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松江城 天守閣



↓こちらにレビューを書いてみました。


志賀直哉と里見弴―――
―――同性の愛慾と葛藤(9)




里見弴と4歳年上の志賀直哉との同性愛


1914年初夏、直哉は、ラフカディオ・ハーン

が愛した雲州・松江の風景のなかにいました。

晴れれば毎日宍道湖で泳ぎ、沖の無人島に

渡って、生れたままの時間をすごし

夜は小説の執筆に励むはずでしたが

しばしば自炊と花札で夜を更かします。

夏目漱石に依頼された『東京朝日新聞』

の連載小説の筆が進まない直哉

ヤモリとムカデの大群に辟易して

早く大阪に帰りたいと言う

毎日遊んでいる彼らを怪しんで、しつこく

職務質問に来る警察官は、どんな虫よりも

直哉をいらだたせます。

それでも、不健康な文筆生活と遊郭放蕩で

なまった筋肉とノイローゼの頭を入れ替え

心身の健康を取り戻したことは

なにものにも代えられない成果でした。

 

「いいから来いよ」「いやだ」

「いいから来いよ」「いやだ」

と押し問答を繰り返しながら

いつも直哉のアギトに引きこまれてしまう

同性愛の欲望に打ち克てない「ずるずるべったり」の

そういう二人の関係にも、ようやく

変化の兆しが現れていました。

 

 

 

 
    Henry Scott Tuke