1月31日午前、京畿道儀旺市のソウル拘置所前で、尹錫悦大統領の支持者が

「選管委のサーバーを公開せよ」とのプラカードを掲げている。/聯合ニュース

 


 

 

 

 

 

 私は「12・3」事態を「クーデター未遂」と呼んでいる。3つ以上の点で、韓国憲法が定める「非常戒厳」の要件を欠いているからだ。「非常戒厳」は、「クーデター勢力」が利用する制度的外形にすぎないと思った。李在明〔イジェミョン〕「共に民主党」党首ほかの野党人士も、少なくとも当初は、「クーデター」の企てと見ていた。が、「クーデター勢力」は、人的・人数的にも、奉ずる陰謀論観念においても、「クーデター」を現実化する力量など持ち合わせないポンコツな集団だった。過ぎてみれば、「12・3」は「二度目の喜劇」にすぎなかった。

 

 私たちは、クーデターの影に怯えすぎているのかもしれない。それが、硬直した「二分論」政治を生んでいる面はある。しかし、私たちの幼少時の記憶には、何度かのクーデターの体験が刻まれているのだ。民族・所属国家の別を問わない。日本人のうち当時何らかの意味で繋がりのあった者にとっても、それらは「原体験」として記憶されている。

 

 

ソウル西部地裁乱入事件と尹錫悦〔ユン・ソンニョル〕大統領拘束起訴を受け、大統領支持を標榜してきた極右勢力の内部に亀裂の兆しが見える。光化門〔クヮンファムン〕汝矣島〔ヨイド〕に分かれて集会を開き、互いに対し陰謀論を持ち上げ、強く非難している。陰謀論と誹謗に基づいて勢力を拡大してきた彼らが、今度は互いに矛先を向け始めたという分析もある。』

 

 

 2024年3月末頃、尹錫烈大統領、国防部長官,国家情報院〔旧KCIA〕長,大統領警護処長と密談、4月の総選挙での与党敗北予想に憤激しつつ、国会を無力化するため「近いうちに非常戒厳をしなければならない」と表明。

 2024年4月10日、総選挙、与党大敗。野党「共に民主党」58%,与党「国民の力」36%。

 2024年12月3日22時25分頃、大統領、テレビ放送で「非常戒厳令」宣布、国会活動の停止〔これは違憲違法〕・市民の政治活動禁止等含む。軍・警官隊が国会封鎖を試み、抵抗する市民・国会職員と対峙(12・3クーデター未遂事件)。

 2024年12月4日午前1時頃、国会で戒厳解除決議成立。午前4時30分頃、大統領、「非常戒厳令」解除を表明。

 2024年12月14日、国会が大統領弾劾訴追案を可決、大統領職務停止、韓悳洙〔ハンドクス〕首相が大統領権限代行に就任。

 2024年12月27日、国会が、韓悳洙首相・大統領権限代行に対する弾劾訴追案を可決:〔大統領弾劾を審理する〕憲法裁判所裁判官の任命を拒否する等、4件の国会決議に拒否権行使したことが野党の反発を招いた。崔相穆〔チェ・サンモク〕副首相が大統領権限代行に就任。

 2025年1月15日、高位公職者犯罪捜査処、警察機動隊の協力を得て、大統領を内乱罪(首謀)容疑で逮捕し、10時間40分にわたり取調べるも、氏は供述拒否。ソウル拘置所に収容されたが、翌日から取調べ出頭を全拒否。

 2025年1月19日未明、ソウル西部地裁、大統領に〔逮捕から〕10日間の拘束令状を発布。午前3時過ぎ、これに激昂した支持派市民極右勢力裁判所を襲撃、放火し、壁等を破壊、警官7名が重傷。

 2025年1月21日、大統領、憲法裁判所の弾劾審理期日に出席:「非常戒厳」は、24年4月総選挙の開票の「不正」を調査するためであって、国会妨害になったのは、軍が命令を誤解したせいだと主張〔軍のせいにする言い訳→もう彼に従う軍人は居なくなるので、クーデター再発の心配は無くなった!〕。以後、すべての審理期日に出席して弁明すると表明。

 2025年1月26日、検察、大統領を内乱罪(首謀)容疑で起訴。2回目以降の被疑者取調べ不能、大統領室・官邸等の家宅捜索いずれも執行不能状態での起訴となった。

 

 

尹大統領派の暴徒に破壊された「ソウル西部地方裁判所」内部。

2025年1月19日。/聯合ニュース

 

 

 このような経過で来たわけですが、クーデター再発の可能性が収束するなかで、野党と抵抗派市民は、ひとまず事態を見守っています。他方、代わって激化しているのが、大統領支持・弾劾反対の極右系市民の街頭活動です。「光化門」は、旧・李氏朝鮮王宮の入口。「汝矣島」は、韓国国会のある場所で、いずれも広大な広場が集会場所として利用されています。極右系市民は、ユーチューブのオカルト陰謀論番組の視聴者、サラン第一教会,セゲロ教会,「神の一手」などのプロテスタント系教団、洪準杓〔ホンジュンピョ〕大邱〔テグ〕市長派など、本来の政治的右派層、から成っているようです。韓国で極右と言えば、もともとの人たちでしたが、この派は現在ではむしろ穏健。①②は、最近の新しい現象で、日本の「ネトウヨ」にあたるでしょうか。極端な陰謀論的言動と、街頭での暴力的過激化が特徴です。①②の大きな違いは、(伝統右翼)が民族主義者であるのに対し、①②は民族主義に反発し、結果的に嫌中親日であること、また、①②の著しい反フェミニズム・ホモフォビアです。

 

 

