ではボブオムニバス&両公演に出ていたキャストたちについて書いていきます。

 

○朝尾露子・零華・悪魔役:一村すみれさん

ボブオムニバス、全ての作品でメインキャストを演じるという離れ技をやってのけた一村すみれちゃん(以降すーちゃん)。おそらく、目を閉じておいでよを合わせても彼女が一番セリフが多かったのだと思います。しかもキャラも全然違う三役。お嬢様からはじまり、ちょっと勝気な女性、そして人間に混乱をもたらし楽しむ悪魔。今回のオムニバス公演の中心になるこれらの役に、誰をキャスティングすべきか迷いました。できれば初ボブジャックの人がいいなと思っていたのですが、なかなか決められず。そんな時にふと以前私が外部で演出した作品に出演してくれた彼女の顔がよぎりました。「よし!すーちゃんがいい!」と思いキャスティング。やはり、彼女をキャスティングして良かった。劇団員たちが四苦八苦する中、彼女が最初の頃から安定した芝居をしてくれて、なんとか崩れずに済みました笑。しかも、彼女が稽古中からよく笑ってくれるので、劇団員も私も調子に乗ってネタをぶっ込みまくりました。キザな意味ではなく、彼女の笑顔に救われた部分が多分にありました。

すーちゃん、実はまだそこまで女優歴は長くないのですが、兎に角、役の輪郭を掴むのが早い。セリフ覚えるのも早いですが、役にスッと入ることができる。露子も零華も(演出は松本さんでしたが私も稽古は見学していたので)悪魔もキャラ的なことはほぼ演出しておりません。芝居勘がとても良い。もちろん、それだけでは魅力的なキャラにはなりません。例えば、「ラブレター」の露子。短編ですから、なんでも物事が早く動いていかないといけない。「ラブレター」の肝はやはり「一目惚れ」です。つまり一目惚れされる露子にその説得力がなければ成立しません。彼女の持つ可愛らしさや愛おしさ、お嬢様というだけに収まらない明るさや少女っぽさ、何とも言えない魅力的な女性に仕立て上げてくれました。明るくちょっとおっちょこちょいな露子がふっと見せる陰な部分も自然と魅せていましたが、細かい所作や目線、息遣いで表現をしていて素晴らしかった。誰もが露子の身に起きた不幸にショックを受けたと思います。そんな「みんなの露子さん」を演じていたと思えば、数分後には勝気でちょっと鼻持ちならない零華をさらっと演じる。そして零華たちの友情や未来にほんわかしていたら、「ゲヘヘヘヘ〜」な小悪魔ちゃんを演じる。日替わりゲストたちの独特な攻撃に屈することもなく、キャラもそのままで跳ね返す様子は、頼もしさすら感じたものです。悪魔に関しては本人もノリノリで色んなセリフの言い方を工夫したり、毎回違う誘惑の仕方をしたりと楽しんでおりましたね笑。お芝居的な切り替えも非常にうまく、前述したように露子の隠と陽、悪魔の悪戯っぽいところからちょっとぞくっとする迫力の出し方、お芝居を始めて数年とは決して思えない確かな技術力。末恐ろしいですね。また演出をつけたお芝居も出来るようになるまで苦労をする場合もありますが、一度掴むともうブレない。可愛らしい見た目の奥に潜んだ肝の大きさ。まだまだ彼女の底が知れないので、また違った作品でも是非ボブジャックに出て欲しい。もっと色々な役をやらせてみたい女優さんです!

 

