さて、ボブ宴!の振り返りブログ、キャストについて書いていきたいと思います。

前回のブログと同じくまずは「目を閉じておいでよ」のキャスト陣から!

 

○二田原麦子役:森岡悠さん

今回で3回目の出演の悠ちゃん。最初の出演である「ライナスの毛布」の時はお芝居始めたばかり、そして昨年の「ノッキンヘブン」、そして今回です。そう、つまりまだお芝居を始めて3年くらい?なのですかね?彼女の出演作を全て見ているわけではないのでなんとも言えないですが、ここまで陰のある役は初めてなんではないでしょうか?

悠ちゃんと言えば「笑顔」、普段から本当に屈託なく笑う。当然、舞台でもその笑顔は絶大な威力を発揮するわけで。ご覧になられた方は「悠ちゃんから笑顔を奪う役を与えるなんて…」と思ったことでしょう。私も最初は悠ちゃんが麦子を演じた時、どうなるのか予想できませんでした。ただ彼女なら絶対に成し遂げるという確信はありました。負けず嫌いですし笑。そして、予想できないって、ワクワクするじゃないですか!

まず、結論から言います。圧巻でした。うまかったとか、とても素敵に演じていたとか、そういう言葉が軽く感じてしまうくらい圧巻でした。激しい芝居とかなら、この「圧巻」という言葉を耳にすることはあるかもしれません。例えばつかこうへいさんの作品などは、私的には超人演劇なので「圧巻」という感想が出てきます。ちょっと話が逸れます。語弊を覚悟で言いますが、つかこうへいさんの作品は、相当下手でなければ役者がすごく見えます。それほどとんでもない戯曲だと思っています。音としてのセリフの力、言葉としてのセリフの力が凄い。もちろん役者の技術が介入する部分もありますが、最終的な優劣は「その役者自身が持ってる人間としての力、生命力」が大きく関与してくると思っています。物理的な声の大きさだとか。だから私的には超人演劇なのではないかなと思うわけです。なので、上手い(で止まってる)役者と凄い(突き抜けてる)役者の差が如実に出る。なので感想としては上手いではなく、凄い・圧巻だったというものが出てくる。

今回の「目を閉じておいでよ」は決して激しいお芝居ではありません。どちらかというと静かな日常のお芝居です。それでもなお、悠ちゃんからは圧倒的な何かを感じました。「演技」というものを突き抜けた「人間としての生命力」と言いますか。後半の感情が激しく動く前から、静かな佇まいの中に、何かがぱつんぱつんに詰まっているような。長いこと演出していますが、あまり感じたことのない感覚。その感じを12公演、毎回、いや、稽古場から発していたのですから、もう人間としてのエネルギーが凄いのだとしか言いようがない。

もちろん、意識的に出していたのではないと思います。彼女の役に対する気持ちとか覚悟とか集中力とかそういうものが混ぜこぜになってオーラのように湧き出ていたのでしょう。だから彼女に関しては「こう演じてほしい」というよりは「歩く道の軌道修正」をするという演出にしました。おそらく感情的な話は一切していないはずです。「ここで観客にこういう印象を与えたいから、このセリフはこういう風に言って」とかポイントだけ伝える。または、あるシーンのあるポイントでなんらかの感情を引き出したいときは、その手前のセリフをあえて抑えて言うようにだけ伝えたりする。そうすれば彼女がちゃんと然るべきポイントで響いてくれる。それで十分でした。麦子そのものでしたからね。細かい感情的指示は不要。ちなみに彼女の凄さはそういうことに即座に応えられる柔軟性にもあります。あんなに感情的に演じているのに、自称感情派役者にありがちな「感情的にそういうふうに言えません」がない。ちゃんと第三者目線も持てている。もしかしたら、彼女の中に違和感的なものが最初はあるのかもしれませんが、自分の中で整理してフィックスしてくれる。目立たない部分かもしれませんが、私が彼女を凄いなと思う部分の一つです。

さて、役を演じる上での感情的な部分は、それで十分でしたが、今回は技術的にも「目が見えていない」演技を習得してもらう必要がありました。この部分は丸山とも協力して、彼女に色々なアドバイスをしていきました。こういう特殊な演技って、最終的には本人が「モノにできた!」という感覚を持ってもらうしかない。そのためには色々なルールを作り、そのルールの中で本人が「あ、この感覚だ」となるまで待つ。そして更に先があるのですが、その感覚の中で「観客」が「この人、見えていない…」と感じる部分を抽出していく。当然リアルと異なる部分も出てくる。お芝居ですから、リアルと異なっても「観客にそういう印象を与える」部分をやらないといけない。例えば、悠ちゃんはセリフを言う時に少し頭が動くという癖があったのですが、これがなんか目が見えているように私には感じたので、その癖をなくすようにしてもらったり、目の表現力が高いので(とても良いことなのですが)目の表現を消してもらったり、体の向き、白杖の使い方や使わない時などなど、がんじがらめの中、本当によく演じてくれたなと思います。

