さてさて少し間が空いてしまいましたが、振り返りブログの続きです。本日はアブノーマルチームと言われたBチームについて。

何度も言及されている通り、今回の男女反転ダブルキャストはBチームにこそ醍醐味があったと思います。元々脚本はAチームの性別で描かれておりましたので、それを反転させたBチームでいかに成立させるかというのがミッションでした。しかし、結果的にはAチームを先にご覧になったお客様はやはりAチームがノーマルだと思われ、Bチームを先にご覧になったお客様は逆にBチームがノーマルだと思われることになりました。いや〜、お芝居って面白いです。このことはBチームのメンバーが本当に頑張ってくれたことの証だと思います。私と共にあーでもないこーでもないと試行錯誤してくれたBチームのメンバーには頭が上がりません。Aチームに比べて仕上がりにも時間がかかり、みんな内心焦っていたかもしれませんが(まあAチームの仕上がりが異常なくらい早かったというのもありますが)、着実に良くなっていくBチームは見ていてものすごくワクワクしました。

それではBチームキャスト陣について。

 

○天野久仁子役:民本しょうこ

今回の民本は大変だったと思います。「宇宙人女優」「怪優」として様々な座組でその名を轟かせている彼女が、普通のキャラの女性・しかも主演という立場。「あれ?今回の民本さんはあんまりキャラ立ちしてないねえ」と思われる可能性がありました。特に今回の主役である天野という人物は劇中に何かエピソードが起こったりもなく、天野に向けられていたベクトルが物語の中心にはありませんでした。そんな中で普通のキャラを演じてしまうと埋没してしまうことがある。天野のちょっといい加減だけど実は色々考えてるという面白さはやはり丸山側(国生)の良さであって、それを民本がやってもあまり面白くないだろうなあというのは最初から思っていました。また、稽古中盤くらいまでは民本も「普通のキャラ」を意識しすぎて少し暗い感じのする久仁子になっていました。しかし、稽古中盤以降は普通の中にも民本らしさをちょっとずつ組み込んでいくことでいい塩梅の久仁子に仕上がったのではないかと。元々感情的なシーンのお芝居はとんでもない爆発力を持っている女優なので後半は何も心配していなかったのですが、やはり中盤ぐらいまではなかなか大変でしたね。まあなんだかんだ言っても最終的にはしっかり仕上げてくるところはさすがの一言です。

 

○櫟沢みのる役:小島ことり

ことりをこの役に置いたのは結構ギャンブルでした。Aチームはまあこですからね。何から何まで違いすぎる。丸山に相談した時も最初難色を示されました。でもそれをやれるのが男女反転の魅力。あと、民本が天野と決まっていたのでことりをみのるにしたのもあります。元々天野・櫟沢の関係性はAチームのように「天野→ツッコミ、櫟沢→ボケ」なのですが民本が天野の場合「天野→ボケ、櫟沢→ツッコミ」が良いだろうなあと思っていたのでツッコミもできることりをみのるにするのが良いと感覚的に思っていました。結果大正解でしたね笑。民本とことりの掛け合いは絶妙だったと思います。まあ、それにしてもことりは演技の幅が広い!怪演もできれば、今回のような役もできる。感情的なシーンの情感も上手くなったし、独白的なセリフもすごく良かったです。さすが丸山から看板俳優の座を奪おうとしているだけのことはあります笑。今回は私と丸山がBチームの稽古を見れない時にBチームを仕切ってくれたりとお芝居だけではなく色々な面で活躍してくれました。さすが看板俳優の座を狙っているだけはありますね笑。

 

○竹河雨音役:大蔵愛さん

愛ちゃんとは昨年「アリスインデッドリースクールビヨンド」という作品で初めてご一緒したのですが、その時にまた是非ご一緒したいと思っておりました。しばらく舞台から離れていたので断られるかなあと思いビクビクしながらオファーをしたのですが、快く了承してくれた時には嬉しくて雄叫びを上げたものです。

彼女は稽古場に色々持ち込んでくれるのはもちろん、視線や動き、セリフのちょっとしたニュアンスなどとても細かいところまで作り込んでくれます。私的に一番感心しているところは無駄な動きが全くないところ。芝居の中で「止まれる」役者。意外と難しいものなんですよね、止まるって。しっかり止まれるから動きにもキレが出るし、役から雰囲気というものが放たれる。そのあたりの愛ちゃんの塩梅は素晴らしいと思います。

また、アリスインデッドリースクールの時と同様に、今回のような「真面目だけど真面目すぎてなんだか面白くてチャーミング」というキャラをやらしたらやはり彼女はピカイチですね。普段もものすごく物腰が柔らかくて素敵な女優さんですよ〜。今回、とても楽しそうに芝居に取り組んでいる愛ちゃんが見れて本当に良かった。是非是非、また舞台上の彼女を見たいものです!

