北朝鮮は、昨年(2018年)4月20日「労働党中央委員会全員会議」で、
「4月21日から核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を中止する」
という「モラトリアム」を公式確定し、4月27日 軍事停戦ライン上の板門店で、南北両首脳の《板門店共同宣言》を発表し、
6月12日の《シンガポール米朝首脳会談》で、これを米国にも約束し、“非核化”に関する共同宣言を発表したわけです。
しかし、今年末までに動きがなければ、北朝鮮は、来年初めにも「モラトリアム」を破棄し、核実験やICBM発射をまたはじめるのではないか――という観測が出ています。
私は、この《シンガポール》の時から、北朝鮮の言うことと、アメリカの言うことのあいだには、巨きなズレがあると思っていました。
南北の《板門店共同宣言》のあとで書いたブログの時限記事には、↓こう書きました:
「“非核化”に関しては、目標の合意にすぎない。『在韓米軍基地にいつでも数時間以内に核を持ち込めるアメリカの譲歩』がなければ、北朝鮮は核を放棄しないだろう。」
北朝鮮とアメリカのあいだに、どんなズレがあるかというと、“どこからどこまでを「非核化」するのか?” という地理的範囲のズレが、いちばん大きいと思いました。
アメリカの言う「非核化」は、北朝鮮だけの「非核化」です。アメリカ、あるいは太平洋の米軍が「非核化」するなどということは、まったく念頭にありません。
しかし、北朝鮮は、「朝鮮半島」の「非核化」と言っている。これは、韓国も含む…つまり在韓米軍も含むのではないか? それどころか、朝鮮半島にかかわるかぎりで、在日米軍も太平洋米軍も「非核化」しろという意味ではないか?
ずっと、そのズレが気になっていたのですが、ここにきて、イギリスの『ガーディアン』(日本の『世界』のような雑誌)が、同じことを言いだしました !! ↓
英誌『ガーディアン』は、「トランプ大統領が北朝鮮の非核化に失敗した、と指摘した。『根本的な問題の解決に失敗しただけでなく、状況をさらに悪化させた。』というのだ。……
金正恩(キム・ジョンウン)委員長とトランプ大統領は、昨年6月、シンガポールでの最初の首脳会談で、「朝鮮半島の完全な非核化努力」など4項目の合意事項を盛り込んだ共同声明を採択した。当時、米政府は、金委員長が約束した『朝鮮半島の完全な非核化』について、『北朝鮮の最終的かつ完全に検証された非核化』(FFVD)と同じ意味だ、と説明した。
しかし、専門家らは、北朝鮮の言う『朝鮮半島非核化』概念には、爆撃機・潜水艦など米軍の核戦略資産の朝鮮半島展開・配備禁止までも含まれる、と指摘してきた。
ガーディアンも、『トランプ大統領は、北朝鮮が反対しない多者間朝鮮半島非核化(multilateral denuclearisation of the peninsula)と、決して同意しない(北朝鮮の)完全な一方的非核化(complete unilateral denuclearisation)の間に差がないふりをしつつ、非核化取引は進展していると主張してきた。が、それは幻想にすぎなかった。』と評価した。」
ガーディアンは「続いて、『北朝鮮が文在寅(ムン・ジェイン)大統領を軽視するのも不思議ではない。』と述べた。なぜなら、米国が同じ態度をとっているからだ、という。『米国は、韓国・日本に対して、米軍駐留防衛費分担金の増額を要求するなど、同盟国無視の態度を(北朝鮮に)見せつけている』からだ。
ガーディアンは最後に、『米朝間の休戦(truce)が、ぞっとするような結末を迎えないためには、国際的な努力、なかんずく米国の努力が必要だ。』と提言した。」
英ガーディアン「韓国、非核保有国地位を見直す十分な理由ある」 中央日報
つまり、在韓米軍も、在日米軍も、表向きは “核抜き” ということになっていますが、じっさいにどうなのかはわかりません。グァムなどには、常時、“核”を置いているでしょうし、潜水艦も飛行機も、太平洋を自由に泳ぎまわって、飛びまわって、日本、韓国の基地に寄っているのですから、その時だけ “核抜き” にしろと言っても、どだいが無理な話ぢゃないでせうか?www
ともかく、それを含めて、全部 “核抜き” にするのが北朝鮮の言い分。北朝鮮の立場に立ったら、そうでなければおかしいです。「北は核抜き、南は核あり」では、安心できないでしょう。北朝鮮は、日韓と違って、中国ともロシアとも軍事同盟はないのですから!