冒頭のシーン、事故に遭い、目の見えなくなった麦子が立ち上がり、ゆっくりと辺りを見渡すシーン(見えていないのに見渡すって変ですが)。自分で演出しておいてなんですが、あれ、役者的にはものすごく怖いと思うんです。まだ、始まったばかりでお客様も世界に入り込む前に無言であれだけの時間を使う。でも、一挙に舞台上や客席の雰囲気を変えてしまっていた悠ちゃん。圧巻でした。

今回の作品、本当に彼女が麦子で良かった。彼女のおかげで作品が1段も2段も高みに行けたのだと思います。毎回毎回、こちらの期待を超えてくる悠ちゃん。麦子を超えるほどのお芝居というのが今は想像もできないのですが、これからの彼女がますます楽しみです!

 

○綿梨零奈役:木下綾菜さん

今回が初めましての綾菜ちゃん。いや〜、もう稽古開始当初とは別人なんじゃないかというくらいお芝居が進化しましたね。彼女はそこまでお芝居経験がある女優さんではなかったのですが、とにかく「上手くなりたい!」という気持ちが強くて、演出をつけるのが楽しかった。主人公である麦子の「なりたい自分(正しくは、なれない自分)」である綿梨零奈。非常に難しい役でした。隠の麦子に対して、陽の零奈。これ、いわゆる「天使と悪魔」みたいにもう一つの人格なら、話は早いんです。とにかく明るく陽を演じれば良いのですから。零奈の難しいところは、もう一つの人格ではなく、人格は麦子と同一。でも麦子ができないことをやり、言えないことを言うという部分。麦子と同調するところ、麦子を諭すところ(これも麦子の殻から出たいという本当の気持ちが零奈を通して現れている)、行ったり来たりしないといけない。舞台上の立ち位置も全登場キャラの中で一番細かく付けたのも零奈でした。出過ぎず、出なさ過ぎず。さっきまで出ていたのに、いつの間にか存在を消し、またポイントで出てくる。麦子が誰かと話しているときの位置取りやその時の目線の置き方など、本当に色々と気を使わなくてはいけない役所。本人的にも良く役のことを理解してくれて「この時は麦子と同調した方がいいですか?」とかよく聞きにきてくれました。

最後の方の麦子と言い合うシーン。最初はなかなか上手くできなかった部分もありましたが、何度もトライアンドエラーを繰り返して、最終的には私の想像を超えたシーンにしてくれました。なんか、母性的なものが溢れてましたもんね。なんでしょう?あの包み込むようなオーラは。あの時、零奈は「なれない私」ではなくやはり「なりたい私」なんだなと痛烈に思いました。麦子の本音。麦子が殻から出ようとして漏れ出してきている本音。それを感じさせてくれるお芝居でした。

綾菜ちゃんの魅力はなんと言っても「声」ですね。明るくも聞こえ、優しくも聞こえ、大人っぽくも聞こえ、知的にも聞こえる。彼女の心地よい声の響きが、ラストの墓場のシーンではものすごく良いアクセントを付けてくれていました。彼女の真っ直ぐな気持ちと真っ直ぐな声が、麦子の動き出す心を2倍にも3倍にも引き上げてくれていました。そしてラストの独白。これから先、麦子に待っている人生。その大きさと広さ、期待とでもちょっとした不安。そのすべてを飲み込んで、この物語は続いていくということを感じさせる素晴らしい独白、笑顔でした。縁の下の力持ち的立ち位置でしたが、彼女がこの物語、そして麦子に与えた役割はとんでもなく大きい。難しい役所でしたが、見事に演じ切ってくれたと思います。

そして何より、麦子の「なりたい私」という部分を観客に納得させるビジュアルの良さも忘れてはいけません。本当に零奈に彼女をキャスティング出来て良かった。大きなポテンシャルとガッツも兼ね揃えた綾菜ちゃん。これからも沢山お芝居をしてほしいなと心から思います。優秀な人材が多ければ多いほど演劇界が盛り上がりますのでね。

また、是非ボブジャックに出てもらいたい!これからもよろしくお願いします!

 

さて、今回はこの辺で。う〜ん、いつもながらやはり沢山書いてしまうなあ汗。まあ、お正月休みもあるので、今回は大ボリュームでお送りしていきます笑。