 

○椎本羽汰役:木下藤吉さん

「ガラスのハートを持ったBチームの爆笑王」こときのぴー。稽古場で笑いを取った量はきのぴーがぶっちぎりトップでした。本番でもしっかり笑いを取っていましたが、如何せんガラスのハート。ちょっとでも滑ったら目に見えて萎縮してしまう。しかし、今回はその課題もクリアできて真の爆笑王の道を歩んでいるのではないでしょうか笑。とにかく愛ちゃんとのコンビネーションがバッチリでした。面白い部分だけが取り上げられますが、マジなシーンでは結構いい表情でいたりと私的にも彼への評価が今回でガラリと変わりました。きのぴーの一番良いところは、座組のみんなから愛されるところ。彼がいると稽古場がとても良い雰囲気になる。そういう存在は舞台という世界では本当に重要なんです。こういう部分も役者としてとても重要な才能の一つだと思います。彼のおかげもあって、Bチームの稽古場はいつも笑いが絶えませんでした。Aチームでは寺田真珠ちゃんがそのポジションでしたが、椎本役がどちらもそうだったのはものすごく意味がありますね。その場の雰囲気関係なく色々やっちゃう感じが笑。

 

○浮橋尋史役:竹石悟朗さん

悟朗ちゃんは以前から舞台上で活躍する姿を見ていました。共演したことりとかからも良い噂を聞いていました。噂に違わぬストイックさ笑!何よりも気持ちいいくらいお芝居に対して真剣。合流が遅かったのですが、彼が合流してからは明らかに座組の雰囲気が変わりました。ものすごく良い意味で。

舞台上で見た今までの彼の姿、そして噂からなんとなく「こういう感じの尋史を持ってくるんだろうなあ」と思っておりましたが、稽古初合流の時は衝撃でした。ものすごくゆるキャラを持ってきたんですもの。「これはいいぞ!」とその流れに私も乗ることを即決。あきぽんの時と一緒ですね。初手で私の想像を超えてきた。にしても、彼には本当に色々と驚かされたんですよ!あれほどに華のある役者が脇に徹した時に放つ雰囲気というのは「何もないように見せかけておいて抜群の切れ味の刀を時に懐からかいまみせる」ようなワクワク感がありましたし、あるセリフの言い回しも私的には今までなら「その言い方は、なしだな」と思うようなセレクトをしているのに「いやいやこの言い方、実はものすごく良いんじゃないか?」と思わされたりなどなど、演出家としていつも悟朗ちゃんからは良い刺激を与えてもらいました。本当にご一緒出来て良かった!是非またやりたい。今度はもっと少数でがっつり会話劇とかやってみたい。というのも、相手役のセリフを聞いてる時、本当に良い表情をしてるんですよね〜。

 

○賢木雪斗役:川又崇功さん

なんとも不思議な雰囲気を持った役者です。陰があると思えば、子供っぽく笑う時もあるし、ものすごく艶っぽい男に見える時もある…、良い意味で掴みどころのない役者だなあと思います。今回、賢木家は功崇、松田実里ちゃん、大谷誠くんの3人で本当によく話し合っていました。ナイスチームワークでしたね。田中花役の八木橋も含め、みんなで崇功演じる雪斗という神輿を担いでいたように思います。それもまた「担ごう!」と思わせる崇功の成せる技なのでしょうか。まだまだ、セリフの言い回しや動きなどこれからもっと磨いてほしい部分はあるかと思いますが、私の「若くそして魅力ある役者」ストックが確実に増えましたね。あの雰囲気は教えてできるものではないですから。Bチームの雪斗と幹の間にはより恋愛感情を入れ込みました。千秋楽での雪斗と幹の決別シーンは本当に素晴らしく、見ている私も胸が張り裂けそうでした。「なんでこの二人は幸せになれないんだ」と辛かった。情けなくも見える男がぐっと苦しみを堪えている芝居は崇功の真骨頂じゃないですかね。とても良かった!

