さて「ボブ宴!」演出ノートブログの続きです。

お正月休みの合間にでも読んでいただければ幸いです。

今回も「目を閉じておいでよ」キャスト陣について書いていきます〜。

 

○鷲尾休役:松本祐一さん

彼の休ちゃん、抜群でしたよね。なんでしょう、あの超然とした雰囲気。なかなか出せるものじゃない。休ちゃんって案外臭いセリフとかも言ってるし、下手したらちょっと胡散臭い、悪い言い方をすれば「優しそうに見える、ちょっとイタい男」になりかねないと思うんです。それが、なんとも言えない太平洋のように心の広いそよ風のようなキャラクターになっていました。休ちゃんのあの感じは間違いなく松本くんの功績です。あの感じは演出でどうこうできるものじゃない。

まずはあの声。α波が出てるんじゃないの?というくらい落ち着いたなんとも心地よい声。実は普段は大きな声で叫んだりと声の強さを求められる役が多いみたいなのです。確かに叫んだりした時の声は大きかったですよ。でもでも、大きな声を出せる人は沢山いても、あのα波な声を出せる人ってあまりいないと思うんですよね。是非とも今回のような役をこれからの役のレパートリーに入れてもらいたいです。そして、あのどこまでも自然な佇まい。舞台上の何もない空間なのにまるで草原に立っているかのような…。本当にどこにも力が入っていない感じ。あんな自然な感じで舞台上にいれるのが純粋に凄い。でも自然な感じだけじゃなく、ちゃんと個性も芯もあるキャラ。本当に休ちゃんを素敵なキャラに仕立て上げてくれました。

実は、彼への演出で一番悩んだところがあります。公園で迷子になった休ちゃんと麦子のシーン。星空の話を休ちゃんがした後に、麦子に優しく「また来よう」と言うシーン。このセリフの後、まだ戸惑っている様子の麦子を落ち着かせようと優しく頭を撫でて、「今度は迷ったりしないから」と言う流れなのですが、この頭を撫でると言う行為は台本には書いておりません。しかし、この後に続く麦子の独白の前に、もっと麦子に何かを感じさせたかった。そこで休ちゃんに頭を撫でてもらい、それが「事故の時に自分を庇ってくれた兄の手」とリンクするという演出を入れました。しかし、なんかその行為が「男と女」に見えてしまわないか?ちょっとやりすぎなのかな?という懸念がありました。でも、流れ的に入れたかった。なので、稽古で松本くんに試しにやってもらいました。結果…まったく余計な懸念でした。松本くんの演じる休ちゃんの超然さたるや。そんな安っぽいイメージをまったく抱かせませんでした。お陰で私のお気に入りのシーンの一つになりました。

それ以外のシーンでも休ちゃん周りでお客様に与える印象について少し心配だったシーンがあったのですが、松本くんにかかれば、そんな心配はすべて杞憂に終わりました。何かリクエストした時のレスポンスも早いし、お芝居に対する姿勢も良いし、また一人良い俳優さんに出会えました。

また是非ご出演願いたいです!

 