○日暮与太郎役:岡部直弥さん

今回、オムニバスの1作のみの出演にもかかわらず出演を快諾してくれた岡部くん。情熱的にそしてキュートに与太郎を演じてくれました。今回のような役所はあまり演じたことがなかったようで、最初は勢いのある与太郎に戸惑っていましたが、役を掴んでからは、与太郎の真っ直ぐさの中に岡部くん特有の間のうまさや可愛らしさも盛り込んで、与太郎をとても豊かなキャラクターにしてくれました。短編ということもあり、観客により早く与太郎という人物を分かってもらうために最初からエンジン全開のお芝居をお願いしました。実はこの手の役を演出する上で、私も初めての体験をしたんですよね。普段、こういったキャラを演じてもらうのは「元々情熱的なタイプの役者さん」が多いのですが、岡部くんはどちらかというと真逆のタイプ。心には熱い情熱を持っている男だと思うのですが、それをあまり表に出さないタイプといいますか。なので、普段こういう役の演出をつける際には、そのギャップ側の演技、つまり「優しさや弱さ、柔らかさ」などの演出で気を使うことが多いのですが、岡部くんは逆でしたね。優しさや弱さ、柔らかさは元々の特性もあって抜群に上手い。なので、どこまで激しく情熱的に演じてもらうかがポイントでした。ギリギリまで岡部くんの持つ優しさや柔らかさは抑えてもらい、とにかく情熱的に情熱的にという方針で行きました。いや〜、普段情熱系のお芝居をしない人が情熱的に演じるとなんとも不思議な情熱になるものですね。情熱的だけど暑苦しくない、押し付けがましくない。その加減が「実は与太郎はお坊ちゃんで、インテリな育ち」というバックボーンに繋がったと私は感じました。だからこそ、中盤にある与太郎の「実は俺は…」という自身の生い立ちの告白が非常にしっくりくる。というように最終的には岡部くんにしか出せない与太郎が誕生したんじゃないかなと思います。

あと、2回目にして恒例になった感のある「岡部くんによる意味なくかっこいい前説」もさすがでした笑。ぶっつけ本番1回きりであの量のセリフ覚えるのって大変なんですよ、実は。事もなげにやってのけた岡部くんに「かっこいい〜」と思ってしまいました。あと、急遽出演の決まった東京サタデーナイトでもネタをバンバンぶっ込んでくる度胸の良さ。舞台監督役の岡部くんのネタは完全に本人持ち込みですからね。実に貪欲な男です。

今回でまた新たな一面を見せてくれた岡部くん。また出演してね。もちろん前説付きで笑。

 

○鳥居詩絵・家成あたる役:椎名亜音さん

念願叶い、ようやくボブジャック公演に出演してくれた椎名さん。やはりこの人がいると作品が締まる。最高でした。「唯一度だけ」の椎名さんは椎名さんの真骨頂。コミカルだけど物語をグイグイ進めていく感じは、間違いなく他の若い共演者たちを高みに引っ張り上げてくれていました。ああいう役、ほんとピカイチですね。

そして「目を閉じておいでよ」の詩絵。これまたとても良かった。実は椎名さん、稽古当初は詩絵に苦戦しておりました。まあ、直前に出演していた公演の影響で合流が遅かったということで急ピッチに稽古が進んでいったということもあるかも知れませんが、少し私が思い描いていた詩絵のイメージと違った感じで詩絵を作って来ていたのです。本当のことをいうと、椎名さんが最初に作ってきた詩絵の方向性でもOKでした。詩絵の大きな役割としては「麦子にお節介を働く人」「林田の背中を押してあげる人」なので(他にもありますが大きいところでは)、それをクリアできれば、キャラクターは何パターンも考えられる。私はそういったキャラの場合は基本的に本人が持ってきたものを受け入れ、それを広げていき、役割も果たした上で、キャラクター性も深めるというふうにするのですが、折角念願の椎名さんなわけですから笑、いっぱい演出つけたいじゃないですか、何かを引き出したいじゃないですか笑。だからといって、こと細かく指示を出すと私の想像を超えたキャラにはならないので肝心な部分は役者に考えてもらう。そういう方向性で行こうと。なので、どう演じて欲しいとかこういう風にセリフ言ってとかなど直接的なことは言わず、シーンシーンで「詩絵さんってこういう時、○○な考え方をする人だと思うんだよね〜」とか「このセリフは勝者(人生の)としてのセリフじゃないかなあ」とか「詩絵さんって今までどういう壁にぶつかって、今の詩絵さんになったんだろう?」とか、そんなとこ観てる人は誰も注目しないでしょ?というところで「ここの反応が詩絵さんの考え方や人となりを表すと思うんだよなあ」とか言うだけ言って、稽古は返さない(繰り返さない、まあ毎回ではないですが)、ご自身で考えてきてください次やる時に見ますのでスタイルでいきました。なのでご自身も色々考えて迷って躓いて、役に辿り着いてくれました。結果、舞台上にいたのは私の想像を超えた詩絵さんでした。コミカルな部分もあるけど、大人で人間がデカくて、でも臆病で弱いところもあって、とても人間味のあるキャラクター。休ちゃんが生まれながらのデカイ人間なら、詩絵は紆余曲折あって今の自分にたどり着いたデカイ人間。色んな辛いことや逆境に心を一度は折られながらも最終的には受け入れて立っている。そんな深い人物にしてくれました。私の考えていた詩絵では最後の林田とのシーンはあんなに素晴らしいシーンにはならなかったでしょう。詩絵ならではの絶妙な距離感。同調しすぎず、でもちゃんと向き合って寄り添って背中を押してあげる。あのシーンで林田だけではなく、詩絵の歴史も見えた気がしました。やはり、椎名亜音は素敵なスゲー女優でした。また、必ず出てください笑。