 

○賢木幹役:松田実里さん

実里ちゃんも今回初めましての女優さん。彼女の一番良いところは「付けた演出を120%でやってくる」ですね。毎回稽古場では彼女のその姿勢に唸っておりました。稽古で「ここのシーン、もう少し○○でやってみて」というと次の稽古ではその○○を120%でやってくる。いやいややりすぎでしょ!とはなりません。もちろん、少し抑えますが、120%でやってくれることで演出サイドも新たなものが見えてくるんです。この「お互いに色々出し合って作っていく」という感覚をものすごく味あわせてくれました。こういう感覚初めてかもしれません。なかなかできないことだと思います。最初にやってることも決して悪いわけではないんです。十分に良いものを見せてくれる。でもさらに良くなるかなあと思って付けた演出を自分側で微調整することなく120%でやって見せてくれる。とても勇気のいることなんじゃないかなあと。おそらくこれからも加速度的に芝居が良くなっていく女優さんだと思います。

あと幹という役は前半かなりおかしなことになってるんですが、そのあたりの芝居も惜しげも無くハイテンションで演じてくれて、ものすごく気持ち良かった。喜怒哀楽、本当にたくさんの面を見せてくれ、幹という役をビッカビカに輝かせてくれました!また是非一緒にやりましょうね〜。

 

○水橋端午役:大谷誠さん

大谷くんはとにかく見た目が抜群に良いです。イケメンということもありますが、本当に色々な役ができる良い見た目だと思います。配役の際も大谷くんはジョーカーでした。だってどこでも置けそうなんですもの。特徴がないということではなく、なんでもできそうというのは大きな違いです。彼は間違いなく後者だと。

Aチームの同じ役である山下さんが非常に実力のある女優さんだったので、プレッシャーもあっただろうなと思います。そのプレッシャーにも負けず、山下さんとは違う素敵な水橋にしてくれました。雪斗と花の墓場のシーンでは、稽古当初からしっかりと気持ちを作っていつもボロボロ泣きながら自分の登場を待っていた大谷くん。あのシュッとした見た目とは裏腹にものすごい感情量を持った役者なんです。彼はその見た目を生かしてCMとかにも出ているそうなので、もしかしたら売れちゃうかもしれませんよ〜。でも確かに映画とかでも重宝されそうな見た目だと思うので、今後の活躍が非常に楽しみな役者ですね。ブロマイドも結構早い段階で完売してました。ビッグになっても無視とかしないでね。

 

○関屋楓役:澤野泰誠さん

ほぼジャックメンバーになりつつある澤野くん。今回、Bチームで一番難しい役どころだったのではないでしょうか。男女反転とはいえ、楓はエピソード的にもキャラ的にも明らかに女性の方がフィットしやすい。楓の役が私的にも一番それぞれのチームを参考にできなかった役でした。アリーがやったやり方を澤野くんにやらせて見ても全然成立しない。逆もしかりです。とあるシーンは本当に稽古中、ずっと悩んでいました。かなり苦しい期間が長かったものと思います。周りのキャスト陣にも力を借り、そして何より澤野くんが頑張って乗り越えてくれました。今まで何度かBobjackには出てくれていますが、間違いなく今回が一番重要な役どころでした。ロボ子との関係性もとても難しかった。本当に大変だったと思います。でも大変だった分、新しい澤野くんをたくさん見ることができました。Bチームの楓という役にどうしても違和感を感じていた私からそれを取り除いてくれたのは澤野くんの功績だ大です。回を追うごとにBobjackでの存在感を増していく澤野くん。これからも是非是非Bobjackに力を貸してもらいたい役者さんです!

 

○ロボ子役:渡壁りさ

壁ちゃんは今回、初めてかもしれないぐらい褒めました。とにかく最後の手紙を読むシーンが素晴らしかった。優しくて、でもどこか弱々しく、ものすごく情感があって、壁ちゃんのあの幼い見た目もあり最高に泣けました。あのシーン、最初は全然うまくいかなかったんです。稽古のたびに、結構きつめのダメ出しを何度も繰り返しました。相当悔しかったと思います。私は基本的に「こういう風にセリフを言ってください」という演出はしません。役者がやっていることをなるべく活かしたい。そうした方が良いものになると信じているからです。しかし、「あ、これはもうダメだな」と思ったらセリフの言い方を全部指定します。手紙のシーンもそうなる直前まで行きました。しかし、ついにあの読み方にたどり着いてくれました。本当に良かった。私の指定した言い方ではあんなに感動的にはならなかったと思います。楓を守る強いロボットだったはずなのに、なかなか楓を守れる存在になれないドジっ子のロボ子。そんなロボ子が最後の最後に楓の心を溶解させる。壁ちゃんのロボ子ならではの素敵な流れでした。今回、あの手紙の読み方ができたということは間違いなく今後の壁ちゃんの演技に繋がると思います。

 

