24日、東京・ベルサ―ル六本木でZERO1の真夏の祭典『火祭り11』が開幕した。
エントリーは全10選手。
Aブロック=大谷晋二郎、佐藤耕平、曙、ゼウス、柿沼謙太。
Bブロック=田中将斗、崔領二、関本大介、フジタ”Jr”ハヤト、澤田敦士。
各ブロックで総当たりリーグ戦を行ない、その最高得点者同士が8・7後楽園ホールの最終戦にて、
優勝決定戦で相まみえる。
ちなみに、昨年の決勝カードは大谷vs田中のエース対決。これを制した大谷が4度目の優勝を飾り、
2006年~2008年まで3連覇という偉業を達成し優勝記録で並んでいた田中を抜き去った。
今大会を前に、私のV予想は関本大介(大日本プロレス)の一点買い。毎年毎年、このⅤ予想で悩むところなのだが、今年はもう早くから決めてしまった。
というのも、前回のサムライTV『ZERO1中継』(7・3後楽園ホール)のエンディングで、実況の高橋大輔アナウンサーから突然、「金沢さん、今年の優勝予想はズバリ誰ですか?」と振られたので、「関本です!」と即答してしまったのだ。
その後、高橋アナが「もし、予想がハズれた場合は?」とムチャぶりしてきたので、こう切り返しておいた。
「予想がハズれた場合は、同じダイスケつながりで高橋大輔がパンチパーマになります!」
我ながら素晴らしいアドリブだったなあ、と自画自賛。いまごろ高橋アナは戦々恐々としながら、関本の優勝を心の底から祈願していることだろう(笑)。
もちろん、私の関本押しには根拠もあれば自信もある。他団体選手の中では過去最多出場を誇り、今年で6年連続7度目の出場。一昨年の同リーグ戦では初めて田中から白星を奪い、昨年は大谷と凄まじい激闘の末に30分時間切れドロー。
さらに、昨年9月、ZERO1の至宝である世界ヘビー級のベルトを奪取し、半年間で4度の防衛に成功しており、その相手には大谷もいた。10年間、追い続けてきた大谷を完璧なラリアットでマットに沈めているのだ。
この実力者がいまだ『火祭り』においては、決勝まで残ったことがない。
「今年こそ関本だ!」というのは、予想というよりもう私の願望に近いものなのかもしれない。
ところが、ここにきて別の意味で思わぬ伏兵、注目の男が現れた。
NWA推薦枠として初参加する澤田敦士(IGF)である。 別の意味というのがなにを指してのものなのかは、もうおわかりだと思う。
前回更新のブログに記載したように、サムライTV『Sアリーナ』にゲスト出演した澤田に対し、解説の私はブチ切れた。
たかだかキャリア4年程度、さしたる実績もないレスラーに、日本を代表するプロフェショナル・レスラーである大谷や田中を小馬鹿にされては、堪ったものではない。
彼らを小馬鹿にするということは、私に喧嘩を売るどころか、プロレスそのものに喧嘩を売るも同然である。
だから、もう黙ってはいられなかったのだ。
過去、サムライTVには10年以上も出演しているし、その他、地上波放送のプロレス討論番組にも何度か出演しているが、こんな事態は初めてだった。選手に対してキレたのも初めてなら、レスラーからド付かれたのも初めて。
あの長州力にでさえ、怒鳴られたことは数知れずながら、手を出されてことは一度もない。
カットしようもない生放送。エンディング20秒前で、私を睨みつけながら、とっとと退席してしまった澤田。
普段なら本番終了後、サムライTVの番宣用にゲストとともに、笑顔で記念撮影に収まるのが恒例となっている。ところが、ゲストが帰ってしまった。ゲストの居場所がポッカリと空いたうえに、私は不機嫌極まりない状態ときている。そんな状況での撮影である。
それが、この写真。
さすがに、いつも天然に明るいモッキ―まで困ってしまいウツムキ加減だ。
いずれにせよ、今年の『火祭り』に関しては、優勝争いとともに、もうひとつのテーマが出来上がってしまった。はたして、澤田敦士とはナンボのものなのか? 彼はどんな試合、闘いを見せるのか?