○結城虎男役:栗原大河さん

今回で4回目のご一緒、ただ、演出としてご一緒なのは2回目。彼はとにかく、キャラクター及びそのキャラの役割を掴むのが抜群に早い。キャラクターの方向性について、彼に何か演出的口出しをした記憶がない。小さい頃からお芝居というものに触れ来ているので、台本などを読んだときにすっとそういったものが浮かんでくるのかなと思います。そしてちゃんと自分なりの色付けもしてくる。今回の虎男、台本を読むだけでは昔イケてたけど、今はフリーターで燻ってる、ちょっと不器用な男というくらいの解釈になると思うんですが、そこにちょっとしたチャラさを入れてキャラとしてのギャップを出してきたのはファインプレーでしたね。まあ、見た目がチャラいからね、今回の大河くんは笑。彼もレスポンスがすごく早い。何か要求するとすぐにフィックスしてくれる。後、リアクションの芝居が上手い。何気ない「え?」とか「は?」の言い方がとても良い。非常に地味なことかもしれませんが、とても大切なことです。お芝居を相手と作っているということ。独りよがりで芝居を作っていないということ。それが如実に現れていたのが、虎男と江美香の2回目のシーン。麦子に対する思いを吐露した江美香に「それでも行きなよ」というシーン。このセリフの言い方がいつも微妙に違ったんです。これはその前の江美香のお芝居、セリフの言い方に合わせてそれに対するレスポンスとしてお芝居をしていたのと、その時、江美香に対してどう思って欲しいか感じて欲しいかを毎回新鮮にアクションできていたことの現れだと思います。舞台は生ものです。毎回同じお芝居をする必要はないと私は思っています。当然、毎回同じにしないといけない部分もありますが、その時その時のやりとりで変わっても良い部分もある。ステージごとにちょっと違う印象を受けられるのがライブの醍醐味。物語全体の印象が変わるのは良くありませんが、シーンとしての印象に変化があるのは大歓迎。少し変わっても良いシーンなのかダメなシーンなのか、その辺を見極める力もあるのだと思います。ものすごく優しかった時もあるし、ちょっと厳し目な時もありました。正直、どちらでもいいんです。結果、江美香の背中を押してあげられれば。優しい感じの回を観たお客様はもしかしたら「虎男と江美香、くっつくんじゃない?」と思った方もいるかもしれません。でもそこはこの物語の中では描かれていない。そこから先は見た方のご想像にお任せしますなのです。私はこういう余白が実は作品を豊かにするのだと思います。おそらく、大河くんはちょっと確信犯的にその辺りの演技を微妙に変えていたのではないかとすら思ってます。まあ、本人に確認してないのでわかりませんが笑。

若いにもかかわらず確かな経験と遊び心。これからも活躍が楽しみな役者さんですね。またボブジャックもお願いしますよー!

 

○遠藤希乃役:花崎那奈さん

今回、初めましての那奈ちゃん。今回、このポジションには初めましての若手さんを入れたかったのですが、ご縁あって出演してもらうことになりました。まだまだ荒削りですが、一生懸命で真っ直ぐ。できるまで何回も頑張る。お芝居が上手くなりたい!もっともっと良くしたいという思いがひしひしと伝わってきてとても好印象でした。私は、若手の女の子にはっちゃける演出をつけるのが好きなのですが、その一つの理由としては、一度はっちゃけると他のお芝居の部分にも良い影響が出てくることが多いというのがあります。やはり人前で何かを演じるというのは緊張します。まだ経験の少ない若手の俳優さんは稽古場からも緊張するでしょう。はっちゃける演出をつけることで緊張する余裕をなくしたり、またはっちゃけることで稽古場で笑いが起きる。それで自信もつき、それ以外の演技もしっかりとできるようになる。まあ、あとは個人的にそういう演出が好きだというのもありますが笑。一番大きいのは、何か一回でもはっちゃけさせることでキャラクターとしての輪郭がはっきりしてくるんですね。で、若い子のいいところって、経験を積むと言えないようなセリフの言い方をする時があるんです。ナチュラルにさらっと。この言い方、キャラの輪郭がはっきりしていないとただ下手に聞こえてしまう危険性があるんですが、はっきりしているとそれがちょっと変わった面白い言い方に聞こえるんです。不思議なものです。

那奈ちゃんは今回のような役をあまりやったことがなかったらしく、最初は少し苦戦しておりましたが、頑張って食らいついてはっちゃけてくれました。またそれを本人も楽しそうにやっていたのが印象的でしたね。こういう子は必ず伸びます。お客様からも「遠藤希乃」に関する感想も多かったし、本番でもかなり高い確率で笑いも取っていたし、那奈ちゃんがこの作品にもたらしたものはとても大きかったと思います。素晴らしかった!修正能力も高くて、本番中に少し感情が上がりきっていないシーンがあったので指摘をしたところ、次の回からはしっかりと、しかも以前よりもグッと感情を上げてお芝居をしてくれていたし、その辺りの柔軟性も高い。お芝居をする時の体の癖など、まだまだ課題もありますが、そんなに一挙に上手くはなれないですからね。これからもしっかりと取り組んで欲しいです。そして何より人懐っこくて、座組でも可愛がられていました。こういう部分も非常に大切なんです。多分先輩からも沢山アドバイスをもらえる子。加速度的に上手くなっていくでしょうね。非常に非常に楽しみな新人さんです!

またボブジャックに出てね!

 

さて、本日はこの辺で!