2025年3月4日、中国の習近平国家主席が、中国北京の人民大会堂で開かれ

中国人民政治協商会議の開幕式に入場している=北京 / EPA・聯合ニュース

 


 

 

 

 

 

 

米国の反対側に向かう中国

 

 

 

王信賢|台湾国立政治大学 国際関係研究センター 所長

 

 

 


『今年の中国人民政治協商会議(政協)と全国人民代表大会(全人代)はそれぞれ、今月4日と5日に北京で始まった。慣例通り、李強首相は全人代の開幕式で「政府工作報告」(報告)を発表した。報告は2024年の政策成果をまとめると同時に、2025年の経済・社会の発展の主な政策と方針を提示した。予想通り、中国共産党は、今年の経済成長の目標を5%、都市失業率の目標を5.5%に定めた。今年は「14次五カ年計画」の最後の年であり、「トランプ2.0」がもたらす衝撃に備えなければならない時期であるため、中国が景気下落傾向をどのように反転させ、米国との貿易・技術戦争の圧力にどのようにして対応するのかが焦点となっている。これについて以下の見解を示す。

 

 1つ目に、報告で中国共産党は、現在の情勢を「外部圧力が増加し、内部の困難が深刻化する、複雑かつ厳しい状況」と規定した点が目につく。外部環境については、保護貿易主義の強化、多国間貿易体制の障害、関税障壁の増加などが、グローバル産業のサプライチェーンに及ぼす衝撃に言及している。また、「覇権主義と強権政治に反対し、すべての形態の一国主義と保護主義に反対し、国際的な平等と正義を守護する」という表現を用いた。直接米国には言及していないが、米国の要因が全般的に背景にあることがわかる。

 

 2つ目に、経済政策面での報告では、大きく分けて2つに焦点を合わせた。一つは内需拡大、もう一つは技術自立だ。内需拡大については、「積極財政政策、緩和的通貨政策、全面的な内需拡大」を強調し、「農村振興」「新型都市化の推進」「地域均衡発展」などを主な課題として提示した。技術面では、バイオ工学、量子技術、人工知能(AI)、第6世代(6G)通信技術などを未来の産業として明確に言及した。科学技術人材の養成、民間企業の発展支援が主な課題として提示された。

 

 3つ目に、「発展と安全の均衡」は依然として強調されており、これは、国家安全保障が最優先課題に設定されている点を示している。報告は「主な分野のリスクを効果的に予防・解決し、システム的なリスクが発生しないよう、しっかりと備えなければならない」と強調した。さらに、国家安全保障の中心は国防に基づくという点を強調し、今年の国防予算を1兆7847億元(約36兆5000億円)と策定し、前年比で7.2%増額した。これは経済成長率(5%)より高く、2022年以降、中国の国防予算の増加率は4年連続で7%を超えている。

 

 最後に、報告では対外関係において2つの特徴を見いだせる。1つ目の特徴は「多国間主義」の強調だ。特に、上海協力機構(SCO)、BRICS首脳会談、中国・アフリカフォーラムなどの「グローバル・サウス」(南半球の新興国・開発途上国)諸国との協力を強調した。2つ目の特徴は、中国が米国のドナルド・トランプ大統領が政権就任後に施行したすべての政策に対して、積極的に逆の方向に動いているという点だ。たとえば、トランプ大統領が関税を対外貿易の武器として使用すると、中国は「世界貿易機関(WTO)を中心とした多国間貿易体制を固く守ろう」と強調する。また、トランプ大統領は「パリ協定」離脱を宣言したが、中国は「全世界の環境・気候ガバナンスに積極的に参加して主導する」とした。このような戦略によって、トランプ大統領の同盟国に向けられた無差別攻撃が、国際社会における中国の影響を拡大する可能性がある。


 結論として、報告は今もなお「習近平を中心に」「習近平思想を高く掲げる」という表現を強調し続けていることがわかる。また、会議場での習主席と中国共産党の上位層の間の相互作用を通じて、習主席の権力が依然としてきわめて強固であることがわかる。現在の中国の政治運営を理解するうえでも、これをベースにしなければならない。そうしないと、状況を誤認することになりうる。』

