8月15日から18日まで中目黒キンケロシアターで上演されました演出作品『暗転エピローグ』〜高校演劇応援プロジェクト〜が無事に全公演終了いたしました!

演出ノート的な意味合いも込めて、ブログを書きたいと思います。いや〜久しぶりだ…汗。

 

『暗転エピローグは』漫画作品の舞台化でしたが、その漫画の原作者がボブジャックシアターにも女優として出演していただいたことのある生田善子さん。普段は声優さんとしてもご活躍されている方ですが、生田さんとプロデューサーから「是非、守山扇田コンビで舞台化したいです!」とラブコールを受けまして、今回関わらさせていただくことになりました。大変光栄なことで、更に原作漫画を読んだらこれまた面白い!是非是非お願いしますということになりました。

 

色々な2.5 次元作品のやり方があるとは思うのですが、私と守山でやらせていただくときはやはり「人間が演じる」ということに重きをおいてプランを考えます。人間を追うことを怠ってしまうと、その作品の世界観の説明などで多くの時間を取られ、その物語の「ドラマ」部分まで踏み込んで描けなくなってしまうからです。なので、できるだけ世界観の説明は簡素に、物語を進めながら世界を深めていくと言いますか。

特に今回は「一華」の成長物語である部分が強い。人が成長していく上ではやはりそれ相応の時間が必要です。ファンタジーで魔法がかかったり、何かのきっかけで急に力が解放されるというわけにはいきませんからね。しっかりとした時間の流れがベースになければなりません。この時間の流れになるべく多くの作品時間を使いたいわけです。今回の作品で言えば、語り部を置いて時間の省略をしたり、冒頭で「埼玉県立百澤高校演劇部集合!」と集合させて賑やかなやり取りを一通り見せることで観ている人に「元気な演劇部を舞台にした物語」という感覚をなるべく早めに浸透させたりなどがわかりやすい例えです。実は今回の『暗転エピローグ』、脚本を読んだ段階で「あ、これは行けるな」と思えた作品でした。原作自体が「トラウマを抱えた女の子が、それをなんとか乗り越え、一歩踏み出していく話」というシンプルで共感を得やすい作品であること、色々と遊べそうな要素が詰まっていること、自分の得意ジャンルであることなどなど、稽古を始める前から面白くなるという確信がありました(ここまでいうと大袈裟ですが、面白くなる可能性が高いなと思えました)。そして、稽古が始まり、若い女性が多い座組でしたが、みんなお芝居が上手い。そしてそして芝居好きが集まっている。これはもう面白くなる未来しか想像できない!という感じでした笑。

 

ただ、一つだけ不安要素がありました。それは物語の構造上、というか原作が連載漫画であるということで発生する問題でした。先にも触れたように「主人公がトラウマを乗り越え成長していく」という原作であるため、トラウマが明らかになり、それを乗り越えるための過程が描かれていくわけですが、その中で主人公の「一華」が様々な人に励まされたり、話をされたりします。今回の舞台でもあったような、しー に説得され(説得という表現は正しくないかもしれませんが)、になに腹を割って話をされという流れですね。そして、今回はそこに「美咲」という舞台オリジナルピースも加わりました。最後に、一華が美咲に話をされるシーンがあるためその部分が印象に残りますが、美咲は一華を追い詰める役割です。レイに厳しい指導を受けた一華の前で本物の「あの頃の私じゃない」というセリフを聞かせ、当然美咲自身は追い詰めるつもりはないのですが、結果的に追い詰めてしまうのです。しかし、追い詰める役割だった美咲が、一華が一歩踏み出すための最後のピースを埋めるという構造になっており、この構造こそが今回の舞台オリジナルストーリーのオリジナルたる要素でした。このオリジナル要素を入れると、「しー→一華」「にな→一華」「美咲→一華」と三回連続、一華に話を聞かせるという流れになってしまいます。これが連載漫画だと、連続したとしてもそれぞれの説得は「別の回の話」になるわけですから、そこまで連続感は出ません。しかし舞台は2時間という限られた時間、しかもラストのクライマックスでそれが3回も続くことは果たして問題ないだろうか?という不安が私の中にありました。「いい加減、立ちあがれよ!」という感覚が、観ているお客様に湧いたりしないだろうか?と思いました。しかし、美咲というオリジナル要素の流れが私はとても好きだったので、なんとかしてこの構造のままやりたいとも思っておりました。

 

さあ、どういったプランでこれを乗り越えるべきか…、という迷いを打ち消してくれたのが、今回「一華」を演じてくれた主演の会沢紗弥ちゃんでした。彼女が演じる「一華」を観た時に「あ、この子だったら何回励まされてもなんの問題もないわw」と呆気なく答えが出てしまいました。これはもう天性のものですね、教えてできることではありません。紗弥ちゃんはとにかく「応援したくなるオーラ」がすごい笑!表情、声のトーン、動きなどなど体全体からそのオーラが滲み出ている。北斗の拳・修羅の国編のカイオウのごとく鎧から魔闘気が漏れ出るかのように、応援したくなるオーラが漏れ出ておりました。あくまで結果論ですが、もし紗弥ちゃんが一華じゃなかったら、物語の構造を少し変えていたかもしれません。それほど彼女の存在は大きかったです。

 

紗弥ちゃんについては、演出ノートキャスト編でさらにお話しするとして、本当に今回は色んなものが噛み合った作品になったと思います。キャストみんなのレスポンスがとても良かったので、踏み込んだ演出もつけられましたし、テンポよく演じてくれるので遊びにも時間を割けたし、ダラダラと無駄に長い時間をかけずに質の高い稽古ができました。本当に素晴らしい座組でした。

 

そして、皆さんが気になっているのはエチュードシーンですよね笑。あれは、本当にガチです。もちろん、無策にガチというわけではありませんよ。エチュードの練習をして、みんなでエチュードのコツ的なものを学んでいきましたし、その他グダグダにならない工夫はしました。しかし、本当になんの筋立てもありません。彼女たちがその場の空気や頭の回転で乗り切ったシーンです。にしても、毎回あそこまで面白くできたのは、本当に素晴らしいですね。演出としても彼女たちのポテンシャルに感服しました。

 

元々お芝居が上手な子たちが集まっていたとは言え、稽古中にさらにどんどん良くなって行くキャストたちを観ているのが本当に楽しかった。自分も演劇部の先生になったみたいな気持ちでした。今回は所沢市さんの協力もあり、マスコットキャラのトコろんが遊びに来てくれたり、現役高校生演劇部の皆さんがゲストで来てくれたりと、お祭りのように楽しい現場でした。できることなら、再演・続編も是非やりたいなと思っております。偉い人に届け!笑。

とても充実した夏を過ごさせてくれた作品、それが『暗転エピローグ』でした。

 

さて、次回は舞台を彩ってくれたキャストたちについて書こうと思います!