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イングランド北部の工業都市ミドルズブラ。工場が移転した空き地が目立つ。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トランプに続くバイデン…

同盟国を絞り上げ、米経済を優先

 

 

   [ニュース分析]自由貿易を揺るがす米国 
    「アメリカファースト」でサプライチェーン再編 
    同盟産業を吸収して雇用創出 
    インフレ抑制法など自国だけ優遇 

 

 

ジョー・バイデン米大統領が先月30日、
ペンシルベニア州ウィルクスバリで
銃器規制強化をテーマに演説している
=ウィルクスバリ/ロイター・聯合ニュース

 

 

『「米国を再建し納税者のお金を使う時には我々は米国産を買う。米国人の雇用を支えるために米国産を買う」

 米国のジョー・バイデン大統領は今年3月1日、一般教書演説で「バイ・アメリカン」(Buy American)を強調した。空母の甲板から高速道路ガードレール用鉄鋼まで、すべて米国産を使うと発表した。また「より多くの自動車と半導体を米国で作らなければならない」と述べた。このような約束は、先月の「CHIPS法」と「インフレ抑制法」の発効で現実化している。今年4月、米国産の鉄鋼だけを使うようにした「インフラ投資と雇用法」のガイドラインが出たことも含めれば、インフラ、電気自動車(EV)、半導体で米国産の使用を強調した一般教書演説の内容が着々と実行されているということだ。

 しかし、米国の競争力強化と中国牽制を名分に掲げた立法の動きは、韓国や日本、欧州連合(EU)など同盟に対する差別と疎外にともなう逆風も起こしている。特に、北米製のEVだけに最大7500ドルの補助金を与えるという「インフレ抑制法」は、世界貿易機関(WTO)の差別禁止規範や自由貿易協定(FTA)の最恵国待遇条項違反という議論に見舞われた。韓国が対応に乗り出し、EUも「外国製に対する差別」であり「WTOと両立しがたい法律」と反発している。

 半導体の生産比重を上げようとする目標と中国牽制の意図が調和し、「第3国への投資禁止条件つき補助金」という聞き慣れない企業活動制限規定を盛り込んだ「CHIPS法」も、議論の的となっている。米国の半導体生産の比重は1990年には37%だったが、今は12%まで落ちている。米国に大規模投資をする予定のサムスン電子やSKハイニックスが補助金を受けようとすれば、中国事業への支障が避けられなくなる。

 米国は生産能力を考慮して自国産の割合を調整する計算的な姿も大っぴらに示している。ホワイトハウスは5500億ドルを投入する「インフラ投資と雇用法」で米国産の鉄鋼だけを使うようガイドラインを定め、他の製造品は55%のみ米国産にするようにした。「インフレ抑制法」のEVバッテリー条項でも、素材・部品・時期によって米国産の割合を段階的に引き上げるようにした。

 「インフレ抑制法」と「CHIPS法」のつながりも、米政府と議会の周到さを示している。バイデン政権は2030年までにEVが新車の半分を占め、そのうち相当量を米国で製造することを目標にしている。半導体はEVの重要部品だ。国家・企業間の競争が激しく、高賃金の雇用が多い半導体、バッテリー、完成車の米国内生産を有機的に拡大する「ビッグピクチャー」の中で動くわけだ。

 米国内外の専門家らは、生産施設を誘致するために同盟を疎外し、自国産を堂々と優遇することは、サプライチェーン再編戦略の核心を示していると指摘する。コロナ禍、ウクライナ戦争、中国牽制の必要性を契機に推進されたサプライチェーン再編は、生産基地の米国移転と同盟・パートナー国家とのサプライチェーン協力強化が二つの軸だ。この中で生産施設の誘致に重きを置きながら、外国に出た企業の本国回帰を意味する「リショアリング」を越え、同盟国の生産施設まで吸収しようとする動きが続いている。

 米国の国内政治もこのような「経済ナショナリズム」の背景となっている。バイデン大統領は主要支持基盤である白人労働者層に訴える政策に集中している。民主党は2016年の大統領選でヒラリー・クリントン候補がドナルド・トランプ候補に敗れたのは、白人労働者層の開放的貿易政策に対する反感が大きかったためとみている。バイデン大統領は「CHIPS法」署名式で「我々は日常的な費用を下げ、雇用をつくりだすために半導体チップを米国で作らなければならない」とし、「雇用」を繰り返し強調した。前任のトランプ政権が掲げた「米国優先主義」(アメリカファースト)の流れが、バイデン政府まで続いているという指摘も出ている。

