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【前註】 本文を書いた時点では、「金正恩重篤説」には根拠がない、との立場から諸ニュースを検証していますが、その後の情報により修正あり。末尾の【続報】もご覧ください。


 

 金日成、金正日、金正恩‥北朝鮮の独裁者について死亡説の情報が世界を駆け巡るのは、今に始まったことではない。しかも、金日成も金正日も、ほんとうに死んだ時には、北朝鮮当局が発表するまで国外ではどんな異変情報もキャッチされなかった。

 

 今回も「死亡」は情報の可能性が高い。その上で、「重態」説、「植物人間化」説が駆け巡っている。少し検証してみた。

 

 

 まず、↑上の『現代ビジネス』掲載ニュース―――伝えてくださった上記ブログの0氏に深く感謝したい―――だが、残念ながら情報であることが明らかだ。

 

「金正恩委員長は、地方視察に出かけている最中、突然心臓に手を当てて倒れた。……北朝鮮の医師団は、緊急の心臓ステント手術を行うことにした。……

 

 心臓ステント手術は、それほど難易度の高い手術ではない。最も重要な血管にステントを入れる施術自体は、1分くらいの時間で済ませられる。……、ステントを入れるのに、8分ほどもかかってしまったのだ。その間に、金正恩委員長は、植物人間と化してしまった。中国の医師団が到着して診察したが、もはや手の施しようがなかった。」

 というのだ。問題は、「心臓ステント手術」とは何かだ。正しくは「心血管ステント治療」。「手術」というほどのものではない。わかりやすい説明は、こちら⇒:国立循環器病研究センター

 『現代ビジネス』の記事は「1分くらい」としているが、カテーテル(極細の管)による患部観察を行なってから施術するので1時間ほどかかる。胸に穴をあけたり切開するわけではなく、手首または脚の血管からカテーテルを挿入する。冠動脈(心臓の筋肉に血液を送る動脈)が狭くなって心臓の動きが鈍くなったのを直すために、心臓の近くで冠動脈を拡げる(ふくらませる)。そのために、カテーテルの先には風船とステント(円筒状の網)がついている。

 疾患自体は、異常な肥満体(130kg といわれる)の金正恩氏にはありうることで、ステント術ないしカテーテル術は、すでに何度か行われているかもしれない。しかし、1時間程度の施術が、1時間7分に延びたからといって、「その間に、金正恩委員長は、植物人間と化してしまった。」などということが、およそありえないナンセンスなのはわかるだろう。この偽情報を作った人は、ステント術の何たるかを知らないのだろう。

 「中国の医師団が到着して診察した」というのも、偽情報である疑いを強める点だが、ほかの偽情報とも共通する「尾ひれ」なので、↓次の情報とともに検討したい。

 

 ⇒:張誠ミン元国政状況室長「中国高位層、
 金正恩氏が昏睡状態と」(中央日報)

 

 韓国政府が一貫して「北朝鮮内部には特別な動向が見られない」として、金正恩故障説を否定するなかで、韓国の大手メディアが↑この記事を掲載したのは、情報源が実名の元高官だからだろう。たしかに、前記の『現代ビジネス』とは異なって、「ステント手術の7分延長」などのナンセンスは除去されている。というより、前記の偽情報から、おかしい点を除いて本当らしく見せた情報とも見られなくはない。

 それでも、矛盾点は残っている。「このような状況を中国政府も最近知り秘密裏に医療スタッフを送った」と「張誠ミン」氏情報は伝えるが、そのことと、その後ロイター通信が報道した「医療専門家チーム派遣」情報が矛盾するのだ。

 

「ロイター通信は25日、中国が医療専門家チームを北朝鮮に派遣したと報じた。……ロイターによると、北朝鮮を担当する中国共産党中央対外連絡部の高官が率いる代表団が23日、北京から平壌に向かった。」日経新聞

 

 『中央日報』の韓国語元記事を見ると、「張誠ミン」氏は 4月23日朝に「中国共産党高位幹部が国際電話」をかけてきたので、この記事の情報を知ったと言う。その幹部は、23日朝に、「このような状況を中国政府も最近知り……医療スタッフを送った」と言った。とすると、中国政府は 22日以前に金正恩の身辺に医療スタッフを送っていることになる。

 

 ところが、ロイターの情報↑では、中国「高官が率いる」「医療専門家チーム」が北京から平壌に向かったのは 23日だ。こんなに日を接して、医療スタッフを2回(1回目は秘密裏に、2回目は高官が率いて正式に)派遣するだろうか?! ロイターの「23日」が誤報でないとは限らないが、それにしても、「張誠ミン」氏情報には疑問が残る。

 結局のところ、「金正恩死亡」「重篤」「植物人間化」の情報には、根拠のあるものが無い。あくまでも状況に基づく推理ないし憶測なのだ。

 

 なるほど、23日に「中国が医療専門家チームを北朝鮮に派遣した」、との情報が事実ならば、金正恩が病気である可能性はあるかもしれない。もっとも、それとて、「医療専門家チーム」の派遣目的いかんによるのではないか。金正恩ではなく、北朝鮮全体の新型コロナ対策に(国境警備隊は、一中隊がコロナで壊滅‥という情報もある)派遣された可能性があるだろう。

