2回の鎌倉行きで、「やぐら」をだいぶ見落としていたことがわかったので、何度かに分けてリベンジしておくことにした。まずは、最初の時に行った「建長寺・半僧坊」だ。そこにも、特徴のある「やぐら」が見出せる。
シルエットは行程の標高(左の目盛り)。折れ線は歩行ペース(右の目盛り)。標準の速さを 100% として、区間平均速度で表している。横軸は、歩行距離。
同居人が長旅に出かけるのを見送った後で家を出たので、「北鎌倉駅」に着いたのは昼すぎだ。↑「建長寺」の駐車場の入口。何度も通っているこの門は、通用門ではなくて「天下門」というお偉い名前が付いているそうだ。
「方丈」の屋根の上に、「勝上山」の頂上付近が見えている。その下に、「半僧坊」の「本堂」と「地蔵堂」も覗いて見える。境内をどんどん奥へ進む。「半僧坊」の鳥居↓。「やぐら」群があるのは、2つめの鳥居をくぐってすぐ左手だ。
これが最初の「やぐら」で、そのすぐ先、休憩場所の崖に、さらに2穴の「やぐら」がある↓。右の「やぐら」は、土石でほぼ完全に埋まってしまっている。
特徴が分かるのは、左の「やぐら」だ。
↑↓このように、岩窟の入口に、左右の袖と天井が張り出して狭くなっており、短い「羨道 せんどう」をつくっている。「羨道」には、扉が付いていた跡が確認できる場合もある。これが鎌倉時代の「やぐら」の様式で、鎌倉時代の「やぐら」は、内部にたいていは漆喰の痕跡が残っている。漆喰を塗ってその上に仏画や唐草模様を描いたり、仏像や五輪塔を浮き彫りしたりと、絢爛な装飾を施していた。毎年の命日などには、「やぐら」に入って追善供養の法事を行なったとみられる。
「やぐら」は、室町初期まで造られつづけるが、そのころになると、入口の「羨道」は造られなくなってタダの横穴となり、また、岩で入口をふさいだことが判るものもある。つまり、単なる横穴式の墓に近くなってしまうようだ。
「半僧坊」の石段を、どんどん上がる。
「勝上山」頂上に到着。きょうは晴れているが、遠くの山はうっすらだ。
「天園ハイキングコース」に合流し、つぎの「鷲峰山」をめざす。
ヤブツバキ↓。野生種は高木になる。
「十王岩 じゅうおういわ」に到着↓。
岩に登って正面から見ると、崩れかけた3体のレリーフ像が確認できる。右から、「閻魔 えんま 大王」「血盆地蔵」「如意輪 にょいりん 観音」だとされる。〔「血盆地蔵」は、月経血の不浄ゆえ地獄に堕ちる・とされた女性を救済する菩薩〕
「十王」は、中国・道教から仏教に取り入れられた冥界の 10人の裁判官で、「閻魔王」はそのひとり。「十王岩」の三尊を閻魔・地蔵・如意輪観音だと記すのは『鎌倉攬勝考』〔1829年〕で、この岩を「喚 わめき 十王 じゅうおう 窟 やぐら」と呼んでいる。おそらく、当時の里人の言い伝えを記したもので、風の強い日など山の上から唸り声が聞こえるのを、「十王岩」がわめいていると信じたのだろう。
『鎌倉攬勝考』は、「十王岩」を「やぐら」と呼んでいるが、それが岩窟墓所を表わす言葉であることは、「窟」という漢字を「やぐら」と読ませていることから明らか。しかも、同書は「十王岩」を、岩窟として現存する他の数か所の「やぐら」とともに、「墳なるべし〔墓だろう〕」と紹介している。
「やぐら」という鎌倉特有の言葉が、鎌倉時代からあったかどうかは不明だが、17世紀の『新編鎌倉志』〔1685年〕には「鎌倉の俚諺〔「方言」の意〕」として記されているので、遅くともそのころには用いられていた。なお、「矢倉」などと書くのは当て字で、「窟 やぐら」は、兵器庫や望楼とは関係が無い。
つまり、「十王岩」は、現在では天井も入口も完全に崩壊して、洞窟のおもかげは無いが、もとは「やぐら」だったのだ。とはいえ、『鎌倉攬勝考』の当時にはすでに崩れ落ちていたようで、同書にはそういう描写があるそうだ。鎌倉を囲む丘陵を組成している「鎌倉石」は砂岩で、たいへん脆い。とくに「十王岩」は稜線上にあるため、風化が早かったのだろう。↑よく見ると、壁の一部だったと思われる袖が残っている。
そうした点から考えると、レリーフ像が「閻魔」等だというのも、後世の里人の付会でないとは言い切れない。被葬者の追善供養を目的とする「やぐら」にそれらを描くのは、通常なこととは思えないからだ。この下の谷間は、建長寺が建てられる前は刑場だったことから「地獄谷」と呼ばれていた。その関連から、稜線上の不明の仏像を地獄にまつわるものとする伝説が生じることはありうるだろう。
「十王岩」からは、古都鎌倉のメイン・ストリート「若宮大路」が、まっすぐ下に見える↓〔「二の鳥居」が見える〕。そのため、 「十王岩」を頼朝の都市計画と関連付けようとする人もいる。しかし、これまた、現代人による付会ではないだろうか。
タイムレコード 20251104 [無印は気圧高度]
北鎌倉駅[9mMAP]1325 - 1337建長寺駐車場[38mGPS] - 1342建長寺山門前[47mGPS] - 1350半僧坊鳥居[58mGPS] 1401 - 1403やぐら[74m]1410 - 1417半僧坊 本堂[105mMAP] - 1424勝上山[140mGPS]1430 - 1443十王岩[140mGPS] 1453 - (2) へつづく。




