 米国の保護主義強化は、第2次世界大戦後に自国が主導した自由貿易秩序に打撃を与えるという点で、長期的に世界経済全体に負担を与えかねない。「通商タカ派」と呼ばれるキャサリン・タイ貿易代表部(USTR)代表は昨年、承認聴聞会で「関税と貿易の壁の除去に重点を置くか」という質問に、「5年か10年前ならそうだと答えたと思うが、(中略)一番最近の歴史を見ると、我々の貿易政策は非常に苦しいものだった」とし、自由貿易政策からの大転換を予告した。「グローバル化の敵が徘徊している」というタイトルの「フィナンシャルタイムズ」の最近のコラムは、「10年前までは米国政治で保護主義は口にすることもできない言葉」だったが、今は違うと述べた。


   ワシントン/イ・ボニョン特派員

 

 

ホワイト・ハウスを訪問したBTSとバイデン大統領 2022年5月31日

 

 

 ウクライナ危機とともに外信記事に踊るようになった「インド太平洋」「サプライチェーン」などのキーワード。アメリカの世界戦略は、同盟国を守るかのように見えて、じっさいはあくまで自国中心主義、アメリカ・ファーストという政策のコアは不動です。そのためには、同盟国を締め上げることも、アメリカの経済戦略の重要な一環です。

 

 ↑引用は『ハンギョレ』ですが、韓国は、脱炭素化にいちはやく踏み出しただけ、電気自動車を中心に米国企業との競合が激しくなっています。その一方で、米国バイデン政権の政策は、同盟国から米国への完成品輸入を阻止し、米国内に同盟国企業の組み立て工場を作らせ、米国人(とくに白人)労働者を雇用させようというもの。韓国は、これと正面からぶつかっている。そのため、↑上のような解説記事も書かれるわけです。

 

 その点、日本の企業がそれほど影響を受けていないのは、「脱炭素化」の取り組みが遅れている(トヨタ、ホンダ、日産は、この順にOECD最下位)ためです。いずれ、韓国と同じ「米国の壁」に逢着することは、目に見えています。

 

 ところで、アメリカとヨーロッパの先進国から、工業資本が、労賃の安い途上国に逃避し、先進国が「空洞化」する現象は、20世紀末に顕著になりました。イギリスのかつての重工業地帯は、工場の廃墟が立ち並ぶ広大な荒れ地となった姿を世界に晒しました。アメリカも、「ラスト・ベルト(鉄錆び地帯)」の拡大による失業率の上昇に苦しんでいます。

 バイデン政権の「アメリカ・ファースト」政策は、そのような長期的趨勢に対する、先進国の「巻き返し」だということができます。しかし、先進国の企業が「利益の極大」を追求すればするほど、途上国への資本移転を食い止めることができない、という “趨勢” そのものは、変えようがありません。そこで、中間で板挟みとなった・日本を含む中進国――アメリカの同盟国――に犠牲を払わせながら、先進諸国は、みずからの矛盾の緩和をはかってゆくのか? ‥先進国を頂点とする「世界資本主義」に現れた・新たな兆候に、注目してゆく必要があります。

 

 2012年に亡くなったイギリスの歴史家ホブズボームは、かつてナチスの迫害から逃れ、ウィーン・ベルリンを経て移住したユダヤ系難民であり、“最後の英国共産党員” として、自ら「20世紀史の証言者」でした。エリック・ホブズボーム『20世紀の歴史』からのレヴューを再録しておきましょう。(⇒:両極端の時代(4)
 

 

『最終的に“冷戦の時代”が終ったのは、ソヴィエト連邦が、全構成国の脱退によって消滅した1991年ですが、実質的にはその数年前、米ソの首脳が頂上会談で和解を表明したときに、対立の時代は終結していました:

 

「冷戦は、レイキャヴィク(1986年)とワシントン(1987年)の二度の頂上会談で事実上終わった。」アメリカのレーガン大統領は、「米ソの共存を信じていた。しかもそれは、相互の核の恐怖という忌まわしいバランスにもとづく共存ではなかった。彼の夢想していたのは、完全に核兵器のない世界であった。〔…〕ゴルバチョフも、同じことを願っていたのである。」

河合秀和・訳『20世紀の歴史』上巻,1996,三省堂,pp.373-374.

