅原に1回戦負けを喫した怪人ハブ男(沖縄プロレス)。

6人タッグで大谷、崔、日高組に敗れたあと、ハブ男の目にも涙が光っていた。


「ファン時代から憧れだった大谷さんと当たれて、崔選手も思いっきりきてくれた。

日高さんに最後決められて、なにかモヤモヤしたものが吹っ飛んだ。

もしZERO1さんがまだ呼んでくれるなら、ここで勉強したい」


あまりに謙虚な言葉。

ハブ男は昨年の準優勝者で、今年もⅤ候補だった実力者。

その男が素直な思いを口にして、涙を見せた。


田中将斗との新コンビで、佐藤耕平&KAMIKAZEを破り、

NWAインターコンチネンタルタッグ選手権のベルトを巻いたゼウスも感極まって

一瞬、目がしらを押さえた。


「オレのキャラやないけど、メッチャ嬉しい!」と歓喜の雄叫びを上げている。

やはり、ZERO1は不思議なリングだ。

試合とはべつに、リングの周囲にはド演歌が鳴り響いている。


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敗れたハヤトはこう言った。


「あの人と出会って、自分のスタイルが出来上がった。

オレが澤さんの『やりすぎぐらいがちょうどいい』を受け継いで、

みちのくでも、ZERO1でも、新日本でもそれでやっていきます」


一方、優勝した澤はさばさばした表情で、 

リング上では言えなかったボケぶりも全開。


その一方で、引退試合の相手に指名された日高が堪え切れずにまた涙。

「キミは聞かないほうがいい」と澤に言ってから、報道陣に向かってこう打ち明ける。


「ほんとに、こいつ、体がボロボロなんですよ。

もう最後は、こいつの心が折れないように檄飛ばすので精一杯でした」

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バトラーツのラスト興行は、11月5日の新宿FACE大会。

もちろん、日高の出場も決まっている。


そして、天下一ジュニア覇者の願い事である「引退試合で日高との一騎打ち」の舞台は、

ZERO1の11・9後楽園ホール大会が有力。


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なぜか、引退する本人の澤が、先輩・日高に向かって一言。


「泣かないでー!」


澤らしいオチをつけて、しかっり握手を交わした。


最後に、決勝戦を除く、全8戦の中から私的ベストマッチ3試合を発表!


①フジタ”Jr”ハヤトvs藤田峰雄(9・17後楽園ホール)

②横須賀享vs伊藤崇文(9・14新宿FACE)

③澤宗紀vs菅原拓也(9・14新宿FACE)


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というわけで、今年4月にZERO1正式入団以来のベストマッチを披露した

和製ジェフ・ハーディこと”イケメン”藤田峰雄(みねぴょん)の写真で幕としたい。