詩文集(3)――血の色ブナ

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     血の色ブナ(Die Blutbuche)

 血の色ブナの若木が立っているのは
 ぼくの初恋のせいなのだ
 そうしてぼくの最初の詩
(うた)がうまれたとき
 ぼくはその樹幹
(みき)に彫りつけ、じっと眺めたものだ


 春を彩る数多(あまた)の樹々のなかで
 その樹
(き)ほど贅を尽くしたものはない
 これほどあざやかに夏の夢を抱くものはなく
 またいきなり枯れ落ちるものもいないのだ

 血の色ブナの若木が立っている
 ぼくの夢という夢の中で:
 過ぎ去った5月の風は樹々のもとを離れ
 ぼくの愛する樹
(ひと)のまわりを吹く


 「血の色ブナ」(Blutbuche ブルート・ブッヘ)は、日本ではほとんど知られていない樹ですが、セイヨウブナの変種だそうです。1年を通じて葉が赤みを帯びており、葉緑素の緑色と混ざって血の色や紫色に見えるので、こう呼ばれています。「ブルート」は、英語のブラッドと同じで、血のこと。「ブッヘ」はブナです。(↓下に写真)

 英語では、「カッパー・ビーチ」。「カッパー」は、銅。“銅色のブナ”というわけです。↓こちらでは「ムラサキブナ」と紹介していますが、まだ日本語の定訳は無いようです。「血ブナ」あるいは「血の色ブナ」のほうが、正確な訳になると思いますw

 外国の樹木についての質問とお答え


 いちおう英語名はあるものの、ドイツにしかない樹木のようで、ウィキペディアも独語版にしか載っていません。説明の一部を訳してみました↓



「ブルート・ブッヘ(血ブナ)は、葉が赤っぽいので、そう名づけられている。ロート・ブッヘ(赤ブナ)が突然変異した変種である。この2変種もセイヨウブナ(Fagus sylvatica)であり、ブナ科ブナ属に属する。
     
〔…〕
 葉の赤い色は、酵素の欠乏に起因する。」通常のブナでも、若葉の表皮にはアントシアン類(赤色の色素)が含まれているのだが、酵素によって分解され、成葉には含まれない。その結果、成葉の表皮は透明であり、葉の内部にある葉緑体が透けて見えるので、葉は緑色なのである。ところが、ブルート・ブッヘの葉は、成熟してもアントシアン分解酵素が生じないため、成葉の表皮にアントシアンが残る。そのため、「葉の表皮が不透明になり、内部の緑色は外から見えず、葉は赤く見えることになる。
 ブルート・ブッヘは、成長の過程で赤い色を失って行き、しだいに緑色になり、ちょっと見ただけでは普通のブナと区別できなくなる。秋にならないと葉の赤い色がわからないようになる。
 ふつう、ブルート・ブッヘの日なたの葉は、日陰の葉よりもアントシアンを多く含むので、
〔日なたの葉は赤みが強く――ギトン注〕日陰の葉は緑色が濃い。
 ブルート・ブッヘの樹高は 30mに達し、寿命は 200年以上に及ぶ。」

Wiki独語版:Blutbuche

 

 

 この説明を見てなるほどと思ったのですが、日本でも、たとえば、春先に紅葉するカエデってありますよね。イロハカエデやハウチワカエデの一部の個体で、アントシアンの多い体質の木なのでしょう。山の中で、ときたま見かけます。

 じつは、日本のブナにも、そういうのがあります。日本海側の山に多いようです。春先の若葉だけ、赤い色をしているのです。

 ↑上の写真は、新潟県の菅名岳で撮したもの。

 しかし、日本のブナ(の一部の個体)の葉が、赤いのは若葉の間だけです。まもなく緑色のふつうの葉になります。また、日本のブナの紅葉は赤みのない黄色ですから、秋になると、ふつうのブナと同じように黄色くなります。

 ドイツの「ブルート・ブッヘ」は、アントシアンがとりわけ多くて、しかも成葉になっても分解する酵素がない変種―――ということのようです。それで、一年中赤い。それでも、樹木が成長するにつれて、葉の赤い色は、しだいに薄れてゆくようです。ヘッセの上の詩で「若木」と言っているのは、そういうことなのですね。


 ドイツの「ブルート・ブッヘ」(バート・ナウハイム)↓





 ところで、ギトンは、ずいぶん前から、山で見かけるブナの赤い若葉が気になっていて、ネットに写真を出したりしているのですが、みんなあまり関心がなさそうなんですねw 登山者のサイトに出しても、「さあ、見たことあるような気がするけど」ぐらいにしか言われませんです←

 こういう血で染まったような葉っぱが好きで好きでたまらないと思うのは、やっぱり異常なんかなあ‥ と思ってたら、ヘッセが↑こういう詩を書いてたのを知って、安心しましたw これって、ゲイ・テイストなんでしょうかねえ。。。。?




     終ることなき愛に

        Ⅰ


 ぼくの肩におまえの重い頭を乗せ
 じっと黙っていたまえ
 そうして心ゆくまで味わうがよい
 流れる涙のひとつぶひとつぶの
 傷ましいほどに甘い嘆きを

 いつの日かおまえはこの涙が恋しくなって
 死ぬほどにも渇き胸を締めつけられるだろうが
 それはもうけっして還って来ないのだから。

          Ⅱ

 ぼくの髪に指を這わせよ
 この重い頭に。
 ぼくの若き日々であったものを
 おまえは奪い去ったのだ

 とりもどしようのない彼方へと
 ぼくの若き日は、歓び湧き出づる泉は去ってしまった
 汲めども尽きぬ黄金の輝きとさえ思われたのに。
 そして悲しみと憤りだけがいまは残る
 夜につづく夜がいつ終わるともなく:
 野獣のように激しく、熱に浮かされて
 古びた欲情の爛
(ただ)れた動線が
 ぼくの白昼夢を奔流のように駆けぬけてゆく

 まれにやってくる休息のひとときには
 あの青春の日々がぼくに忍び寄る
 青じろく遠慮がちな客人は近づくやいなや
 苦しそうに呻き、ぼくの心に重しを載せるのだ

 ぼくの髪に指を這わせよ
 この重き頭に。
 ぼくの若き日々であったものを
 おまえは奪い去ったのだ

 

 

 

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