いよいよアリスインデッドリースクールパラドックスに関する最後のブログになります。ラストもキャストについてです。

 

◯志倉夏樹役:鈴木花穂さん・秋吉あやさん

このお二人はキャラやネタを大きく変えました。ある意味、ダブルキャストで明確にキャラが違った役だと思います。花穂ちゃんの夏樹はどちらかというとメグと同級生くらいの人物。天然でフワフワしている夏樹。花穂ちゃんの独特なキャラクターと特徴的な声がよく反映されていたと思います。秋吉ちゃんの夏樹は、メグと同級生のように子供っぽいところもあれば上級生のような包容力、そして要所でのしっかりした感じがよく出ていたと思います。夏樹はデッドリーでおそらく一番セリフの少ない役かもしれませんが、2人とも抜群の存在感を発揮してくれました。

花穂ちゃんはSAPPOROオルタナティブに続いて2回目のデッドリー。慣れない東京という土地で色々大変だったと思いますが、彼女の良いところはスッと人の懐に入れるところ。稽古場でも人見知りすることなく誰とでも写真を撮りまくってました笑。ある意味ムードメーカーになっていました。雰囲気や声も私の大好きな「不思議ちゃん」な感じで色々アイデアが浮かび、演出して楽しかったです。でもそんなキャラとは真逆で演技は本当に毎回しっかりやってましたね。安定感が抜群でした!

秋吉ちゃんは、演技のスキルやポテンシャルが高く、夏樹みたいな役以外にも本当に色々な役やキャラをやれるんだろうなと容易に想像できました。小さな体から溢れるパワーというか生命力はちょっと女優としてのオーラを感じさせる程。スベリ芸も堂々たるもので見ていて爽快でした。キメ顔が何気にイケメンなのも魅力の一つ。アリスインさんの舞台でも今後色々な役で活躍して行くのではないでしょうか。

 

◯八方百合役:七海絢香さん・山本柚月さん

新キャラを印象深く演じてくれたお二人。登場シーンはデッドリーの中では一番少ないですが、インパクト大でした。八方といえば、やはりデッドリー史上初のゾンビ変身シーンでしょう。あれは衝撃でした。私も台本を読んだとき「マジか!?」と思わずつぶやいた程。七海ちゃんの八方はゾンビ化してしまう少女の悲哀を、柚月ちゃんの八方はゾンビ化してしまう少女の痛々しさと怖さを本当によく表現できていたと思います。七海ちゃんの良いところは飄々とした演技。非常に特徴的で、いつもはチャラい女の子を演じることが多いそうですが、私的にはチャラい女の子以外にも飄々としたつかみ所のない役を演じても面白そうだなあと思います。良い意味で笑顔(狂ったという方向ではなく)で悪役が演じられそうです。少女なのに大人っぽい雰囲気を持ち合わせているというのも良いですね。彼女も映像などでも活躍できそうな雰囲気を持っています。

柚月ちゃんは演技がしっかりしていて、色々なアイデアも持ち込んでくれるタイプ。結果的には「少し抑えようか」となったのですが、彼女が稽古場で最初にやったゾンビ化の演技は圧巻でした。もうなんか怖かったですもん。皆様が本番で見た5倍ぐらいの大迫力でした。稽古場で拍手が起きたくらい笑。やり切る凄さを持っています。もっと舞台に立ち続ければ、間違いなく素晴らしい女優さんになることでしょう。彼女の一番の武器はあの優しさ溢れる声でしょう。ナレーションとかでも活躍できそうですね。本当にいい声だと思います。この先、私がガチのゾンビが出て来る舞台を演出する時には柚月ちゃんがNO.1候補です!