 

 ロイターは、「医療チーム派遣」の目的について何もつかんでいないし、中国政府はロイターの問い合わせに答えていない⇒:Biglobeニュース

 金正恩が
公の場に出ないのは、コロナ対策で自宅か別荘に引きこもっているせいだ、という推測も、推測としては成り立つ。(金正恩の側近は、正恩の健康について異常に神経質だ。文大統領との板門店南北会談には、北の主治医が隠密に同行していたが、正恩が座る椅子はもちろん、韓国側が用意した署名用のボールペンまで、アルコール脱脂綿でていねいに消毒していた。軍と平壌市中のコロナ感染が確認されているにもかかわらず、正恩にミサイル発射を視察させたり、平壌で執務させているとしたら、むしろ不可解だ。)

 「金正恩死亡」「重篤」「植物人間化」が憶測されるようになったのは、金日成誕生日(4月15日)の「太陽宮殿詣で」に金正恩が姿を見せなかったことがきっかけで、
今のところ、これが唯一の信頼できる「重篤」「植物人間化」の根拠なのだ。しかし、‥‥

 

 「体調不良説の根拠のひとつは、金日成誕生日(4月15日)に金正恩委員長が姿を見せなかったことだ。

 

 金正恩委員長は、祖父と父の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿への参拝を重視してきた。元日と2月16日(金正日誕生日)、4月15日(金日成誕生日)、7月8日(金日成命日)、12月17日(金正日命日)が参拝の節目であり、中でも4月15日には欠かさず行っていた。」『ウェッジ』

 

 金正恩が父祖に「参拝」する日は、↑こんなにあるのだ。そのうち、金日成誕生日にだけ、自ら出向いて参拝しなかったという「異常」の重みは、いったいどれくらいなのだろうか?

 思うに、
「安倍晋三が、靖国の春の例大祭に玉ぐし料を奉納しなかった。」ということがもしあれば、それと同等ではないだろうか。

 

  「春の例大祭」であって、終戦記念日でも秋季例大祭でもない。故人の「誕生日」であって「命日」ではない。たしかに、北朝鮮の「官製・建国神話」にとっては重要な日だが(日本の2・11? 戦前日本の「明治節」?)、その意義も時代とともに薄れつつある。

 しかし、それをしなかったということになると、本人のイデオロギーに(あるいは健康に)何か異変が起きているのではないか、と疑われるくらいの重みはある。そういう「異変」ではないだろうか。

 けっきょく、論理的結論としては、これだけで「重篤」の根拠とすることはできない。
7月8日(金日成命日)を見てから判断したほうがよい、ということになる。

 

 ただ、最近北朝鮮に関して伝えられた・さまざまな“異変情報”――金平日チェコ大使の召還、金与正の上昇、‥―――も、“ポスト正恩の継承準備”という憶測をすると、たしかにつながってくる。論理とは別に、感覚次元では、“金正恩の危機”を憶測したくなる誘惑が多い昨今ではあるのだ。。。。

 

 こちらのユーチューバーは、まったくの虚偽ニュースマニアなので要注意!⇒:金正恩の「脳死」確認

 

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【続報】⇒:龍谷大学・李相哲氏TV

 0氏がブログを更新されました。メインは↑こちらのユーチューブ。

 『中央日報』に記事の出た「張誠ミン」氏と同じころ、李相哲氏も中国高官から同様の情報を受け取ったとのこと。それによると、中国の「医療チーム」が北朝鮮に向ったのは 19日。また、『現代ビジネス』の記事にある「中国医学院阜外医院国家心血管病中心」はもちろん心臓専門、「人民解放軍301医院」は脳専門の病院。

 

 つまり、中国の「医療チーム派遣」は、コロナ対策ではなく、金正恩の心臓疾患脳障害を引き起こしている対処に向けられたと見られる。

 

 しかし、李相哲氏は、これらの情報から見るかぎり、金正恩は「すでに脳死した」のではなく、現在も、中国「医療チーム」の援助のもとで治療が続けられている。重篤の可能性が高い。としています。

 

 また、中国(政府と党?)の大方の見方として、金正恩はもはや回復しない、北朝鮮医師団は彼の救命に「失敗した」との見解を伝えています。「政治的な死」という意味では、そうなのでしょう。たとえ中国医師団の治療が成功して、今後回復に向かったとしても、これまでのような活動は当分無理でしょうから。

 
真相はまもなく、26日中にも明らかになる。というのは、25日は北朝鮮の建軍記念日で、金正恩は、無事なら行事等に姿を現すはず。26日中に、北朝鮮メディアがそのようすを報道しなければ、「重篤・治療中」の推定は確認されたと見てよい。ということです。

 李相哲氏によれば、北朝鮮に入った「医療チーム」からは、中国への連絡が途絶えているとのこと。おそらく、北朝鮮が情報管制をしているため。―――したがって、金正恩について詳細が明らかになるのは、「医療チーム」が中国に戻った時でしょう。


 0氏には、たびたび情報をいただき、厚く御礼申し上げます。