演出家のくせに絶賛ロス中の扇田です。同時並行で複数作品を演出できる演出家さんが羨ましい笑!すごい!

 

さてさて今回は物語Bのキャスト陣について書こうと思います。物語Bはなかなかに大所帯なので2回に分けるかもしれません。あしからず。さて、張り切っていきましょう!

 

【物語B:いつか出会う歌】

○野見山真琴役:渡辺菜友さん

思い返せば彼女と最初にご一緒したのは約1年前のアリスインデッドリースクールパラドックス。半年後のDANCE!×3でご一緒した時にその成長ぶりに驚き、今回は3回目ということもあり期待を込めて真琴という難しい役に挑戦してもらいました。色々苦戦をしていましたが、本当によく演じ切ってくれました。アリスさんのデッドリー映画の撮影などスケジュールも重なり、相当ヘビーな状況だったと思いますが、本当に頑張った!この大変さは間違いなく今後の彼女の財産になるはずです。お芝居をする時の内的テンションの高さは本当に以前とは別人。また成長したなあと思わされました。セリフの情感、感情の出し引き、お芝居が豊かになったなと。でももう3回目ですからね、折角なんでこれからの課題も上げておきましょう。でもこのことは本人も気づいているはず。この一年、ものすごいペースで舞台に立っているため、今彼女の中でお芝居に対する「エンジン部分」と「ボディー部分」に乖離が出てきているのだと思います。「エンジン部分」つまり感情的なものやお芝居の感性、そして「ボディー部分」は発声や滑舌などの基礎部分。「エンジン部分」は経験を積めば積むほどどんどん良くなる。でも「ボディー部分」つまり基礎と言える部分は地道な繰り返しによってしか磨きにくい。いくら本番を重ねても勝手に滑舌が良くなったり発声が良くなったりはしません。まあ、良くなる子もいますが、それはその子が元々声が強かったり滑舌が良い子で経験がなかったためそれを発揮できていなかったというだけです。やはり基礎は訓練によって培われるものです。だから彼女のお芝居の内的感性にちょっとボディーがついてこれていない部分が出てきています。ここが追いついてくれば、もう一段も二段も上の女優さんになるはずです。菜友ちゃんは良い意味で見た目が今時の子っぽくない。これは私の思う彼女の最大の利点です。だからこそ、彼女にしかできない役やキャラクターが思い浮かびやすい。役者とは個性が当然大切です。彼女にはそれがあると思います。見た目のアドバンテージは大いに活用すべき。お芝居のセンスも光るものを持っているので、磨きつつも基礎をしっかりと積んでいけばさらに良い女優になれる。彼女なら十分に成し遂げるでしょう。次がまたまた楽しみですね!

 

○柏木空役:佐藤ゆうきさん

ゆうきちゃんは今回の座組みの最大の発見の一人ですね。「おいおい、こんな良いお芝居する子がいたのかい!」というやつです。とにかく彼女はエネルギーがすごい!お芝居がパーンとしてる。私や守山はこういう芝居をする子が好きなんです。オーディションではちょっと大人しい感じでしたが、私は見抜いていましたよ。彼女の内的エネルギーを。案の定、台本の読み合わせをするとパーンとお芝居をする。最初の読み合わせで一番印象に残ったのはゆうきちゃんでした。非常にお芝居向きの彼女。まずは体内時計の速さ。私はこれが非常に大切だと思ってます。体内時計が早い人は遅くすることもできますが、逆は難しい。そして躊躇のないテンション。いいですよね〜、パーンとテンションを0から100に上げたり、100から0にできる役者は。もうお気付きの方もいらっしゃると思いますがゆうきちゃんのキーワードは「パーン」なんです。表情もコロコロパーンと変わるし、舞台上にいたら目で追いたくなりますよね。物語Bは不思議部の明るさ、楽しさがキーポイントです。あんなにも楽しそうで元気だった彼女たちが「適正寿命」の話になった時に急にしっとりする。その表情は悲しいものだが、どこか受け入れざるを得ないと思っている印象も受ける。2100年という物語Bの象徴のようなシーン。平和なようで実はとんでもなく歪な世界。彼女たちが明るければ明るいほど、身につけている首輪や周りで戦っている大人たちとの間に大きなギャップができ、ただ管理されているというテンプレートな世界ではなくもっと複雑な世界の印象を受ける。説明を多く削っている分、そういった印象を要所要所で落としていくことが大切だと思っていました。適正寿命が40歳になると聞かされるシーンでは展開が急激すぎて最初はなかなか気持ちが作れなかったみたいですが、最終的にはしっかりモノにしてくれていましたし、不思議部のみんなも引っ張ってくれていたし本当に頼もしかった。おもしろも楽しそうにやってくれていたし、本当に今後の活躍が楽しみな女優さんですね。うちにも出てくんないかなあ〜。

 