 

◯猪狩薫役:渡辺菜友さん・岡田花梨さん

このお二人も結構対照的な薫を演じておりました。なべっちは弱々しい少し甘えん坊な薫、花梨ちゃんはしっかり者で気の強い薫。でもどちらも物語上は同じ役割を果たせていたのが非常に面白いですね。薫も実は難しい役で、間違えばお客様から嫌われてしまう役なんです。激しく怯えたり落ち込んだり、高森に甘えたり、そして紅島にガンガン迫る。本当に起伏が激しい。また高森同様黙って座っていることが多いので集中力ももの凄く必要。ビヨンドで薫を演じた我が劇団の渡壁りさは「お尻が冷える」と言ってましたし笑。なべっちの薫は遠くから見ても分かるくらいブルブル震えて恐怖を全面に出して今の状況を表現していたのに対し、花梨ちゃんはとんでもない混乱・理解できない状況に激しく戸惑いながら自分と戦っている薫を表現していました。どちらの表現も正解だし、どちらもちゃんと成立していたのは彼女たちが本気でそれを感じ、演じていてくれたからだと思います。紅島に詰め寄るシーンも沢山稽古をしましたね。それまでの夢を語るシーンがどんどん面白くなって行くだけに、その空気を壊す瞬発力があの詰め寄るシーンには必要でした。それぞれの薫に合った迫力あるシーンになっていました。そしてその後、真実を知った時の2人の演技。ここが本当に良かった。ああいう場合、下手したら「勘違いして張り切ってかっこわる〜」となってしまうのですが、2人を見てもそんな要素はかけらもなくむしろ可哀想と思えてしまう雰囲気を醸し出せていました。私的には2人の薫の一番の見せ場だったと思っています。だからこそ、その後の薫の様々なセリフに説得力が出て来るんです。2人ともまだ高校生ですからね、この年代でこの演技が出来るって、この先本当に楽しみななべっちと花梨ちゃんです!

 

◯緑浜塔蘭役:安田マリアさん・足立ゆうさん

何気に色んな人を繋ぐ役である塔蘭。いつもはメグのそばに寄り添っているが時には状況を確認するために屋上を走り回り、ソフト部の先輩である高森や薫を心配して話しかけたりとあの極限状態の中、最下級生であるにもかかわらず何気に一番人間が出来ている塔蘭。安マリは少し強くてしっかりした塔蘭を、ゆうちゃんは元気で明るく優しい塔蘭を好演してくれました。安マリは初演技初舞台、そして今回の舞台が初仕事であるにも関わらず元気良く思い切った演技が印象的でした。普段からサービス精神が豊富で稽古場でも良いムードメーカーになり、皆の前で変な歌とか歌ったりして場の空気を和ませてくれました。いいキャラですよ、彼女は!これからもっと人前に立つことが増えて、場の空気感を感じ取ることが出来るようになれば彼女は非常に面白い存在になるんではないでしょうか。そんなちょっとみんなとは毛色の違う逸材です。

ゆうちゃんは、いや〜本当に頑張ってましたね。最初会った時の印象は「綿菓子のようにフワフワ」してて「このデッドリーワールドで生きられるのか?」と心配になりましたが、演技はミスも少なくしっかりしてましたし、気持ちの入ったセリフや状況に応じた豊かな表情、明るくしないといけない時のパーンと弾けた笑顔、ネタをやる時の思い切りの良さ、非常に良い意味で私の期待を裏切ってくれました。変に力むことなく、ただ当たり前に塔蘭としてそこにいてくれたなあと感心しております。表に出すタイプではありませんが非常にお芝居に対して熱心なところもあり、稽古後はいつも相談に来たりその日の自分のできなどを確認しに来たりしてくれました。皆さんご存知のように天然キャラで面白い子なのですが、打ち上げの時に自身のブロマイドに私へのメッセージを書いて渡してくれたのですが「わしゃ、君のファンか!」とツッコミたくもなり非常に嬉しかったです。家宝にします笑。次ご一緒する時は不思議キャラを全面に押し出した面白い役とかやってもらいたいですね。

 

◯竹内珠子役

・遠藤瑠香さん

もはや安定の珠子さん。強さと優しさを兼ね備え、凛とした中に弱さもある非常に人間味のある珠子さんを好演してくれました。去年も珠子さんをやってもらいましたが、去年同様、今回も稽古初日から仕上がってました。さすがの一言。エリートネタも本当に色々考えてくれて、実はこの子、こういうネタやるの好きなんじゃないの?と思ってしまいました笑。ネタの仕込みのために2時間も時間を掛ける…なんて素敵な女優さんなんでしょう。私が思う素敵な役者さんの条件「しょうもないことに全力で取り組める遊び心」を備えた素晴らしいお方です。今回もありがとうございました!