当日、初めて訪れたベルサ―ル六本木。キレイでモダンなビルの中にある小さな会場だった。
収容人数は250人ほどだから、もちろん満員となった。
狭い会場なので放送席は、リングサイド。本当にリングに近い場所に設置されていた。
問題の澤田は、第4試合に登場。
相手は世界の田中将斗。FMW出身で、米国ECWが全盛期にある時代、日本人で唯一ECW世界ヘビー級ベルトを巻いた男。
フリーランスを経て、ZERO1へ。ホームのZERO1はもとより、新日本マットの準レギュラーとしてもつねにトップ戦線に絡んでいる。名勝負製造マシンとして、新日本での評価も抜群に高い。
「田中にプロレスを教えてもらったほうがいい!」
あのとき、私が澤田に言った言葉はただの腹立ちまぎれのセリフではない。
田中からプロレスの厳しさを教わるべきだし、田中相手にいい試合ができないようでは半人前だという意味もこめられているのだ。
大胆にも澤田は、師匠の小川直也が一時期使用していたNWA世界王者のテーマ『ギャラクシーエキスプレス』のテーマ曲で入場してきた。放送席の前を素通りしてリングへ向かう。
私は、放送席に向かって澤田がなにか仕掛けてくるのではないかと思い、準備だけはしていた。
なにか言ってきたり、手を出してきたら、彼に言うべきセリフも決めていた。
「この放送席はオレの領域だからまたぐな! アンタのテリトリーはあのリングの上だろ!」
だが、澤田は素通りした。と、思いきや、エプロンに上がったところで振り返り、もの凄い眼光を私に向けてきた。私も視線をそらすことなくにらみ返した。その間、3秒ほどか。
その後も澤田が、こちらに目を向けたのは一度だけ。田中のハードコア殺法、テーブルクラッシュを食らいながら、逆に真っ二つに折れたテーブルの一片で田中の脳天を痛打。
その勢いのまま放送席のそばまでやってきて、「見たか、コラッ!」と私に向かって叫んだ。この程度で正解なのだろう。相手は田中だ。そこで放送席に向かってアピールしている暇などあるわけがない。
では、肝心の試合内容はどうだったのかと言えば、私の想像以上だった。
ハードコア・ファイトの達人、田中を向こうに回し場外乱闘でも引かなかったし、
エルボー合戦でも本家・田中と真正面から打ち合った。
また、終盤にみせた変型のSTOは痛烈だった。
小川のSTOは大外刈りに体重を浴びせかけた技であるが、
澤田がカウンターで放ったのは払い腰のように相手の体を宙に浮かせ半回転して叩きつけるもの。
さすがの田中もダメ―ジが大きく、しばらく足元が定まらない状態。
それもあってか、田中は早い勝負に出た。
スライディング・ラリアットから間髪いれずにスライディングD。
これが澤田のアゴの先端をもろに捉え万事休す。
ヤワなレスラーであれば、失神KO負けといった感じの凄まじい一撃だった。
3カウントが入った直後、モニターTVを見ると、澤田は白眼をむいていた。それでも自力で立ち上がり、悔しさを滲ませながら退場していった。
試合タイムは8分23秒。短期戦だったが、じつに中身の濃い闘い。
わずか1戦で評価したくはないのだが、この試合に関しては澤田を認めざるを得ない。プロレスラーとしての闘争心、魂が充分に伝わってきたからだ。
そういえば、『Sアリーナ』の澤田発言の中で、いま思えば本音とも思える言葉が2つあった。
「優勝なんて大それたことは考えていない」
「ただ、闘いを見せるだけだ」
その2つが本音だとすれば、まだ自分は未熟だし優勝争いに加わる実力はない、だから試合内容で勝負してやる。それが彼の真意と受け止めることもできる。
残り3戦。因縁の崔、V本命の関本、ジュニアの喧嘩小僧・ハヤトとの公式戦が待っている。この『火祭り』を走破したとき、澤田にどんな変化が訪れるのだろうか?
さて、開幕戦に組まれた公式戦は全4試合。結果的に、関本、耕平、田中、大谷とⅤ候補が順当勝ち。開幕戦で波乱、番狂わせが起こりがちなZERO1にしては、逆に珍しい結果となっている。
ただし、そこで目についたは澤田を含め敗れた選手が光っていたこと。試合後、私の視線は負けた選手のほうに釘付けとなった。明らかに、彼らが輝いて見えたのだ。
40kgの体重差を克服して、怪物・関本をとことんまで追い込んだハヤト。
耕平の巨体を見事なブリッジのジャーマン・スープレックスで投げてみせた柿沼。
大谷という分厚い壁を体感しつつ、何度も声を張り上げて立ち上がっていくゼウス。
改めて、ZERO1というのは不思議なリングだ。負けた選手のほうにドラマを感じてしまうことが度々ある。これは大将の大谷晋二郎の生き方がそのまま反映されているせいなのかもしれない。
負けて負けて負けまくっても評価の落ちない大谷。あの3・6両国大会のメインでも帝王・高山に完敗を喫した。それでも国技館は大”オ―タニ・コール”に包まれた。
この日は、メインできっちり勝利を収めた大谷がマイクを持って締めの挨拶を務めた。
「ゼウス選手、本当に熱かった。だけど、ほんの少しだけ自分のほうが熱かったと思います」
これを受けて、放送席も締めの総評に入った。私はこう言った。
「いま大谷晋二郎は、自分のほうがほんの少しだけ熱かったと言いましたけど、僕にはゼウスのほうがほんの少しだけ熱く見えました。大谷選手の勝因はやっぱり、キャリア、経験値の差だと思います」
そして当日の深夜、大谷と何度かメール交換をした。会場で話ができなかったときなどは、こうやってメールのやりとりで反省会(?)をすることがある。
私が、放送席の締めの言葉の内容を送ると、こんな返信がきた。
「金沢さんには敵わないなあ(笑)。たしかにゼウス選手が自らを奮い立たせて闘う姿は本当に熱かったです。なぜか、闘いながらそれを見て無性に嬉しくなってきました。でも、自分のほうが熱いんです。なんか駄々っ子みたいだけど、プロレスラーはそう思っていなきゃいけないって。負けた選手が光っていた? それはZERO1というリングは、プロレスラーがもっともっとプロレスラーを目指す場所だからです!」
ZERO1とは、プロレスラーがもっともっとプロレスラーを目指す場所。
ニッポンイチ熱いプロレスラーの言葉がグッと胸に迫ってきた。