4-・・・歴史を動かす鍵「中心都市」とは?



これまでの二つの秩序においては'多くの部族、王国、帝国が多くのリーダーや神々を崇め、多くの言語をしゃべり、お互いに無視し、また戦火を交えながら共存してきたが'市場の秩序においては'マネーこそが唯一の言語である。


これまで市場の秩序は'常に1つの拠点を(中心都市)と定めて組織されてきた。


そこには(クリエーター階級)(海運業者へ起業家、商人'技術者、金融業者)が集まり'新しさや発見に対する情熱があふれていた。


この「中心都市」は'経済危機や戦争が勃発することにより他の場所へ移動する。


このことは市場と民主主義という新たな秩序によっても説明できる。


この新たな秩序は競争原理に基づいており,斬新さに対する要求やエリートの選抜をうながしてきた。


さらに企業や家族という存在は非常にはかないものであることから'企業や家族が超長期的に資本蓄積を行なうことはできない。


つまり'都市が資本蓄積を行なうのであり、この「中心都市」こそが'資本主義の中核となり'これを組織していくのである。


最後に'競争とは戦いを前提としていることから'市場、民主主義、暴力の間には'連続性が存在する。


「中心都市」となるためには'農業を発展させるための広大な後背地、そして製品を輸出するための大きな港が必要である。


「中心都市」は'自らを破壊しかねない欠乏状態に対応しなければならないことから'他の都市に対抗するための積極的な戦略を駆使していく。


例えば'他の都市の模倣、緊縮財政、軍事力、統制経済、保護貿易、関税制度などは'彼らの武器である。


クリエーター階級がある都市において他の場所よりも新たなサービスを産業製品に変える手段を統合できると、この都市は「中心都市」になる。


そして、資本管理、価格決定、利潤蓄積、労働者の管理、軍事強化、冒険家への財政支援、政権強化のためのイデオロギーの流布といったことが必要となる。


さらには'都市内外において'もっとも効率的なエネルギー資源の管理や'もっとも迅速なコミュニケーション手段を確保する必要がある。


また「中心都市」では'銀行家へ芸術家へ知識人、技術革新をもたらす人材が招かれ'資本を確保し'宮殿や墓を建達し、世界の新たな指導者の肖像画を播き、軍事施設を管理していく。


この「中心都市」の周辺には'衰退あるいは拡大してい-'過去の'そして未来のライバル都市がある。


こうした王国や帝国といった他の「周辺地域」は'自国の一次産品や労働力(一般的に奴隷であるが)を「中心都市」に供与することによって(周辺都市)となる。


ちなみに、こうした「周辺都市」を支配しているのは'部分的に宗教や軍事力といったこれまでの秩序である。


市場の形式は'「中心都市」が「中心」(milieu)や「周辺」(peripherie)を管理するための十分な富を寄せ集めることができる間は継続する。


しかし'都市内部の平和維持や都市外部の敵からの攻撃を防ぐために、莫大な資源の拠出を強いられたときには息切れを起こすことになる。


これまでにさまざまな形式の「中心都市」が誕生したが、いずれの都市も過剰な出費により衰過し、競争相手となった都市にその座を譲ってきた。


一般的に'次の「中心都市」となる都市は'「中心都市」に攻撃を仕掛けた都市ではなく、この戦いの間に'これまでとは違った文化・成長原理をもった都市であ-'これまでとは違ったクリエーター階級が'新たな自由・資金・エネルギー・情報源を持ち込んで'従来のサービスを新たな大量生産の製品に置き換えた都市である。


「中心都市」の形式が移-変わるたびに'まずは農産物が'次に工芸品が産業化され、奴隷制度が衰過し、貸金労働が発展してきた。


また、エネルギー生産や情報伝達手段が自動化され、技術者、商人、銀行家、海運業者'軍人、芸術家、知識人も「中心都市」へと移動する。


そこで個人・市場・民主主義の自由の領域は拡大するが'独立した農民・職人・自営業者は不安定な賃金労働者と化す。


つまり'富が限られた人々の手中に集約され、消費者と市民は大きな自由を手に入れる一方で'労働者はきわめて疎外される。


皮肉な出来事として'こうして帝国の秩序から市場の秩序への急変は'人々をノマドへと回帰させた。


つまり'農民は旅行者となったのである。


我々は'人類の文化の根底にある'長年にわたった放浪生活という歴史的

事実から'将来を占うことができる。


現在、この放浪生活がよみがえったのである。


現在まで市場の秩序は'九つの市場形式をたどってきた。


では、この変遷を「中心都市」の推移を順に迫って考察するか(ブルージュ、ヴェネチア、アン-ワープ、ジェエノヴァ、アムステルダム'ロンドン、ボストン、ニューヨーク、ロスアンジェルス)、または大量消費財の登場を順に追って考察するか(食品、衣服、書籍、金融、運輸手段へ家庭用電気製品'コミュニケーション・娯楽手段)、商業圏の拡大を可能としたテクノロジーの進展を順に迫って考察するか(船の舵'キャラベル船、印刷機、会計、オランダ船、蒸気機関、内燃機関'電動器具、マイクロプロセッサ)、支配的通貨を順に追って考察するか(グロ金貨、ダカット金貨、ギルダー、ジエノヴァ通貨、フローリン、リーヴル・スターリング[ポンド]'ドル)、もしくは「中心都市」を代表する芸術家や哲学者を順に迫って考察することも可能であろう。


過去七世紀の経済・技術・文化・政治・軍事のおもな歴史とは'「中心都市」の歴史であり、その歴史とは'「周辺都市」の追い上げを振-払い、そして市場の秩序から抜け出そうとしてきた歴史でもある。

歴史の法則を明かすことによって、未来の法則も見えてくるのである0


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  1. 21世紀の歴史~-日本語版序文にかえて ジャック・アタリ
  2. 1-宗教・軍事・市場-人類史を動かしてきたころの秩序
  3. 2--ノマド・カニバニスム・性…
  4. 3--神・近親姦の忌避・定住化-(ノマド)と(定住民)の衝突
  5. 4--〈帝国の秩序)から(相場の秩序)へ
  6. 第2章 1-(市場民主主義)の誕生-紀元前12世紀

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10169365563.html

    第2章 2--「自由」こそ究極の目的-古代ユダヤ・ギリシャの理想

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10169367222.html

    第2章 2--◆春秋戦国時代

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10169370616.html

    第2章 2--◆へラクレイトス(紀元前五四〇?-四八〇?)

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10169371919.html

    第2章 2--◆ペリラレス(紀元前四九五~429)

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10169373186.html

    第2章 2--◆三つに分裂

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10169375149.html

    第2章 2--◆二八四年、ディオクレティアヌス皇帝は困難にな-つつあった徴税を再強化したが'無駄に終わった。

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10169455509.html

    3・--市場、都市'そして国家の形成-4~12世紀

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10191501402.html

    4-・・・歴史を動かす鍵「中心都市」とは?

    14・・・アメリカ,終悪の始まり

    http://ameblo.jp/gitarcla/entry-10156770821.html