 

・岸田麻佑さん

弱さと不安を抱えた珠子さん。それゆえ、気丈に振る舞おうとする姿には心打たれました。同じアリスインさんの作品の『ヨルハ』で勝ち気な役を演じていたのを見ていたのでそのラインの珠子さんで来るのかなと思っていましたが、ある意味真逆のキャラで凄く新鮮に思いました。もしかしたら本来の彼女は今回の珠子さんに近いのかもしれませんね。最初不安がっていましたが、日替わりエリートネタを本番ではメチャクチャ楽しそうに演じていたのが良かった。普段の物腰も柔らかく、とびっきり優しい役を演じる岸田さんを見てみたいですね。

 

・山川ひとみさん

マイナスイオン出まくりの珠子さん。印象的で非常に特徴的な優しい声。周りの状況に応じた影芝居での表情など非常に良かったです。もの凄く感性の鋭い女優さん。日替わりエリートネタでは、キャラとのギャップが凄すぎてメチャクチャ笑いました。山川さんには非常に演出家心をくすぐられました。なんとも言えない掴みどころのない奥深さを彼女からは感じたので、「あんな役やらせたらどうなるんだろう?」「こんな役やらせてみたい!」など色々想像してしまいました。そう思わせてしまうのも彼女の才能なんでしょうね。今度は是非、レギュラーの役でご一緒してみたいです!

 

・加藤智子さん

「屋上に来るまでの道中、大変な状況だったんだろうな」という切羽詰まった状態で登場して来た加藤さんの珠子。非常に面白いアプローチの仕方だなあと感心しました。雰囲気や佇まいから大人な珠子さんでした。日程的に最後の出演だったので稽古からの期間がメチャクチャ空いて大変だったと思いますが、しっかりと珠子さんを演じてくれました。役にしっかり入り込んで演じるタイプの子だと思うのですが、なんとも言えない緊張感が役に漂っていてそのテンションの高さに気づいたら珠子を見ているという状態でした。観ている人間の目を引きつける、これも素晴らしい才能だと思います。千秋楽を〆て頂いて本当にありがとうございました!

 

というわけで、キャストについては以上となります。稽古期間が短かったのですが、それを団結する・みんなで協力して乗り越えるという力に変えて、非常にまとまった素晴らしい座組でした。皆のお芝居に挑む姿勢に感心し、私もこの座組で良いものを作らないといけない、なんとか彼女たちを輝かせなければいけないと強く思いました。色々と大変なこともありましたが、彼女たちとだから乗り越えられたと思います。若い座組だったのでまだ荒削りなところもあったかもしれません。でもその荒削りで剥き出しなところこそ、今回のデッドリーの良かったところではないかと思っています。皆さんの心に刺さる作品になってくれたのではないかと。そして沢山の素晴らしい女優さんにも巡り会えました。この座組でやれたことは私にとっても大きな財産となりました。私たち演劇人にとって彼女たちは宝物。彼女たちの1人でも多くが「お芝居って楽しい!これからも続けて行きたい!」と思ってもらえたならこの上ない喜びです。一人でも多くの子たちとまた芝居を作れたらどんなに嬉しいことか…。そう願って止みません。

 

2016年8月、アリスインデッドリースクールパラドックスに関わって頂いた全ての皆様に感謝!すべてのお客様に感謝!

振り返りはここまでとして、私もより前に進んで、次に彼女たちに会った時に失望させないよう精進致します。本当に本当にありがとうございました!!

 

アリスインデッドリスクールパラドックス演出 扇田賢