ラ・スペツィア付近
巨きくうねりながら海が謳(うた)う、
なま温かい西風の咆哮と笑い、
追いかける嵐の雲は黒くまた重く;
人はそれを見ない、いまは夜。
しかし私にはわかる:死んだように怯(おび)えて、
星のひかりも慰めもなく、こうして
なま温かい夜と嵐の唄のなかを
わたしの生もまた転がってゆくのだと。
それでもなお、どんな夜もこれほど重くはなく
どんな船旅もこんなに暗く閉ざされてはいない
近づいた朝の光のやさしい予感さえ
生まれてはこないこの海のゆくてほどには。
ヘッセの詩は、イタリア旅行中のものから2篇。どちらも、イタリア半島の西側、リグリア海岸。ここは、地中海の“外海”に面していますから、昔から嵐が多いことで有名です。
‥‥というわけで、きょうは“海の嵐”の音楽を探してみましたら,.... これが、けっこうたくさんあるんですね。ヴィヴァルディの協奏曲「海の嵐」は、すでに聴いていただきましたが、それは序ノ口。大御所のベートーヴェンから始まって、パーセル、ロック、チャイコフスキー、シベリウス、‥‥近いところでは、ボブ・ディラン、安室奈美恵、etc., etc.,... クラシックでは、シェークスピアの『テンペスト(海の嵐)』に、ちなんだ曲が多いんですね。
しかし、まず聴いていただくのは、この曲↓
え? ワグナーは低俗だ?? ニーチェも、そんなこと言ってましたっけ。なので、このさい思いっきり爆演してくれる指揮者を選びましたっ。ドカ~ン!
ワグナー:歌劇『さまよえるオランダ人』から
「序曲」(前半)
オットー・クレンペラー/指揮
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
おつぎは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ。きょうの曲目のなかでは、この曲がおとなしく聞こえるから、ふしぎなもんですw どうして嵐なのかというと、曲想を訊ねた弟子に、「シェークスピアのテンペストを読め!」と、ベートーヴェンが言ったんだそうな。
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ 17番“テンペスト”」から
第3楽章
エウゲニー・キッシン/ピアノ
古い音楽も、負けてはいない。れいの「イル・ジャルディーノ・アルモニコ」のアルバムから。『テンペスト』をオペラにしたバロック時代の作品。マシュー・ロック(1621 or 22 -- 1677)は、イギリス最初のオペラ作曲家だそうです。
マシュー・ロック:セミ・オペラ『テンペスト』から
「ガヴォット」
ジョヴァンニ・アントニーニ/指揮
イル・ジャルディーノ・アルモニコ
シベリウスの『テンペスト』は、シェークスピアの劇のための機会音楽。「序曲」を聴いていただきましょう。このへんまで来ると、音による嵐の描写も、なかなか高度ですね。
ちょっと古いですが、聴いていて飽きない演奏を選んでみました。
シベリウス『テンペスト』「序曲」
ヴァーツラフ・スメターチェク/指揮
プラハ交響楽団
シベリウスの『テンペスト』から、もう1曲。嵐の描写もいいけど、こっちのほうが、やっぱりシベリウスらしい。「ミランダ」は、主人公らの難破船が漂着した島に、父と住む魔法使いの娘。船を襲った嵐は、じつは、ミランダの父が魔法で起こしたもの。しかし、難船者の王子フェルディナンドは、ミランダに一目惚れしてしまう。。。
シベリウス:『テンペスト』第2組曲 から
「ミランダ」
さて、おしまいは、嵐の去ったあとの静けさ‥‥というか、静まった海の様子を。
ゲーテの詩に曲を付けたものらしいです。ベートーヴェンとメンデルスゾーン。両方とも、エンディングのサワリだけ。。。
ベートーヴェン:コラール・ファンタジー「海の静けさと幸せな航海」から
クラウディオ・アバド/指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
メンデルスゾーン「海の静けさと幸せな航海」から
クリスティアン・ティーレマン/指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
リヴォルノの波止場
何年かまえに一枚の絵を見てから
ある甘い憧れがわたしを去ってゆかない。
それは夢のなかで遠く、また近くあらわれる
若者のさすらいのうたの
夢のなかでしか想い出せぬメロディーのように。
日は落ちて、疲れきったひかりを投げる
はるかな島の稜線は夕べの匂いとそらに
消えた。海の重い潮(うしお)が
あやしい拍子をひびかせ
わたしの乗った暗い漁師舟の縁を(ふち)をたたく。
黄色い三角の帆が重たい炎のように
突堤から揚がると、黄金の海の面(も)は不意に美しくなり
満足しきったかがやきを滑らせてゆく
さいごの紅い光芒をとらえ
菫(すみれ)色のたそがれの国へとみちびく。
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