大統領支持者集会の発言とこれを主導するユーチューブ・チャンネルなどを 31日に確認したところ、最近、極右陣営は週末の集会を開く場所によって互いを「光化門派」と「汝矣島派」に区分して呼び始めた。光化門派にはサラン〔愛〕第一教会のチョン・グァンフン牧師やユーチューブ「神の一手」のシン・ヘシク代表などが属している。釜山のセゲロ〔世界へ〕教会のソン・ヒョンボ牧師、チョン・ハンギル講師、ユーチューバーのグラウンドCなどは汝矣島派に属しているという。

 

 両勢力の対立はシン・ヘシク代表が26日のユーチューブの生配信で、〔「光化門」派の〕チョン・グァンフン牧師に対する警察の捜査について、「汝矣島派がチョン・グァンフン刹しに乗り出した」と疑惑を持ち上げたことで本格的に始まった。警察がチョン・グァンフン専担チームを設けた後、ソン・ヒョンボ牧師がチョン・グァンフン牧師に「あなたは今日で終わりだ。これから分かるだろう」という携帯メールを送ったというのがシン代表の主張だ。シン代表は〔…〕ソン牧師が警察と組んで計略を企てていると主張した。』

 

 

 チョン・グヮンフン牧師は、「非常戒厳」を支持し大統領の弾劾に反対する運動の先頭に立っている人で、日本のニュースに伝えられる集会中継でも、彼の激烈演説が際立っていました。警察は、1月19日の「裁判所襲撃」はチョン牧師が煽動したと見て捜査を進めているようです。

 

 

『これに対し、オンラインコミュニティやユーチューブのコメントなどでシン代表の主張を擁護する光化門派と、これに反論する汝矣島派の間の軋轢が広がった。互いを「ユーチューブの金儲けと政界進出などのために現状況を利用している」と非難している。』たがいに、『自分と考えが違う人を「左派」や「華僑」と嘲弄するコメントも対象を変えて繰り返された。

 

 深刻な対立の中で、極右色のユーチューバーたちの集会離脱宣言も続いている。』

 

 

「ソウル西部地裁」に乱入しようとする尹大統領支持派と警官隊の攻防。

2025年1月18日。/聯合ニュース

 

 

 大統領の弾劾・逮捕と、「クーデター未遂」の後片付けが進んでくるなかで、極右ユーチューバーのあいだでは、たがいに失敗の責任をなすりあう言動が増えているようです。「お前のせいで大統領が拘束された」「お前は、ナワバリ守り、既得権、コイン売りが目的だ」といった誹謗に嫌気がさして、集会不参加・運動離脱を宣言するユーチューバーも相次いでいると言います。

 

 

『攻撃する対象を探して陰謀論を動員し、その人を誹謗する〔極右の〕やり方が、大統領支持勢力の内部でも繰り返された、という分析もある。

 

 西江大学コミュニケーション学部のユ・ヒョンジェ教授は、「極右陣営の最も簡単な金儲けのやり方は、原因を他の対象に求めること」だとし、「最初は、共に民主党の李在明〔イジェミョン〕代表のせいにし、次は、司法体系のせいにして、尹大統領の拘束起訴と西部地裁事件〔…〕が発生』して、極右が国民一般から非難されるようになると、『[非難する対象]を支持勢力の内部で探すようになった」と述べた。

 

コ・ナリン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )』

 

 

 なお、韓国民全体としては、野党(共に民主党、ほか)支持者と与党(国民の力)支持者は、ほぼ半々です。「12・3」のあと、一時的に野党支持が圧倒しましたが、「非常戒厳政局」が落ち着いた最近では、また、もとの半々の態勢に戻っています。

 

 しかし、「支持派」「弾劾反対派」は、各種世論調査から推して、2~3割程度と見られます。国民の大方は、もう「ポスト」に関心が移っているようで、大統領選挙や「次期大統領」をめぐる世論調査も、異和感なく受け止められています。

 

 つまり、保守層・与党支持層のなかでも、大統領支持が多いわけではない。支持の極右でも、↑上記の人びとは、洪準杓大邱市長ら、本来の保守政治家に関心を移しつつあるようです。ただ、与党政治圏(国会議員ら)は、なお、氏の握る手綱を断ち切れないでいる。その点が、与党国会議員らを、一般保守層から乖離させてしまっています。なお、韓国は憲法で大統領の再選を禁止しているので、尹錫烈氏が次期大統領選に立候補することはありえません。

 

 尹錫烈氏は、もともと保守層をまとめられるような保守政治志向の人ではなかったと言えます。朴槿恵〔パク・クネ〕大統領を弾劾罷免した「ろうそく革命」当時、「共に民主党」は、検察庁内の異端だった尹錫烈を抜擢して英雄に仕立て上げ、朴槿恵弾劾政局を導き出したと言える。検事を数階級特進させて検察総長に据えたのは文在寅〔ムンジェイン〕大統領です。のちに自ら大統領にまで成り上がった氏の国民人気は、「共に民主党」文在寅〔ムンジェイン〕政権が、党派的利害のために造り上げたものだったのです。

 

 そのことを踏まえるならば、「ポスト」は、保守、民主、どちらが勝っても前途多難と言わなければならないでしょう。

 

 しかし、私たちも、韓国の事態を「対岸の火事」のように見ていることはできません。昨年の兵庫県知事選、今年予定されている東京都議会選を顧みるならば、「対岸」の事態から学ぶべきことは多々ありそうです。「人の振り見て我が振り直せ」

 

 

尹大統領支持派の集会。ソウル・世宗大路、2025年1月25日。
/聯合ニュース

プラカードには「弾劾無効/李在明〔野党党首〕逮捕」とある。このように、

極右層の多くは高齢者であり、暴力的でない極右集会は、高齢者の参加が多い。

 

 

 

 

 

 

ギトンの秘密部屋
 

 

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