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大地峠

 

 



      公孫樹(いてふ)
 

時雨(しぐれ)の痛手ものとせず     
一葉
(ひとは)のこさぬ真裸(まはだか)
姿よ、あはれ類
(たぐ)ひなき       
――― 啄 木  



 網をもって綯(な)い合わされたその肌の滑らかなことは
 いつどこにあっても外
(はず)れることがない
 ときには傲岸不遜と感じられる樹皮の厚み
 その柔らかくふくよかなこと
 ゆらぎもしない大理石の柱
 重いようで軽いコルク質
 けっして冷たくはない
 その立ちすがた。

 埃っぽい海辺の社
(やしろ)
 塗
(ぬり)剥げた鳥居のかたわら
 粗野な人混みで騒がしい
 家並
(やなみ)の奥にさえきみたちは立つ
 ほろほろと葉を落とし
 11月のつめたき陽にかがやいている
 その脚元に病葉
(わくらば)の香りを吸いこんで 

 凭(もた)れていた幾刻(いくとき)のなつかしさよ。

 小学校舎の下、プールの脇にも
 薄墨のように遠いうらぶれた都会の路傍にも
 きみたちはいた。
 たとえ葉は落ちても
 きみたちの樹幹を見まちがえることはない
 その理肌
(きめはだ)にぼくがゆびをあててなぞるのを
 きみはふしぎそうに眺めている
     (どうしてイチョウと判るんだ?)
 幼
(おさな)なじみのようなちかしさが包む
     (どうしてって、どうしてもさ)
 謎のように応えながら
 ぼくは今夜のベッドの中を想う。

 木枯らしが近い
 陽は薄雲を透かしてくる。



 

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