○須磨今日子役:花奈澪さん

なみおはとにかくハイスペック。台詞回し、スピード、滑舌、テンション、情感、情熱…、いや〜良い女優ですよ。今回ご一緒するまで彼女のお芝居を見たことがなかったのですが、共演したことのあることりや舞台で演じているのを見たことがある役者たちに事前情報として色々聞きました。そして宝塚出身であるということもあり私には先入観がありました。「しっかりと芝居を作ってやる人」なんだろうと。ところが何回か稽古を重ねていくとそれが誤りであることに気づきました。「あれ?この人、根本は感覚派じゃないの?」と。とにかく毎回芝居が変わる。もちろん方向自体がズレているわけではないのでちゃんと成立してるんですが。何より、人としっかり会話するシーンでは驚くほど毎回リアクションやセリフの言い方が変わる。とにかくその場での相手とのやりとりを重視して決して決め打ちをしない。凄いことやってる。でも感覚でやっているので「今日のあそこのセリフの言い方良かったね」と言うと「え?私どんな風に言ってましたっけ?」というズコーッな返事も返ってくるわけですが笑。キメキメの芝居も当然うまいのだと思いますが、その真逆の芝居の作り方もできるある種稀有な女優さんなのではないかと。そして性格がものすごくスッキリしてるので色々と言いやすい。演出するときに気を使わなくていい。結構、演出家も色々気を使ってダメ出しとかしてるんです。間違いなく今後色々なお芝居で引っ張りだこになるであろうなみお。次はガチな恋愛物のお芝居をする彼女を観てみたい。そしてそんな芝居を私が演出できれば、これ以上おもろい…いや失礼、幸せなことはありませんね。

 

○明石健造役:宮井洋治

前回のオン/オフに引き続き、まさかの変態キャラ。でも今回の健造さんはただの変態キャラではありません。楓のことを想い、必死に奮闘する良き隣人。いい味が出ていたのではないでしょうか。なみおとの日替わりシーンでネタをなみおに提供し「え!いいじゃん!面白い!」と言われ、嬉しそうにしていた宮井くんの顔が忘れられません笑。でも彼はもっとできる役者だと私は思っています。以前にもブログで触れたことがありますが、もっともっとたくさん舞台に立ってほしい。見た目的にも演技的にも名バイプレーヤーになれる人材だと思っております。期待値が高い分、いつも公演が終わると「宮井くんをもっとこうしてああしていれば良かった」と思っていた自分がいたのですが、今回は非常に良かったのではないかと。Bチームはもちろん仲も良かったのですが、何というか互いに刺激しあって芝居を作っている程よい緊張感もありました。そのためかいつも以上に宮井くんの演技も研ぎ澄まされていた感じがありました。Bobjackのバイプレーヤーの地位を築きつつある宮井くん。期待してます。

 

○田中花役:八木橋里紗さん

彼女はお久しぶりの本公演出演でした。今回も持ち味であるパッションな芝居を見せてくれました。ちなみに稽古場での彼女のあだ名はパッション八木橋でした(一部のみ)。雪斗を想う気持ちがほとばしっていましたね。Aチームの田中が静の田中だとすれば、Bチームの田中は動の田中。対比があって面白かった。

彼女のちょっとミステリアスな捉えどころのない雰囲気は、今回の田中花という役でものすごく効果的に働いていたように思います。そして何と言っても怒涛の感情量。でも今回は少し抑えてもらいました。最後の雪斗に種明かしをするシーン、稽古途中までは溢れ出る感情を抑えて、なんか不自由そうにやっていましたが、それが稽古終盤に安らぎのある感じにシフトチェンジして行ったとき、鳥肌が立ちました。八木橋のそういう演技を私はあまり見たことがなかったので本当にドキッとしました。

そしてそして、八木橋はとにかく守山の脚本が好きなようです。稽古場で初めてAチームの通しを観た時、声が「エグッ、エグッ」と漏れ出るくらい泣いてました。やはりとんでもない感情量です。劇団の作品を好きでいてくれるというのは非常にありがたいですね。これからも是非よろしくね!

 

さてさて長くなってしまいましたが、この辺で振り返りブログを終えたいと思います。今年も色々な舞台に関わらせて頂きましたが、本当に最後がこの『ノッキンオンヘブンズドア』という作品で良かった。そして本当に素敵な役者陣とやれて良かった。何より、終演後のお客様の笑顔をたくさん見れて良かった。公演をやっていて、本当に沢山のお客様の「ノッキンヘブン」愛を感じることができました。

演劇はやはりいいものですね。役者とお客様が「Win Win」の関係になれる。そのためにも私たちは日々精進して良い作品を上演し続けなければなりません。嘘偽りなく、お客様の笑顔や涙、それこそが私たちにとっての最高の糧なのです。今回も沢山の力を頂きました。本当にありがとうございました!!