○椎名睦月役:田沢涼夏さん

これまた今回のビッグサプライズの一人。半年前のDANCE!×3とは本当にまるで別人。私も守山も民本も壁ちゃんも本当に驚いていました。その間に舞台には立っていなかったのに。とにかくすーちゃんは今回の稽古中にびっくりするくらい伸びました。そしてその伸びは本番に入ってからも止まりませんでした。どんどん良くなる。ステージ度胸が良いというのでしょうか、ただただ驚きです!セリフの言い方もどんどんアレンジを加えてくるし、動きもどんどん生き生きしてくる。空役のゆうきちゃんと共に不思議部の明るさをバシバシ出してくれていました。見ているこっちがニコニコしてしまうくらいに、とにかく本当に楽しそうに演じてくれる。不思議部の日替わりネタはいつも本番前に打ち合わせ練習をしていたのですが、何やらせても躊躇がない!思いっきりが本当に良い。うちの民本ではなく男性の方の看板俳優が舞台を観にきていたのですが、すーちゃんのことを「あの子メッチャいいですね!」とニコニコしながら見ていましたから、私の贔屓目ではありません。そして明るいだけではなく、適正寿命40歳のところでは、空を慰めながらも自分も目に涙をためていましたからね。感情表現も非常に上手くなってる。まあ、元々涙もろいところがあるのかもしれませんが。千秋楽カーテンコールの彼女を見ている限りは笑。普段はアリドルグループで活動をしているようですが、次の舞台も決まっているし、今後も女優活動を続けていってくれるのだと思います。いや、続けるべきでしょう。すーちゃんの「見ている人を笑顔にするオーラ」は素晴らしい才能。今後も急上昇でお芝居に磨きがかかってくることでしょう。いや〜、実に楽しみな存在ですよ!

 

○末松風音役:白鳥ユリカさん 、酢谷有紀子さん

この役、非常に難しい役だなあと思っておりました。先ほども書きましたが不思議部は物語Bの明るい部分の象徴。みんなの会話にはテンポ感が必要になる。しかし風音はマイペースでふんわりキャラ。キャラを維持しつつもテンポ感を損ねてはいません。その点、白鳥さんも酢谷さんも非常にうまくやっていたなあと思います。

白鳥さんは非常に難しいキャラ作りをし、それを実に良いバランスで演じてくれていました。彼女の風音は「マイペースでいつもニコニコ。でもどこかナイフのような鋭さがある」そんなイメージでした。なんとも掴み所がない素敵なキャラになっていたと思います。そしてキャラを維持したまま鋭いツッコミを入れていたのは素晴らしいの一言。いとも簡単にやっているように見えましたが実に難易度の高いお芝居をしていたかと。絶望という言葉になぜかニコニコしたり鋭いツッコミを入れていたかと思うと、緊迫したシーンやラストシーンでは実に真剣な表情で場の空気を作ったりと良い仕事もしてくれてました。表現力が豊かで、純粋にお芝居が上手い。不思議部には欠かせない存在になっていたと思います。

対して酢谷さんの風音はお嬢様感が素敵でしたねー。彼女の良さはやはりあの上品さ。やはり上品であることは女優としても大きな利点になると思います。稽古中盤くらいまでは声のボリュームにちょっと苦戦しておりましたが、本番までにはニュアンスを出しつつ声も出してセリフが言えるようになりました。やはり稽古期間中にキャストが何か一つでも階段を上がってくれることは嬉しいものです。風音のおっとりな感じも出しつつ、しっかりと不思議部のテンポを出してくれていたのもやはり素晴らしい。彼女もシリアスな展開になるとグッと気持ちを込めて演じてくれていたので場が締まりましたね。酢谷さんは影のある役とかも良いお芝居をするでしょう。声が少しハスキーなので非常に生っぽいお芝居ができる子だと思います。

ホント、風音のような役って実は難しいんですよ。今回の座組には見た目や雰囲気がしっくりくるお二人がいたから良かったですが、ヘタしたら一番演出に苦労する役だったかもしれません。その辺りは2人に非常に助けられました。そして何より不思議部の人類3人組は月、星ともにものすごくバランスが良かった。あの不思議部の楽しそうな感じは見ていて安心しました。二、三回本番を終えてからはほぼブレることのないクオリティを出せていたと思います。

 