 

 

 

 

 強大な他国に対して、私たちは警戒を緩めるべきではないが、日米のメディアが伝えてくるような一方的な情報だけを信じるのも害になる。たとえば、トランプの関税攻撃に対して、中国は報復だけを志しているのではない。スパイ冤罪と刹傷事件の背景には、中国官民の過度の「リスク意識」がある。彼我双方に言えることだが、対立状況では、脅威のあまり相手を誤認することこそ、自分の立場を危うくする。

 

 上は、米国流の近代経済学と国際関係論に則った安定したアプローチとして有益なので、掲載した。もっとも、論者の関心は、習近平体制がなお続くのか、そうでないのか、といったかなりミクロな問題に集中しているようだ。

 

 そこで、より長期的な観点から多少の問題を提起しておきたい。

 

 大陸中国の指導部が主張する「平等・公正」〔「平等・正義」〕とは、あくまでも国家間の「平等・公正」であって、各国家が自国内をどう編成するかは不問とする考え方が前提のようだ。つまり、各国家内は、自由でも平等でもなくてよい、むしろ、国家間の「平等・公正」を指導・実現すべき巨大国家は、強力でなければならない、という要請のもとでは、強力化を効率的に実現する上で障害になるのであれば、その限度で国内の自由・平等を犠牲にすることは当然の要請となる。そういう前提があるようだ。

 

 もちろんそれは、「プロレタリア独裁」という共産主義イデオロギー〔「習近平思想」〕とも強力に結びつきうるが、必ず結びつくわけではない。機能的に見れば、共産主義だろうと、専制国家(儒教的 “封建” 国家)だろうと選ぶところはない、とも言える。


 中国の現政権の「カオス脱出」の狙いは: 全地球規模の分散封建国家体制の中で、中国が唯一の巨大・集中封建(秩禄制)国家として、平等な弱小国家群を「公正ジオカルチュア」のもとに支配する、というものであろうか?


 このような大陸中国の狙いは、ウォーラーステインの言う「ディ・ランペドゥーザ戦略」の一つであると思われる。各文化圏の最高の位置にいる人びとは、「カオス」を通り抜けて自分たちの支配を永続させるために、「すべてを変えることによって、何も変えない」戦略をとる。「平等・公正」の換骨奪胎は、資本主義時代の支配層が装いを変えて「明日も居座る」ための一つの手法だと見ることができる。もちろん、「ディ・ランペドゥーザ戦略」とは、これひとつに限られるものではない。トランプ/マスクの戦略と大陸中国の戦略とが、今後中期的に対立する可能性もある。


 しかし、大陸中国の戦略は、資本主義時代の「主権国家」(一様な「国民」国家)の存続に、なお固執しているように見える。そのことが原因となって失敗するのではないだろうか。


 トランプ政権は、「多国間」を操作してヘゲモニーを握ろう〔握りつづけよう〕とする「新自由主義」手法から、「二国間」〔各個撃破〕に固執するマネタリズム(重金主義)への後退をめざしているようにも見える。大陸中国は、これに対抗して、米民主党的な「新自由主義」政策を、表面的に採用して看板にする、ということだろうか。


 この「新自由主義」は、「グローバル産業」〔と云っても、中国のそれらは、究極的に中国「国家」〕に対する「保護主義」的障害の除去に集中している。「サプライチェーン」にも言及していることからわかるように、この場合の「グローバル産業」とは、「周辺」諸国〔および国内「周辺」地域〕からの・あからさまな剰余価値吸い上げ、その強化と固定化を志向する・中国国家の分肢だと言ってよいだろう。


 しかし、それは、政治的な長期的狙いである国家間の「平等・公正」という志向〔あくまで看板だが、実質を伴わないわけではない〕と矛盾しないだろうか?

 

 

台湾国立政治大学のキャンパス。中央はコンピュータ・センター。
/Wikipedia.

 

 

 

 

 

 

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