 

○流星キララ・二湖・長橋有沙役:長橋有沙さん

ほぼジャックメンバーの代表格であるアリー。今回の舞台で女優としての活動はお休みに入るアリー。このブログを書いたら私の中でもひとまず「女優:長橋有沙」は本当にお休みに入ってしまうので書くのはちょっと辛いですが、彼女の背中を力強く押せるように書かないとですよね。

アリーとは結構長いお付き合いですね。彼女がまだ十代の頃からご一緒してますから。彼女が女優として成長していく過程や苦労していたことも知っていますので、とても寂しいというのが本音ではあります。しかし、だからこそ、彼女の人生に幸あらんことを強く願っています。彼女がこれからどういった活動をしていくのか、私も詳細は分かりませんが、どんな道を歩むにしても、そしてどんな結果が待っていようとしても、それが彼女にとってベストな選択だったとなって欲しい。いや必ずなります。私は世界で活躍するアスリートの考え方とかがものすごく好きで参考になるなあと思うのですが、イチロー選手が昔言っていた「自分の人生にとって無駄なことは何もないんです」という言葉が特に好きで。あらゆるトレーニングが実を結ぶわけではない。むしろ、実を結ばないトレーニングもたくさんある。でも実を結ばなからといってそれが無駄だったということは決してない。それをやったらか次の考え方が生まれ、その生まれたものが実を結ぶ。こうして実を結んだものには深みが出る。深みを出すためにも失敗や無駄だと思われることは必要。という考え方なのですが、世界の超一流が言ってるのだから真理なのでしょう。何事も考え方、捉え方一つで変わるんですね〜。縁起でもない話ですが、アリーが次に進む道でもしダメだったとしても、それはアリーにとって必ずプラスになる。その上で女優として戻ってきたアリーの演技にはさらに深みが出ることでしょう。逆もまた然り、もし成功したとしたら、それは今まで女優として活動してきたことが必ずプラスに作用しているはずです。どんな選択をするにしても「この選択して良かったー!」と思えるような道を歩んで欲しい…、なんか父親か先生みたいな発言になってしまいましたね。でも、それくらいアリーのことは大切だし、劇団員ではないですけど劇団員と同じくらい仲間だと思ってます。多分、うちの劇団員はみんなそう思ってます。だから、頑張れアリー!

以前からお話ししていますが、長橋有沙という女優はボブジャック作品にとって大切なピースだったので劇団の演出家としては非常に残念ではありますが、アリーが次のステージでもビッカビカに輝いてくれればこれほど嬉しいことはないですし、そう願って止みません。

まあ、お芝居をお休みするといっても会えなくなるわけじゃありませんし、またボブジャックに遊びに来てよ。いつでも大歓迎!

あ、お芝居的な話何もしてないですね…、アリー、今回も良かったぞ!最後麦子に「応援してます!」と言われた時の表情と声、神懸ってたぞ!私は悠ちゃんみたいに素敵には言えないけど、

 

「これからも応援してます!頑張れ、アリー!」

 

 

今回はこの辺で。