 

「しかし、社会主義を掘り崩したのは、資本主義およびその超大国との対決ではなかった。〔…〕むしろ、社会主義の経済的欠陥がますます明白になったのに加えて、社会主義経済が、もっと力強く先進的で支配的な資本主義世界経済の急激な侵略を受けたからであった。冷戦のレトリックは、」自由主義世界と「全体主義」世界を「谷間の両側と見て、橋渡ししようとする試みをすべて拒否したが、実はそのことが、弱いほうが生きのびることを保証していたのである。〔ギトン註――社会主義国の〕非能率でゆるみつつあった中央計画的命令経済でさえもが、鉄のカーテンに守られて存続できた。

 アルバニアという小さな山国の共産主義国は貧しくて後進的であったが、外の世界をほとんど完全に締め出していた間は、30年あまりも存続できた。その国を世界経済から守っていた壁が崩れると、国は崩れて経済的なガラクタの山と化してしまった。

 社会主義が弱体化したのは、1960年代以降、ソヴィエト型経済が、資本主義世界経済と相互作用をもったからであった。

 1970年代の社会主義指導者が、自国の経済体制の改革という手強い問題」
に立ち向かうことを回避して、「世界市場の新しく利用できるようになった資源(石油価格、安い借款等)を利用していく道
〔高騰した石油価格をめあてに、西側の借款とプラントを誘致して、国内の石油資源を輸出用に開発しはじめた――ギトン註〕を選んだとき、彼ら〔ソ連の指導者たち――ギトン註〕は自らの墓穴を掘っていたのである」

『20世紀の歴史』上巻,pp.374-375.

 

 

 ↑引用部分では、まだあまり触れられていないのですが(この本の下巻に詳しく出てきます)、“冷戦”に生き残った西側諸国といえども、この時代から、“成長と発展”のイメージで描かれるような幸福な遺産だけを得たわけではありませんでした。

 むしろ、西側の “大躍進”――経済の高度の発展は、結果として、不安定化と空洞化をもたらしました。


  


 上の写真は、イギリス、ノース・ヨークシャー州(カウンティ)の・かつての重工業都市ミドルズブラ(Middlesbrough)。工場が無くなった空き地ばかりが広がっています。

 先進工業国から、後進国へ、第三世界へと、工業は、安い原材料と低賃金労働力を求めて移転を続けています。かつての先進工業国は、工業の空洞化によって、典型的な “労働者階級” というものが消滅し、そのことが、政治の不安定化をもたらします。

 他方、先進地域からの “工業の拡散” を受けた「第三世界」ではどうかというと‥、“新石器革命” 以来8000年間続いてきた農業社会が、終焉するかのように見えます。が、その将来は決して透明ではありません。200年前に西欧に起きた“産業革命”と同じことが、「第三世界」でも起きるという保証はありません。先進国から移植された工業が、農村を解体して、流出した人口を工業労働者として吸収する――という“産業革命”の歴史が、21世紀にも繰り返される保証はない。むしろ、先進工業国で開発された高度の労働節約的技術は、ただちに「第三世界」に移って来て、「過剰人口」の吸収をさまたげるかもしれない。

 第三世界に移転してきた工業は、はじめのうちこそ、現地の低賃金労働を“気前よく”使いますが、現地の人々の教育程度が上がるなどして、賃金が上昇するきざしを見せるやいなや、先進国から労働節約技術(先進国には、無人ロボット工場まであります!)を持って来て、人員を減らし、賃金の支払いを節約するようになるでしょう。しかし、そうなったからといって、いったん“都市化”した第三世界の社会が、農業社会に逆戻りすることはできません。

 

 農村をあとにして工業に雇われ、いま、工業からもあぶれた「第三世界」の人々は、いったいどこに行けばよいのでしょう?

 先進国では、社会福祉制度が、“空洞化” を社会不安に直結させないための緩衝材になっています。福祉受給者が増えることは、“自分で稼いでいると思っている人々” のイライラをつのらせますが、かれらは酔って文句を吐く以外は、投票するだけで、叛徒にはなりません。そして、彼らの支持する保守政党も、福祉予算を多少出し惜しみする以外のことは何もできません。政治家と経済学者の空想的レトリック以外の意味で19世紀の “夜警国家” に戻ることなど、現実には不可能だからです(「新自由主義」の “夢” は、わずか 20年で、ついえました。)

 しかし、第三世界で、工業からあぶれた人々には、何があるでしょうか?‥社会福祉も、まともに機能している議会制度も、そこにはありません。。。』

 

 

 

 

 そこでいま、ウクライナ危機後の 2020年代に視野を戻すと、アメリカ中心の世界経済に対抗して手を握ったかに見える中国・ロシアも、じっさいのところ、「世界資本主義」の両極(先進国と途上国)化作用という大きな流れに浮かぶ小島でしかないと私は見ています。広大な国土の中に先進国経済と途上国経済の二極を抱えていることが、この2大国の深刻な矛盾でもあり、強みでもあります。2国が最も恐れるのは国内の分裂であり、国家統合を維持するためならどんな犠牲も払う覚悟です。そして、途上国の “仲間” であるかのような政治イシューを掲げながら、周辺に進出してゆくのは、アメリカと同じ先進国資本主義にほかならないのです。

 

 

 

 

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