○ココロ役:永塚優衣さん、渡壁りささん

永塚ココロはアンドロイドっぽさを少し残しつつ、渡壁ココロは全開に人っぽい。それぞれ良い違いを出せていたと思います。私としては今回、人間味を出してはいけないのはメインフレームだけだと思っていたので、壁ちゃんの人間っぽいアンドロイドは全然ありでした。ただ永塚ココロはやはり演じる上でアンドロイドであることを出したかったようで自分でルールを作って演じている印象を得ました。これも全然あり。ただそこに拘るあまり物語として大切な部分を表現しきれていなかったのでもっと人間っぽくして良いよとアドバイス。そこからはバランスよくココロを演じていたと思います。余談ですが、役作りって色々なやり方があり、人によって全然アプローチが違っていて面白いんですよね。例えば今回のアンドロイドたち(メインフレームを除いて。まあメインフレームはアンドロイドではありませんが。あ、多聞もちょっと特殊かな)は実は笑っても泣いても良いアンドロイドたちだったんです。だって物語上彼女たちが「泣かない、笑わない」がテーマでもないしそこがカタルシスでもない。だからどっちでも良いのです。大事なのはどっちを選んだ方が物語を進める上で効果的なのかです。例えば警察という役をやるときに、「警察に見えるように演じないといけない」と考えるのか「警察って説明されてるんだから何やっても問題ない」と考えるかで大きく役作りは変わる。どちらも正しい。役者は色んなアプローチで役作りができるようになるべき。そうでないと役作りが自己満足になってしまうので。二人の役作りで一番の違いが出たところは、自分がみんなを助けるためにメインフレームへの侵入の架け橋になることを決意するシーン。永塚ココロは気持ちをぐっと抑えてただみんなのために協力を決意する。そのため、ココロの可哀想さとか宿命を感じました。対して渡壁ココロは感情全開で決意していたために「本当に不思議部のみんなのことが好きなんだろうな」と胸が痛くなりました。これこそダブルキャストの醍醐味ですね。もちろん、私のイメージはあります。どちらが物語上合うだろうなあというものは。しかし、それを強要するのは作品やシーンの可能性をシャットアウトしてしまうことになる。違ったアプローチでもそれによって良い印象を受ければどちらでも良い。むしろ「ああ、こっちもアリなんだ」と発見させてくれる。今回の二人のアプローチの違いは私的にも勉強になりました。ただ言えるのはどっちのココロもそれぞれ味があって良かったということ。永塚さんは色々な声色を出せるのが魅力ですね。いろんな役柄がやれそう。壁ちゃんはこういう役やらせたらうまいの一言。

 

○ナナオ役:栗田栞さん、横尾莉緒さん

栗田さんは偶然、最初の読み合わせの時にランダムに当てた役がナナオでした。が、読みを聞いた瞬間に「ナナオだ〜」ってなりました。これは守山も同様。セリフの読み方、声のトーンなどどれもナナオのイメージにぴったりでした。あのちょっと丁寧だけどキュートさのある台詞回しはもう最初からバッチリでしたね。でも配役が決まってからも立ち方や振る舞い方などいろいろなところに彼女なりの工夫を入れてくれたり、彼女に関してはほぼ何も注文をしていないと思います。表情はあまり変えないが、常にうっすら微笑んでいる様も実に良かった。お芝居もものすごく安定していましたし、いや〜良い女優さんですよ。最後の自分が盾になると名乗り出るところの彼女のセリフの言い方が、私は非常に好きでした。明るく言うんですよ。多分、みんなに心配かけたくないから。平気なふりをしてる。だって、名乗り出る前の影芝居ではかなりシリアスな表情で考えているんですもの。最初見た時には思わずホロリとしてしまいました。栗田さんに限らず、今回の座組みの子達はそういった目立たない影芝居までものすごく考えてくれていました。素晴らしい!役者たちがどんどん行間を埋めてくれるのは本当に稽古をしていて気持ちがいいんです。「おお!そう来ますか!」みたいな感じで。彼女は言葉の発し方に心地よいリズムがあるのでナレーションとかもうまそうですね。もっと沢山舞台とかに出て欲しいなあ〜。

そして莉緒ちゃん。実は彼女の配役は少し悩みました。良い意味で。読み合わせでどの役をやらせてもある程度のクオリティで読んでくれる。感覚が良いんでしょうね。ではなぜナナオに決めたか。他にもこの役にしようかなという役もあったのですが、選んだ理由は実に単純明快。色々な役を読んでもらった中で、ナナオを読んでと言った時に彼女、小さくガッツポーズして嬉しそうにしたんです。どの役でも良い感じに演じれそうなら、本人がモチベーションを高くやれる役をやってもらった方が良い。そう思って彼女をナナオに選びました。最初はナナオ特有の少し堅苦しいセリフの言い方に苦戦していましたが、徐々に堅苦しいながらも流暢なナナオ喋り方ができるようになっていきました。莉緒ナナオは栗田ナナオよりもより真面目な感じでしたが、それが明るく元気な渡壁ココロと非常に相性が良かったですね。なんか「おしどりアンドロイド」感がよく出ていたと思います。振り回されている感じがなんとも愛らしかった。莉緒ちゃんはお芝居の感覚にとても良いものを感じるので、もう少し鍛錬して発生や声の輪郭が出てくるともっと良くなるでしょうね。その辺りは今後の課題かもしれません。折角良いものを持っているのだから、もっと貪欲に色々なものを身につけていって欲しいと思います。まだまだ若いし、さらに経験を積んでいけばさらに良い女優さんになれると思います。期待してます!!

 

おっと、ずいぶん長くなってしまったので、今日はこの辺で。次回は物語Bのみんなを頑張って書ききりたい!