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雫石川と岩手山(巌鷲山)
盛岡市 太田橋

 



      巌鷲(がんしゅう)の野に
 

わたくしはそれをはりつけとでもとりかへる  
こひびととひとめみることでさへさうでないか
―――『一本木野』



 なつの山毛欅(ぶな)の葉は硬くなって縮(ちぢ)こまる
 葉脈のような山すじ、紫の谷間
 目ざめたばかりのきみの肩、東雲
(しののめ)にひかる裸身の輪郭。

 おおきくて明るい森にひらひらと漂う
 やさしい秋の色づいた舞い、嫩葉
(わかば)のしなやかさを
 かしわ、水楢、栗、それぞれの遠い想いを

 あらかじめ長い冬にふうじこめ
 雪をまつ枯れ枝の尖
(とんがり)、ほっそりと立つ梢
 なつの太陽がこんなにもたくさんの子らを伸ばしてくれたのだ。

 里の人らは収穫
(とりいれ)に忙しい
 のはらにたなびく藁のけむり
 黒い雲は地平に蟠
(わだかま)り散開しようと狙っている。

 こんなにひろびろとした秋の空の下は
 宮澤賢治でなくとも大きな帽子をふるって歩きたくなる
 調子の定まらない珍妙な唄をうそぶきながら、
 「はりつけとでもとりかえる」と我にもなく壮語しながら。




 

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