そこで北朝鮮が腹の中で考えているのは、北朝鮮が“検証可能な非核化”をしろというのなら、それと同時に、在韓米軍にも“検証可能な非核化”をさせたいところでしょう。つまり、韓国の米軍基地(場合によっては日本の米軍基地にも)に、北朝鮮側が「査察」に入るということです。
じっさいにそうなったら、日本の「非核三原則」も、ここではじめて見せかけでなくなる―――なんだか、わくわくしますねw
とはいえ、喜んでる場合じゃない← このズレが米朝のあいだにあるかぎり、ビッグ・ディールなど絶対に成立しないし、スモール・ディールができたとしても、先行きで必ず破綻することになります。
アメリカは、いつもの相手と同じように“力”で従わせればいいと思っているのですが(トランプ以上に、議会と民主党がそうです)、この相手にそれが通用するかどうか… 疑問視する声は多いし、私は無理だと見ています:
「国連の対北朝鮮制裁が、2016年1月の北朝鮮の4回目の核実験を基点にはるかに強力になったのは事実だ。……
しかし、この程度の圧力で、北朝鮮が白旗を挙げるなどと期待するならば、別問題だ。北朝鮮経済は基本的に閉鎖的であるため、外部に知られた数値だけで、実際の状況を判断するのは限界がある。実際、北朝鮮経済は、公開された指標とは違って、深刻な危機的局面に陥っている兆候は、確認されていない。今のところ、制裁の影響があるのは、いくつかの部門に限られている、という分析が多い。
これを踏まえると、1990年代末に国中が飢えに苦しんだ『苦難の行軍』さえ乗り越えた北朝鮮の体制が、この程度の制裁に屈服すると信じるのは、妄想に近いかもしれない。」
たとえば、日本はむかし鎖国をしていましたが、貿易ができないために、経済が衰退したでしょうか? とんでもない! まったく逆ですよね? 江戸時代は、新田開発、廻船、大阪・江戸の都市化など、めざましい経済発展の時代でした。北朝鮮の農村では、今でも牛車が主要な運搬手段だそうです。開発の低い段階では、“鎖国”は、さして苦にはならないのです。
……いや、江戸時代から類推して考えるならば、もっとショッキングな結論に達します。“鎖国”は、徳川幕府のような、低開発で専制的な経済体制を崩壊から護る防波堤の役割をするのです。北朝鮮の《金王朝》は、“制裁”のおかげで救われたと言えるでしょう。《金王朝》を倒壊させたければ、“制裁”をすべて解除して「開国」させるのが正しい。「開国」後は、各国が不平等な通商条約(“日米FTA”みたいな平等なのはダメですよ!)を結んだうえ、積極的に内政干渉して地方勢力に武器を援助し、局地交戦で刺激すれば、約13年で“大政奉還”(王都ソウルに?)することになります!! まぁ、その間に核が使われない保証はない‥たぶん使うでしょうけどw
「トランプ米大統領が、就任初期に、米朝間の緊張が高まった当時、韓国に居住する米国民間人に疎開令を出すことを望んだ、という証言が出てきた。……
この内容は、CNN放送で国家安全保障・対テロリズムの専門家として活動するピーター・バーゲン氏が、12月10日(現地時間)に出した新刊:『トランプと将軍たち:混沌の費用』に記述されている。
……2017年9月初め……FOXニュースを視聴していたトランプ大統領は、国家安全保障チームに、『米国の民間人が韓国を離れることを望む』と語った。……このニュースは、キーン元副参謀総長の談話を放送していた。キーン氏は、米国が軍事行動をすることができるという強い警告を北朝鮮に送るために、『在韓米軍の家族を韓国に送るのを中止し、家族同伴でなく軍人だけを送るべき』と主張したのだ。……
国防総省の官僚は、パニック状態となった。米軍が同伴家族なく韓国に駐留するのは、北朝鮮に戦争の可能性を示唆するように映るからだ。……トランプ大統領はその後、自分の考えを取り下げたという。
この本は、〔2017年に〕米国と北朝鮮が戦争の危機まで迎えたが、2018年2月の平昌(ピョンチャン)オリンピックを契機に転換点を迎えたと伝えた。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、北朝鮮を五輪に招請し、開会式で南北が合同入場するのを見たトランプ大統領は、これを危機打開の機会と考えたということだ。」
「トランプ大統領、2年前に韓国で米民間人疎開令を考えていた」 中央日報
つまり、一昨年には、米朝は“第2次朝鮮戦争”になる一歩手前まで行っていたというのです。しかし、その後、平昌オリンピックによって危機を救われ、4月の《板門店南北会談》、6月の《シンガポール米朝会談》‥‥と続くわけです。
ちなみに、平昌オリンピックのさいに訪韓した安倍首相が、文大統領に、米韓軍事演習の再開――北朝鮮への軍事的威嚇――を強く求めたけれども、文大統領は、
「内政干渉だ!」
と言って、これを一蹴したのも、記憶に新たなことです。
こうしてみると、韓国の文政権が果たしている “平和維持の役割” は、非常に大きいことがわかります。文政権がなければ―――朴槿恵政権だったら―――昨年以来の緊張緩和は無かったでしょうし、もっと危機的状況に陥っていたかもしれません。
日米が韓国を軽視しているのは、大きなまちがえですね。やがて、報いを受けるでしょう‥w
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